よい子テスト~悪い子は死んでください~ 作:崖の上のジェントルメン
「ミノタウロスが……二体!?」
俺はみんなと合流し、ゲームのシステムについて説明した。
「そうだ、さっき理科室前でミノタウロスと鉢合わせしちまったのも、そのせいだ」
「しょ、証拠は?二体いるって証拠はあるのかよ?」
吉田くんは、未だに俺への疑心暗鬼を続けていた。腹が据わってきた俺は、「そんなものない」と切り捨てた。
「だが、直樹からの情報と、実際に俺たちが目にしたミノタウロスの情報を照らし合わせると、もうそれしか考えられないんだよ」
「で、でも、その浅倉が本物かどうか分からないだろ!?信用できるのか!?」
「いいかい、吉田くん。今連絡が取れているのが、本当の直樹かどうかは分からなくていいんだよ」
「!」
「大切なのは、直樹らしき人物からの情報が、正しいかどうかだ。そして今、それが正しいことを確認した」
「………………」
「相手が誰であろうと関係ない。情報をくれるなら、それを活用する。今はそれでいい」
「………………」
「あ、あの、藤山くん」
俺と吉田くんの間を割って、浜田さんという女の子が問いかけてきた。
「今、ミノタウロスが二体いることが分かってるけど、もしかしたら三体目、四体目も出てくるかも知れないよね……?」
「そうだな、可能性としてはあり得る」
「そ、そうなったら、どうすれば……」
「そこまで考えるのは止めよう。“たられば”を考えすぎたら、時間が足りなくなる。今はまず、この二体をどうするかだ」
「藤山くん……」
「三体目が出た時のことは、出た後で考えよう」
浜田さんはひとまず納得してくれたようで、静かに頷いていた。
(……制限時間は、残り17分。もう後がない)
考えろ、この二体をどうすればかいくぐれる?
海斗のようにもう一体を誰かが引き付けて、その間に理科室の生け贄組を解放するのが、やっぱり現実的か?
だが、問題はその帰りだ。生け贄組14人と解放に向かったテセウス組15人がぞろぞろ出てきたら、さすがのミノタウロスも囮よりそっちに興味を惹かれるかもしれない。
(上手いこと人数を分散させるしかないか……?)
「ねえ、藤山」
俺へ声をかけてきたのは、谷口だった。
「ひとつ提案があるんだけど、いいかしら?」
「提案?」
「ミノタウロスは、二体いる。こいつらを無理やり喧嘩させない?」
「!」
「ああいう怪物って、基本的に気性が荒いから、獲物を奪い合う気がするの。勝手なイメージだし、喧嘩してくれる保証はないけれど」
「………………」
「でも、もし上手くいけば、私たちへの注意も削がれるし、二体を1ヵ所に集められる」
「……なるほど」
確かに、今考えられるものの中で、最善の策だろう。谷口の言うように、たとえ喧嘩しなかったとしても、二体を1ヵ所へ集められたら、みんなも逃げやすくなる。
鉢合わせるまでがめちゃくちゃ危険だろうが、他に手も思い付かない。なら、迷ってる暇はないな。
「よし、谷口の案でいこう。ミノタウロス同士をぶつけるんだ」
谷口はこくりと、首を縦に振った。
「俺がミノタウロスを一階の奥の部屋へ誘導するから、その間に谷口と他のみんなは理科室へ行って、生け贄組を解放してくれ」
「分かったわ」
「みんなで逃げる時は、降りる階段を二手に分けてくれ。みんなが1ヵ所に固まり過ぎると、万が一ミノタウロスに見つかったら、一網打尽にされる」
「なるほど、了解」
俺は彼女の回答を受け止めてから、直樹へ連絡した。
「直樹、今二階のミノタウロスはどこにいる?」
『まだ階段付近をうろちょろしてるよ』
「よし、分かった」
そこまで確認した俺は、タブレット端末を谷口へ渡した。
「谷口」
「なに?」
「……ありがとな」
「え?」
「お前がいてくれて、助かったよ」
「………………」
「後は、頼んだぜ」
そうして、俺はみんなの元から離れて、ミノタウロスへと向かっていった。
「……ヴウウウ、ググ、グゥ……」
唸り声をあげながら、ミノタウロスは俺たちのことを探していた。
俺はその様子を、陰からこっそりと覗いていた。
(しっかし、改めて見ると、やっぱでかいな……)
頭が天井までつくほど高い上に、ボディービルダーも顔負けの筋肉が盛り上がってる。足の太さなんて、まるで丸太みたいじゃないか。
(海斗はこんなでかいのと、今も鬼ごっこしてるんだよな……。あいつ、やっぱすげえや)
俺は何度も深呼吸をして、自分自身に心の中で言い聞かせた。
(大丈夫だ、できる。もう何回もシミュレーションした。一階に降りて海斗と合流して、二体を出入り口から一番遠い部屋に誘き寄せる……。よし、いける。やれる。俺ならやれる!やれる!やれる!)
