よい子テスト~悪い子は死んでください~   作:崖の上のジェントルメン

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6.準備

 

 

……何人も死んでいるはずなのに、淡々と日常が続いていく。

 

死をかけたテストと日常が、同時並行で行われている。

 

それは、このテストが狂っているようにも感じるし、日常もまた狂っているように感じた。

 

 

 

「……ふーむ」

 

2026年10月20日、火曜日。午後九時頃。

 

俺は部屋に隠り、シャーペンを持ち、ノートとにらめっこしていた。

 

そのノートには、俺がよい子テストで気がついたことを書き記している。

 

そしてその箇条書きにしていたものを整理して、LINEグループに送っていた。

 

(……この数日で分かったのは、減点はされても、加点は全くされないってことだ)

 

よい子テストには、大きく分けて二種類ある。

 

ひとつは、日間テスト。これは俺たちの日常を監視し、よい子かどうかを見極めている。しかも、学校だけでなく、24時間ずっと採点され続けているようだ。

 

噂によると、家の中で暴言を吐いたやつの点数が引かれたらしい。テスト期間中は、いつなん時も見られていることを意識しないといけない。

 

もうひとつは、実力テスト。これは天使側からルールに基づいたテストをクリアできるかどうかというもの。これは不定期で実施されるものらしい。

 

(二回目の実力テストは、また明日ある……。気を引き締めないとな)

 

自然と、シャーペンを握り締める力が強くなる。

 

この二種類のよい子テストの内、日間テストの期間は全く加点されない。

 

たとえば、道端のゴミを拾おうが、迷ってる人の道案内をしても、点数は増えない。

 

しかし、実力テストだけは、クリアすると加点されるようになっている。もちろん、それ相応のリスクがあるのだが……。

 

(俺は前回のトゥルークリアで8点のアドバンテージがある。だが、それがいつまで通用するかわからない。このテストで生き残るためには、なんとしても実力テストでクリアしなきゃいけないんだ……)

 

俺はノートの真ん中に「実力テスト」と書き、それをシャーペンで丸く囲った。

 

第二回実力テストの、前日のことだった。

 

 

 

 

 

……2026年10月21日、水曜日。午前10時頃。俺たちはいつものように、授業を受けていた。

 

「ヴェルサイユ条約はテストに出るから、覚えとけよ~」

 

相変わらず、先生は平常心で授業を進めていた。

 

俺たち生徒は今日もまた、減点されないように、必死になって授業を聞いていた。ノートへのメモも蛍光ペンで目が痛くなるくらいに書き込み、真面目ぶりを演出していた。

 

「………………」

 

しかし、今日はまた一段と、クラスの空気が重かった。

 

たぶんみんなの頭の中は、実力テストのことでいっぱいなんだ。

 

何時から開催されるかもわからないし、どんなテストなのかもわからない。

 

俺たちは鉛のように重い気持ちを腹の奥に沈めながら、実力テスト開催を待っていた。

 

 

ガララッ

 

 

「!」

 

その時、授業の途中だけど、天使が教室へ入ってきた。

 

それは、右側の羽が欠けている天使だった。前回の天使とは顔つきも違う。いろんな個体の天使がいるのかも知れない。

 

『これより、実力テストを開催します』

 

「………………」

 

俺たちは手に持っていたシャーペンを、そっとノートに置いた。

 

そして、クラスメイトみんなで、目配せをした。

 

『二年一組のみなさま、一度グラウンドへ集合してください』

 

そうして、天使の言われるがままに、俺たちは席を立った。

 

先生からの呑気な「頑張れよ~」というエールを背中に受けながら、俺たちは教室の外へ出ていった。

 

 

 

 

 

『……今回のテストは、この二年一組のみなさまで行っていただきます』

 

グラウンドに集まった俺たちに向かって、天使が説明を始めた。

 

『今から私が名前を読み上げますので、呼ばれた者は前へ出てきてください』

 

天使は俺たち二年一組のメンバーを見ながら、一人一人名前を呼んでいった。

 

『甲斐 寛人 様』

 

「は、はい」

 

『児玉 美幸 様』

 

「はい」

 

『西田 隆平 様』

 

「はい」

 

呼ばれた人たちは、みんな天使の横にずらりと並んでいく。その中には、直樹の姿もあった。

 

『はい、以上になります』

 

最終的には、天使の隣には十四人の男女が集められていた。

 

『男性七名と女性七名の、計十四名のみなさま。あなた方は、生け贄組です』

 

「い、生け贄?」

 

『この校舎のどこかに、あなた方は隔離されて、出られなくなります』

 

クラスメイトたちが、物騒な言葉にざわついた。

 

『そして、呼ばれなかった者たちは、テセウス組です』

 

「テセウス?」

 

俺がそう聞き返すと、天使は説明を続けた。

 

『テセウス組は、どこかに隔離されている生け贄組を制限時間内に助け出すこと。これが、今回のテストの内容になります』

 

「………………」

 

『また、今回のテストには、タブレット端末を一台ずつ支給します。それは、生け贄組とテセウス組を繋ぐ、唯一の通信機器です』

 

「唯一の通信?」

 

『このタブレット端末以外での通信を行った場合は、ルール違反として減点とします』

 

「………………」

 

『生け贄組は、自分達がどこにいるのかを通信し、テセウス組へ伝えます。そしてテセウス組は、それを受けて救出に向かうのです』

 

……ここまで聞いた限りでは、正直、大したことなさそうな内容だった。

 

