Foreverプリキュア GENERATIONS 作:へりてぃじ
学校目の前の海岸線に太陽が没しようとしている。春とはいっても、まだ日が落ちるのは早い。私は、誰もいなくなったグラウンドを前にベンチへ腰を掛けた。内野の砂が扇にそって線を綺麗に描いている。
背もたれに体重を掛けると、普段より木材が硬く感じる。
ああ…肩痛い…
伸びをしたら思わず声が漏れた。海岸沿いの山を見るとヤマザクラが咲いている。もうそんな時期…
「そりゃあ、サードと兼任だ、」
背後から声がした。
「熱も持つでショ、はいこれ」
「おっキャプテン」
同級生の新任キャプテンが氷嚢を持って来てくれたみたいだ。そう、この学校の野球部は絶妙に人数が少なく、私が抑えを中心に三塁も守っている。
「うっ、きゃ、キャプテンはよしてよ」
三年になったとはいえ、まだ実感はないみたいだ彼女は…
「なーに言ってんの!どーんと構えてよ!後輩ちゃんもいるんだし!」
「はァ分かった分かった…」
なんだか呆れられてしまった?
「じゃあ、ちょっと用があるから先帰るね」エナメルバッグを持ち上げた。
「ふーん分かった分かった。じゃあ、また明日」
振り返り際に、氷、部室に戻しておいてね、と一言。
…さて、私も帰るか
ベンチから重い腰を上げようとすると、校舎の方から聞き慣れた声がする。
「つばさちゃーん!!」
「あれっ、つぐみ!」
もう日は没しようとしている。部活に所属していない彼女がどうしてこんな時間に?
手に持っていたタオルを首にかけつつ、
「こんな時間でどうしたの?」彼女に顔を向けた。
「家で集中なんてできないからテスト勉強。」
横一文字の前髪が跳ねる。
「つばさちゃんと違ってやらないと点数採れないからね」
…うう、ジト目で見てくる
「またまた~あたしより成績いいくせに~!」
「当然でしょ!」得意げな彼女。
「…って、いつもほとんど変わらないじゃない!」
バレたか、と笑い合った。もう太陽は姿を海に没している。
じゃ、帰ろうか、と腰を上げた。木の硬さはもう感じなかった。
────────────────────────
ここは海と山が背中合わせの地形をしている。学校は小高い場所にあり、街はそれより海沿いのやや低い平坦な場所に広がっており、俯瞰すると青い絨毯から階段が伸びているように見える。そして中心部にはシンボルタワーがそびえる。
─今日の晩ご飯何かな?
─またカレーかも?
─もう三日連続じゃん!
そんなことを話しながら歩いていると、家の屋根が覗く場所まで降りてきた。空はとっくにオレンジに染まっている。
────ふと、家の倉庫から光が漏れているように見えた。…気のせい?
ねえ、つぐみ、と思わず声が出てくる。
「ん、どうした?」
彼女が怪訝そうにこちらを見る。
「ほら…倉庫!」何だか言葉がたどたどしくなってしまった。
「…えっ!?何あれ!!」
屋根近くの隙間から見えるのだろうか。まだ坂道であまりよく見えない。
「行こうつぐみッ!」
驚いた顔が一瞬目に映った。
「つばさちゃん!!」
背後につぐみの声を聞きながら、脚は勝手に家に向けて掛けていた。
下り坂、あっという間に目の前まで来た。
「はぁ、はぁ…はァ、っ、つばさちゃん、急にどうしたの…っ…!」
追いついたつぐみが膝に手をついている。そして同じように視線が吸い寄せられた。「何…あれ…」
間近で見ると、屋根の格子から光が漏れているのが分かった。
─兎に角、中を確認しなきゃ!
