前作?失踪して削除したので改めて短編で
敗因は息抜きといいながら思考で指が止まる事と、無駄に壮大な流れでした。

登場人物はオリ主とアリウスです。

ご都合主義ご注意ください。1万文字で終わらせてやる。


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おでん模様

 ここは銃弾と青春が飛び交う世界、ブルーアーカイブ。

 

 涙あり、笑いあり、涙ありな、ヨースター社が贈る叡智と知育と超スーパー高性能AIが詰まっている世界だ。

 

 そんなファンシーな世界で俺は生を受けた。

 もちろん、外見ギリ中学生女児、異世界パワーを持っている普通のキヴォトス人だ。常識人枠でやらせてもらっています。

 

 俺のブルーアーカイブは、百鬼夜行から始まった。

 

 かと言って始まりは百鬼夜行からではなかった。遮る物もない満開の夜空が見える荒野がこの世界に生まれて初めて見たものだった。

 

 お金もねぇ、学生証もねぇ。無職無資産ぐーるぐる。当然、人脈なんてものも、知り合いすらいないので放浪者になっていた。原作のネームドキャラコンプリート旅というやつだ。一部絶対無理だろってキャラいるが、本当にコンプリートを目指している訳ではないのでそれでいいのだ。

 

 そんなある日に、百鬼夜行で見つけた。

 

 飛び入り参加のイベントスタッフなる物を見つけたのだ。

 

 もうね、やるしかないって思った。

 

 結果、前世でイベントスタッフのアルバイトを経験していた俺は、先輩さんに褒められた。

 

 そこから縁あってよく混ぜてもらって、スマホないって言ったら古いやつをタダでくれて、連絡先もくれて、晴れてお仕事とお給料をゲットしたのだった。

 

 偶に他の学園へ出稼ぎに行く程度の関係性になった。晴れてフリーターになれたのだ。やったね。無職卒業だ。

 

 順調だった。偶の休みには電車に乗ってネームドキャラコンプリートとキヴォトス探検を進めていた。未だに住居ないけど。

 

 いや、家って金かかるやん。それに家って安置じゃないねん。俺が最初に選んだ安価なアパートは住民同士の距離感近くて高確率でいざこざが起こったねん。仲が悪い訳ではない。でも安全ではないねん。床下から弾が飛んでくるんねん。窓ガラス直しても直してもいつの間にか壊れてるねん。偶に扉の鍵ごと壊して中に侵入してくるねん。

 

 路上でも場所さえ選べば安全だ。しかも百鬼夜行だとみんな優しいのでそれなりの頻度で施しが貰えたりする。最高だ。ありがとうございます。

 

 

 ちょっとずれた。話は戻る。

 

 それは、キヴォトス探索の途中で見つけた。

 

 ソフトクリーム片手に、町中を歩いていた。別に気温は高くないが、黒糖抹茶という文字を見つけてしまったので買うしかなかった。味もその名に違わぬうまさ。まさにうまし。

 

 ぺろぺろと練り歩く。そうしていると、見つけた。

 

 日も高く誰かが遊んでいそうだが、誰もいない公園のベンチの上で眠るその姿が。

 

「大丈夫ですか?」

 

 ネームドキャラだと多少の下心をもちながらも、正真正銘良心から声をかけた。だけど返事はなかった。

 

「大丈夫ですか?」

 

 2度、3度と繰り返していくうちに、やっと返ってくる。

 

「……うるさい」

 

アァーゲームで聞いたことがない音!

 

 現在進行形の未所持に加え、夏アリウスからもハブられた彼女は未だに我が手中に来てくれない。まったく警戒心が高い子なんだから。

 

 ミサキがそこには居た。

 

 その声は随分と気怠そうな声だった。あれ?俺の感が外れたのかと彼は悲しんだ。そして睡眠邪魔してごめんなさいと思った。

 

 ミサキは体を起こし、椅子から立ち上がった。

 

 こんなんだから、アロナ様が斡旋してくれないんだよ。そう、勝手にダメージを食らっていると、彼の脳みそに違和感が浮かんできた。

 

 なんだと、意識を視界に戻す。違和感の正体はすぐにわかった。

 

 目の前の存在の2歩目が踏み出されることはなかったのだ。

 

 地面に倒れる。

 

 それを理解した瞬間、腕を伸ばし抱きかかえる。体重が腕にかけられ、自立しようとする意志は見えなかった。

 

「大丈夫か?」

 

 やっぱり体調悪い感じじゃないか!ほら、我慢してると怪我して大ごとになるぞ!しっかり報連相してくれないと困るのよ!悪くなってから言われても困るのよ!!

