よい子テスト~悪い子は死んでください~   作:崖の上のジェントルメン

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11.バカヤロー!

 

 

「ダメだ!みんな!中へ入っちゃいけない!」

 

僕、浅倉 直樹は、生け贄組のみんなが校内に入ろうとするのを止めていた。

 

「なんで止めるんだよ浅倉!大暉たちが中に入っていったんだぞ!?助けに行かねえと!」

 

「テストのルールを思い出して!僕たち生け贄組は、制限時間内にグラウンドへ出てないといけない!つまり、制限時間内に校舎にいたら、ゲームオーバーになるってことなんだ!気持ちは分かるけど、今は堪えて欲しい!」

 

「そ、そうは言ったってよお!みんながミノタウロスにやられたらどうすんだよ!俺たちはみんなに助けられたんだ、今度は俺たちが助けにいかなくてどうすんだ!」

 

ああ、困ったなあ。友達思いがゆえに、危険を省みない状況になってる。

 

(僕も正直、優太郎くんと海斗くんが心配だし、助けに行きたいところだけど……僕たち生け贄組が戻ったら、確実に間に合わない)

 

そんな歯がゆい思いを抱いていた、そんな時だった。

 

「あっ!おい、帰ってきたぞ!」

 

「!」

 

その声につられて、僕は校舎の方へ目をやった。

 

そこには、吉田くん、谷口さん、海斗くん、そして優太郎くんの姿があった。

 

優太郎くんは腕を怪我したようで、海斗くんに担がれながら、血を垂らしていた。

 

「優太郎くん!」

 

僕が駆け寄ると、彼は痛みに悶えながらもニッと笑って、「クリアしたな」と答えた。

 

「藤山!」

 

「藤山くん!」

 

「優太郎!大丈夫か!?」

 

ふと気がつくと、彼の周りには人が集まっていた。

 

「へへっ、ちょっとドジっちまってさ。まあ、死なずに済んでよかったぜ」

 

「藤山……」

 

「みんな、無事に生き残れてよかった。俺、嬉しいよ」

 

「「………………」」

 

彼の言葉を受けて、テセウス組の者たちは黙り込んでしまった。

 

そして、その中の浜田さんがぽつりと、「ごめんなさい」と告げた。

 

「私、藤山くんのこと……疑っちゃってた」

 

「………………」

 

「酷いこと言ったりして、ごめんなさい……」

 

それに影響されて、他の人たちもみんな「ごめん」や「すまん」といった謝罪を述べていた。

 

僕には何のことか分からなかったけど、きっと僕らを助ける道中で、テセウス組もいろいろあったのだろう。

 

「いいさ、俺は気にしてない」

 

藤山くんは朗らかに笑ってみせた。

 

「こんな極限の状態じゃ、気が動転してもおかしくない。みんなは何も悪くないさ。悪いのは……」

 

と、そこまで彼が口にした時だった。

 

『二年一組のみなさま、お疲れ様でした』

 

僕たちの前に、あの片羽の天使が現れた。

 

『トゥルークリア、おめでとうございます。いくつかのクラスにテストを受けてもらいましたが、トゥルークリアを達成したのはみなさまを含めて、2クラスしかありません。素晴らしい成績です』

 

「………………」

 

『これにて、第二回実力テストを終了します。教室に戻り、授業を再開してください』

 

それだけを言って、その天使は僕たちへ背を向け、去っていこうとした。

 

「………………」

 

僕の胸の中には、いろんな思いが渦巻いていた。

 

丁寧な口調だけど、そこにはなんの感情もない。人の善性を測るために、生き死にのテストを開催する、悪魔のような天使たち。

 

正直、言いたいことはたくさんある。

 

でも、悪口や暴言は減点対象になる。だから僕は、ぐっとその気持ちを飲み込むしかなかった。

 

きっとここにいるみんなも、同じ気持ちだったと思う。

 

「……ちょっといいですか?」

 

そんな中、天使の背中へ声をかけた人がいた。

 

藤山くんだった。

 

彼は海斗くんの肩から離れて、一人足を引きずりながら、天使へと近づいていった。

 

「前々から思ってたんですけど、どうしてこのよい子テストって……悪いことしたら減点されるのに、いいことをしても加点されないんですか?」

 

『よいこと?具体的には?』

 

「……ごみを拾ったり、人に道案内をしたり、おじいさんやおばあさんへ席を譲ったりしても、俺は全く点が変わらなかった。なぜ、それらを加点してくれないんですか?」

 

『申し訳ありませんが、よい子テストにはそのような制度はありません』

 

「………………」

 

『よい子が、よいことをするのは、当たり前だからです』

 

「……そうですか」

 

藤山くんは、一度目を瞑り、深く息を吐いた。

 

「……そんなことで、本当によい子を測れるんですか?」

 

そして、すっと目を開けて、さらに天使へ投げかけた。

 

静かな怒りに満ちた目だった。

 

燃え盛る炎が、その瞳の向こう側に見えていた。

 

「テセウス組のみんなは、俺を責めたことを謝ってくれた。吉田くんに至っては、自分のことを省みて、助けに来てくれた」

 

『………………』

 

「直樹たち生け贄組のみんなも、俺たちを信じて待っていてくれた。海斗はみんなを逃がすために、自らミノタウロスの囮になってくれた……!」

 

『………………』

 

「そして、谷口は……俺がみんなから責められても、一人味方してくれたんだ……!」

 

藤山くんは、ぐっと歯を食い縛った。

 

