【生け贄】
何の事かわからない、住民には此方の声も聞こえないし触れる事も出来ないが民衆の一人に子供が産まれたと知らせが来たが、産まれた子が女だとわかるとショックを受けていた。シャトーは個人的に冷静になるよう勤めながら分散して民衆が口にしていた事を聞き耳を立ててまとめようと提案して二時間経った。
「この国の名はジパング、摩訶不思議な神通力を持つ女王であるヒミコに納められている国」
「ヒミコ・・・・ヒミコって。すごろく場にいたヒミコさんじゃないわよね?」
同一人物かどうかよりマァム達が問題にしたのは、この辺りの北にある火山に住まう聖なる大蛇。ヒミコが女王に即位して以来に毎年選りすぐった娘一名を生け贄に捧げ始め。それ以来に女が生まれた家はむごい事になっている事、詳細はシャトーすら口に出すのは止めた。
「・・・・俺達はシャトーさんがすごろくで【やまたのおろち】ってのと戦っていた間に聞いた。あのおろちは自分だって、聞き出したくても気圧されちまってて・・・・なあ?」
「皆さん、女王ヒミコのところに行ってみませんか?私達を感じるかもしれません」
神通力任せの提案だが、メルルに何か感応するかもしれない期待はあるとして次の行動が決まった。
住宅地からヒミコの館へと向かう赤い何かが【鳥居】という名である事すらシャトー達は知らない、文化的にはテランと変わらないが何やら落ち着きや神聖さがあるとして広めの木造の建物に着いた。不法侵入になるがやむを得ずとしたが、余程の上質な木なのか鏡にすら見える床には呆気に取られたが、奥が何やら騒がしかった。
「ひ、ヒミコ様」
『下がれと言っておる!呼ぶまで近付くでないぞ!』
女達が奥から退散して来た。普通ではないとわかるので奥へ向かう。そこは畳の敷かれた広間であり、上座に座るのは自分達が目にした女性を病的と言えるような白さの肌にした女性であった。
「ようこそ、異世界の勇者の仲間達。本来の歴史とやらに数えられる時間軸で解放された妾の魂が告げたようじゃのう。お陰で、この世界のわらわの自我が戻って来てくれた。二度目の生とやらには感謝しないといかぬ」
凄まじい邪気、だが恐怖は無い。寧ろ悲哀すら感じる類いであった。マァムがたまらず事情を聞いてから語られたヒミコの成り立ちは想像を絶した。
【死体を作り替えられた】
異国の男性と恋に落ちた自分は子を成したが難産であった。人知れず出産して命を落とした後に子は連れ去られ、自分の亡骸は作り替えられた。
【この世界の魔王の手下として】
「それが、今のジパングを苦しめる【やまたのおろち】・・・・つまり、十数年貴女は生け贄を喰らって来た。しかし、話通りとしたら貴女はおろちとなる前に子を成した事で神通力が失われているハズです。何故・・・・事情を理解できる力があるのです?」
「ほう、占い師の娘よ。貴様も多少は心得ておるか。くっ、くく・・・・その娘のお陰じゃよ。光と闇の極限に位置する存在。そうよ!魔界最強の大魔王と【~の~~であった女】の間に生まれた女と関わったお陰よ!」
凄まじい雑音。バーンの娘である部分は聞こえても次が聞こえないのはシャトーと初めて会った時の感覚だが、ヒミコの力が益々高まって行く。その光景にマァムとポップは既視感があるが、ヒミコから生じた黒く怪しい霧が周囲を覆う、気付いたらシャトーと手合わせした空間に似た場にいて身体は実体化しているしヒミコと向き合っていた。
「さあ!貴様等を喰らって妾の力を更に増す為な糧にしてくれるわ!」
ヒミコを中心に展開されたオーラ。瞬く間に自分達も見たおろちとなる。シャトーからすればドラゴラムとは全く違うが、考える間も無く頭部から一斉に火炎が吐き出された。それをフバーハで防ごうとするが、予期せぬ事態が起きた。