 

 巧みなフェイントで焦りが引き出された彼は、バイト中ではないにも関わらずバイト中の心情がでてきてしまった。そんな中、彼女の声が届く。

 

「別にお腹が空いただけ」

 

 そう言うと、彼の腕を押し返し、自分の脚で立ち上がった。が、そのまま倒れるようにベンチに座り込んで行った。その様子を目の前で見ていた彼は言う。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 本人がそう言うのならそれ以上はない。ならば、謝罪ついでにその願い叶えてしんぜようと思うのが今の彼だった。

 

 走る。恐らく過去一番の全力疾走で近くのコンビニへと走り込んで行った。

 

 流れるようにカゴを手に取る。

 何が良くて好きなのかわからないが、腹を満たすならば弁当だ。適当に2つ手に取る。相手は推しだ。好みのモノを食べさせてやりたいというのが俺だった。麺、グラタン、おにぎりを追加で入れる。

 

 そこで彼は考えた。相手はお腹が空いている。それならば軽食が最適なのではないだろか。菓子パンサンドイッチを入れる。

 

 そこで思いついた。あのアリウスだぞ。倒れるか貧血起こすほどの腹空きだぞ。もっと軽いものを。

 栄養補給食品に目に、ついたゼリーを雪崩こませる。そして飲み物を色々と入れる。レジに向かう途中、ヤクルンを見つけたのであるだけ手に掴めるだけ掴み入れた。

 

 レジの会計中。

 

 彼は更に思いついた。こんなに食べられる訳ないだろ、と。だけど今更戻すのはめんどくさくい。さてさてどうしたものかと、どんどん増えている金額を眺めている最中、彼は思いついた。

 

 残りは自分のご飯にしてしまえば良いのだ。

 

 これで解決。

 

 彼はぎっちぎちのレジ袋片手を腹に抱えるようにして走り出す。元居た場所へと全力疾走だった。

 

 公園に戻ると、ミサキは椅子に寝転がっていた。一瞬、逃げられていたらどうしようと悩んでいたが、杞憂だったようだ。

 

 バサリと、椅子の空いているスペースにレジ袋を置く。

 

 その音に反応し、ミサキは目元を覆っていた腕を避けた。それに合わせて言う。

 

「ほら買ってきたぞ。食いな」

 

「……いらない」

 

「なら捨てたら、俺はもう行くから」

 

 そう言うと、彼は公園の外へと走り出した。

 

 警戒心が強い猫は人前でご飯は食べない。俺は猫様を理解しているのだ。

 

 茂みの中から観察したい気がびんびんするが我慢して、彼は颯爽と去る。妄想だけで充分なのだ。随分と豪華な出費でもあったが、納得のいく出費だった。

 

 今日のキヴォトス探索はここまでにして帰るとしよう。良いものは見れた。さて、頑張って働くか。

 彼はスマホを取り出す。新たな仕事を求め連絡した。やはり貯蓄は一定以上ないと安心できない。

 

 

 しばらくたった。

 その日はトリニティへの出張だった。なんとも要望が多くめんどくさかったが、早めに終わったし給料が良かったので全部オッケーです。本来であれば、そのまま仕事仲間と百鬼夜行に戻る予定だったのだが、遠慮した。一人野宿して、キヴォトス探索へと旅に出たのだった。

 

 せっかくトリニティにまで来たのだ。やるしかなかった。

 

 街並みを見て、ご当地な物食べて、うぉーー!正義実行委員会!イチカ!イチカ!してたらいつの間にか1週間もたっていた。やはり見えるところに推しが居るのはやばかった。アイドルを追っかけするために全国回るオタクの気持ちがよくわかった一週間だった。あ、ちゃんと双眼鏡片手に距離をとっていたので大丈夫です。迷惑かけるのダメ、絶対。

 

 ちょっと無理して10日間の休みを取ったというのに、もう7割も過ぎてしまった。いけない、本番はこっちじゃなかったというのに。

 

 彼は早歩きをする。トリニティを中心に円形に回っていく。目指すはアリウス跡地。聖地巡礼というやつだ。さぁ3日で見つけられるかわからないが探す。適当に廃墟回って行ったら見つかるだろとこの時は思っていた。

 

