メモリアル・アーカイブ 作:神話オタク
時系列はアビドス三章後です。
──私は先生であり、大人である。対して生徒は子ども、大人は責任を持って子どもを守り、子どもはその庇護の許でのびのびと、偶には間違えて、それでも何かしらの落としどころを見つけて成長し、やがて大人へと変わっていく。それこそが凡人たる私による、一笑に付されることも覚悟した理想だ。
その理想を叶えるために、私は先生である私を厳しく定義し続けていきたい。同時に、生徒一人ひとりに合わせた適切な距離感、言葉遣い、コミュニケーションを考え構築していくことこそが必要であると考える。
「……なんて」
とはいえ現実はそう理想通りにいくことはない。私はいつも間違えてばかりだし、生徒に頼ってばかりの情けない大人だ。
私という人間は狡く、不誠実な大人だ。片方の生徒はモモトークがくれば用事がなくてもこちらから会いに行くのに、もう片方の生徒はモモトークが来ても慎重に会える日と時間を決める。生徒一人ひとりに合わせていると言えば聞こえはいいが、結局不平等に贔屓をしているだけだ。
「疲れているのかな」
朝日がすっかり昇り、明るい太陽に照らされたシャーレとは裏腹に思考がどんどんとマイナスに寄っていることに気付き、私はデスクの背もたれに体重を預けて思いっきり背中を伸ばす。肩回りが重たい気がするのは、きっと気のせいなんかではないのだろう。この激務を、以前は連邦生徒会が事務的とはいえ処理していたということに尊敬の念を抱かざるをえない。
「──おはようございます、先生♡」
「おはよう……ああ、今日の当番はハナコだったんだね」
「はい」
一旦休憩をして、エナドリが尽きてしまったからコーヒーで気合を入れ直そうと立ち上がった時、シャーレのドアが開いて一人の生徒が入ってくる。
──今日の当番は浦和ハナコ、トリニティ総合学園の二年生で私が顧問を務める補習授業部の一員でもある。
「また眠れぬ熱い夜をお過ごしになられたんですか?」
「ははは……この間の事後処理がね」
「アビドス自治区の一件ですよね、ヒフミちゃんから聞きました」
「うん」
彼女は肩に掛けていたアサルトライフルをホルダーに置き、カバンを備え付けられたロッカーに片付けながらそんな世間話を始めてくれる。
あの短い期間で爆破されたシャーレが完全に復旧しているということにまず驚いたが、続いて待っていたのが焼失してしまった書類の処理と私が病院に担ぎこまれ、そして目覚めてすぐアビドスへ向かった間に積み重なった新しい事務、そして一連の事件を纏めた事務処理だった。
「また、無茶をしたみたいですね」
「今回はそうだね、二回死にかけたよ」
「……今のは、幾ら私相手だったとしても質の悪い冗談ですよ?」
「ごめん」
シャーレが爆破された時、そして反転したホシノを止めようとした時、特に後者は危なかったと思う。
一歩間違えれば「
そして、その事実がこの学園都市において重たいことであるというのは終わってから生徒たちの反応で分かったことだった。カイザーに拉致された時に味わっていた筈だったけれど、あの時よりももっと、多くの連絡が私のモモトークに積み重ねられていた。
「シャーレの爆破事件、私たちもニュースで知りました」
「モモトークで来てたよ、ヒフミもコハルもアズサも、すごく心配してくれていたね」
「……はい」
「勿論、ハナコも」
だから今日は少し大人しいのだな、と私は内心で苦笑した。いつもならもう♡を飛ばしながら卑猥な言葉の羅列や、卑猥に聞こえる言葉で私を揶揄ってくるような、そんな生徒だから。でも無理もない。トリニティで彼女たち補習授業部と退学を防ぐために活動していた夏前のこと、私はその時にも死ぬところだったのだから。
「先生の考えていること、当ててあげましょうか」
「……困っちゃうね」
「ふふふ、でしたら考えていることの答えだけ、教えてあげます」
「今日のハナコはすごく親切だね」
「はい……アトラ・ハシースでの出来事、その最後に先生がした時も、同じ気持ちでした」
「……成程、二回ではなく三回目だと」
ハナコは私の言葉ににっこりと微笑んだ。その圧力を伴った笑顔を前に、私は再び謝罪を繰り返すことしかできない。
生徒から見て、私はかなり無茶ばかりする人という扱いなのだと改めて思い知らされる。そりゃあセリナがどういうわけかいつでも出てくるわけだ。
「……先生?」
「ん?」
「申し訳ないと、先生が罪悪感を抱かれているなら……少しでも、反省していらっしゃるなら……ちょっとだけ、私が我儘を言っても、許してくれますか?」
心配したことへの謝罪ばかりでは仕事は進まないとパソコンに再び向き直り、ハナコにはどれを手伝ってもらおうか考えていると、後ろから声を掛けられた。その遠慮がちな言葉に私は苦笑してしまう。
ハナコは私を振り回すことはあってもその本音は語ろうとはしない。自分の全てを曝け出すのが怖いと思っているらしい、というのは補習授業部での関りの中でわかっていったことだった。そんな彼女からのささやかな、おねだりとでも言うのだろうか。私の罪悪感に付け込もうとする、普段の彼女からは考えられない程に幼稚な策略だった。
「勿論、いや……今ならちょっとじゃなくても許しちゃうかもね」
