透き通る世界を照らす銀魂(ぎんのたましい)   作:時代に遅れている

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税金地獄その1

リン(動画)「では、新しく連邦生徒会のリーダー及び教員となったドナルド・ヅランプさんにご挨拶いただこうと思います。」

桂(動画)「ヅランプじゃない!桂だァァァァァ!!」

新八・神楽・銀時「あっ……終わったなこの世界………」

桂「この俺がキヴォトスのリーダーになったからにはあるルールを設ける!」

「それはーー」

「あだ名税だァァァァァ!!」

「あだ名関税とはその名の通り。人に対してあだ名を使った時、税金が自動に落とされるという物で……」


「たとえば俺にヅラというあだ名で呼んだ場合……呼んだやつ、そしてそれに反応した本人も税金が発生するという物だ」

銀時「それ、お前のアイデンティティー捨てることになるけど!!いろんなやつのアイデンティティーが消えちゃんうんですけど!!」

新八「というか!それ誰得何ですかそれ!!無駄にト◯ンプの真似事しなくていいんですよ!!」

神楽「もう新八とアヤネのことメガネって呼ばなくなるネ」

銀時「横乳も、太ももも名前で呼ぶことになんのか……あれ?名前なんだっけ?」

新八「アンタら少し名前で呼ぶ努力をしろ」

桂「ちなみに真選組には84%増加しておくので」

「バイビ〜」

皆「古っ!!」





第八十三訓 手のひらで踊らされた奴は裏切り者と言えるのか

翌朝、補習授業部――教室。

 朝の光が差し込む補習授業部の教室は、昨日までの騒々しさが嘘のように静かだった。校舎の窓をすり抜けた風が、教室のカーテンをわずかに揺らし、まるで朝の訪れを祝福するかのように淡く空間を撫でていく。

 

 三日目の朝。今日の生徒たちは少し違った。誰もが時間通りに目を覚まし、それぞれの身支度を整え、規則正しい足取りで教室へと向かっていた。

 

 ヒフミもまた、その一人だった。昨日の寝坊を反省し、今朝は目覚ましが鳴るよりも早く目を覚ました。寝癖のない前髪を鏡で確認し、ささやかな達成感に頬をほころばせながら、教室の前に立つ。

 

「今日こそは、完璧なスタートを……」

 

 そう呟き、扉の取っ手に手をかけ、カチャリと音を立てて教室を開けた――

 

「グットモーニング!」

 

 いつも通りのテンションで声を上げるのは桂だ。まるで朝日を反射する鏡のようにキラキラと清々しい顔をしている。

 

『おはよう』

 エリザベスが掲げたボードには、いつもの調子で「おはよう」の一言。

 

「桂さんにエリザベス様、おはようござ――」

 

 ――が、そこでヒフミの言葉がふと途切れた。

 

 教室の前列を見渡し、中央の机へと視線を移す。そこには、いるはずの男の姿がない。銀髪の教師、坂田銀時。その姿が、ぽっかりと空いた空間のように見つからなかった。

 

「……あれ?」

 

 彼女の背後から続いて入ってきたアズサやコハル、ハナコも同様に銀時の不在に首をかしげる。まるで一つのパズルピースが欠けたような違和感が、教室全体に漂った。

 

「銀さん……いない……もしかして、遅刻……?」

 

「何? またあいつは寝坊してるのか」

 桂が髪をかき上げ、腕を組みながら深々とため息をつく。

「仕方ない、俺とエリザベスがまたあいつの寝床を――」

 

「いえ」

 ハナコが、指を立てて制する。

「朝食の時には、きちんと起きていらっしゃいましたよ。ご飯にいっぱい小豆をかけて食べてましたし」

 

「……相変わらず味覚は死んでるな」

 

 アズサが冷静に返す。

 

「なら、授業の資料でも取りに行ってるんじゃないか?」

 

「ぅぅぅ……それならいいんですけど……」

 ヒフミも安心したように小さく頷く。けれども、どこか心の片隅に不穏な気配が残るのは気のせいだろうか。

 

 そんな時――

 

「おい、お前ら、なにをモタモタしてやがる」

 

 教室の後方、開いたままの扉から低くて重い声が響いた。土方十四郎。真選組の副長にして、補習授業部の監視役でもあるその男が、煙草の火を片手に現れる。

 

