よい子テスト~悪い子は死んでください~   作:崖の上のジェントルメン

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1.テスト開始

 

 

 

……なんのために、人は優しくあろうとするのか。

 

なんのために、人は良い人間であろうとするのか。

 

未だに俺は、その答えが分からない。

 

 

 

「うわああああああああん!!」

 

「あわわわ、ど、どうしよう……」

 

2026年、10月1日。木曜日。午前8時18分。

 

10月に入ったけれど、まだまだ世の中から暑さが消えない。入道雲こそいなくなったが、大きな雲が空に鎮座していて、未だに夏の気配は残っていた。

 

そんな中、俺……藤山 優太郎は、学校へ行く道すがらに、泣いている女の子を発見した。

 

見た目から判断すると、おそらく五~六歳程度。スカートを握り締め、顔を真っ赤にして泣き叫ぶその子を、俺はなんとかなだめようとしていた。

 

「ど、どうしちゃったんだい?ママやパパとはぐれちゃったのかな?」

 

「うわああああん!!うわあああん!!」

 

「えーと、とりあえず交番へ行った方がいいのか……?」

 

「うわああああん!!うわあああん!!」

 

「い、いや、まず泣き止ませる方が先か……。だ、大丈夫大丈夫!お兄さんがついてるぜー!?」

 

「うわああああん!!ママーーー!」

 

「ほら、見てみて!じゃーん!」

 

学校に遅刻するかしないかという瀬戸際の中、俺は女の子と同じ目線になるようにしゃがみ、思い切り変顔をした。

 

鼻を人差し指で押し上げて豚鼻を作り、目を大きく見開いた。

 

「うう……」

 

女の子がちょっと食いついてくれたのを確認して、さらに凄い変顔を挑戦した。

 

両手の中指を口の中に突っ込み、横へびろんと広げた。そして「はがはが、くひがのびあった」と変な声を上げてみた。

 

「へへ、えへへ」

 

女の子は面白がってくれたらしく、涙を拭いながら笑ってくれた。

 

(ほっ、よかった)

 

そうして安堵していた最中、「止めてください!!」と凄まじい怒声が聞こえてきた。

 

女の子の背後から、血相を変えた女性がこちらへ走ってきていた。

 

「うちの子に何するんですか!?」

 

その女性は女の子を抱き上げると、俺のことを鋭い目で睨み付けてきた。

 

俺は慌てて立ち上がり、「いえいえ!違うんです!」と叫んで弁明しようとした。

 

「俺はただ、この子が迷子になってるかなって……」

 

「止めて!うちの子に近寄らないで!!」

 

「い、いや、だから……」

 

女性は俺の言葉には聞く耳を持たず、くるりと背中を向けると、女の子へ「怖かったね、もう大丈夫よ」と優しい声でなだめていた。

 

「……………………」

 

俺はがっくりと肩を落とし、生ぬるい風を浴びながら、学校へと向かって行った。

 

「よう、優太郎」

 

「優太郎くん、おはよー」

 

教室へと向かう廊下の途中で、俺は友人の海斗と直樹から挨拶をされた。

 

俺も二人に手を振り、「よお」と言って返した。

 

海斗は清々しいほどに髪が短く、一重の眼が切れ長に伸びている、精悍で爽やかな男だった。

 

反面、直樹の方は輪郭が丸く、あどけない少年のような童顔を持っていた。線が細く、小説なんかを手に持っているのが似合う男だった。

 

「なあ二人とも、聞いてくれよ。俺さっき迷子を見つけたんだけどさー……」

 

俺はついさっきあった出来事を、海斗と直樹に話した。

 

海斗は「ははは!」と声を上げて笑い、直樹は「あらら……」と苦笑していた。

 

「相変わらずついてねえな、優太郎。お前なにかに取り憑かれてるんじゃないか?」

 

「ヤなこと言うなよ海斗。俺、結構気にしてんだぜ?」

 

