アマラの野史録 -もう一度悪魔を目指す元混沌王の異世界転生- 作:Leiren
俺がより早く、強くなるために、効率よくマガツヒを手に入れるには冒険者になれとファルクス爺さんに言われたので、村から歩いて2時間ほどにあった街に到着した。すぐに正門から中に入ろうとするが、鉄の鎧を着た門番に止められる。
「はいそこ青年。通行証を見せてくれるかな」
「通行証?」
「持ってないなら再発行ってことになるから……1万魔貨必要だね」
爺さんからはこんな話聞いてない。今俺が持っているのは爺さんから貰った1500魔貨と、道中で倒した魔物から落ちた5000魔貨しか無い。今から貯めれば、通行証の発行と冒険者登録に必要な金でもう5000魔貨必要ということになる。
まさか別世界に来てまで、お金稼ぎに苦しむことになるとは……。いやしかし。
「その通行証はどこで貰えるんだ?」
「む? そもそも通行証を知らない……? つまり君はどこか辺境の村から来たのかな? それならば仕方が無いな」
どこかに入るために必要な通行証といえば、例のマネカタを思い出すが……、その通行証に関する説明を門番は続けて話す。
「通行証はな、自身が生まれた街や村から通行証の発行を申請することで、担当の兵士が現地まで届けてくれるようになっているんだが……、君みたいな辺境の事情で申請を送れず、わざわざここまで来てくれた人には発行の金額を半額してもらえるんだよ。つーわけで、はいここにどこから来たか書いてねえ」
流れるように出身地を記入する紙を渡されれば、俺は焦る。ファルクス爺さんの村の名前を聞いておけば良かったと。ただ何も書かないのは疑われるだけなので、適当に"シンジュク"と書いてみる。
「シンジュク……? 聞いたことが無いな……」
「あ〜……。そうそう。ずーっと遠くにある秘境で、実は最近から廃村になっちまってさ、つい数日前にようやく決心がついてここまで来たんだよ。いやぁ、ここまで来るのに苦労したなぁ〜」
「秘境ねぇ……しかも廃村か。まぁ、それなら分からなくても仕方が無いのか……?」
力さえあれば俺はこいつを邪魔者として問答無用にぶっ殺していたかもしれない。それは別に良いんだが、今は無闇に喧嘩を売ることは、自殺行為と言えるだろう。なにがなんでも誤魔化さなくちゃならない。
こいつ一人ならなんとか出来なくも無さそうだが……。
「いるんだよなぁ。存在しない村で誤魔化すやつ。しかし……君の身なりからすれば……話もあり得なくはないか……。よしじゃあ今回は特別だ。どうせ嘘はいつかバレる。次君に会った時、牢獄の中では無いことを密かに祈っておくよ」
ひとまず胸を撫で下ろす。俺は門番に半額の5000魔貨を支払い、残り1500魔貨となった。良かった。運良く登録料は残った。
そうして門番に冒険者登録が出来る場所を聞いてから、俺は夜の街に入った。
月明かりが薄らと街を照らし、ところどころ家の窓から明かりが見えることからまだ完全に寝静まった時間では無いんだろう。
門番から教えてもらった場所の記憶を頼りに、何となく目的地までのルートを簡単に頭の中でマッピングし、数分で"冒険者ギルド"と看板に書かれた建物を発見する。
入り口の扉を押し開けようとすれば、静寂に包まれた夜の街並みとは全く違う、活気の溢れる笑い声が聞こえた。なんて懐かしい響き何だろうか。受胎前の東京の騒がしさを思い出す。
ただ懐かしくは感じる、しかし心から望むほどではない。俺はこの世界に来てから人間だった頃の記憶と心が戻ったようだが、どうやら一部だけだったようだ。昔のことを思い出した所で、それが良かったとか、悪かったとか微塵に思わない。面倒くさいな。
俺は扉を押し開けると、一気にキラキラとした眩しさと、心地よい笑い声と、聞き慣れた喧騒が身を包む。ここが冒険者の集まる場所か……。
俺はそそくさと受付らしきカウンターに1500魔貨を置く。
「……。その、冒険者登録というものがしたいんだけど」
俺の言葉に気付いたのか、奥から朗らかそうな女性が向かってきた。
