よい子テスト~悪い子は死んでください~ 作:崖の上のジェントルメン
……日々の生活は、驚くほど平和だった。
海斗や直樹、谷口、そしてクラスメイトたちと日間テストをこなし、時々塩ケ崎さんと将棋を指して遊ぶ。
時にはよい子テストの期間であることを忘れて、笑いあうこともあった。
だが、現実にはこのテストはずっと続いている。そして、実力テストも着実に行われる。
俺たちの命は、全部天使の手のひらの上にあるんだ。
……2026年11月3日、火曜日。朝の9時頃。
本来は文化の日で祝日のはずだが、実力テスト開催のため、みな学校へ集っていた。
もし、これが普通の学校の催しだったら、「祝日なのに学校だるーい」とか「早く帰りて~」なんて言葉が飛び交ったろう。
「………………」
だが、今日は誰もなにも言わない。みんな顔を曇らせて、足元を見ながら校門へと入っていく。
天使たちに従えば、死ぬかも知れない。でも、逆らったらもっと死ぬかも知れない。
俺たちに、選択肢などなかった。
(確か今日は、体育館に集合だったな)
俺は靴から上履きへ履き替えた後、その足で体育館に向かった。
中へ入ると、既に多くの人がいて、がやがやと館内をざわつかせていた。
「おお、来たか優太郎」
「優太郎くん、おはよう」
先に来ていた海斗、直樹と合流する。
「これは……全生徒が集められてるのか?」
俺が呟くと、直樹が「たぶん、そうだと思う」と答えた。
「今度のテストは、もしかするとクラス対抗かも知れないね」
「なるほど、それでわざわざ体育館か」
海斗は腕を組んで「クラス対抗っつったら、スポーツとかか?」と予想した。
「例えばよ、当たったら死ぬドッジボールとか。負けたら死ぬサッカーとか」
「そうだね、充分あり得る展開だと思う」
「でもよ海斗、よい子テストってことは、俺たちの善性を測るってことだろ?ドッジボールとかだとしても、もっと捻ったルールが加わる気がするぜ」
「そっか、確かにな」
俺たちは、これで三回目の実力テストとなる。経験値が増えたこともあってか、テストへの予測を立てやすくなった。
慣れてきたというのも嫌な表現だが、人間というのは、その場の環境に適応しようとするものなのだろう。
「藤山たち、こっちよ」
ふと遠くの方で、谷口が俺たちを手招きしているのが見えた。
「よお、谷口」
「二年一組、みんなこっちで集まってるわよ」
そうして、俺たち三人も、一組のみんなの元に集合した。
「ね、ねえ、藤山くん」
怯えた様子の浜田さんが、俺へ尋ねてきた。
「今回のテスト……どんなルールだと思う?」
「そうだな、さっき三人で話してた時は、クラス対抗じゃないかって予想してたよ」
「クラス対抗?」
「ああ。わざわざ体育館に全生徒を集合させるってことは、一斉にテストを行う可能性が高い。となりゃ、違うクラス同士で戦うことも充分あり得るってことさ」
俺がそう言うと、浜田さんを始め、俺の話を聞いていたクラスメイトたちがざわついた。
「ど、どうしよう。体力勝負とかだったら、三年生に勝てないかも……」
「二年二組にも、喧嘩強いやつ多いぜ!あそこ柔道部が集まってるからな!」
「そもそも、一対一じゃなくて、全クラスが敵かもしれないぞ?お、俺たち、今度こそやばいんじゃ……」
俺の予測が、水面に石を落とした波紋のように、クラスメイトたちへ広がっていった。
それは焦りを産み、不安を育て、恐怖に変えていった。
「まあまあ、みんな待てよ」
クラスメイトたちの顔に目をやりながら、俺は言った。
「ここであーだこーだ予測しても仕方ない。一旦落ち着こう」
「でも……」
「大事なのは、ミノタウロスの時みたいに、またみんなで協力できるようになることだ」
「………………」
「不安になるのは充分わかる。はっきり言って俺も怖い。だが、それに飲まれないようにしよう」
「………………」
「大丈夫だ、この前もみんなでクリアできたんだ。今回もきっとできる」
無論、根拠なんてない。
前回よかったからと言って、今回も上手くいくとは限らない。
だが、みんなを安心させられるなら、綺麗事のひとつやふたつ言おう。
だから、俺が一番落ち着くんだ。クラスのために、不安を見せるな。
キーンコーンカーンコーン
「!」
だだっ広い体育館に、けたたましくチャイムが鳴った。