「あ、土方さんおはようございます、突然ですけど……天パの先生、知らない」

 コハルが尋ねる。

 

「あ、 何だ?あいつから何も聞いてねぇのか?」

 眉をひそめ、土方が面倒そうに煙草を吹かす。

 

「えぇ、通りすがりに土方さんがいれば何かご存知かと思って」

 ハナコが手を重ねて丁寧に答える。

 

 そこで、別の声が割って入る。

 

「旦那なら――」

 

「真選組の屯所、面会室にいますぜ」

 

――

 

真選組・屯所 面会室

 その部屋には、沈黙のカーテンが深く垂れていた。

 

 面会室。まるで塀に囲まれた世界の外れ――時間さえも息を潜める、鉄とコンクリートの箱庭。壁の高い位置に設けられた小さな窓から、朝日が細く差し込み、一本の光の帯となって机の上を滑っていた。

 

 その光に照らされるように、坂田銀時は無骨な椅子に腰を下ろしていた。背中はどこか重たげで、口元に浮かぶ笑みは、苦笑というより“無理笑い”に近い。

 

 彼の視線の先。ミカが、何食わぬ顔でこちらを見つめていた。

 

「ねぇ? これどういうこと?」

 

 銀時の声は、静けさを切り裂く鋭いツッコミという名のナイフだった。

 

「どういうことって何? 何か変なとこある?」

 

 ミカは首を傾げ、ひとつまばたきをした。まるで自分の現状をまるで他人事のように、すっとぼけた様子で答える。

 

「いや! 違和感しかねぇだろ!!」

 

 銀時が椅子をキィッと鳴らして前のめりになる。

 

「何!? このガラス!!」

 

 分厚い強化ガラス。隔てられた空間は、まるで異世界との通信窓のようだった。

 

「何!? そのしましまの服!!」

 

 白黒の縞模様。脱獄フラグを全身で着ているような、どこからどう見ても囚人服。

 

「何!? その手錠!!」

 

 手首には、銀色の冷たい輪。カチリと音を立てる度、彼女の可憐さと現実のギャップが痛々しいまでに浮き彫りになる。

 

「完全に囚人との面会じゃねぇか!!」

 

 まるで自分が冤罪で捕まった親族に会いに来た一般人のような立ち位置に思えてきて、銀時は頭を抱えた。

 

 しかし、対するミカは、むしろ得意げに小さくウィンクすら浮かべて言った。

 

「ねぇ先生? 生徒に向かって囚人ってひどくない? 私はただ――」

 

 

 

――――――

 

回想シーン

 空が爆ぜていた。

 

 炎の花が咲くように、手榴弾が空を切り、爆音が校庭に反響する。まるで戦場と化したその空間で、ミカは――

 

 全くの無傷だった。

 

 制服のまま、髪一房も乱すことなく、ミカはその場を悠然と歩いていた。後方では、同じ制服の生徒たちがテロ集団として手製の武器を振りかざし、果てには車での突撃を試みるという、まさに狂気としか形容しようのない光景。

 

 にも関わらず、ミカは一切の傷ひとつ負わず、笑顔で瓦礫をまたいでいた。

 

 その後。騒動を聞きつけた正義実現委員会と真選組が現場に急行し、圧倒的戦力で鎮圧。事態は収束した。

 

 だが、事の流れでミカもまた、「念のために」と救護を担当する“救護騎士団”による簡易診察を受けることになった。

 

 そして――

 

 騎士団のテント内での出来事が、映像のように蘇る。

 

 診察のために準備されたベッドの傍で、ミカは落ち着きなくウロウロと歩き回っていた。問診票に目もくれず、椅子の脚にぶつかり、ベッドのシーツを引っ張り、ストレッチャーに興味本位で乗り――

 

 やがて、彼女の行動は“観察”の域を超えた。

 

 止めようとした若い救護騎士団員の手首をひねり、なぎ倒した瞬間――

 

 バチン。

 

 制止されたのはミカのほうだった。

 

 ミカの手には、手錠。そしてそのまま、彼女は騒動の“要注意人物”として保護(※軟禁)されることとなったのだった。

 

――――――

 

「で、こうなっちゃった☆」

 