「優太郎くん、この前も似たようなことなかった?確か電車の中で、痴漢を見つけてそれを通報しようとしたら……」

 

「そう、なんでか俺が痴漢したことになっててさ。ほんと悲しかったわ……」

 

「優太郎はそういう運命なんだよ。一生カッコつかねえのさ」

 

「ちぇ、幽霊の次は運命か」

 

「でも、僕は優太郎くんの良いところだと思うよ。思いやりが届かなくても、めげずにまた優しくできるところがさ」

 

「うおー!!直樹ー!!お前が友だちでいてくれてよかったー!!」

 

そんな他愛もない雑談を交わしながら、俺たち三人の教室である二年A組へと向かっていった。

 

「じゃあ、またな」

 

「またね優太郎くん」

 

「おう、またな二人とも」

 

教室に入ると、各人それぞれの席へとばらけていった。

 

「ぎゃははは!やべーなそれ!」

 

「だろー!?これすげーんだって!」

 

教室の中は、がやがやと賑わうクラスメイトたちで溢れていた。席の近い者たちとの談笑に花を咲かせていて、朝早くからみんな元気だなと思わせられる。

 

俺は一番窓際の最後尾である自分の席に着き、鞄を下ろしてから、頬杖をついた。

 

そしてまじまじと、その騒がしいクラスメイトたちを見渡していた。

 

「なあ山口くん!マジごめんけどさ!宿題やっておいてくんね!?」

 

髪を金色にし、第ニボタンまで開けているチャラ男の和田は、隣の席の山口くんにそう懇願していた。 真面目で気弱な山口くんは困った様子で、「しゅ、宿題……?」と聞き返した。

 

「俺、母ちゃんが病気でよー!家で看病するのに時間取られて、宿題全然できてねーんだ!マジ頼む!やっといてくれ!」

 

「そ、それほんとなの……?」

 

「おう!まじまじ!昨日すげー具合悪くってさー!」

 

「わ、分かった……そういう事情なら」

 

「マジ!?さんきゅー山口くん!」

 

そうして、和田は山口くんへ大量のプリントを渡した。仕方なしにそれを受け取った山口くんは、一旦そのプリントを机へ置くと、「ちょっとトイレに行ってくる」と言って教室から出ていった。

 

「へへへっ、あいつちょれーわ」

 

和田はニタニタと意地の悪い笑みを浮かべながら、近くに周りにいる悪友たちにそう告げた。

 

「あんな嘘で宿題やってもらえるとか、マジ最高過ぎるわ!」

 

「ずりーぞ和田ー!俺も山口使わせろよー!」

 

耳がキンキンするくらいにうるさく話している彼らの会話は、俺にとって気分のいいものではなかった。

 

山口くんの善意を利用して、自分だけいい思いをする。まったく、なんて酷い奴らなんだろう。

 

「ちょっと、何よこれ?」

 

今度は、また別の席から苛立った声が聞こえてきた。俺はふいっと、そちらへ目を向けた。

 

声の主は、谷口 さやかという女の子だった。

 

彼女の長い黒髪は、後ろで固く結ばれてポニーテールになっており、それが肩甲骨まで延びていた。そして驚くほど端正な顔立ちをしていて、眼は大きく、まつ毛も長い。

 

一流の画家が美女を絵に描けと言われて描いた絵が、そのまま現実に飛び出してきたと言われても、なんら不思議ではなかった。

 

そんな彼女は腕を組んで、眉間にしわを寄せていた。

 

「なんでこんな、出来損ないの写真を投稿しているの?」

 

谷口が怒りを向けているのは、彼女の周りに立っている三人の女友達だった。彼女たちは谷口の席の横に立ち、強張った笑みを浮かべている。

 

「え、えっと、ごめんさやかちゃん、ウチが持ってる写真で一番良かったの、これだったから……」

 

その三人の内一人がそう答えると、谷口はあからさまに嫌そうなため息をついた。

 

「いい加減にしてもらえるかしら?あなたのスマホって古臭い安物の機種なんだから、私の写真写りが悪くなるじゃない」

 

