【有り得ない】
奇跡の泉に結界を張った者達はそう思った。
まだ若いと言うより幼いと言うべきでも地上を救った勇者であり神々の遺産同士で更なる奇跡を重ねた存在の伴侶たるべき女性、その女性と瓜二つであり、半分が勇者の宿敵であった大魔王の血と肉を受け継いでいるとはわかった。
だが、真っ先に阻まれるべき存在が意に介せずに歩を進めている。
シャトーと名乗る少女には聖なる力に拒まれる気配が一切無かった。欲深い人間や魔物にある邪気が感じられない・・・・否、ゼロなのだ。大魔王の娘であるにも関わらず邪悪な気を一切持たない・・・・巨大な力を溢れさせないようセーブしている程度では不可能な事、この少女には魔族どころか人間ですら及ばない域に邪心が無いのだ。
【恐怖】
それを感じる程にシャトーからは何も感じられない、寧ろあってはならないものを感じるのだ。
それを知っているのか、子供が小動物が騒ぐ森の中を進むが如く一歩一歩とピクニック感覚で更に歩を進めている。拒める手段は無い、寧ろ?
【拒む理由が無い】
どこ吹く風にシャトーは目的地に着いた。
「は~るば・・・・じゃない、それは温泉とかに着いた時でしたっけ、まあ聖地の何とかを」
古来より、竜の騎士が傷を癒した水を飲む。天界に沸いていたり聖杯に溜まる水もこんな風に染みる味なのかと思う。
そして、推測したものを発見した。安置されている棺が3つ、内1つは開いている。
「バランは、やはり甘いですね。部下への情にしても・・・・っ、やっぱり!」
開いてない棺を見たが、あるべきものが無いのは外からでもわかる。
【海戦騎ボラホーン】
【空戦騎ガルダンディー】
嘗て、竜騎衆としてバランに仕えた二名。しかし、ラーハルトのように復活出来なかったので棺内に納めれたままなハズの二名の遺体が無い、シャトーは蓋を開いておいた。恐らくこの場を訪れるハズなラーハルトが見れば異変に気付くようにした。
(ラーハルトは魔法力とは縁が無いからこうしておかないといけない・・・・うぅ、流石に罰当たり過ぎるけど、これからやる事にはとんでもない皮肉だから嫌です・・・・)
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「オカエリナサイ」
パプニカの城に一旦は帰ったマァム達だが、本になったポップにはレオナとアバンも対応に困っていた。
「いやいや、マトリフと同じ目に遇うとは・・・・彼と違って何年も封じ込められないようにしないと、しかし懐かしいと言えば懐かしいですよ」
嘗て、このパプニカ南西部にあった場所。
【ヨミカイン遺跡の魔導図書館】
あの時もそうだが、人類側にとって頼みとなる人材がこのような形で封じ込められてしまう事態が再び起きたのだ。マァムは、やはり自分の考えが正しかった事に怒りを通り越したやるせなさを感じた。そもそも気を取られず二度見をしなければ良かったのは目の当たりにしたのだ。一方アバンはある既視感を抱いたのでやるべき事を示した。
「マトリフに頼るしかないですねぇ、その前に試したい事があるので訓練所に行きましょう」
言う通りに城の訓練所に来た。廃品を使った的を用意してメルルに本を持たせたアバンは自分の指示通りにするよう告げた。
「では、メルルさん。先ずはポップの本を持ちながら的に向けて掌をかざしなさい、ポップはメラを唱えてみて下さい」
「は、はい。メラ!」
メルルが構えた掌から通常のメラよりは強力な火の玉が発射されて的に命中した。メルルは攻撃呪文が使えなかったハズなのにとしてアバンからは説明が始まった。
「ロカ・・・・マァムの父が本となったマトリフを持っていた時に持ち主の身体を通じてバギクロスすら使えてました。ポップが封じ込められた本はその辺りは同じようですね、暫くはそのままと想定する場合はこうやって戦う事すら想定しないといけません、念のために少し練習しましょう、メラの次はヒャドやギラと各系の初歩を撃ってみなさい」