 ミカが片目を閉じ、囚人服の袖を揺らしながら言った。

 

「こうなっちゃったじゃねぇだろおおおおおおおおお!!!」

 

 銀時が机をバンと叩いた。もう叫ばずにはいられない。

 

銀時の声が天井を突き抜けんばかりに炸裂する。額の青筋が、ギリギリと音を立てそうなほど浮かび上がり、彼の怒りのボルテージは、もはや天元突破寸前だった。

 

「完全にお前が悪いよね?あれ!? だってお前ボコってたもん!」

 

 指を突き出し、ガラス越しに抗議する様子は、もはや教師というよりも正義に燃える検事。さらに銀時の怒涛のツッコミが続く。

 

「看護師に容赦ない蹴り入れてたもん!! あれ一歩間違えたらニュースだよ!夕方の!」

 

 その言葉に対して、対面の少女――ミカはと言えば、どこ吹く風。

 

 しましまの囚人服に身を包み、肘をついて頬杖をついたまま、ケロリとした表情を崩さない。まるで自分が怒られている自覚など一片もないかのように。

 

「仕方ないじゃん。だって何ともないのに『じっとしてて』ってうるさいんだよ?」

 

 ぷぅっと膨れた頬に、わざとらしく小さく首をかしげて――そして、星のようにきらめく語尾を添えて笑う。

 

「私には無理無理〜☆ だって窮屈なの嫌いだもん!」

 

 その言い草に、銀時のこめかみがピクリと跳ねた。

 

「“もんもんもんもん”可愛く言ったって無駄です〜!!」

 

 ガラスに食らいつくような勢いで言い放つ銀時。両の手は机に叩きつけられたまま、目は完全に据わっていた。

 

「そもそも病院で“静かに”って、常識だからね!? 生まれたてのガキどもでも出来ることだからね!!」

 

 言葉の刃がビシビシと飛ぶ。しかし、ミカはその刃すらもトランポリンのように軽やかに跳ね返す。

 

「もう〜先生ったら! それだと私が精神年齢の幼い子供みたいじゃん!」

 

 膨れ面で、ぷいとそっぽを向きながらも、視線だけは銀時をチラリと探る。反省の色は――皆無。

 

「いや、“みたい”というかその通りですけど!!」

 

 銀時の即答が炸裂する。壁に飾られた時計が、コチ、コチと冷淡な音を刻む中、彼の声だけが面会室の温度を上昇させていた。

 

 だが、次の瞬間――

 

「もういいもん……!」

 

 ミカの声が、ひゅうっと沈んだ。トーンが落ちたと思った瞬間、彼女は両膝を抱え、囚人服の布をくしゃりと握りしめた。

 

「私だって、もう高校生……。少しぐらい、大人対応ぐらい、出来るもん……。現実だって――」

 

「受け入れられるもん……!」

 

 肩をすくめ、顔を伏せる。囚われた鳥のように身を丸め、手錠の音がカチリと微かに響いた。

 

 だが――その姿に銀時は、迷うことなくツッコんだ。

 

「いやそれのどこが“大人の対応”!?」

 

 机をバンバン叩きながら、全力で指を差す。

 

「完全に防御張ってるじゃん!!」

 

「大人というか、嫌なことがあった時に駄々こねるガキの対応だよ! それ!!」

 

「……はぁー……もういいわ。わかった。お前に病院は早すぎたんだな。なんなら保育園からやり直せ」

 

 彼の声は、憤怒と諦観が混じった重々しい音色を帯び、まるで鋼鉄の鎖を解き放つかのようだった。銀時の皮膚には昨日の戦いの名残が感じられ、疲労が滲む表情は、言葉では割り切れぬ苦悩を物語っていた。

 

「えっ、じゃあ先生、私の送り迎えしてくれるの?」

 

 ミカは、囚人服の袖に似合わぬ、どこか戯けた口調で問いかける。彼女の瞳は、半ば茶化すかのように輝き、まるで子供のような無邪気さと反抗心が同居しているかのようだった。

 

「するか! 俺が保護者になった瞬間、周囲から白い目で見られて即通報だよ」

 

 その一言は、冷徹な現実を突きつける鞭のようであり、銀時自身がその責任の重さを痛感しているのが伺える。周囲の目線と、囚われた自由への皮肉が、声の端々に滲み出ている。

