よい子テスト~悪い子は死んでください~ 作:崖の上のジェントルメン
それからも俺たちは、カラオケを十二分に楽しんだ。
海斗は相変わらず、鬼のように盛り上げていた。激しい青春ロックを奏でて、海斗節を炸裂させていた。
その合間に、直樹や岡本さんが流行歌などを挟んでいた。二人とも空気を読むタイプなので、みんなが知っている曲を意図的にチョイスしているのだろう。
逆に空気を全く読まないのは塩ケ崎さんだった。とにかく自分の好きな歌を歌いたいタイプのようで、同じ曲を三連続歌った時もあった。四回目に突入しそうになった時には、さすがに谷口から「止めなさい」と止められていたが。
そんなみんなの歌を、俺と谷口は遠巻きに見ていた。率先して歌わないけど、間が空くようなら歌うみたいな、そういう性格だった。
「………………」
みんなが楽しそうに笑っている。その光景が嬉しかった。
こういう瞬間を守るために、俺はきっと生きているんだ。
……夕方の六時頃。
空腹になった俺たちは、カラオケから場所を移して、ファミレスへ来ていた。
三人がけの椅子が対面してあるタイプのテーブルで、左側の奥から谷口、俺、塩ケ崎さん。右側の奥から海斗、直樹、岡本さんという列になっていた。
「あー、歌いまくって腹へった~!メシメシ~!」
海斗は注文用のタブレットを触りながら、ページをどんどん捲っていた。
「カイト、ぼくパフェ食べたい。注文して?」
塩ケ崎さんは早速マイペースさを発揮し、料理よりもデザートを欲しがった。
海斗は「おいおい!今からデザートいくのかよ!」と笑っていた。
「パフェ、おっきいのがいい。果物いっぱい乗ってるやつ」
「塩ケ崎さん、あなたちゃんとバランスよく食べないとダメよ」
谷口がまるで母親のように、彼女を叱っていた。
塩ケ崎さんは最初こそ渋っていたが、ハンバーグのメニューを見た瞬間に手のひらを返し、「ハンバーグだったら食べてもいい」と言い出した。
「分かった、じゃあ僕がまとめて頼むから、みんな欲しいもの言って?」
そこで仲介役に立ったのが直樹だった。彼はみんなにタブレットの画面が見えるようにして、注文を伺った。
「俺、牛丼特盛!」
「はい、海斗くんは牛丼ね」
「ぼくはチーズハンバーグ」
「はい、塩ケ崎さんがチーズハンバーグと」
「俺は~、んー、じゃあ焼きうどん頼むわ」
「優太郎くんは焼きうどん……と。谷口さんと岡本さんは?」
「私はサンドイッチセットをもらえるかしら」
「わ、私は……えっと、明太子パスタを……」
「サンドイッチセットと明太子パスタね、了解」
「す、すみません浅倉先輩、お手を煩わせて……」
「ははは、ううん、大丈夫だよ岡本さん」
そして、直樹は注文ボタンをタップした。
「あっ、しまった」
そのすぐ後に、直樹の顔が強張った。
「どうした直樹?」
「ぼ、僕の分、頼むの忘れてた……」
俺と海斗は、ケラケラ声をあげて笑った。
……結局、直樹はしょうが焼き定食を頼み直し、みんなとともに食事をした。
「ガシャガシャ、ぐァつぐァつぐァつ!」
海斗は自分の前に料理が運ばれてくるなり、物凄いスピードで食べ始めた。
「相変わらず海斗の食べっぷりは凄まじいなあ」
「あー?なに言ってんだよ!うめえもんは早く口にいれてえだろ!?」
口許にご飯粒をつけて、海斗は熱弁をふるっていた。
「もぐもぐもぐもぐもぐっ!」
これに負けないくらい迫力があったのが、塩ケ崎さんだった。海斗ほど勢いがあるわけじゃないが、とにかく口に詰めるスピードが早く、リスのように頬が膨らんでいた。
「こらこら、あなたちゃんと噛みなさい」
