夢追うボーイ   作:刺客G

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プロローグ 快速ボーイ

 自分がもう一度生きているというのを自覚したのは、この世界に生まれ落ちてから3年を経て。

 だんだんと意識が芽生えだしてからのことだった。

 まさか自分に前世の記憶があるとは思えなかったし、それもぼんやりしたものだけなのでなおさら自分が()()()()()だったとわかるのには、何分間かの放心が必要だった。

 でも自然と自分の記憶だと自覚できるようになっているのを鑑みると、馴染みって恐ろしいと感じさせられる。

 

 だけれど、今は今で前世など関係ない。

 そんなものばかりに縛られてはいけないと本能が囁いてくれた。むしろ自由に走ってほしいと。

 自分の種族の本能が恐らくそうさせたのだろう。幼少期から走りまくって、よく両親や周囲に苦笑いされたが。

 けれども今のボクには、自由に走ることがなによりの楽しみだ。

 そんな走りたがりやをどこかへ放ちたかったのか、両親から小学生になると同時に近くのクラブに入れられた。

 そこでは自由に走れるし、勝ち負けもある。ボクが競走の沼に沈むのは一瞬のようだった。

 

 走っていると楽しい。嫌だった出来事や憂鬱とした気分がふっと吹き飛んでいくようだ。

 小学校を卒業し、自宅近くの中学に上がってもボクは変わらない。

 いや――()()()という種族にとっての宿命にも近かったのだろう。

 一年生時点から競走に関しては敵なしで、天狗になっていた時期もあったが、あまりにも黒歴史すぎて記憶から消し飛ばしている。

 三年生の時に()()()()()()()()()()()()()()()()が入学してきて、競走するようになってからは鼻をへし折られたり、逆にへし折ったりしてやったが。

 

 ――折り畳まれた制服を手に持つ。

 今、こうして自分というウマ娘がターフ(舞台)に立てるかもしれないのは、ある意味あのライオン丸のおかげなのかもしれない。ボクが勝手につけたあだ名だが。本人はその呼び方を若干嫌がっていたが。

 思い出に浸っていると、自然と全身が震えてくる。

 

 

「……うん、大丈夫。きっとイケる」

 

 

 自分に言い聞かせる。今までの思い出が必ず力になると。

 これでも小中学生時代ではライオン丸以外にはほぼ負けなしだった。そのライオン丸の鼻も何度かへし折ってやってる。だから、うん、大丈夫。

 

 深く息を吸って、頬をバシンと叩く。

 これから競う相手もウマ娘。自分もウマ娘。ならばもう対等だ。

 だから絶対、絶対に。積み重ねの差で勝つしかない。それには絶対自信がある。

 

 今夜を共にする一枚の紙切れを、懐から取り出す。

 

 

『お前なら必ずやれる! 勝てる! 誰より速いボーイ!』

 

 

 中学校卒業と同時に仲間のウマ娘たちから受け取った手紙。

 自分はウマ娘なんだけど、まあボーイは名前の一部だから気にしない。

 手紙を裏返し、左端の部分に目をやる。

 

 

『早く勝ってくれ。お前は誰より速いボーイなんだろう? ()()()()()()()()よ』

 

「あのライオン丸さぁ……」

 

 

 でもなんだか、自然と力が湧いてくる。胸の奥がじんわりと熱くなる。

 うん、勝ってくる。勝ってきてまた鼻をへし折ってやるからなライオン丸。

 

 手紙をポケットに入れて、消灯し布団に入る。

 いよいよだ。明日に府中へ向かい、進学先の入学式に臨む。

 待ってろ、()()()()()()。待ってろ、そこのウマ娘たち。

 走って競って勝ってやる。

 トウショウボーイの名を必ず、ターフに刻んでやる。

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