 

「じゃあ先生が手錠して一緒にお縄になれば、釣り合い取れるかも?」

 

 ミカの提案は、あたかも悪戯混じりの戯言のように軽快に流れる。しかし、その裏には自らの自由への挑戦と、既成概念への反抗の熱が燻っている。

 

「何その地獄のバランス感覚!! 一緒に捕まって“愛は無罪”みたいな路線やめてくんない!!」

 

 銀時のツッコミは、鋭い刃のように空気を切り裂き、彼の怒声は部屋の隅々まで響き渡る。まるで、理不尽な世界への叫びが、音となって壁にぶつかって跳ね返っているかのようだ。

 

「えー、冗談なのに〜。じゃあ私は何罪だと思う?」

 

 ミカは、ちょっとした笑いを交えながらも、真面目に問いかける。彼女の表情は、怒りと笑いが交錯する不思議なアンサンブルで、まるで日常のスパイスのように場をかき乱す。

 

「ふざけすぎ罪・病院内暴行罪・あと個人的には“心労増幅罪”で終身刑」

 

 銀時の口から次々と出る言葉は、まるで刑法の条文をも嘲笑うかのような響きで、彼自身の心の痛みと、現実の矛盾に対する反抗心を露骨にあらわにする。

 

「うわー、思ったより重い。でも先生に会えたし、少しは軽くなるかと思ったんだけどな」

 

 ミカの声には、どこか期待と安堵の色が混じり、彼女自身もまた、世の中の不条理に笑いながらも、希望を求めているように見える。

 

「だからその‘会えたら嬉しい系’の発言を、手錠姿で言うんじゃねぇよ誤解が加速するだろうが!!」

 

 銀時が怒鳴ると同時に、彼の口元は硬く結ばれ、まるで鉄の扉が閉じるかのような断固たる意志を表していた。

 

 

(ミカ、ふふっと笑う)

 

「でも、ありがとうね。ほんとに来てくれて」

 

「……あ? 一応、今も昔も何でも屋やってるからな来てくれと頼まれたらそれに行くような癖みたいなのついたんだよ。っていうかお前放っといたらそのうちヤベェ奴らにに喧嘩売りかねねぇしな」

 

「うん、それはあるかも」

 

「即答すんじゃねぇよ。そういうのはもっと否定し行くもんだからね普通」

 

 

銀時は、最後に一息つくと、腕を組みながら、椅子に深く腰掛け直す。部屋の中の重苦しい空気が、彼の怒りと不安をそっと包み込むかのようだ。

 

 ミカは、こほんと軽く咳払いをひとつ零し、心の中で感情をリセットするかのように整え直すと、再び真剣な表情で向き合った。

 

「さてと……今日面会に来てもらった理由をそろそろ話さないとね」

 

 その声は、朝日に染まる静かな公演のように、確固たる決意と微かな憂いが混じっていた。

   ――そして、空気がひっそりと落ち着きを取り戻す中、ミカは口を開く。

 

「先生、ナギちゃんから取引とか提案されなかった?」

 

 その問いかけは、鋭い疑問と共に、昨夜の混乱の裏側に隠された真意を探るかのような重みを持っていた。

 

「取引だ?」

 

 疑問符が銀時の口からこぼれる。彼の目は、過ぎ去った混沌と昨日の騒動の記憶に曇り、心の奥底で何かを探し求めるように輝いていた。

 

「例えば、そうだなぁ……【トリニティの裏切者】を探して欲しい、とか」

 

 ミカの声には、ほんの少しの皮肉とともに、現実を受け入れざるを得ない諦観が滲んでいた。

  「ああ……あの後出しジャンケンのことね」

 

 その言葉に、ミカは明らかに不満げな顔で深いため息を零す。彼女の瞳は、一瞬、遠い記憶の中に迷い込むように曇った。  

 

「……ふぅ、やっぱり、もうナギちゃんったら、予想通りなんだから――それで、何か詳しい情報とかは? そういうのは、何もなしでただ探してって云われた感じ? 理由とか目的は? どうして補習授業部がこういうメンバーで構成されているかとか、ナギちゃんは教えてくれなかった?」

 

