アマラの野史録 -もう一度悪魔を目指す元混沌王の異世界転生- 作:Leiren
気がつくと俺は視界いっぱいに緑が広がる、地平線が見えるだだっ広い草原で座っていた。身体を見れば上半身裸の短パン一丁で、馴染み深い青白く光る刺青が全身に走っている。
ここは、ボルテクス界ではないのだろうか? そもそも地平線を見たのはいつぶりか。あそこでは上と左右を見ても球体の内側を見ているかのような。物理的に丸くなった東京が広がっていたというのに。
俺は今一度ここに来るまでの記憶を思い返す。ボルテクス界では唯一生き残った人々や、力を持った悪魔が東京を一部牽制・支配することで大量のマガツヒを持つことで創世のコトワリを持っていた。
だが俺には元からその資格も理想すらなかったので、どこかの組織の下に付けば良かったものの、どのコトワリも下らなく、だんだんと強くなっていく自分の力に魅了され、俺は閣下と呼ばれる人の元に付くようになった。
それからは俺の力を認め、傘下に引きこもうとする奴らを片っ端から倒して、創世の神すら撃破し、最後に閣下に認められるためにその試練も踏破した。
その時から既に俺にはもう人間の心なんてものは残っていなくて……それで。それでたしか大いなる意思に侵攻しようとか話が出て、それから。そこからの記憶が無い。
記憶はそこまで残っている。だがどうにも身体にさらに違和感を感じる。まるで悪魔になりたての時のような。とうに忘れていたはずの高校生の思い出やクラスメイトのことまで覚えている。
変わり果てた姿を見せるクラスメイトに呆れるのではなく、絶望する記憶。明らかに記憶の一部が捏造されているような。失っていた物が甦るような。そう、人間の心が俺の中にあった。
なにがどうなっているんだ。たしか閣下は全ての力を失ったとか言っていたはずだ。もしかしてマガタマも……?
俺は強くみぞおち辺りを叩いて中にあるものを吐き出す。少し苦しさがあったが、体内からマロガレと呼ぶ虫が出てきた。生き生きと蠢く。すぐに飲み込み直した。
あれ……他のマガタマは? まさか本当に?
試しに良くやっていた突撃の構えを取るが、何度試しても空間を弯曲させるような突撃を繰り出せない。本当に初期に戻ったというのか。なんてことだ……。全て最初からやり直し……。全く、笑えない。
でも、閣下は取り戻せと言っていた。なら、出来る限り急がなくちゃならない。
しばらくその場から見れる地平線と豊かな緑を眺めてぼーっとする。ボルテクス界にはなかった冷たい風や空気の音が何気に心地よく。ただただ、その場から動けなくなっていた。
少し時間が立つと、恐る恐る俺に話しかける囁き声が聞こえた。
「お、おい。そこの君……おーい……」
ぱっと声のする方を振り向けば、腰を曲げて杖を突くお爺さんがいた。俺は首をかしげる。
「こんなところで何しとるんじゃ……! そんな短パン一丁で、風邪引くぞ……」
なんだそんなことが心配で来たのか。俺は大丈夫だと首を横に振る。
「いやいや、てかこんなところで寝ようとするのはやめなさい。魔物の餌食になっても知らんぞ……!」
魔物……? あ、そうだ! 仲魔も本当にみんないなくなってしまったのだろうか。俺は心の中で念じる。最も最初に出会い、俺が丹精込めて最強にまで鍛え上げた仲魔の名前を。しかし、俺の呼び声に応えることはなかった。
それで、魔物とはなんのことだと俺は首をかしげる。
「魔物だ、ま・も・の! 寝とったら食われるぞ!」
「じゃああんたが何とかしてくれよ」
悪魔とは違うのだろうか。それに俺を食おうとするなんて。食べたら間違いなく体調崩すだろう。そんな存在を知っておきながらどうして俺に警告するばかりなんだろう。
「無理無理無理……! お前、魔物がどれだけ凶悪な物なのか知らんのか……! うわあっ! 言った側から……!? あぁっ!?」
お爺さんは俺の背後を見つめながら腰を抜かして尻餅を着く。しかし何かを察したのか、急に顔を青ざめる。
「こ、腰が! 逝った……ぁ!?」
つまり逃げられなくなったという訳か。俺は少しため息を吐いて後ろを振り返る。そこには狼がいた。これはちょっと不味いかも……? だが仕方がない。逃げられないなら戦うしか無い。
俺は立ち上がり、唸り声をあげる狼に向かって構える。多分、また死ぬかも知らないけど。
「ガルルルル……グガアアァッ!」
痺れを切らした狼は俺に飛びかかってきた。が、俺は寸前で躱すことが出来、間髪入れずに勢いつけて右フックを狼の頭に叩き込む。バチンッ!と空気が弾ける音がして、狼は吹き飛ばされる。
おぉ……。ダメージはあまりなさそうだが、初期の記憶を思い出す。
「なんと! 魔物に反撃できるとは! お前冒険者だったのか!」
冒険者ぁ?? なんだか懐かしい響きだなぁ……。ずーっと昔にやってたゲームにそんな呼び名あったかなぁ……。まぁいい。とりあえずこの狼を殴り倒さない限りはその謎も解けない。
「グルルルウゥ……グガアアァッ!」
次は飛び掛かりながら鋭い爪を振りかぶってきた。が、これも運良く寸前で回避して、即座に反撃する。次の一撃はさらに空気が破裂する音で、狼は大きく吹き飛ばされ、立ち上がるのに時間が掛かっていた。ならばもう一発。狼が体勢を立て直す前に右フックで追撃する。
「ゴガアッ!?」
「……っ!? え、マガツヒ?」
狼は俺の拳が変な所に入ったのか。白目を向いてピクリとも動かなくなったと思いきや、体から紫色の光が溢れ出る。俺はすぐさまそれを身体の中に取り込もうとする。
「お、おい! 倒した魔物から離れんか! 危険じゃぞ!」
じわりじわりと光が自分の中に溶け込めば、決して"美味しくは無い"無いものの、自身の力がほんの少しみなぎっていく気がした。良いねぇ。生き物からマガツヒが出るなら話は早い。とにかく魔物を倒しまくれば俺はまた強くなれるのか。
「なにをしとる!? 今すぐに離れんか! ……笑っている?」
「安心しろ爺さん。俺はこれを探していたんだ……」
「な、なんということだ……。魔物の魔力を吸収できる人間がいようとは……」