夕立が過ぎ去り再び夏の空が現れる。太陽に照らされたアスファルトは一気に熱し、湿度を急激に上げて行く。
「園田君暑いね」
「内村さん大丈夫?」
陽炎が支配する夏の道路に高校生の男女2人がゆっくりと歩く。
「俺の家が近いからそこへ行こう、ずぶ濡れで帰ったら内村さんの家族びっくりすると思うし」
「悪いよ。夕立急だっだし、いくらでも誤魔化せるし・・・いきなり家に来いって言われても」
ついさっきの夕立に当てられて、2人揃ってびしょびしょである。園田邦宏の家は近いし互いに制服は濡れて透けているから内村秋の名誉を守るためにも早く何とかしたい。
「透けてるから服を貸したい」
あっ、と秋は今の状況に気づく。鞄で胸を隠す。
「お邪魔します」
2人揃って邦宏の家に向かう事になる。秋が聞いた話しだと彼は父母は事故で他界、親が残したマンションで一人暮らししてるそうだ。
2人きりになる事態は理解しているが、秋も邦宏も先に行った儀式を終えていっぱいいっぱいでいやらしい事考えてる余裕は無い。
そうしてるうちに邦宏の家に着く、新宿の一等地にあるマンション、エレベーターで一気に登る。いつものよりも早く着いた気がする。
「どうぞ」
「はい、お邪魔します」
2人ぎこちない動きで部屋内入る。初めて入る男の人の家と初めて女の人を入れる2人。特に邦宏が緊張している。
「はい、タオル。着替え終わるまであっち居るから」
「うん」
4LDKは邦宏にとって広すぎる家だったが、初めて狭さを感じる。小学生の頃に弁護士だった両親と車の衝突事故で邦宏だけ遺してこの世去った。
自室に隠れ、呼吸を整える。
「終わりました」
秋の声が聞こえる。
「お、おう」
そろりそろり部屋からでる。制服から、邦宏の部屋着に着替える秋の姿を見る。
「すぐ乾くからくつろいでくれ」
と言いつつ、聞きつつ、2人は落ち着けるわけ無い。
内村秋と園田邦宏はついさっき晴れて付き合い始めたのである。まだ濡れ髪のおさげの黒髪から覗く黒い瞳は邦宏の動きを逃さないように見る。
「ありがとう」
出来るだけ平静を装うとするが、特に邦宏が緊張してる。
「どういたしまして」
もうちょいカッコつけたいけど気の利いた事は言えない。秋の少し高い身長の邦宏からじゃ彼女の表情が見えない。
友達としての時間を過ごしていたものの、邦宏と秋両者今までお付き合い等一度もないからこの先どうすれば良いのかよくわからない状況である。
「内村さんコレからどうします?」
「うーん?制服乾くまで大人しくしなきゃダメかな」
会話が続がない。付き合う前ならまだ長く話す事が出来たが、人生を賭けた大告白を終えた2人にそのような力は残ってない。
器用ではない2人、もう少し花がある展開があると思ったらこのざまである。
ーーピンポンーー
と来客を知らせるインターホンがなる。
「ちょっと待ってて、見てくる」
今日来客が来る予定は無い。一体誰だとキッチンにある受話器で玄関を覗くが画面が真っ黒だ。
「すみません今日隣に引越ししてきた者なんですけど」
忘れていた。今日長らく空きだった部屋に人が来る事を管理人さんから聞いていた。
「ご挨拶させてください」
「今から行きます」
邦宏は秋に左手で待っててと合図をして、玄関に向かう。一応玄関にある覗き穴を見るが、そこも暗い。
「開けます」
チェーンを外し、鍵を開ける。
ガチャりとドアを開けると目の前に1人の男が立っていた。邦宏からして顎一つ背丈が低くく、柔らかい笑顔の見覚えのある短髪黒髪男性。
「初めてまして隣に引越してきた瀬之口です。コレ大した・・・邦宏か?」