 ミカの問いは、冷静でありながらも、決して軽んじられない重みを帯び、まるで古びた書物の奥底に秘められた真実を探ろうとするかのようだった。

 

「悪いけど……そいつに関しては俺は手を引いてんだよ」

 

 銀時の返答は、どこか諦めと共に、己の信念に背を向けるかのような静寂を宿していた。

   ミカはその答えが予想外だったのだろう。彼女は一瞬、目を瞬かせ、驚きと失望が交じった表情を浮かべた。

 

「えっ、そうなの? どうして? 自分たちの生徒を疑いたくないから? それとも――」

 

 その問いに、銀時は目を伏せ、重い口を開く。

 

「俺はな、先生ってもんは生徒を信じるもんだと思ってる。先生は生徒の夢を応援し、それを後押しするために手助けをする。生徒はそれに応えるか……それとも新たな道を見つけて、それに向かって歩むかしかねぇ……」

 

 銀時はしばらくの間、言葉を紡ぐのを止め、空虚な目で遠くを見るように呟いた。

 

「つまりは――生徒に裏切るもクソもねぇってことなんだよ」

 

その言葉は、面会室の隅にまるでエコーのように反響し、心に重く突き刺さった。

 

「……へぇ」

 

 予想だにしない答えを前に、ミカの目が興味に輝く。両腕を組んだ彼女は、何かに納得するような素振りを見せ、何度も頷いた。

 

「そっか、そっかぁ……まぁ確かに先生は『シャーレ』の所属だもんね、トリニティとは本来無関係な第三者、私達にとってはずっと『トリニティ』そのものが世界の中心みたいな感じだからアレだけれど、先生にとってはそうじゃない」

 

 ティーパーティーという権威、その提案を突っぱねる事は、この学園の生徒にとって難しい。

 少なくともトリニティの生徒であれば、一も二もなく頷いてしまうだろう。それはトリニティという限られた世界の中で生きる為の処世術と云っても良い。膨大な生徒数を抱える学園の中で後ろ盾を持たず生きると云うのは――想像以上に大変なのだ。

 

「……面白い答えだね、成程、新鮮かも――先生の答えは、それはそれで正しいよね」

「ものの見方は立場によって変わるもんよ……でも、俺は、俺が正しいと思った道を選んだつもりだ」

「ふーん……それじゃあ、先生は誰の味方?」

 

 好奇心に光るミカの目は、銀時を捉えて離さない。その問いが銀時にとってどういう類のものなのか。ミカは良く理解しながらも、問いかけた。

 

「もしトリニティの味方じゃないんだとしたら、ゲヘナの味方? それとも所属的に連邦生徒会とか? 前に騒動に巻き込まれたって云う、アビドスかな? 或いは――誰の味方でもない、とか?」

 

銀時は、一瞬、深々と額に刻まれた皺をなぞるように、低く呟いた。まるで、遠くの星々を眺めながら自らの存在意義を問うかのような重みを帯びた声で――

 

「……俺はな、誰の味方って、そんなの分かってねぇんだよ。」

 

 銀時の瞳は、鋭くもどこか曇った空のように、静かに語りかける。

 まるで、世の中の全ての矛盾を背負いながら歩む孤高の旅人のように――

 

「トリニティだろうが、ゲヘナだろうが、連邦生徒会だろうが、そういう枠組みに俺は縛られる気はねぇ。」

 

 彼は一息つくと、苦笑いを浮かべながらさらに口を開いた。

 

「俺が守りたいのは、決して組織とかレッテルじゃねぇ。もし俺が誰かの味方だとしたら、それは俺を頼りにきた全ての人だ。俺は、ただ……そいつらを守り続ける。ただそれだけさ」

 

 

「そっ、かぁ……先生に助けを求めた人みんなの味方、かぁ……それは予想外だったなー……」

 

 ミカは呟き、視線を泳がせる。

 予想していた以上に、自身が期待していた以上に、銀時の在り方は万事屋としての今までの生き方そのものであった。それは、巻き込むことを躊躇う程に。ミカは、何故か自身の心臓が早鐘を打っている事に気付いた。

 

「うーん、なら、あ、あのさ、先生?」

 

「先生に助けを求めた人のみんなの味方っていうのならさ?」

 

指先を擦り合わせ、ミカは顔を俯かせながら恐る恐る問いかける。

 