「そ、そっか……ごめん……。みんなで仲良さそうに撮れてた写真だったから、つい……」

 

「私が撮ったやつ送るから、それをSNSに上げ直して」

 

「う、うん」

 

「写真は乗せていいって言ったけど、こんなブサイクに映ってるのを乗せられるなんて思わなかったわ。私が読者モデルやってるの、知ってるでしょ?写りの悪い写真投稿して人気落ちたら、どう責任取ってくれるのよ?」

 

「……………………」

 

「はあ……。もういいわ。ほら、さっさと行きなさいよ。そろそろホームルーム始まるじゃない」

 

谷口の言葉を受けて、女の子たちはみんなしゅんとした顔で席へと戻った。

 

まったく谷口のやつ、いつにも増して高飛車だな。あんな言い方されたら誰だって傷つくのに。

 

(はあ……。嫌なやつっていうのは、本当にどこにでもいるなあ)

 

この世は理不尽だ。良い人は悪人に利用されて、煮え湯を飲まされる。善人が幸せになるべきなのに、なんでこんなにも不公平なのだろう。

良い行いは、正しく評価されて然るべき。俺はいつもそんな風に思ってる。 もちろん、見返りを求めすぎるのは良くないとは思うけど、それでも……無理やり宿題をさせられたり、意味不明な理由でぐちぐち怒られたりする必要なんか、絶対ないはずなんだ。

 

 

『うちの子に何するんですか!?』

 

 

(あー、思い出したら悲しくなってきた……)

 

 

俺はため息をつきながら、窓の外へと目線を切った。

 

優しさがちゃんと評価される世界だったら、こんな嫌な思いをせずに済んだのに。

 

(いっそのこと、学校のテストで『優しさ』とか新しく教科作ってくれたらいいのに)

 

俺はふて腐れながら、二度目のため息をついた。

 

「お前ら静かにしろ~。ホームルーム始めるぞー」

 

教室へと入ってきた先生が、いつものように騒がしいクラスメイトたちへそう言った。

 

これからまた、いつもと同じ毎日が始まるんだなと、そう思っていた……その時だった。

 

 

ガララッ

 

 

教室の扉が、突然開かれた。もう全クラスメイトも入っているし、先生も今しがた来た。

 

もうここへは誰も来ないはずなのにと、この教室にいる人たちみんながそう思ったことだろう。

 

開かれた扉に、全員の視線が集まった。

 

そこにいたのは、天使だった。

 

自分でも何を言っているのかよく分からないが、間違いなく天使だった。

 

よくヨーロッパの街中とかで見る、天使の石像だった。それが開け放たれた扉の向こう側にいたのだった。

 

「え?なにあれ?」

 

「天使?」

 

クラスメイトたちのざわつく声が聞こえる中、その天使の像は、教室の中へと入ってきた。

 

その動きも異様だった。生き物のように足を一歩前に出して歩く……というものではなく、そのままズズズと、見えない誰かが石像を押し、床を擦って動かしたかのように見えた。

 

「な……なんだ、これは?」

 

さすがの先生も驚いているのか、その石像のことを、目を真ん丸にして見つめていた。

 

『ただいまより、テストを始めます』

 

突然、見知らぬ女の人の声が教室の中に響いた。おそらく、その天使の声だった。天使は石像であるためか、口元が全く動いていなかった。

 

「テ、テスト?」

 

先生がそう聞き返すと、天使は『はい』と答えた。

 

『今日から、よい子テストを始めます』

 

「……………………」

 

『よい子テストについて、説明を致しますが、よろしいですか?』

 

「……………………」

 

「せ、先生……。なんですか?そのテストって」

 

教室の最前列にいたクラスメイトが、固まっている先生へそう告げた。

 

「……よい子、テスト。よい子テスト。あー!そうでしたね!今日からよい子テストの日でした!」

 

しかし、しばらく時間が経つと、突然先生は何か思い出したかのようにそう叫んでいた。

 