「危ないよ!!待って!」
…そんな声も届かない。重々しい扉に手を掛け、気がついた時には開け放っていた。
中は眩しい光で満たされていた。が、目をこらすと奥の棚が光源らしい。
「…あの箱……!」
棚の隅に埃を被った桐の箱が鎮座し、異様な雰囲気を纏っている。
恐る恐る手を掛ける。
「こんなの、こんなの見たことない」つぐみが怯えている。自分もこんなもの見たことない。
怖い。私もなんとも言えない恐怖を覚えている。でも、手が意思に関係なく勝手に伸びる。
「うッ…!?」思わず全力で手を引いた。
「つばさちゃん、これは…?」
「分かんない…私も分かんないよ…」
──海岸の方から聞いたこともない衝撃音がした。
思わず身を縮こめる。「今度は何!?」「海の方!」つぐみの手を掴んで家を飛び出し、前に行きたがる脚をどうにか押さえながら海へ続く坂を駆け下りる。
そして目の前で繰り広げられている光景に脚が止まる。
─か、怪物が戦っている…!?
ふと、自分の左手に体温を感じた。目を向けると、つぐみがぎゅっと私の手を握っていた。目は一点を凝視し、身体が震えている。
思わず、抱き寄せてしまった。「つぐみ!!大丈夫!?」「つばさ…ちゃん…」でも、傍観することしかできない。一刻も早く逃げたいのに、脚がすくんで動けない。
そんな時だった。どこからか、まばゆい光の柱が生まれた。眩しさに目を細めながらその方角を見ると─
「家の倉庫」ぽつりとつぐみ。目を擦って見てみると、確かに自分たちの家だ。見間違える訳が無い。
「私たち、夢の中にいるの…?」
そんな私たちの目の前に見覚えのある、桐の箱が降りてきた。「これって、さっきの」つぐみが声を絞り出す。
私の目の前にふわり降りてきたその箱はさっき見つけた時と同じように光を放っていたが、かなり光量は落ちているようだ。二人で相変わらず固まっていると、すっと箱の蓋が地面に落ち、中から白い球体が姿を現した。そして、その身を震わせたかと思えば、天使を思わせる翼を現した。
──伝説の戦士よ──
突如、誰かの声が聞こえた気がした。「誰!?」
辺りを見回しても、誰もいない。目の前には破壊されつつある砂浜が広がるばかりだ。
「つばさちゃん…?」不安そうに両手を握るつぐみ。「うん、大丈夫」
そして、もう一度振り向いた瞬間、謎の球体と“目が合った”
何だろう、この感覚。身体中から力が湧いているみたい
それに…それに、何だか怒り、そう、怒りが心の底から溢れてくる
何これ───
私は幼い頃の記憶が無い。思い出せないというより、存在していなかったような、妙な感覚。気がついたら、つばさがいて、つばさのお父さんがいて、お母さんがいた。自分の両親には会ったことがない。でも、この家族は当たり前のように私を受け入れてくれている。本当に血の繋がりがあるかどうかも分からないのに。
でも、私の家族はこの3人。海と山に挟まれたこの穏やかな地で平穏に暮らしてきたはずなのに…
「つばさちゃん!!!!!!!」思わず涙声になったが、構わずありったけの声で叫んだ。
つばさは、どうしてしまったんだろう。あの球体が目の前に来たその瞬間、光がつばさの身体を包み、解け、姿ががらりと変貌していた。白基調で,所々にフリルが見られる。でも、どこか禍々しさを感じる。他は何と形容できるか…そうだ、一言で言えば『白い悪魔』──
“変身”したつばさは、未だに戦闘を続けている怪物2体の所へ飛んでいく。何だか、自分の知らない所へつばさが行ってしまいそうで、得も言われぬ不安感に駆られる。でも、恐怖で膝が震えて動けない。
──行け、キュアフェニックス─
まただ。この脳に響く、誰かの声。(!?体が勝手に動く…?)