「先生は一応、私の味方でもあるって考えても良いのかな? 私もほら、ティーパーティーの一員だけれど、トリニティの生徒って立場だし……困っていたら、助けてくれるのかな……なーんて」

 

銀時は、ミカの問いに自分の内面を曇らせながらも、静かに答えを紡いだ。室内の蛍光灯が淡く照らす中、彼の声は低く、しかしどこか温もりを感じさせるものだった。

 

「……俺に助けを求めた人みんなの味方ってのは、つまり、お前たちが困ったときに絶対に傍にいて、どんな闇も照らす光になろうってことだ。俺は、ただただ、自分の選んだ道を進むだけじゃねぇ。もしお前たちが、本気で助けを求めてくるなら、俺は必ず、全力で背中を押してやる」

 

 銀時の目は、真剣そのものだった。まるで、暗闇の中にひそむ星々が、ひとつひとつ確かに輝いて見えるかのように。

 

「……わーお」

   その声は、部屋の隅々に反響し、まるで春風が木々の隙間を通り抜けるように、ミカの心に刺激を与えた。銀時の放った強烈な殺し文句は、真紅のバラが咲くような迫力と、誰もが憧れるような説得力を放っていた。

 

 その瞬間、ミカの頬に、まるで淡い桜の花びらが舞い降りるかのように、さっと朱色が差した。その赤は、ただ単に恥ずかしさを隠すためのものではなく、むしろミカ自身が内心望んでいた答えが具現化したかのような、最高に甘美な返答そのものだった。

 

 ミカは、まるで自分の頬に咲いた桜をひっそりと隠すように、そっぽを向いて呟いた。

 

「さ、さらっと凄い事を云ってのけるね、先生……」

 

 その言葉の裏には、憧れと素直な驚嘆が混じり、彼女の口元はかすかに微笑んでいた。

 

 一瞬、面会室内の空気がため息のようにゆるやかに流れる。だが、すぐにミカの表情に切なさが走る。

 

「でも、先生はさ、私だけの味方には――なってくれないんだよね?」

 

 問いかけるその声は、まるで淡い朝靄が消えていくように、儚くも切実だった。

 

 しかし、その瞬間、ミカはすぐに我儘だと自嘲するように、微笑みながらも、声を震わせて続ける。

 

「あはは、ごめん、ちょっと我儘云っちゃった……」

 

 銀時は、そんなミカを見下ろすと、肩をすくめながらも軽いツッコミを入れる。

 

「おいおい、頬なんて染めて何ですか? 惚れた感じですか?」

 

 その言葉は、冷静な口調でありながらも、どこかからかうような、しかし決して悪意のない優しい笑いを湛えていた。

 

ミカは、微笑みを隠せず、そしてあどけなくも素直に答える。

 

「それが無かったら、もっと良かったかもね⭐︎」

 

の空気が、再びぴたりと止まったように感じられた。風の通り道すら塞がれたかのような静寂。銀時の軽口も、ミカの笑みも、そこにはもう存在していない。

 

「ま、いいや……私から先生に、取引を提案させて貰おうかな?」

 

 その声は、張り詰めた弦を軽く弾いたような響きだった。唐突で、けれどどこか決意の滲む音色。

 

「取引?」

 

 銀時が眉をひそめ、声を返す。その問いは、ほんのわずかだが躊躇を孕んでいた。

 

「うん、そう」

 

 それだけを短く答えたミカは、ふいに表情から色彩を消し去った。笑みも、憤りも、迷いもすべての感情が、まるで沈む夕日のように彼女の奥底へと飲み込まれていく。

 

 顔を俯かせ、指先で無意識に唇をなぞる仕草。まるで迷いの名残を唇に閉じ込めるように。

 

 ――これから語られる言葉が、未来を分かつ境界線となることを、ミカは誰より理解していた。

 

 あらゆる色彩を腹に沈めたその少女は、感情の衣を脱ぎ捨て、意志だけを剥き出しにして言葉を紡ぎはじめる。

 

 ガラス越しに銀時との距離を縮め、迷いを押し殺した声音で、ミカは静かに告げた。

 

「補習授業部の中に居る裏切者が誰なのか、教えてあげる」

 