「え、呪文が・・・・」
「シャトー!」
マァムは思わずシャトーを抱えて横に飛んでいた。難を逃れてメルルがポップの本の力でヒャダルコを放つが呪文が出ない。
「閃華、烈・・・・ホイミが出せない?」
『ほほほほ、残念じゃな!この空間に広げた霧は呪文を吸収してしまう。つまり?』
おろちはメルルに狙いを定めた。呪文が使えなくされては正に足手纏いなのだ。魔甲拳を纏ったマァムもホイミが使えないので閃華裂光拳が使えないし先程の火炎で足に火傷を負って動きが鈍っているのだが、勝機はあった。
「ち、ちきしょう!俺達を喰う気だから消し炭には出来ないってとこか、けど何とか此方が先に致命打を当てれば!」
ポップが言うように火炎を直撃はさせず頭部が食い付きにくるか突風並な息吹を仕掛けるパターンとなっていた。マァムは足がキツいのでシャトーが本を持ったメルルを抱えている。
「マァム、回避に専念なさい!猛虎破砕掌はまだ使ってはいけませんよ!」
悔しいが即死をさせられるか否かではいけない。シャトーに草薙の剣で防御力を下げてもらってからが良いが、それは使う暇が無い程におろちの猛攻に晒されていた。おろちとなったヒミコに何故こうするのか問いたくても問い掛ける余裕すらないとしたが、何故かおろちの動きが止まる。
「くく、どうした小娘共。何故わらわを倒せる手段を使わない、その武道家に至っては無駄なダメージを負っただけではないか」
それは師からクールに徹しろと言われたポップは真っ先に思い当たっていた。嘗てレオナを介してアバンから伝えられた事だ。
【大魔王を倒せるのは勇者の一刀のみ】
この場ではシャトーに勇者の一刀役を担当してもらうのが勝つ為の近道だが、何かが引っ掛かっている。そもそもシャトーをマァムが庇う必要は無かったハズなのだし、当のマァムも自分が囮になってシャトーにすごろく場と同じような形におろちを倒してもらうのが近道だ。
「確かにですね。マァムは甘いですから・・・・此処は私が一発凄いのを・・・・マァム、だから何を待ったを掛けますか?」
「わ、わからない。けどシャトー、私は貴女にヒミコさんを倒させてはいけない気がする。理由は・・・・【貴女から出てる暗黒闘気】よ!」
言われたようにシャトーは自分で気付かない内に暗黒闘気を表面化させていた。バーンの娘としては正しい在り方なのかもしれないが、自分が目の当たりにしたシャトーとは違う、ヒュンケルがミストバーンに対抗する為に不死騎団長の時に戻ろうとした時に酷似していたのだ。
「シャトー、お願い。私は貴女に公私のパートナーとして誘われた時に同性なのにドキっとしたけど、それは貴女が邪悪なんかとは真逆・・・・私が初めて会ったアバン先生やバランのような暖かさがあったからよ。あの時のままでいて欲しい」
真剣さしかない声色に暗黒闘気が沈静化してしまう、シャトーには辛い記憶が甦ってしまったが、今は避けられない現実がある。
「たわけ者共。青い事を言ってるが目の前の現実をどうする気なのじゃ!?」
おろちは、全ての頭部が一つ一つ灼熱の息を吐き出す用意をした。これは例えシャトーが魔力が封じられてなくても容易く防げはしない、おろちの言う事の方がとした時にシャトーは一歩前に出て今度は【光の闘気】を集中させていた。何かをやる気としたが、シャトーから感じる闘気が徐々に既視感があるものに変化していった。必死に認めまいとしているのは有り得ないと同時に自分達の中の疑念を解く鍵になる予感があった。
