アマラの野史録 -もう一度悪魔を目指す元混沌王の異世界転生- 作:Leiren
まさかこの世界にもマガツヒがあったことは嬉しい予想外だった。爺さんは魔力が危険とか何とか言っているが、この狼から感じる独特な渋い苦味は低級悪魔から味わえるマガツヒそのものだ。
そしてこれを吸収したことで体内に宿るマロガレは活発化し、俺に新たな力を与えた感覚がする。そう、スキルと呼んでいた新能力。【突撃】の使い方を思い出す。記憶の中では既に使ったことがある技のおかげか、以前の"習得"というより、鮮明な記憶に"蘇った"といった感覚が正しいだろう。
所で俺は爺さんが言っていた言葉が一つ気になる。どうやら爺さんから見れば俺は"人間"らしい。どこからどう見ても普通の人間には見えない筈だが……。
「爺さん、俺って人間に見えるの?」
「なにをお前は言っとるんじゃ……? 変な刺青をした人間じゃろ」
「あ〜……俺、実は悪魔なんだよね。完全な悪魔というより人間のハーフ?」
俺はその証明に後頭部から生えた尖った黒い角を見せる。確かに側から見れば奇妙な刺青をした男にしか見えないと思うが、人間なら重傷のはずであろう後頭部に突き刺さった角は、あからさまに"生えている"事から、明らかな人間とは違う要素だと分かる。
別にこの角は曲がったり伸びたりはしないので、きっとそういうことなんだろう。記憶の中でも真相は不明だ。
「悪魔と人間のハーフ!? ほおぉ……。なんと珍しい種族じゃあ……。しかもそれでいて魔物のような凶暴さが無いとは……」
凶暴さ。それはもし俺に悪魔の心。人間の心が完全に潰えていたなら、恐らく俺はこの爺さんを圧倒的な弱者と見て問答無用で殺していたかもしれない。べつにそれに関しては罪悪感は感じないが……。
「へぇ……。怯えないんだな」
「そりゃ、こうも意思疎通が出来たらの。それに力も弱そうだし……」
「ぐぬ……。あ、あぁ。それはそうかもな。それじゃあ爺さん、俺はこの魔力とやら力をもっと手に入れたい。効率よく得られる方法を知ってるか?」
「ふむ……。それなら冒険者に登録してみたらどうかの?」
「冒険者ぁ??」
おいおい。ここはゲームの世界かよ。とても昔にやっていたゲームにそんなキーワードがあった記憶があるが、なんて久しぶりに聞く言葉何だ。ボルテクス界を冒険してきたと言えば正確だが、だからと言ってあんな地獄みたいな場所で冒険者になったつもりは微塵も無い。
「うむ。ただ冒険者は人間しか登録できんからのぉ……。そこでワシに秘策がある。ワシの村に来い。お前さんの角を丁度隠せる服くらいなら簡単に作ってくれるじゃろう。そうと決まればワシについて来い! 途中の魔物は任せたぞ!」
「そうか、人間にしか……ってちょ、おい!」
爺さんは俺の要求に一つ提案すれば、それに立ち塞がる俺の状態の障害を簡単に乗り越えられる秘策があると言って、半ば強引に俺に手招きしてどこかへ行く。
まぁ、いまいち今の状況に理解が追いついて無い自分に警告を出してくれた恩はあるから、一応ついていくことにした。
道中の爺さんに襲いかかる魔物を何とか撃破しながら、数分で一つの村に辿り着く。そこはかなり小規模で、寂れていると言っても良い場所だった。しかし爺さんが村の入り口を通れば、まるで家族を迎えるように2〜30人程度の人々がぞろぞろと家から出てくる。
「ファルクス、お帰り。今日は帰りが早いじゃないか。なにか良いことでもあったのか?」
「うむ。ちょっと珍しい拾い物があっての。こいつ、悪魔と人間のハーフじゃ。なに、恐れなくても良い。ワシらを殺そうとする敵意はないようだ。そこでリリアの力を借りたくてな」