 一瞬にして空気が張り詰める。銀時の眉が跳ね上がり、声がわずかに揺れる。

 

「は?」

 

 しかし、ミカは構わず淡々と続ける。まるで誰かの遺言を預かっているかのように、慎重に、丁寧に。

 

「ねぇ?さっきの話聞いてた?裏切り者の話は手を引いたって言ったよね?」

 

「ナギちゃんの云うトリニティの裏切者、今必死に探して退学にさせようとしている、その相手――と云っても、先生は既に気付いているみたいかな?」

 

 銀時は思わず手を振り上げてツッコむが、彼女の言葉は止まらない。

 

「もしもーし人の話聞いてますか?」

 

「私としてはどっちでも良いんだけど……元々先生がナギちゃんに振り回されているのを見ているのは申し訳なかったから、これは取引云々を抜いても先生に伝えようと思ったんだ……実際の所、少し複雑で大きい問題もあってね」

 

 言葉の端々に滲む、割り切れない感情。

 そして一呼吸おいて、彼女は瞼を閉じる。まるで記憶を深く掘り起こすように――あるいは、胸の内の「本心」を一瞬だけ見せないために。

 

 やがて、目を開き、また彼女は真っ直ぐ銀時を見つめた。

 

「――そもそも、先生の事を補習授業部の担任として招待したのは私だから、この事は知っていた?」

 

「聞いてないのかな!?聞こえてないのかな!?」

 

 銀時の焦りは完全に置き去りにされ、ミカの口元には仄かな苦笑が浮かんでいた。だがその瞳の奥には、笑いなど欠片もない。

 

「実は ナギちゃんにはずっと反対されていたんだ、せっかくの借りをこんな風に使うのはどうだのこうだの、って……先生とナギちゃんの間に、色々あったみたいだね? ――まぁ、私の方も色々あったけれど……あぁ、ごめん、それより裏切り者のお話だったね」

 

「聞けェェェ!!listen to me please!!」

 

 叫びにも似た銀時のツッコミが面会室に木霊する。だが、ミカの視線はもう揺るがなかった。

 体を静かに正し、呼吸を一つ。

 

 その声は先ほどまでの軽口とは別物。まるで裁きを下す判決文のように、重く、真っ直ぐに。

 

「補習授業部の裏切者、その正体は――」

 

 ――白洲アズサ。

 

 その名が発された瞬間、室内の空気が明らかに変わった。

 まるで、風のない場所で突然木の葉が舞い上がるように、誰もが理解し得ない不穏な気配が、静かに面会室を覆い始めたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーー

昨日。

合宿二日目の夜――廃校舎。

 

 トリニティの郊外、森と風とに囲まれた静寂の奥――そこに、かつて“学び舎”と呼ばれた建物が、ひっそりと息をひそめている。

 連合を組む以前、独立した分派たちが拠点としていたその校舎は、今や使われることも、語られることすらもなくなった。

 

 時間という名の風雪に晒され、壁はひび割れ、鉄の梁は錆に蝕まれ、窓から侵入した蔦が悠然と廊下を這っている。

 まるでこの場所そのものが、記憶の底に沈んだ"忘却の園"であるかのようだった。

 

 剥き出しのコードに吊るされた蛍光灯は、もはや光を灯す役目すら忘れ、ただ重力に身を預けてゆらりと揺れている。

 月明かりだけが、静かにその古びた回廊に斜めの線を描いていた。

 

 そんな場所に、一つの影があった。

 壁に背を預け、重たい空気と一体となるように佇むその人物。

 帽子を目深に被り、防弾性のマスクで口元を覆い、肩には無骨なライフルを担いでいる。

 その姿はまるで、影そのものが擬人化したかのように朧げで、ただ無言で闇の中に沈んでいた。

 

 そして、また一つ――音もなく現れた影があった。

 トリニティの制服に身を包んだ少女。

 その姿を認めた瞬間、最初の影は壁から身を離し、静かに唇を開いた。

 

「――遅かったな、アズサ」

 

「………」

 

 名前を呼ばれた少女――白洲アズサは、無言のまま応じた。

 その顔に浮かぶ表情はなく、むしろ感情というものをどこかに置き去りにしてきたようだった。

 