「・・・充さん?」
邦宏の目の前に中学生の時に世話になった人がいた。
「何だ無事高校生になれたか。ちゃんと食えてるか?久しぶりだな!」
右肩をぱんぱんと叩く。
「はい何とかなりました。あの節は」
「改めるな。友達だろ。今でも継続中だって、また会えるなんて、うん?その制服」
「私立高原高校です」
「多分、その高校で二学期から先生やるよ」
お世話になった人と再会で驚いてる最中に更にデカい情報が来る。
「ええっ!?」
「ハハ秋からよろしく、って邦宏後ろの先客居るでしょほったらかしは良く無い」
充は部屋の奥にいる秋に気付く。
「あ、ごめんなさい」
「謝るならあの娘に謝りなさい。全く彼女だったらかわいそうだろ」
邦宏が視線をずらした見逃さない充。
「帰ったら良さそうだな。失礼しました」
反転して帰ろうとした同時に秋が待ってと声をかける。
「園田君とどんな関係か知りたくて、少し話し良いですか?」
「初めてまして瀬之口充と申します。邦宏、中学生の時一人前になる様に鍛えた者だ。決して男色家では無いですよ。失礼」
「ち、違います。えーと」
「充さん少し上がって行きません?」
帰ろうしてる充を引き止める邦宏。
「2人の時間を奪う無粋な事しませんよ。弁えてますから」
充の耳元に邦宏が小さな声で、
「今日付き合い初めて会話が続かないから協力してほしいです」
「わたしが入ったら尚更無理でしょ、徐々に慣れていくものってコラコラ!引っ張るな!!目上の人に対して、嗚呼」
邦宏と秋2人で充の腕を掴み部屋に連れ込んだ。勢いに任せたとは言え、やり過ぎた。邦宏は慌てキッチンにある冷蔵庫から缶アイスコーヒーを取り出して秋と充に振る舞う。
「改めて内村秋さん。わたしは二学期から高原高校世界史担当の先生になる瀬之口充です。君の彼氏の園田邦宏とは中学生の時、ここまでキリッとした男にする為に鍛えた上げた男だ。どうだ?一級品だろ」
右手邦宏を向ける充。頭を下げる秋。
「先は失礼しました」
邦宏に向けていた手を充自身の胸に当てて。
「気にしてませんよ。しかし本来ならお邪魔虫扱いになるわたしを迎入れるとは、余程の事と思います」
缶コーヒーを一気飲みして、2人を見る充。優しいかった目が鋭い目に変わる。
「内村さんでしたか」
「ハイ」
振られると思って無かったからか、声が裏返る。
「邦宏は一見不良そうな感じですが、芯は優しい男だ。それに惹かれたのでしょ。最初はどうすればいいか分からないでしょうが手を繋いで歩く内に色々分かる様になります。あと邦宏」
「ハイ!」
「良い彼女もらったな。安心したよ。手を離すなよ!」
ニカって笑って言う充。そして胸ポケットから白い手袋を抜き取り、両手にはめる。
「2人とも手を合わせなさい」
言ってる意図はわからぬまま、充の迫力に負けて邦宏と秋は手を合わせる。
合わせた手を充は包み込んで。
「わたしは2人を祝福します」
笑顔で2人に視線を逸らさずに、真剣に言う充の言葉に何も言い返せない。
「2人とも少しわたしと協力してくれないか?その代わり君達の関係を不当に引き裂く勢力に全力で戦うし、君達にもメリットがある話しだ」
いきなり祝福されて、協力してくれ、引き裂く相手に戦うと言われても。どう返せば良いのかわからない邦宏と秋。
「分かりやすい資料を後日渡すからそこから考えてくれ。とりあえずお暇するよ。缶コーヒーありがとう」
混乱してる邦宏と秋を尻目に颯爽と部屋から出ていく充。
壮絶な告白の日は予想もしてない再会と共に終わりを迎えた。