だって、生け贄組の人たちが正確に場所を教えてくれれば、俺たちテセウス組はあっさりたどり着けるわけだし。

 

(もっとも、こんな単純に終わるわけはないだろうけどな。きっと、何か裏があるはずだ)

 

俺は口を閉じながら、その中で歯を噛み締めていた。

 

『それでは、生け贄組とテセウス役の中で、代表の方がタブレット端末を受け取ってください』

 

天使にそう促されて、テセウス組は俺が、生け贄組は直樹がそれぞれ端末を受け取った。

 

『それでは、11時よりテストを開始します。生け贄組のみなさま、校舎の中へお入りください。テセウス組の者たちは、テスト開始の合図があるまで、校舎へは入らないでください』

 

そうして、直樹たちは天使に連れられて、校舎へと向かった。

 

「おい直樹ー!絶対助けに行くからなー!」

 

「待ってろよー!」

 

俺と海斗がそう叫ぶと、直樹はにこっと笑って、俺たちに手を振った。

 

「……直樹が向こうに行っちまったのは、心細いな。三人で固まってたかったんだけどよ」

 

海斗が苦々しい顔でそう呟いた。

 

「いや、そんなことねえぜ海斗。むしろ、これは好都合だ」

 

「あ?なんでだ?」

 

「俺たち三人での連携が取りやすいからだよ。冷静な直樹なら、きっと的確に指示をくれる。あっち側に直樹が行ってくれたのは、だいぶ心強いかも知れないぜ?」

 

「なるほど、確かにな」

 

「さてと、俺はタブレット端末を使ってみるか。今のうちに操作に慣れておいた方がいい」

 

そのタブレットを起動してみると、デスクトップには三つのアプリがあった。

 

ひとつは、制限時間が分かるデジタル時計アプリ。今回の制限時間は一時間らしい。

 

もうひとつは、電話アプリ。これはきっと生け贄役との連絡に使うものだな。少し触ってみたが、音声通話のみで、ビデオ通話はできないようになっている。

 

そして最後のひとつは、メモ帳だった。そこには今回のテストに関する注意事項があった。

 

 

・通信機器は、支給されたタブレット端末のみで行うこと。

 

・生け贄組は、隔離された部屋から勝手に出てはならない。また、テセウス組も、生け贄組を救出するまでは、建物の外へ出てはならない。

 

・以上を破れば、減点される。

 

 

……むーん、前回のリンゴよりも、結構ルールが複雑だな。ルールが書いてあるメモ帳があるのは、ありがたいな。

 

「おっ?」

 

そのメモ帳の下部には、なんと今回のテストのクリア条件までもが記載されていた。

 

 

・ノーマルクリア

一時間以内に、生け贄組を全員グラウンドへ連れ出す。成功報酬は+3点。

 

・トゥルークリア

一時間以内に、生け贄組、テセウス組ともに一人も死なず、生け贄組を全員グラウンドへ連れ出す。成功報酬は+7点。

 

 

(ノ、ノーマルクリアだけじゃなくて、トゥルークリアの条件まで書いてある?)

 

前回のリンゴの時はトゥルークリアは伏せられていたが、今回はもう事前に開示されている……。

 

テストの内容によって、伏せるかどうかを決めているのか?

 

「!」

 

それはタブレットをスクロールしていく中で、ひとつ……凍りつく情報を目にしてしまった。

 

 

・クリア未達成

一時間を過ぎても、生け贄組を一人でもグラウンドへ連れ出せなかった場合。

ペナルティは、生け贄組の全員が死ぬ。

 

 

なお、テセウス組は減点等なし。

 

 

「………………」

 

減点が、ない?

 

てことは、俺たちがこのテストに挑まなくても、生け贄組が死ぬだけで、俺たちには何も痛手がない?

 

(……なん、か、不気味だ)

 

普通なら、どっちにもペナルティを課して然るべきなのに、敢えて俺たちの方にはお咎めがない……。

 

これが逆に、俺たちの何かを試されているような気がしてならなかった。

 

「どうした?優太郎」

 

海斗から声をかけられて、ハッと我に返った。

 

「あ、ああ。すまん、大丈夫だ」

 

俺はふうと息を吐いて、海斗にタブレット端末を渡した。

 

「この中に、テストのクリア条件が書いてある。海斗も見ておいてくれ」

 

「おお、分かった」

 

「見終わったら、他のテセウス組の人たちにもタブレットを回してくれ。みんなに共有しておきたい」

 

俺はそれだけを海斗に告げてから、屈伸をしたり腕を回したりと、柔軟体操を始めた。

 

やっぱり、ガチガチに緊張してるな。ちゃんとほぐしておかないと。

 

「ねえ」

 

ふと見ると、隣に谷口が立っていた。

 

「おお、谷口。お前っていつもいきなりいるよな」

 

「……私、今回も生き残れると思う?」

 

「え?」

 

「………………」

 

谷口は、いつになく強張った顔をしていた。

 

瞳には、不安や恐怖の混じった色がうつされていた。

 

「……さあな、そんなのわかんねえよ。死にたくないなら、頑張るしかない」

 

「………………」

 

「まあとりあえず、一緒に頑張ろうぜ。やれることをやるだけだ」

 

「……ええ、そうね」

 

「………………」

 

「……ありがと」

 

「え?」

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

俺が聞き返そうと思った瞬間に、チャイムが鳴り響いた。

 

『11時になりました。これより、第二回実力テストを始めます』

 

天使のアナウンスを受けて、俺たちテセウス組は校舎の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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