「三人とも、終わらせますけど。イザと言う時の覚悟はしなさい、多分ですが許容範囲かもとしか言えないので」
「愚か者、私の最大の火炎は貴様が【フェニックスウイング】を使えても凌げんわ!」
「確かに。だから・・・・【力】で迎え打つ!」
そう言った時に放たれた火炎はカイザーフェニックスの数倍とすべき火炎だが、シャトーは組んだ両手を向けて開いた。直接見たことは無いが、魔力を使って闘気を圧縮させる代物なのでヒュンケルのグランドクルスに限り無く近い為、霧とは縁が無いのだとポップは理解した。
「竜闘気砲呪文・・・・ドルオーラーーーーっ!」
全てを飲み込むようなエネルギーが放たれて火炎と拮抗するが、竜の騎士の切り札とされた一撃には及ばずに消されてしまう、そのままドルオーラがおろちを飲み込んだ。光が収まり、余波で霧が消えて元の場所に戻った。シャトー達の前には憔悴したヒミコが息も絶え絶えになっていた。
「み、見事じゃ。流石は・・・・大魔王と【竜の騎士であった女】の間に生まれた女よ」
「おや、枷が効かなくなってますね。後は自分でやりますから。貴女は自分の【娘達】に何かしてやる事だけ考えて下さい。貴女は【母】なんですからね、貴女自身だけで大変なのに本来存在しない私達がこれ以上干渉は危険なのでおさらばです」
間に入れずに無言で退散したシャトーを追うしかなかった。そして、井戸の前で止まったシャトーは漸く自分達に顔を見せた。
「シャトーさん、竜の騎士が子供を授かったのはバランが初めてだったハズだ・・・・あんたの母親は本当に竜の騎士なのか?」
「厳密に言えば違います。私の母はね、ヒミコさんと似た経緯・・・・竜の騎士が死んだ後に、亡骸はマザードラゴンが回収するのは知ってるでしょう?その亡骸を天界の者が自分の意のままに動くよう作り替えられて竜の騎士であった頃の記憶を消された女、それが私の母。私はその関係で天界に住む者や竜の騎士の力を使えるんですよ」
「そ、そんな・・・・何でそんな酷い事を!」
「天界も一枚岩ではないって事です。アルキードやパプニカのような事と無縁じゃない。一例で竜の騎士がかえって悪の力を高めてしまうと危惧した派閥があって、現に従来の竜の騎士の力だけでは倒せない敵が現れた。バランが天界の力を借りて倒したヴェルザーのように」
確かにとした。現にダイから聞いたがマザードラゴンがバーンに勝てないと判断して竜の騎士の歴史を閉じようとしていたとまで聞いた。
「では、次に貴女達の疑問を解きます。母は魔界にいた時の私が調べた事によると、本人すら知らない理由で当時のパプニカの血筋の・・・・つまりレオナ姫の祖先と瓜二つになるように産まれた女なんですよ、それを広めないように天界の呪いがパプニカの血筋に掛けられていたからレオナ姫の声が奪われた。姫が何故心当たりがあったかも知りませんけど、元の世界に戻ったら広めたりしないで下さい。全て理解出来ませんがこの辺りで枷が上手く働かなくなっただけです。何が起きるかわかりませんからね」
「じゃ、じゃあ何でバーンとの間に貴女を産んだの?」
「切っ掛けは不祥事の発覚とやらです。天界で殺され掛けて逃げ延びた先で魔界に落とされてしまった。そこで記憶を無くして魔界に住んでたら、バーンに気に入られて交わってしまいました。そうやって生まれたのが、この私なんですよ・・・・って、何で私を胸に抱いたりしますかマァム」
「もう良いわ、もう良いのよ・・・・貴女、泣いてるじゃない・・・・」
多少動けば素通りするハズなのにシャトーにはマァムの感触と暖かさは感じられた。それが自分には・・・・【悔しかった】。
天界関連がアレなのは、まあご察し。