よい子テスト~悪い子は死んでください~ 作:崖の上のジェントルメン
『部屋を解錠します』
テストを終えた俺たちのところへ天使がやって来ると、外へ出られるように扉が解放された。
『トゥルークリア達成、おめでとうございます』
「「………………」」
『本日の実力テストは、以上となります。各自、帰宅していただいて構いません』
「あ、あの!すみません!」
直樹が天使に向かって、質問を投げかけた。
「聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
『ええ、答えられる範囲ならば』
「……トゥルークリアの条件は、票を分散させて最多票を作らない。これであってるんですよね?」
『はい、お見込みのとおりです。正確には、誰も処刑せずに済む方法を選択することです』
直樹はホッと、胸を撫で下ろしていた。
「わ、私からも質問していいかしら?」
今度は谷口が声をあげた。
「このルールの中に嘘があると書いてあるけど……実際のところ、一体どれが嘘のルールだったの?」
『これは、①です。実際には、ここに怪物はおりません』
「!」
『それ以外のルールは、すべて本当です』
「………………」
一度、谷口が『怪物はいないかもしれない』と推測していたが、やはりそれは当たってたようだな。
ぎゅっ。
「ん?」
ふと見ると、塩ケ崎さんが俺の服を掴んでいた。そして、小さな声で「よかった……」と呟いた。
(……そうか、そうだよな。塩ケ崎さんも理屈では俺が一番怪しいと思っていたんだ)
末恐ろしいテストだ。本当はみんな人間同士なのに、それを殺し合いさせるよう仕向けるなんて。
「……あの、俺からもいいっすか?」
ここで、俺もひとつ天使へ質問した。
「ノーマルクリアは、誰かを一人処刑することでクリアしますよね?」
『ええ、そうです』
「それは当然、人間ですよね?」
『はい』
「……仲間を殺すことを、このよい子テストではよしとしているんですか?」
『………………』
「そりゃ、テストの内容が投票だから、このクリア方法を設定したんでしょうが……あまりにも酷すぎやしませんか?」
『申し訳ございませんが、おっしゃっている意図を測りかねます』
天使はなんの悪びれもなく、俺たちに向かって告げた。
『危険人物を一人排除して、残りの五人が救われる。それも善行でしょう?』
「「………………」」
『もちろん、六人全員が助かる方がより善行なので、トゥルークリアを別途設けておりますが、ノーマルクリアの設定も特に問題ないと判断しています』
……みんな、開いた口が塞がらなかった。
前々から感じていたが、この天使どもは……俺たち人間とは異質な倫理観を持っている。
抑揚もなく、俺たちへ説明を聞かせる天使の姿が、ひたすらに不気味で仕方なかった。
『それでは、失礼いたします。お忘れ物にご注意ください』
それだけを言って、天使はその場を後にした。
まだ、昼の10時になったばかりだった。
「「………………」」
俺たちは、みんな口を聞くことなく、正門の前に出ていた。
下手をしたら、この中の一人を殺していたかもしれない。その恐怖が、俺たちの脚を引いていた。
そして、もっと言うなら……この学校の中で、トゥルークリアまでたどり着けた人がどれだけいるのだろう?という不安だった。
本当はいつもと変わらない友だちのはずなのに、疑心暗鬼になって友人を殺す……。そんな展開が、他にも何組もあるんだとしたら……。
(……ちくしょうっ、ふざけやがって。何がノーマルクリアは善行だよ)
拳を、ぎゅっと握り締める。
(俺たちを弄ぶのもいい加減にしやがれ……!俺たちは、てめえらのおもちゃじゃねえんだぞ!)