もう谷口さんは、塩ケ崎さんのお母さんみたいな立ち位置になりだした。
逆に、谷口と直樹は育ちのよさが現れており、口へ運ぶ時は空いた手を食べ物の下に置いて、落ちないようにしている。
「二人とも品のある食べ方だなあ、大人びてら」
俺がそう言うと、直樹は「そうかな?」と照れ臭そうに笑い、谷口はちょっと自慢げに「これくらい普通よ」と答えた。
そんな中、岡本さんは肩を縮こませて、小さくなって食べていた。自分の腕が隣の直樹に当たらないように気をつかっているらしい。
それに気がついた直樹は、「岡本さん、もう少しこっち来る?」と提案する。
「え!?あ、い、いや、あの、私なんかがこれ以上先輩の近くに寄るのは……」
「そう?でもそれだと食べにくくないかい?遠慮しなくていいよ?」
「あ、は、はい……」
岡本さんは顔を赤らめて、直樹の方へ少し寄った。
俺がそれを見てニヤニヤしていると、谷口がこそっと耳打ちしてきた。
「あの二人って、そういうこと?」
「ああ、どうやらそうらしい。俺も今日知ったよ。岡本さんから直樹へ矢印が向いてるみたいだな」
「なるほどね……」
「くくくっ、直樹のやつ、岡本さんの気持ちに気づいてなさそうだなー?鈍感なやつめ」
「……申し訳ないけど、あなたがそれを言う権利はないわ」
「え?な、なんでだよー?」
「そういうところよ」
谷口は呆れた口調でそう呟いた。
「………………」
その時、俺は直樹が何か考え事をしているように見えた。
眉をひそめて、真剣な眼差しで虚空を見ていた。
「直樹、どうしたんだ?」
心配になった俺が聞くと、直樹は「あっ、いや」と前置きしてから、ぽつりと言った。
「……あの天使たちってさ、なんなんだろうね?」
「というと?」
「いや、見た目は石像みたいで生き物っぽくないし、ロボットにしては精巧だし……」
「………………」
「この前ね、参考にデスゲームの漫画や映画をいろいろ見てみたんだよ。何か天使たちのヒントになるものがないかって」
直樹は一旦、手に持っていた箸を置いた。
周りの人たちも、みんな直樹の方へ目を向けた。
「漫画に多かったのは、いわゆるギャンブルだね。参加者の生死を予想して、大富豪たちがお金を賭ける」
「なるほど。競馬の馬の代わりに、俺たちが参加してる……みたいなことか」
「うん。後は復讐とかもあったね。参加者への個人的な恨みがあって、デスゲームを強制することで復讐するとか」
「ああ、漫画あるあるだな」
そこに、もう飯を食い終えた海斗が口を挟んだ。
「でもよ、なんか復讐にしては人数多くね?俺らの学校、全員テストやってんだぜ?」
「そうか、確かに。復讐ならもっと少人数にするよね」
「ぼくは、価値観の選別だと思う」
さらに会話に参加してきたのは、塩ケ崎さんだった。
「ぼくたちの価値観や行動倫理を試して、選別してるんじゃないかな。よい子テストって名前のとおり、極限の中でもよい子になれる人間を見極めようと、そういう意図を感じるよ」
「そうか、天使たちの持つ独特の倫理観とマッチする者を生き残らせているのかな」
「でも、なんでわざわざそんなことすんだ?それでなんの意味があんだ?」
「ぼくにもまだ分からない。ただ、テストに明確な意図があることは確か」
「「………………」」
「これは真面目な話だけど、ぼくは天使たちは、宇宙人の可能性も考える」
「う、宇宙人?」
「うん」
真面目に話す塩ケ崎さんの口にソースがついていたため、谷口さんがそっとティッシュで拭っていた。