怒りとやるせなさを滲ませるマァムを何とか宥めようと父の体験談を語るアバン。それだけではないと知っているのだが、ポップはそうだとしたら支障が出るので語らない方が安全とした。そもそもマトリフと違って身動きが取れないから全て同じではないのかもしれない、一通り試して成功したので会議室に戻ってシャトーからの案に話題を移した。
「しかし、黒の核晶をエネルギーとして使って結界を張るのを丁寧とは、シャトーさんはスケールが違いますね・・・・どう致しますか?」
「仮に・・・・」
沈痛な声を出すレオナに注目が集まる。言いたい事はわかっているので、言葉を待つ他は無い。
「仮に・・・・シャトーさんが本当にそうしてくれて、各界を全て遮断したとしたら地上は外界からの驚異を防げるけど、ダイ君は・・・・」
「天界か魔界に飛ばされているとしたら、ダイ君は地上に戻れなくなるかもしれません」
沈黙が走る。まだ未定な魔界と天界からの介入を防げるようにしてもダイが帰って来れなくなっては自分達、特にレオナがどうなってしまうのか。フローラと同等かそれ以上に地上の象徴である王女は所詮はまだ十代半ばの少女であるのだ。個人的好意を抱く対象が生きていても帰ってこれないのではどうなるのかと。
「私は、ダイ君をリリルーラで探した事があります」
アバンの言葉が沈黙を破る。考えていなかったワケではない、自分達に言わなかった理由もだ。
「しかし、何度やってもデルムリン島のダイ君の剣の前に行ってしまうのですよ。気配かそれに近いものはそこにしか無いのです。恐らくダイ君は、今は魔界や天界にいるとしてもリリルーラ程度では行けない場にいます。そして、シャトーさんの話を貴女達から聞いて私は思いました。彼女は放っておくしかありません」
全員がそれは予感していた。アバンはマァムが安堵の表情を浮かべるのを確認して話を続ける。
「私にも信じがたい事ですが、彼女はバーンの娘であるに関わらず邪悪ではない。目の当たりにした貴女達がそう感じたのでしょう?」
「は、はい・・・・ノヴァと俺とマァムは手合わせ感覚で一戦交えましたけど、全然邪悪さはありませんでした。シグマの次くらいに」
「鍵となるのはバーンの娘以外に明かせない事の真相・・・・マァムに魔界に飛ばされないように、そして飛ばされた時の便宜を図った事、即ち?」
「シャトーさんは前例を知っている・・・・マァムさんに万一の事を考えるくらいに」
「・・・・お母さん」
レオナは思い当たった。バランの時と同じパターンだが、敢えて考えるならそこだとして。
「そうよ、シャトーさんのお母さんよ!バーンと交わったと言う私に似た侍女よ!」
単にレオナ似なだけではと考えていたが、レオナは何やら激情を滲ませた声色だ。暫くして嫌な汗をかいた表情で口を開いた。
「私、心当たりあるかも・・・・」
「そ、そりゃ何だい姫さん!?」
「それは、と・・・・っ!」
レオナは突如血を吐いた。内臓ではなく声帯が損傷したようで痛みを堪えながら紙に書いても、字が全て消える。その光景にアバンはハッとなった。
「ま、まさか・・・・ポップ、申し訳ありませんが至急にマトリフのところへ行きなさい、彼の故郷、に・・・・!」
「せ、先生!?」
「頼・・・・み、ま・・・・」
アバンは凍ったような状態になった。唐突にアストロンのような現象が起きたようだと思ったが違う、嘗てアバンが使った凍れる時間の秘宝と同じ効果が起きたのだ。
この日、原因が不明な現象によりパプニカの王女は声と文字を失い。カールの王は時間を再び凍らされた。
「先生・・・・姫さん、こんな・・・・どうすりゃ、どうすりゃ良いんだよおおっ!!」
本にされたポップの悲痛な叫びが響く、喉の痛みに耐えるレオナ、マァムとメルルもポップと同じく悲鳴をあげたい心境であった。
レオナはドラクエ4で言えばサントイムの王様が声が出なくなったのをよりハードにしたような状態。