 結論、見つけられなかった。悲しい。2日間、朝から夜まで頑張ったのに成果がなかった。意地になってこのまま10日目の夜が来るまで探しても良かったが、明日はお仕事なので少なくとも一夜はぐっすりと眠りたい。なのでもう帰る。

 

 次また来ればいい。

 

 そう思いながら、そして少し迷いながらもトリニティへと帰る。

 やっぱり見慣れない場所で迷いかけたが、星座の位置を覚えているのでなんとかなった。この世界でこの生活スタイルだとめっちゃ役に立つ存在だ。

 

 廃墟を抜ければ、そこは橋だった。大きな溝を持つが小さな川が流れるその上の上にあった。風が強く、夜空が綺麗だった。またしても前世では見ることが出来なかったであろう景色だ。これだからキヴォトス探索はやめられない。

 

 意気揚々に長い橋を歩いていく。走る車はなく、ただ風のなびく音だけが聞こえてきた。

 

 そんな中、彼の視界には人が現れていた。遠くでも、今日は雲が少なく月明かりが強いおかげか、すぐにわかった。

 

 体のボディラインが白い上着に隠されている。だが、その夜空のような紺色の長い髪が、彼の頭に見覚えのある姿が浮かび上がってきた。

 

 近づけば近づくほど、その姿と目の前の姿が重なっていった。コンビニ袋を片手に歩くサオリだった。こんな場所でアリウスコンプリート率50%を超えるとは、いやはや人生何が起こるかわからないものですな。

 

 そのまま歩き続ける。別に面識があるという訳ではないので、当然だ。そのまま通行人として近づいていった。

 

 距離は1mかそこら、瞳孔は真っすぐ向けながら意識だけはずっとサオリの方へ向ける。これほど近づける機会など二度とないぞ。その意気でしっかりと瞼に焼き付けておく。

 だからこそ、すぐにわかった。サオリが立ち止まったことに。

 

 彼も反射的に立ち止まった。目と目が合う。少しの間を持って、サオリは言った。

 

「黒髪黒目の黒パーカー…」

 

「どちら様ですか?」

 

 一応、こちらは知っているが初対面ではある。確かにオール黒という珍しい組み合わせかもしれないが目立つような事をした記憶は無い。ニュースになるなんてもっての外だ。個人的に因縁をつけられることもない。アリウスに知られるような……ふむ?

 

「ミサキが世話になったようだ。」

 

「……誰ですか?」

 

 ミサキも同様、名を知るほどの関係にはなっていない。

 

「あぁ…、袋一杯の飯を誰かに与えなかったか?」

 

「えぇ、まぁ」

 

「それがミサキだ。」

 

「…そうですか。」

 

「今夜はおでんパーティだ。良かったら来ないか?」

 

「急に何ですか?」

 

「なぁに、ちょっと恩返しをしようと思っただけだ」

 

「恩返し?」

 

 そう問いかけるが、サオリは近づいて来る。肩に手を置く。そして後ろの方を向かせた。

 

「遠慮するな」

 

「え、いや」

 

 そっと背中を押す。それに合わせて彼も歩を進める。

 

「今夜は豪華だぞ」

 

「いや、だから」

 

「気にするな」

 

「…だから」

 

「気にするな」

 

 サオリはそう、力強く肩を押していった。推しの過剰摂取に脳をやられている彼は、言われるがままに連行されていった。強引に迫られるのも悪くない。

 

 

 

 場所は戻ってまた廃墟。この2日間で見たような、見た事がないような景色。その中の一つ壊れた建物にアリウスは居た。

 

 カセットコンロに土鍋を囲んでミサキ、ヒヨリ、アツコ。後者の2人は疑問の視線を彼とサオリに見せ、ミサキは微妙に見開いて彼を見ていた。

 

「さっちゃん、誰?」

 

 その問いに同意する様な視線を送りながらヒヨリはミサキの背中に隠れていた。

 

「ゼリーの人だ」

 

「ゼリー人…」

 

「そうなの?」

 

 アツコがミサキに視線を向ける。ミサキは頷いた。

 

「なるほど、ゼリーの人。」

 

 確かにゼリーも沢山買ったが、それほど印象強かったのだろうか。

 

「さ、座って座って。鍋完成してるよ」

 

 そう言いながら、鍋の蓋を取る。中はおでんだった。ミサキの座っている傍らにはおでんの素、具材が積まれているのが見えた。

 

「そうか」

 

 サオリは移動する。丁度、彼の対面に位置する場所に座り込んだ。

 