そして、最後の気合い入れに、ぱんっ!と両頬を叩いた。
「っし!やるか!」
俺はついに意を決して、ミノタウロスの前へ躍り出た。
「やーい!鬼さんこちら~!」
ミノタウロスはすぐに俺に気がつき、「ヴオオオオオ!」と雄叫びをあげて追いかけてきた。
俺は即座に一階へ続く階段へと向かい、下へ降りていく。
「オオオ!グオッ!!ウオオオオッ!!」
俺のすぐ後ろで、ミノタウロスが迫ってくる。
「おいおい!ミノタウロスさん遅いなあ!そんなんで俺に追い付けんのかい!?」
俺は時々、後ろを振り返りながらミノタウロスを煽った。
この、誘導するっていうのがなかなか難しい。遅かったら当然危ないし、早く逃げ切り過ぎても意味がない。ちょうどいい距離を保つという、この塩梅が難しくさせている。
(へへっ、めちゃくちゃ怖いはずのに、口角があがってくる。変なテンションになってんなこりゃ)
俺は一階まで降りた後、長く続く廊下を真っ直ぐに走っていく。
「!」
すると、向こう側からこちらへ走ってくる人影が見えた。
それは、海斗だった。全身汗だくで、上着はもう捨てたらしく、インナーシャツの姿になっていた。
「海斗!無事だったか!」
「優太郎!?なんでお前ここ……は!?後ろのミノタウロスはなんだ!?」
「ははは!わりーわりー!実はミノタウロスって二体いてよ~!」
絶望的な状況の中で、俺たちは普段の雑談みたいに会話していた。
こういう極限状態でも、普段の癖や話し方がぽろっと出てしまうものなんだろう。
「ウオオオオ!!」
海斗の後ろからも、ミノタウロスが現れた。
そして当然、海斗目掛けて走ってくる。
「海斗!そこの角を左だ!」
「よし!」
俺たちは同じタイミングで、廊下の角を曲がった。
「グオッ!ウオッ!」
「ヴオオオオオ!!」
そしてもちろん、ミノタウロスたちも俺たちを追いかけて角を曲がった。
これで、逃げる二人と追いかける二体の構図が出来上がった。
「で、どうするんだ優太郎!?ここに来たってことは、なんか考えがあるんだろ!?」
「ああ!この二体を入口から一番奥の部屋に誘導して、互いに戦わせる!そうすりゃ、俺たちの注意も削がれるし、生け贄組たちも逃げやすくなる!」
「なるほど、そりゃいい!」
「すまねえけど、あともうちょい走ってくれ!いけるか海斗!?」
「へっ、部活ではこれの倍走ってるんでね!物足りねえなと思ってたんだ!」
「そう言うと思ったぜ!」
そうして俺たちは、廊下の奥に向かって、目一杯走っていった。
……私、谷口 さやかは、藤山からタブレットを受け取り、テセウス組のメンバーを引き連れて理科室へと向かった。
ガララッ
私が理科室の扉を開けると、中にいた者たちが一斉にこちらへ目をやった。
「テセウス組よ、助けに来たわ」
そう言うや否や、生け贄組のメンバーは「わあっ!」と歓喜の声をあげた。
「よかったー!来なかったらどうしようと思って、ずっと怖かったのー!」
「あさりちゃん!無事でよかった!」
生け贄組の人たちは、私たちテセウス組の者たちへ駆け寄り、お互いの安否を確認していた。
「大暉ー!」
ふと見ると、例の吉田の前には、三人の男子が群がっていた。
「よ、よお、マサキ、ユウダイ、サトシも……」
吉田は複雑な笑顔を浮かべながら、それぞれの名前を呼んだ。
「大暉ならよ!来てくれると思ってたぜ!」
「ああ!マジありがとな!」
友人たちから礼を述べられて、吉田は顔をひきつらせた。
「……あ、当たり前だろ?来るに……決まってるじゃないか」
吉田はそう言って笑った。笑いながら泣いた。
「谷口さん」
私へ声をかけてきたのは、浅倉 直樹だった。
彼へはここに来る前に、藤山がミノタウロス二体を一階に集めていることを説明している。
「これから、二手に分かれて校舎を出るんだね?」
「ええ」
「分かった。それじゃあ、君がテセウス組を、僕が生け贄組を連れていこう。タブレットの通信はいつでもできるようにしておいて」
「分かったわ」
そうして、私たちは二手に分かれて階段を降りた。
「浅倉、聞こえるかしら?」
『うん、大丈夫だよ』
「ミノタウロスは、今どこにいる?」
『少なくとも、タブレットが感知できる一体は、一階の奥の部屋にいる』
「そう、よかった。それから……」
『……?なに?』
「……藤山は、大丈夫かしら?」
『ああ、優太郎くんと海斗くんは、二人とも大丈夫だよ。ミノタウロスから逃げつつ、部屋の奥にいるよう留めてくれている。優太郎くんたちが二人一緒にいることを考えると、タブレットが感知できないミノタウロスも、一緒に一階の奥にいるようだ』
その答えを聞いて、私はほっと胸を撫で下ろした。
「………………」
ミノタウロスが付近にいないと分かってはいても、一階へ足を下ろした時は、辺りを見渡して慎重に歩いた。
そして音を立てず、かつ足早に校舎を出て、グラウンドに集まった。
そこには、もう生け贄組の者たちが集まっていた。
「よっしゃーーー!助かったーーーー!」
生け贄組やテセウス組の人たちは、互いにハグしたり手を繋いだりして、生還を喜びあった。
「………………」
ただ、その中で一人、浅倉 直樹だけは顔をしかめていた。
「どうしたの?浅倉」
「……優太郎くんたちの様子が、変なんだ」
「え?」
「さっきから、一歩も動いていない。あんなに走り回ってたのに」
「!」
「もしかすると……何か、あったのかもしれない」
「………………」
私はそれを聞いた瞬間に、くるりと踵を返して、校舎の中に戻った。
「谷口さん!」
浅倉の声が背後から聞こえた。
タブレットの制限時間は、残り3分を切っていた。