「そう思う根拠は、ぼくたちテスト参加者以外の記憶操作が万全過ぎること。親や先生だけならともかく、警察などの公的機関にもそれが適用されている。この規模の記憶操作は、今の人類の技術力じゃ不可能に近い」
「………………」
「それに、この頭の上にある点数のホログラム技術も凄いし、ミノタウロスほどの大きな怪物を操れるのも凄い。この辺りも、技術力の高さが伺える。少なくとも、普通の人間ができる範疇を超えていると思う」
「……なる、ほど。俺たち地球人を超えた、高度な文明を持つ宇宙人ってことか」
俺は彼女の話を聴きながら、改めて頭の上の点数を見つめた。
「……あの、私、宇宙人もそうですけど、本物の天使のパターンもあり得るんじゃないかって思ってます」
さらに岡本さんが、新しい意見を呈してきた。
「本当に神様とか天使がいるかは分かりませんけど、もしそういう……超常的な者がいて、私たちにテストを課しているのだとしたら、どうでしょう?」
彼女の話を聞いた谷口が、「面白い仮説ね」と頷いた。
「実際に神話には、神が人を選別する話も時折出てくるわ。有名なノアの方舟もそれに近いと思うの」
「すまん谷口、ノアの方舟ってどんな話だったっけ?」
「ノアという男に、神がお告げを下すのよ。『大雨を降らせるから気を付けろ』って。ノアはそれを信じて、みんなが助かるよう大きな方舟を作ったわ。もちろん、それを信じない人もいて、ノアを馬鹿にしたりしたけど、本当に大雨が降り注いで、方舟に乗れた人以外はみんな死んだ……という話ね」
「おお、確かに言われてみると、よい子テストにありそうな展開だな」
「そうでしょ?ノアの言葉を信じて、方舟に乗れた人だけが生き残る……。神の大規模な選別の思想みたいなものが感じられるのよ」
塩ケ崎さんは最後のハンバーグを口に入れて「うん、興味深いね」と言った。
「そこまで聞くと、宇宙人説より、本物の天使説の方が可能性が高そうだ。特によい子テストから感じる選別思想と神話の話には、共通点を感じるな」
「いやーでもよ~、ほんとにそんなことあり得んのか?神様だの天使だのって、ちょっとスピリチュアル過ぎじゃね?」
「カイト、今は何でもあり得ると思った方がいい。よい子テストそのものが、本来あり得ないはずのものだから」
「うー、まあ確かにな~」
塩ケ崎さん、本当にこういう場面では切れ者だな。固定観念を持たないし、自分の意見に固執しない。もっと有力な説があったら、すぐそっちに頭を切り替えられる柔軟さもある。
「………………」
俺は目の前にある空になった皿を、ぼんやりと見つめた。
次の実力テストも、またいつか開催される。どんなテストになるかは分からないが……ここにいる六人が、みんな無事に最後まで生き残れるよう、最善を尽くしたい。
この六人なら大丈夫……という確信は、正直持てない。現実として、何が起きるか分からないからだ。
でも、最後の最後まで、俺はみんなのために考え抜こう。あんなテストなんかに、負けてたまるかよ。
「藤山?」
その時、俺は谷口から顔を覗き込まれていた。
「どうしたのよ?大丈夫?」
「………………」
俺はみんなの顔を見渡してから、こう告げた。
「……みんなで、また遊ぼうな」
「「………………」」
俺の言葉の意図を受け取った五人は、それぞれに答えをくれた。
「ったりめーよ。こんなとこで終われっかよ」
「そうだね。僕も、またみんなと遊びたいな」
「ええ、私も約束するわ」
「わ、私も……またこうして、みなさんと集まりたいです」
「ぼく、今度は遊園地に行きたい。きっとみんなで、一緒に行くんだ」
その答えを聞いて、俺はなんだか泣きそうになった。
夕暮れの赤い光が、窓の外から差し込んでいた。