それに続いて、天使のアナウンスが始まった。
『みなさま、おはようございます。本日はお集まりいただき、ありがとうございます』
『本日は、六人一組のチームを作ってください。これは、同じクラスの者に限らず、自分の好きなように構成していただいて構いません』
「六人一組か……。どうやら、クラス対抗じゃなさそうだな」
俺はそう呟きながら、ひとまずメンバーを決めることにした。
「海斗、直樹、谷口。よかったら俺とチームを組まないか?」
「おう、あたぼうだぜ」
「うん、もちろんだよ優太郎」
「ええ、最初からそのつもりよ」
「ありがとうみんな。さて、残りは二人だが……」
と、そうして辺りを見渡していた時。
「ユータロー」
俺の背後から声が聞こえた。
当然、それが誰かは、顔を見ずとも分かっていた。
「やあ、塩ケ崎さん」
「ユータロー、ぼくと組も?今回はクラス違くてもいいって」
「おお、いいのかい?」
「うん。ぼく、ユータローと一緒がいい」
「ははは、ありがとな。君がいてくれたら、めちゃくちゃ心強いよ」
「うん」
そうして、塩ケ崎さんはにっこりと笑った。
「あ、あの、すみません……。また塩ケ崎ちゃん、ずけずけ入っちゃって」
ふと見ると、いつも塩ケ崎さんの付き添いでいる女の子もそばにいた。
塩ケ崎さん曰く、彼女は岡本 寧々さんという名前とのこと。
「やあ岡本さん。俺は何も困ってないから、気にしないでよ」
「ほ、ほんと、いつもいつもすみません……」
恐縮している彼女に、直樹が「よかったらうちのチームに入る?」と誘っていた。
「え?い、いいんですか?」
「うん、僕たちは全然大丈夫だよ。ねえみんな?」
直樹の提案に全く異論がなかった俺たちは、塩ケ崎さん同様、岡本さんを快く受け入れた。
彼女は畏まった態度で、何度も「すみません、ありがとうございます」と頭をさげていた。
「ネネ、そんなに気を遣わなくていい。もっとリラックスして」
「し、塩ケ崎ちゃんは、もっと気を遣った方がいい気が……」
まさに対極とも言える二人の会話に、俺たちは少し微笑んだ。
『それでは、第三回実力テストのルール説明を行います』
天使からのアナウンスが入り、俺たちの間に緊張が走った。
『それぞれのチームごとに、事前に準備された部屋へ入っていただきます』
「部屋……?」
『チームごとに天使が案内を行いますので、各人、それに従ってください』
それを受けて、俺たちのチームは視聴覚室へ案内された。
普通の教室とは違い、長机がずらりと並んでいた。正面には大きなスクリーンがあり、黒板の前に垂れ下がっていた。
そして部屋の中央には、白くて四角い箱が置いてあり、中に物を入れられるよう、くり貫いてあった。
「今度は、ここが舞台か……」
俺は部屋全体を見渡しながら、ふうと息を吐いた。
『それでは、各人にルールの書かれた紙を手渡します。一人ずつ部屋から出て、天使から受け取ってください。なお、二人以上で受け取ることはできません』
わざわざ一人ずつ、紙を手渡すのか?変に手の込んだことをするな。
だが、今はまだ何も全貌が見えないため、ひとまず天使の言うことに従った。
視聴覚室の中に五人、一人が外で天使から紙を受け取る。それを六回繰り返した。
『それでは、施錠いたします』
ガチャリッ
そうして、部屋の鍵を閉められて、俺たち六人は視聴覚室に残された。
「とりあえず、ルールを読んでみよう」
俺の声に、塩ケ崎さんが「はーい」と答えた。
「………………」
みんな、無心になってルールを読んだ。
そして、口々に呟いた。
「な、なんだ……これ?」
「う、嘘でしょ……?」
【第三回実力テスト ルール説明】
・六人の中に、一人だけ怪物が紛れました。
・制限時間30分の間に、六人で投票を行い、怪物と思われる一人を処刑してください。
・このルールの書かれた紙は、他人へは見せないでください。
・ノーマルクリア
怪物と思われる一人を処刑すること。プラス4点。
・トゥルークリア
(黒塗りされて読めなくなっている)
「か、怪物が……紛れてる?」
俺はおそるおそる顔を上げて、周りを見渡した。
みんな、いつも一緒にいる……かけがえのない仲間たち。
普段と同じように見える、俺の友だち……。
キーンコーンカーンコーン
『それでは、テストを開始してください』