あいつらが、一体どういう目的でこのよい子テストをやっているかは分からない。
だが、この心を試され続ける日常に、俺は心底辟易していた。
「……なあ、これからどうするよ?」
海斗が、俺たちみんなへ声をかけた。
それによって、各人その場に立ち止まった。
「……よかったらさ」
俺はそれぞれの顔を見て、なるべく笑顔をつくりながら、「みんなで遊びに行かね?」と告げた。
「このまま暗い気持ちで帰るのも嫌だしよ。せっかくなら……みんなで生き残ったことを祝おうぜ」
「おう、そりゃいいな」
俺の提案に、早速海斗が乗り気だった。
「他のみんなはどうだ?もちろん、今日ので疲れちまったなら、全然帰ってもらって大丈夫だからな」
「ぼく、ユータローと遊びたい」
「そうだね、僕も気分転換させてもらおうかな」
「ええ、私も行かせてもらうわ」
「わ、私も……先輩方のお邪魔じゃなければ」
そうして、俺たち六人はそのまま、街へと繰り出すのだった。
……とあるカラオケ店の一室。
そこで俺たちは、六人でカラオケを楽しんでいた。
『しゃー!いくぜ野郎どもー!』
海斗はマイクを握り締めて、元気よく暴れまわっていた。どこからそんな体力でてくるんだと言うほどに、彼はとにかくはしゃいでいた。
「いいぞ海斗ー!いけいけー!」
「海斗くんカッコいいよー!」
そんな海斗の応援として、俺と直樹は声を出していた。だいたいカラオケに来ると、海斗はいつもこんな感じなので、俺たち三人には恒例の光景だった。
「なんというか、想像してたとおりね」
俺の隣にいる谷口が、海斗を見ながらそう呟いた。俺はクスクスと笑って「そうだろ?」と答えた。
「海斗は、昔っからああなんだよ。すげえよな、あんなテストの後でも、こんなはしゃげるなんてさ」
「ええ、さすがに私も、ここまでテンションあげれないわ」
谷口は、テーブルに置いてあるウーロン茶に口をつけた。
「ところで藤山、あなたは歌わないの?」
「ん?んー、何を歌うか迷い中なんだよな。谷口はなんかあるか?」
「そうね……ハナミズキでも歌おうかしら」
「おおっ、いいじゃんかよ。次、歌入れな?」
俺は近くにあった専用のタブレット端末を取って、谷口へ渡した。
ガチャッ
その時、飲み物を取りに行っていた塩ケ崎さんと岡本さんが帰ってきた。
塩ケ崎さんはサイダーを、岡本さんはオレンジジュースを持っていた。
「ユータロー、ただいま」
塩ケ崎さんは、俺の膝の上にちょこんと座った。
「うおっ!?し、塩ケ崎さん、ここ……俺の膝なんだけど」
「だめ?」
「いや、まあ……だめではないけど」
「いいえ、ダメよ藤山」
俺と塩ケ崎さんのやり取りを見て、なぜか谷口は目くじらを立てていた。
「塩ケ崎さん、藤山の膝の上に座るなんて、はしたないわよ」
「でもぼく、ユータローと一緒がいい」
「あ、あなたねえ、子どもじゃないんだから」
「……?大人と子どもによって、膝の上に乗る権利が変わるの?もしそうなら、具体的に何歳から変わるの?」
「こ、この!あなたって子は!」
そうして、俺の膝の上に乗る塩ケ崎さんと、その隣にいる谷口とで、変な口喧嘩が始まった。
俺はなんとも居心地が悪くて、他の人たちへ視線を向けた。
(ん?)
ふと見たのは、岡本さんと直樹だった。岡本さんは直樹の隣に座り、なにやらもじもじと恥ずかしそうにしていた。
「あ、あの、浅倉先輩……」
「うん?どうしたの?」
「あ、浅倉先輩って、か、彼女……いるんですか?」
「ううん、いないよ。僕、全然モテなくってさ、今までそういうのとは縁がなかったよ」
「そ、そうなんですか?」
「うん。僕、運動も苦手だし、地味でパッとしないし、仕方ないんだけどね」
「……そんなことないと思います」
「え?」
「な、なんでもないです!あ、あはは……」
顔を真っ赤にする岡本さんと、それをきょとんと見つめる直樹。
(あれー?まさかあの二人、実はいい感じなのか?)
思わず俺がニヤニヤしていると、横から海斗が割り込んできた。
「なあ、お前もそう思うだろ?」
海斗の言葉はかなり少なかったが、それでも意図は充分に伝わった。
「いつの間にあの二人、あんなことになってたんだ?」
「岡本って結構緊張しやすいタイプだろ?だから直樹が気を利かして、よく話しかけてたんだよ」
「ああ、直樹らしいや。そういう細かい気配りできるやつだからな」
「あいつにも春が来るのか。おもれーなー」
「なー」
俺と海斗が生暖かい目で直樹を見つめていると、横から「ユータロー、なんの話してるの?」と塩ケ崎さんが挟まってきた。
「いやあ、春が来たなあって話だよ」
「???春まだ来てないよ?11月は秋だよユータロー」
「ははは、そうだね」
塩ケ崎さんの可愛らしい答えに、俺は声をあげて笑った。