「悪魔と人間のハーフだって!? とんでもない拾い物をして来たな! まぁ、敵意があったら既にファルクスが殺されていてもおかしく無い……か。えっと、じゃあ、リリアさーん!!」
爺さんの名前はファルクス、そしてこれからお世話になるであろう人の名前はリリア……か。服を作ってくれるとかいう話だったが……。そうファルクス爺さんと話す村人が名前を叫べば、ボロ屋からまた1人優しそうな女性が出て来た。
「は〜い。あら、ファルクスさん帰ってきたのね?」
「おぉ、リリア。急で申し訳ないんじゃが、こやつに後頭部の角を隠せる服を作ってくれんかの。作りは簡素でいい。まだ余った革があったじゃろ」
「後頭部の角……? あらまぁ! 魔物……ではなさそうだけれど、ファルクスが生きているなら悪い人じゃ無いのかしら。ふふ、何か事情があるようね。分かったわ。何も聞かないであげる」
ファルクス爺さんはどれだけこの村で信頼があるんだろうか。なにか村の重要な立場を担っているのか。悪魔というどの世界でも共通しそうな悪の象徴を前にしても、村人も恐れもしないなんて……。肝が座っているのや、危機感が無さすぎるのやら……。
「うむ。頼んだ」
そう言えばリリアは深く頷いて家に戻っていった。ファルクス爺さんは何も隠そうともせずに俺の正体を言うもんだから一悶着があると思ったが、思いの外事がスムーズに進んだ。
そうして村の人達と俺がどこから来たのかや、なにをしていたのかを、まるであり得ないような話にならないように真実を濁しながら雑談をして、数時間。陽が沈もうとする暗い夕方くらいに漸くリリアが俺に声を掛けてくれた。
「えっと……悪魔さん? これ、出来たわよ。どうかしら?」
「ん? おぉ! これは……!」
リリアが作ってくれた服とは、革製ではあるものの、俺が悪魔化する前に着ていたジャージそのものの形をしていた。またフード付きで。流石にファスナーは無いが、代わりに紐で結べるようになっていた。
「良いね! ありがとう!」
俺はリリアから革製ジャージを受け取ると早速着て、ハードで角を隠す。フードはそれなりに深く、隠した角がフード越しでも見えないようになっていた。
「えっと、ファルクス。ありがとな。それで、冒険者にはどうやってなれるんだ?」
「うむうむ。冒険者になるには、ここから東にずーっと向かった先に大きめの街が見えるはずしゃ。そこで、そうそう。この1500魔貨を支払えば登録出来る」
「え、魔貨!? てっきりボルテクス界の物だけかと……」
「ぼるてくす……?」
「あぁ、いや。こっちの話だ。分かった」
この世界でも魔貨が流通しているのなら、今更だがかなり後悔した。何故かこの世界に来て俺は最初期の頃に戻った訳で、もちろん魔貨も全て消滅している。確か……余裕で100万以上は持っていたような。
アマラ深界にいたぼったくりの思念体に引っ掛かった時より絶望感を感じる……。
「じゃあ世話になった。じゃあな」
「うむ。達者でな」
そうして俺はファルクス爺さんと村のみんなと別れ、村から東へただひたすらに歩く。正確な距離は教えられていないが、どんな距離であろうが疲れを感じたことは無いので体力は考慮せず歩く。
道中で何度か狼の魔物に襲われるが、何体倒しても雀の涙程度しかマガツヒが得られず、途中で【アナライズ】を思い出した。
それから約2時間は掛かったと思う。空もすっかりと暗くなり、綺麗な三日月が出ていた。それで漸く目指していた街に到着した。
「いやぁ、かなり歩いたな……ここが例の街か……?」
ファルクス爺さんの言っていた通り、それなりに大きな外壁を構えた。入り口の正門から見える街並みは夜だからか静かで、ただ寂れた雰囲気でも無い、数時間前までは活気の溢れる街だったんだろうと思わせるような、綺麗な大通りが見えた。