全く意味の分からない俺たち生徒は、先生へ質問を投げかけた。

 

「あの、なんですか?それ」

 

「先生ー!どういうことですかー!?」

 

だが先生は、にこにこと笑みを浮かべるばかりで、何も答えなかった。

 

『よい子テストについては、私の方から説明しましょう』

 

天使は先生に代わって教卓の前に立って、俺たちのことを一望していた。

 

『今からみなさまに、点数を与えます』

 

天使がそういうと、俺たち生徒の頭の上に、数字の「3」がホログラムのように浮かび上がった。

 

「わあっ!?」

 

「な、なにこれ!?」

 

突如現れた数字に、クラスメイトたちは怯え出す。

 

(……な、なんで、3なんだ?出席番号もなにも関係なく、全員一律、一人の例外もなく3だ……)

 

俺は頭の上に浮かぶ3を、手で触ってみた。

 

感触が全くない。指は数字をすり抜けてしまって、本当にホログラムとして写されているみたいだった。

 

『あなた方には、今日から来年の3月31日の午前9時まで、テストを行ってもらいます』

 

天使は固い作り物の笑みを浮かべながら、淡々と話を進めていく。

 

『減点対象の行動を行うと、行為の度合いに応じて頭上の点数を差し引いていきます。点数が0になったら、その瞬間に失格となります』

 

天使の首がギギギギと、ぎこちなく動いていく。

 

『点数が0にならないよう、みなさま、頑張ってくださいね』

 

……いや、いやいやいや。

 

頑張ってくださいじゃなくってさ。いろいろ教えてほしいことがたくさんあるよ。

 

まずこのテストってなんなんだ?何をこれからさせられるんだ?

 

「あ、あの、すみません」

 

俺はすっと手を上げて、天使に質問を投げかけた。

 

「これって……その、なんなんですか?なんのテストなんですか?」

 

天使は、またギギギギとゆっくり首を動かして、俺の方を見た。目があった瞬間、俺はつい身構えてしまった。

 

『このテストは、よい子テストです』

 

「よい子、テスト?」

 

『あなた方が本当に“よい子”かどうか、試すためのテストです』

 

「……………………」

 

『みなさまがよい子でありますこ

 

とを、心よりお祈りいたします』 いや、待って待って。ここで話終わるなよ。まだ聞きたいことがたくさん……。

 

『それではみなさま。ただいまより“実力テスト”を行います』

 

天使はどこからかリンゴを取り出して、それを手に持ったまま腕を上げた。

 

『これから一時間以内に、リンゴを探し出してください。捜索範囲は、この校内の中です』

 

「リンゴを探す……?」

 

『この校内のどこかに、100個のリンゴが隠れています。そのリンゴを、1人1個、見つけてください。リンゴを見つけたら、その場でかじってください。制限時間内にそれができたら、クリアです。今の点数からプラス1点されます』

 

「……………………」

 

『しかし、もし制限時間内にリンゴをかじれなかったら、マイナス1点されますので、お気をつけて。なお、リンゴを2個以上かじったとしても、1個目のリンゴ以降は点数が加算されませんので、ご注意ください』

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

午前9時を知らせるチャイムが、教室の中に鳴り響いた。それと同時に、天使が『では、始めてください』と合図を出した。

 

訳が分からなかった俺たちは、まだ誰も教室から出ようとしなかった。お互いにキョロキョロと、困惑する顔を見合わせるばかりだった。

 

『制限時間、残り58分。リンゴは、残り100個です』

 

「「……………………」」

 

天使がそう言って俺たちにアナウンスをした。それを聞いて、ようやく数人が、おそるおそる席を立って廊下に出ていった。

 

「ねえ先生、本当にこれなんなんですか?なにかの余興とかですか?」

 

また、クラスメイトの何人かは先生の前へ行き、何度も質問をしていた。

 

「ほらほら、お前ら早く探しに行けよー?時間なくなるぞー?」

 