 対峙するもう一人の少女、錠前サオリ――かつてアリウススクワッドを率いていた、鋼の意志を持つ者。

 

「首尾は」

 

「……今の所、計画通り」

 

「そうか」

 

 言葉少なに交わされる会話。だがそこには、数え切れないほどの情報と、重みが凝縮されていた。

 サオリの視線が、アズサの背後――すなわちその行動の痕跡に向けられる。

 暗闇の奥に、何者の気配も感じられないことを確認すると、彼女は再び視線を戻し、話を進めた。

 

「坂田銀時、奴に関してどうだ?」

 

 その問いに、アズサはわずかに顎を引く。

 瞳は変わらず鈍色に沈み、表情は微動だにしない。

 

「……今の所、銀時や、桂たちに動きは見られない……おかしい部分は所々あるけど」

 

「――そうか、まだ実力は見せないか……」

 

 サオリの声に、わずかに苛立ちの色が滲む。

 その声音はまるで、静かに揺れる炎のように、怒りを内包しながらも冷たく抑え込まれていた。

 

「なら良い、今は手を出すな」

 

「……分かった」

 

「ただし」

 

 その瞬間、回廊に響いた声は、風のない空間に波紋を走らせるかのように鋭く、切り込んだ。

 サオリの瞳が、獣のような鋭さを宿し、アズサを正面から射抜いた。

 

「アズサ、計画が露呈する様な事になる場合は口封じとして……」

 

「――云われなくても、分かっている」

 

 言葉を遮るように応じたアズサの声は、まるで機械が言葉を吐くように冷淡で――人間味というものがどこにもなかった。

 

 彼女の瞳が、今度は逆にサオリを捉える。

 氷のような無表情の奥で、命を奪うことすら躊躇わない決意が確かに脈動していた。

 

「私が彼らを……殺害する」

 

「――あぁ、それで良い」

 

 サオリはその言葉を肯定するように、何のためらいもなく頷いた。

 そして腰のホルスターに手をやると、留め具を外し、内部から小さな拳銃――いや、毒針を仕込んだ暗殺器具を取り出す。

 

「……これは?」

 

「鬼兵隊なる者からもらった毒針だ。もしもの時はこれを使え、取り扱いは夜にでも練習するんだな……」

 

「……この型のものなら、問題ない」

 

 アズサの声には、一片の迷いもなかった。

 その手が毒針を受け取る仕草すら、訓練された兵士のように無駄がない。

 

 少女たちの会話は、冷酷な任務の確認作業に過ぎない。だが、その言葉一つ一つには、確かに血の匂いがあった。

 

「今も昔もトリニティーとゲヘナは緊張状態が続いている。何とかゲヘナの仕業に仕立てれば銀時や侍も始末でき、トリニティーとゲヘナの双方で潰し合いが起こって一石二鳥だ。もしもの時は頼んだぞ。」

 

「……了解」

 

 アズサは制服の内側に、音もなく毒針を忍ばせる。

 それはまるで、彼女の体の一部となったかのように、自然な動作だった。

 

「……彼女からは奴らとの決着は『下』で付けたいとの要望を出されているが、殺せるのなら殺しても構わないと、そう伝えられている」

 

「なら――」

 

「あぁ、銀時らが動きを見せた場合は躊躇するな、彼女曰く――ティーパーティーや、桂たちよりも銀時の方が優先度は高い」

 

 それが、"最優先排除対象"であるという事実を、何の感情も込めずに告げたサオリは、無言で背を向けた。

 

 そのままコートの裾をひるがえし、去り際にマスクを下げた唇に、わずかな笑みが浮かぶ。

 それはまるで、血の予感に微笑む獣のような、不気味な冷たさを孕んだものだった。

 

「期待しているぞ、アズサ」

 

「…………」

 

 返事のないその声を最後に、サオリの姿は夜闇の中へと溶けていった。

 闇はすべてを呑み込み、吐き出さない。

 

 その背を見送りながら、アズサは制服の中の銃にそっと触れ――まるで迷いを押し殺すように、ひとり、呟いた。

 

「――先生、桂……みんな」

 

 その言葉に、返事はない。

 ただ、夜とその裏で隠れている者が、すべてを静かに見つめていた。




次回 貴族学校の黒歴史

〜透魂〜第一回キャラクター人気投票

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