「……うふふ、そんなことを言ってしまって、後悔しても知りませんからね♡」
「お手柔らかに」
「だめです」
そう嬉しそうに拒否した声はもう、私の耳元にあった。同時に腕に押し当てられる柔らかくて、瑞々しさもある、そして暖かい感触。それは沈み込む、低反発のクッションのようで。私はそこで思考を止めハナコに目線を合わせた。
「ハナコ?」
「はぁい、どうかしましたか、先生♡」
「私としては、いくつか訊ねたいことがあるんだけど」
「なんでしょうか」
「……まず、いつの間に着替えたの?」
ハナコはいつの間にかトリニティ指定のスクール水着になっていた。その上で私の腕を自分の身体に押し付けていたのだった。
過剰なスキンシップを求めてくる生徒は一定数いるし、私もそれなりに慣れてきたつもりだ。けれどハナコは言動とは裏腹にそちらの部類ではないという前提があったせいか、内心では動揺していた。
「先生がデスクに向き直った時にバレないように……ふふふ」
「相変わらず早着替えだね」
目線をさっきまでハナコがいた場所に向けると生徒が寛ぐ用のソファには綺麗に畳まれた制服が置いてあった。あの一瞬でいつもの制服姿からスクール水着に着替える工程を想像してしまいそうになり慌てて思考を振り払った。まずいな、連日の徹夜が響いているせいかな。
「そうですよ、先生……私の制服はお腹が見えていますから……ちゃあんと、下着も脱いで一度全裸になってから……ですよ♡」
「これが、ハナコの我儘?」
「はい……ここなら先生しかいらっしゃいませんから」
そうだね、と肯定しつつそういえば彼女との初対面もまたこの格好だったことを思い出した。
トリニティにやってきて、補習授業部のメンバーを呼び出そうとヒフミと共に正義実現委員会とゲリラ戦を仕掛けて捕まっていたアズサと出会った次に、シスター・フッドによって連行された彼女に出会ったのだった。
──それも水着姿で校内を徘徊していた痴女として。
「先生の安否がわからない間は、不安で全裸での徘徊も、水着での徘徊もできませんでした」
「健全になってくれた方が私としては嬉しいね、本当にいつかヴァルキューレに捕まるよ」
「校内なので、捕まっても正義実現委員会ですから大丈夫ですよ」
「何も大丈夫じゃない……」
要するに、服を着ているのに我慢できなくなった、ということらしい。あくまで全裸、もしくは水着での徘徊は趣味の範囲ということで、捕まらないなら、誰かと出会わないならと私も目を瞑っているところはあるのだけれど。
「それで、シャーレにいる間はその恰好を許してほしい、ということ、それがハナコの我儘?」
「はい」
「……仕方ない」
「ふふ、そう言っていただけると思いました♡」
正直、シャーレは私室のような空間ではあるけれど、扉は生徒のためにと開かれているし、許しているわけではないけれど盗聴に盗撮とプライバシーの欠片もない空間でもあることは、言わなくてもよさそうだと判断した。ここで
「でしたら今日は目の保養としても……使っていただいて構いませんから」
「目の保養はまだしも使うはまずいね」
「なんなら……実際に触れて、使っていただくのも……んっ♡」
「……やっぱり服着てくれる?」
「あん、そんな……先生の前で脱げ、だなんて……仕方ありませんね」
「待って」
結局、ハナコには振り回されるばかりだ。目の保養というより目に毒だという感想は、きっと徹夜続きで思考が鈍っているせいだということにしよう。
そして肩紐に手を掛けたハナコを全力で止めて、色々と誤解を招きそうな、コタマがミレニアムの誰かを巻き込んで飛び込んできそうな卑猥な言葉を連呼する彼女と交渉し、なんとか露出を減らす方向にもっていった。というかほかの水着を持っていたあたりに、そこも織り込み済みだったらしい。
「……まるで先生のシャツに包まれてるみたいですね♡」
「自前でしょう、私のでもそこまで大きくないし」
「朝にこの格好で先生とコーヒーを飲んでいるところ、誰かに見られたどう思われるでしょう?」
「……私のシャツじゃないからね」
以前にウイとヒナタ、そしてコハルと一緒に遺跡調査をした時の水着姿で落ち着いたのだが、濡れてシャツが張り付いて、という煽情的な姿ではなかったが彼女の言う通りこうして朝のシャーレで大きな男もののワイシャツ一枚纏っている姿は事後を連想させる。
他の生徒が突発的にやってきたら大惨事確定だ。いやもう、いっそひと騒動あってくれた方が私としてはありがたいのかもしれない。
「仕事が始まらない」
「ふふ、それじゃあ頑張りましょうね♡」
「ハナコの手伝いにも期待しているよ」
「お任せください、書類の手伝いでも、息抜きでも♡」
私の願いが通じたのか、ハナコの猛攻、悪戯は小テストがあることを知らなかったと泣きついてきたコハルがやってくるまで続いた。
──その時に私は私のシャツ一枚だけ羽織っているように見えるハナコと休憩をしていて、珍しく甘えてきた彼女の髪に触れていたため、顔を真っ赤にしたコハルによって死刑判決を受けたが。
この形式で続けられるものなら続けていきたいと思います。
未定ですが
全てがぼくの気分なのでリクエストは受け付けておりません。