だが先生は、やはり何も教えてくれることはなく、そうやって俺たちを急かすばかりだった。 仕方がないので、俺も教室から出ることにした。

 

「……………………」

 

廊下には、怪訝な顔をする生徒で溢れていた。うちのクラスだけでなく、他の教室からも出ている者がいることから察するに、全クラスで同じように天使のアナウンスがあったのだろう。

 

「優太郎」

 

声をかけられた俺は、後ろを振り返ってみた。

 

そこには海斗と直樹が立っていた。

 

俺は友人の顔を見れて少しホッとしたが、二人とも他の者たちと同様に、怪訝な表情を浮かべていた。

 

「マジで意味が分からんな。いきなりテストだとか言われても」

 

海斗の言葉に、直樹が頷いた。

 

「見たところ他のクラスも対象みたいだし、こんな大きなテストだったら、事前に告知されそうなものなのに……」

 

「どうする?とりあえず言われたとおり、リンゴ探すか?」

 

「……そうだね、そうするしかないんじゃないかな。先生の反応を見るに、一応公認?のテストみたいだし」

 

「そうだな、そうするか。優太郎、とりあえず探しに行こうぜ」

 

「え?あ、ああ」

 

俺は二人に連れられて、キョロキョロとリンゴを探しながら、廊下を歩いていた。

 

……公認、か。 確かに直樹の言うとおり、先生が認めているテストっぽいから、普通に参加しておいた方がいいとは思う。

 

 

──な……なんだ、これは?

 

 

でも、先生があの天使を初めて観た時は、俺たちと同じように驚いた表情だった。それからいきなり、最初から知っているかのような対応をし始めた。

 

俺はそれが、どうも引っ掛かる。拭いきれない、不気味な違和感……。

 

俺たちはもしかしたら、何かとんでもないことに巻き込まれているんじゃないだろうか……?

 

 

 

「……あ、リンゴだ」

 

探し始めてから、およそ10分が経過した頃。俺たち三人は中庭にいた。

 

そこで、朝方に宿題を押しつけられていた、クラスメイトの山口くんが、花壇の中にリンゴが落ちていたのを発見していた。

 

「ほんとだ、リンゴだね」

 

「あるんだな、本当に」

 

直樹と海斗が、山口くんの背中を遠巻きに見ながら、そう呟いた。

 

「おー!でかした山口くーん!」

 

すると、リンゴを見つけた彼の周りに、山口くんへ宿題を押しつけていた和田と、その仲間たちがわらわらと集まってきた。

 

「山口くんよー!そのリンゴ、ちょっと貸してくれや」

 

「う、うん」

 

「へい、あざーすっ!」

 

和田は山口くんからそのリンゴを受け取ると、ぱくっと一口齧った。 その瞬間、天使が説明していたとおりに、和田の頭上の点数が1点あがり、合計で4点となった。

 

「あっ!そ、そんな……僕が見つけたリンゴなのに……」

 

山口くんがそう言うと、和田は「わりぃわりぃ!」と言いながら、まったく悪びれのない笑みを浮かべていた。

 

(ひどいな、相変わらず。山口くんのを横取りしやがって)

 

俺は遠巻きに和田を睨みながら、心の中でそう毒づいた。

 

(……ん?)

 

その時、俺ははっきりと目にした。和田の頭上にある数字……それが4から3へと減った瞬間を。

 

(なんだ?減点されたぞ?)