そして、お腹の底から、思い切り叫んだ。

 

 

 

「なんでそういうことを、評価しないんだ!?」

 

 

 

「お前ら勘違いしてるみたいだけどな、よいことをするって簡単じゃねえんだぞ!怖くて、勇気が出なくて、泣きそうになる中でも、それでも優しくなれるってことなんだぞ!それがどれだけ立派なことか、お前らは本当にわからねーのかよ!?」

 

『………………』

 

「そういう気持ちを知りもしないで、お前らが勝手にやった勝手なテストで、よい子だなんだって基準を作りやがって!いいことをしても無視する癖に、悪いことをしたら殺すまで減点しやがって!ふざけんじゃねえ!」

 

『………………』

 

「俺は、絶対こんなテスト否定してやるからな!こんなテストで、お前らなんかに評価されてたまるか!」

 

 

バカヤローーーーーー!!

 

 

『………………』

 

天使は、じっと藤山くんをみていた。

 

そしてぽつりと、『5点減点です』とだけ言った。

 

「………………」

 

天使はそれ以上何も言わずに、その場から立ち去っていった。

 

風が吹いて、グラウンドの砂ぼこりが舞っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……優太郎くんはその後、すぐに保健室へ行き、応急措置を施した。

 

肩から背中にかけて切られていたものの、思ったよりも傷が浅いらしく、数日で完治するとのことだ。

 

「ふー、よかった。血がやたらと出るから、内心めっちゃ怖かったんだよな」

 

そう言って安堵する優太郎くんを見て、僕と海斗くんも微笑んだ。

 

「優太郎、やっぱお前、足が遅いんだって。無理してカッコつけるんじゃねーよ」

 

「はー!ひでえ言い草だぜ。そんな悪口言ってたら、減点されるぞお前」

 

「こんなんで減点されるかよ。ほら、見てみろ。点数変わんねーぜ?」

 

「おいおい、なんでこれが減点されないんだよ!やっぱこのテストおかしいって!」

 

優太郎くんと海斗くんの悪友漫才を見て、僕はクスクスと笑った。

 

「それにしても、今回のテスト、みんなでトゥルークリアを達成できたのは大きかったね」

 

僕がそう言うと、二人はこくりと頷いた。

 

この三人の点数は、今このようになっている。

 

僕:11点。

 

海斗くん:9点

 

優太郎くん:12点。

 

優太郎くんは、さっきの天使への暴言がなければ、17点という圧倒的な点数になっていた。

 

「よかったの?優太郎くん。せっかく17点だったのに」

 

「いいんだよ。こんな点数、あいつらが勝手につけただけだ。死なない程度に残しときゃいいのさ」

 

「ふふふ、優太郎くんらしいね」

 

彼だって、せっかく命がけで手に入れた点数を減らしたくはなかったはずだ。

 

それでも、言わずにはいられなかったんだろう。それくらい、優太郎くんには許せないことだったんだ。

 

(みんなのために、あれを臆せず言えることが、優太郎くんの一番優しいところかも知れないな)

 

僕はそんなことを思いながら、三人で教室に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

……それから僕たちは、また日常に帰ってきた。

 

よい子テストに監視された、息苦しい日常ではあるけれど、あの実力テストを終えられたことで、僕たちの空気は朝よりも緩和されていた。

 

何より、今回はクラスメイトの誰も死ななかった。これが、かなり精神的に大きかった。

 

みんなで頑張れば、これからも生き残れるかも知れない。そういう希望が灯ったような気がした。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

夕方になり、帰りのホームルーム間近となった時間帯。この時に、天使からの放送がなった。

 

『現時刻をもちまして、第二回実力テストを全クラスが終了いたしました。参加者のみなさま、お疲れ様でした』

 

『これより、各クラスの成績を発表します』

 

天使はそう言うと、三年生から順にテストの結果を放送した。

 

『三年一組、ノーマルクリア。クリアまでの時間56分24秒。死者5名』

 

『三年二組、ノーマルクリア。クリアまでの時間59分3秒。死者3名』

 

『三年三組、クリアできず。死者17名』

 

「………………」

 

この放送が流れ始めた瞬間、僕たちの間にあった前向きな空気が、また凍りついていくように思えた。

 

みんな神妙な表情で、静かにうつむいていた。

 

結果を聞くだけで、どんな残酷なことがあったのか、容易に想像できてしまう。ありありと、目の前にその光景が浮かんでくる。

 

『二年一組、トゥルークリア。クリアまでの時間60分00秒。死者0名』

 

僕たちの結果も発表されたけど、誇らしいとは思えなかった。

 

それはみんなも同じだったようで、教室の中はしーんと静まり返っていた。

 

……事が起きたのは、一年生のクラスだった。

 

『一年三組、トゥルークリア』

 

「!」

 

これか。

 

天使がトゥルークリアは2クラスしかないと言っていたけど、一年三組のことだったんだ。

 

「………………」

 

そして、その次に発表された結果に……僕は度肝を抜かされた。

 

 

 

『クリアまでの時間、6分17秒。死者0名』

 

 

 

「え!?」

 

僕は思わず、声が出た。

 

優太郎くんと海斗くんも、「は!?」と言って席を立っていた。

 

他のクラスメイトたちも、みんな顔を強張らせていた。

 

(あ、あのテストを、6分でクリア……?)

 

僕と優太郎くんと海斗くんは、みんな顔を見合わせた。

 

天使はそんな僕らを置いていくように、淡々と発表を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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