「冒険者登録ですね! 登録料1500魔貨丁度頂きます。それではこちらの紙に、名前と出身地、ジョブと使えるスキルを記入してくださいっ」
紙を見て目を凝らす。出身地はシンジュクで良いとして、名前はいつもの呼ばれ方で問題無いだろうと人修羅(ヒトシュラ)と書き込む。そしてジョブとスキルってなんだ……。いや、スキルは分かる。
「すまん。このジョブってなんだ?」
「そうですね。貴方の戦闘スタイルに応じて決めるのがジョブなのですが……。スキルは突撃とアナライズですか。因みにこのアナライズとはどんなスキルなのでしょうか?」
「強敵出ない限りは相手の詳細をこと細やかに調べられる。そんな感じだ。例えばあんたなら……。リュミナ・アルカ、22歳、スリーサイズは……」
「あわわわ! わかりました! 高度な鑑定スキルですね! 了解しました。それだとえーっと。ジョブは今の所は鑑定士になりますが……。攻撃スキルが突撃のみだとそれくらいしか」
「分かった。鑑定士だな。良し、これでいいんだな?」
「はい! ありがとうございます! 確認しますね……。ふむふむ。特に異常はありませんね! それではヒトシュラさんを冒険者として新規登録しました! ランクは最低限のGランクから始まります! 最初は簡単なお使い依頼しか受けられないので、どうしても戦闘に出たい。と言う時は、他のFランク以上の冒険者に付き添いという形なら許可出来ます」
俺は受付のリュミナの話を頷いて聞く。俺は早くにも全ての力を取り戻して、本来の目的を達する必要がある。そこでより強くなるのに高効率な冒険者を勧められた訳だが、特に障害とかはないようだ。
ならば、早速他の冒険者について行って、出会う魔物のマガツヒを掻っ攫って行けばとても良いだろう。
「よく理解した。じゃあ早速声をかけてみよう」
「はい! 良き冒険者ライフを!」
さて誰に声をかけようかと辺りを見回した瞬間、声をかけられた。
「よぉ新人。俺ァバルゴつー名前でよ、Eランク冒険者をやってるもんだ。俺ァこのギルドでは新人を一気に強くさせるやっさしぃ〜もんでなぁ、どうだ? 俺についてこねぇか?」
Fを探そうとしたところでEが来るとは幸先が良い。俺は一切の疑いを持つことなく快諾した。
「よぉし! んじゃついてこい! これから行くところは、『深淵の魔窟』ってぇ所だ。今だに最深層は未解明で、そこには信じられねぇくらいのバケモンがうじゃうじゃいるらしいぜ? だぁが安心しろ。俺らが潜るのは浅ぇ所だ。いつも俺ァそこを狩場にしててなぁ。今日は新人祝いだァ! がっつり稼ぐぞ!」
「分かった。戦闘じたいはこの街に来る道中である程度慣れている。一気に稼ごう」
俺がいたボルテクス界では、自分自身が生き残るための教訓を様々な悪魔同士で教え合っていた。悪魔を決して信じるな。従えさせろと。
人間間でも人間は一番信用ならないと言われていたが、その通りで。信じ切った相手に騙される時の被害は普通とは比べ物にならない。
別に俺はバルゴの提案を快諾したが、信頼している訳では勿論無い。しかし何一つ疑ってすらいなかったのは失敗だった。あまりにも地獄にいた時間が長すぎたのか、バルゴの提案も態度も何ら違和感は感じられなかった。
俺はそう。バルゴと一緒に深淵の魔窟に入った途端にきっちり騙された。背中を強く押されたと感じれば、俺はバランスを崩して何かとてつもなく深く感じるような崖で足を滑らせ、一寸先も見えない闇の中へ落下した。
「あばよ新人。骨は拾ってやれねえが、無事に帰ってくることを祈ってるぜ! ま、絶対無理だろうがなぁ!! イヒヒャヒャ!」
闇の中へ落下し、運良くもかなり深い地下水湖に落っこちたようで、無傷で一番下に降りてこれたようだ。それともう一つ運が良かったことがある。
ここは確か深ければ深いほど強い魔物がうじゃうじゃいるから、新人の力じゃ踏破することはまず無理だったか。
俺はもう慣れてんだよ。これ以上の絶望と地獄は既に経験済みだ。