 

不思議に思っている最中に、和田はまた山口くんへ嘘の言い訳をしていた。

 

「ほら、俺朝に言ったじゃん?母ちゃんがビョーキだからさー、リンゴ貰わねえといけねえんだよ。母ちゃん、リンゴ好きだからよー!」

 

そうして和田はニタニタ笑っていた。すると、また頭上の点数が1点減点されて、残り2点となった。

 

「自分のまた探してこいよ!どっかにかあるべ!」

 

「わ、分かったよ……」

 

山口くんは和田からそう言われて、渋々その場を後にした。

 

「おい、和田」

 

和田の隣にいる悪友が、彼へこっそり耳打ちした。和田はまたニタッと笑って、「いいなそれ!」と言った。

 

そして、彼はリンゴを手に持ったまま、思い切り振りかぶり、山口くん目がけて投げた。

 

「いたっ!」

 

リンゴは山口くんの後頭部に命中した。それを見て、和田たちは「ぎゃはははは!」と笑っていた。

 

「山口くん!」

 

直樹は咄嗟に、彼の元へと走っていった。

 

「おい、和田!もういい加減にしろよ!」

 

いよいよ堪忍袋の緒が切れた俺は、和田たちに向かってそう叫んだ。すると海斗もそれに続いて、同じように和田たちへ怒りを露にした言葉を告げた。

 

「みっともねえことしやがってよ。やることがダセえんだよ、てめえら」

 

しかし、和田たちは俺たちの言葉をまったく意に介さず、むしろ「うっす!真面目くんたちじゃーん!」と煽るように笑ってきた。

 

……その時だった。

 

和田たちのグループ全員の点数が、全員一気に減った。

 

和田以外の者はマイナス1点されて、残り2点に。そして和田だけはなぜかマイナス2点されて、ついに0点となった。

 

すると。

 

 

 

パアンッ!!!

 

 

 

……和田の顔が、突然破裂した。

 

血と肉片が辺りにバラまかれて、そこらじゅうに飛び散った。

 

花壇に植えられた白いチューリップに、その鮮血がかかって、真っ赤に染まった。

 

首が無くなった和田の身体は、その場にどさりと仰向けに倒れた。かじられたリンゴは血の上をコロコロと転がり、俺の爪先にこつんと当たった。

 

「うわああああ!?」

 

「な、な、なんだこれ!?!?」

 

和田の仲間たちは血にまみれながら絶叫した。「なんで!?なんで!?」と言いながら、パニックになっていた。

 

「うわーーー!和田ーーー!」と泣き出す者もいれば、呆然としたまま失禁している者もいた。

 

俺の心臓も、とてつもなく激しく鳴っていた。ドッドッドッと音が聞こえてくるくらいに、身体の奥から鼓動が響いていた。

 

歯がカチカチと震えて、上手く噛み合わなかった。知らず知らずの内に呼吸が浅くなっていることが、ようやく自覚できた。

 

「な、なんだ……!?なんで和田がいきなり!?」

 

あの海斗も、この時ばかりは動揺していた。

 

……なぜ和田が死んだのか。 俺は、朧気ながらに理解していた。

 

(……まさか、点数なのか?)

 

和田は死ぬ直前に、頭の数字が0になった。その瞬間顔が破裂した。

 

 

──あなた方が本当に“よい子”かどうか、試すためのテストです

 

減点対象の行動を行うと、行為の度合いに応じて頭上の点数を差し引いていきます。点数が0になったら、その瞬間に失格となります

 

 

天使の言葉が、俺の頭の中に反響する。

 

(そうか……この上の……この上の数字は!)

 

俺は顔を上げて、自分の頭上にある『3点』を見つめた。

 

(この数字は!悪いことをすると減点されるんだ!)

 

山口くんへ嘘をついたり、物を投げつけたりした時に、和田の点数はどんどん減っていった。

 

しかも、山口くんをからかった他の奴らも、同じく点数が減点された。 最後の瞬間は、なぜか和田は2点減点されていたが、とにかく何か悪いことをすると、点数が引かれるんだ。

 

(よい子かどうか試す……!つまり、“よい子”じゃなきゃ生き残れない……!)

 

 

ピンポンパンポン

 

 

『制限時間、残り45分。リンゴは、残り83個です』

 

校内放送で、天使の無機質なアナウンスが流れていた。

 

あちこちから、悲鳴が聞こえてくる。

 

見上げた先に見える空は、この惨劇とは裏腹に、清々しいほどに青かった。

 

 

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