手があの球体に伸びる。すると、持てと言わんばかりに下部からグリップが出てくる。私の手は迷わず握った。…ここで記憶は途切れた。誰かに意識を乗っ取られたように。
砂浜に白い戦士が舞い降りる。その手を一振り、刃を纏わせて2体の怪物の元へ歩いていく。
「ザケンナー?ザケンナーァァァ!!!」1体が邪魔されたと言わんばかりに、その戦士へ腕を振り下ろす。15mはあるであろう体躯が襲いかかる。しかし、戦士は歩きながら腕を一振り、莫大なエネルギー波が怪物を襲う。「ザ、ザケンナ~…」体を切り裂かれた怪物は堪らず消滅した。
「…ザケンナーが…!?一体どこのどいつだ!」戦況を見ていたフード被りがつぶやく。「この世界にも厄介な奴が…っチッ退散か」
白い戦士はもう一体の怪物へ向かう。その顔は無表情だ。しかし、その瞳に僅かだが、この世をすべて憎んでいるような色を宿していた。
「ヤ、ヤラネーダ…」先ほどまで戦いを繰り広げていた相手が一瞬で葬られ、恐れ慄いている。「どうしたヤラネーダ!!怯むことはない!!」先ほどの怪物─ザケンナー─に指示を出していた人物と似ている風貌の指示役が声を荒らげる。怪物─ヤラネーダ─は奮起したように蟹のような巨大な鋏で襲いかかる。「ヤラネーーダ!!」
「…私はプリキュア…」片手でその鋏を掴み反動をつけ、海へ向かって叩き付けるように投げる。
「ヤラネーダァ!!!」海から這い上がったヤラネーダが反撃へ向かう。
「“伝説の戦士”プリキュア…」消えていた刃が再び形成される。
「…キュアフェニックス…」ヤラネーダの胸を白い光が貫く。もう、ヤラネーダの体は霧散していた。「見境無しという訳か…」指示役らしき人物はそうつぶやき、姿を消した。
そして、つばさ─キュアフェニックス─は急に電源が落ちたかの如く砂浜へ倒れ込んだ。同時に翼を生やした球体がつばさの元から飛び立ち、元の姿に戻った。いつの間にか、戦闘であれほど荒廃した景色も元に戻っている。
「つ、つばさちゃん!!!」少女が一人、砂浜を転びそうになりながら走っている。そして、未だに起き上がらないもう一人の少女の元へ辿り着いた。「つばさちゃん!!!つばさちゃん!!!」茜色に染められた海岸に虚しく響き渡った。
その光景をもう一人、空から見ていた者がいた。どこか、怪物を操っていた二人と容姿が似ている。「見つけたよ、グリップ…」満足そうにつぶやき、同じく姿を消した。
──────
あれ、私どうしちゃったんだろ
体を起こし、辺りを見回してもただ暗闇が広がるだけだ。
手を見つめる。何この感覚…
…そうだ!つぐみ!!つぐみは!?
バッと立ち上がり、がむしゃらに脚を動かす。ここがどこなのか、つぐみは近くにいるのか。分からない。だが、走らずにはいられない。
つぐみ!つぐみ!
果てしない闇の中を駆ける。
はあ、はあ、はあっ…うっ……
思わず脚がもつれ、躓いてしまった。思わず座り込む。
(つばさ…) 自分の顎に、確かに誰かの指先が触れる。
…っ!?
驚いて顔を上げる。すると、白いコスチュームを纏った少女の姿が見えた。
(…つばさ)
その少女は微笑み、更にこちらに近づいて私の頬を両手で包んだ。ほんの僅かだが、その少女の体温を感じた気がした。
い、今私の名前を…?
我に帰り、もう一度少女を見ると、身体が地面から浮いている。
!?待って! 誰!?あなたは誰なの!!
少女は微笑んだまま問には答えず、脚から光の粒子となって消えつつある。
あ…
手を伸ばしたが、その少女の姿はもう無かった。
ふと気配を感じると、どこからともなくあの球体─グリップ─が飛んできた。その瞬間、自分の精神が乗っ取られた記憶が蘇る。動こうにも腰が抜けて立ち上がれない。
やめて…や、やめて………っ!!
あの時のように、グリップが閃光を放つ。
まただ……私、どうなっちゃうの…?
自分の瞳から、光が消えるような感覚を覚えた。
助けて…
──────
「つばさちゃん…」もうかれこれ数時間はベッドの側にいる。お父さんとお母さんはもう寝てしまった。私もだんだん眠たくなってきた。
「…ン」ほんのかすかだが、つばさが起きた気配がした。「つばさちゃん!?」
「つぐみ……」まだぼんやりしているようだ。思わずつばさの手を握りしめた。
「つ、つぐみ…!!」急に起きたかと思ったら、私の胸に飛び込んできた。自分の腕の中で小さく震えているつばさを見ると言葉が出てこない。ただ抱きしめることしかできなかった。