「遠慮するな」

 

 いつまでも立ち尽くしている状況を変えようとしたのだろうか。サオリがそう言った。それに合わせてアツコも言う。

 

「今日はね、さっちゃんの里帰り記念なんだ。いっぱいあるからいっぱい食べてって」

 

 拒絶を感じない。いきなり現れた野郎なのに、一人を除いて好意的な視線しかない。あまりの優しさに涙が出る。でも、

 

「気持ちだけ受け取っておくよ」

 

「締めに蕎麦もあるぞ」

 

 突然、サオリがそんなことを言い出した。疑問を浮かべながらも彼は言葉を続ける。

 

「……すまないが」

 

「うどんの方がよかったか?すまない、手に入れることができたのはこの蕎麦だけだった」

 

 どんな状況になれば蕎麦しか買えなくなるんだよ、ちょっと気になるじゃねぇか。

 

「本当に申し訳ないが、」

 

「ほら、こんにゃく美味しいよ」

 

 アツコがこんにゃくを箸で掴み、もう片方の手を添えながら近づいてくる。それはもうあーんでもするのではないかというほど近づけてくる。そのうちほっぺに攻撃してきそうだ。

 

「そ、そうですよ。美味しいですよ」

 

 ヒヨリが両手に箸を持ち、一本につきちくわを一本突き刺しながら近づいてきた。こちらの方は容赦なく頬の方にツンツンと突き刺された。熱かった。

 

 両手に花というやつか。

 

 そう脳内で惚けていると、彼は思いつく。

 

 いやまて、ここまで好感度が高い理由はなんだ。強いて言うなら一食奢っただけだぞ。それだけでこれだけのサービスがあるのだろうか。でもアリウスだぞ。何かしらの策略などある訳がない。それほどの価値が俺にはない。うーーん、わからない。

 

 わからないからこそ、決まっていることは容易に思いついた。彼は軽く首を横に振り、ちくわを避けながら言う。

 

「俺は味覚障害がある。楽しくお食事はできない。」

 

 これはガチ。食欲を失った代わりに、食がいらなくなったのだ。だから生きている。もしそうじゃなかったらキヴォトス生活開始一週間で餓死してると思うよ。これぞ異世界パワー。

 

「うわーん…こんなに美味しいおでんが食べられないなんて」

 

 そう泣きながらヒヨリはちくわを食べた。一口一本という驚異の口の大きさでもっきゅもっきゅ食べて行った。   

 そうして静かになっていた。ねぇ帰って良い?と彼は心の中で訴えながら、辺りを見渡すが反応がない。ただミサキとは目と目が合った。相変わらず感情が感じ取りにくい目をしている。な、なんだ?と視線を交わしていると辺りが動き出す。

 

 丁度、3本目が食べられていた時だった。アツコの視線が動き、その可愛らしいお口も動いたのは。

 

「ヒヨリ」

 

 その言葉には微妙に棘があった。反射的にヒヨリも言葉を濁らせる。

 

「な、何ですか?」

 

「鍋の中にちくわがないんだけど」

 

 ヒヨリが持つ割りばしの一本に突き刺さったちくわを見ながら言った。

 

 彼がチラっと視線を鍋の方に向けると、ちくわらしき円柱状の物質は確認できなかった。

 

 この場に緊張が走る。ぐつぐつとおでんが煮込まれる音と隙間風の鋭い音が聞こえていた。

 

 そんな中、一人だけ颯爽と動く。

 

「……えへ、パクッ」

 

「こら!私も食べたかったのに!」

 

 アツコがヒヨリに掴みかかる。だがヒヨリは日和らず言う。

 

「わらしのたまこあふぇるのふぇかんふぇんしてくふぁふぁいッッ!」

 

「いらない!いろんな種類食べたいの!」

 

 アツコがヒヨリを上下左右に激しく揺らす。だがヒヨリはもきゅもっきゅ食べ進めていく。このままだと本当に無くなってしまうだろう。どれだけ揺らされようとも鋼の精神で口だけは動かす。すると、菜箸を手に取り鍋をつついていたサオリが言う。

 

「落ち着け、おでんの具材はまだある」

 

 そう言うとおでんの素の袋を開け、ぽとぽとと鍋に具材を補充した。

 

「……さっちゃん早く」

 

 それを見ていたアツコは、ヒヨリを離し鍋に近づていく。その隙にヒヨリはごっくんと口の中を空にした。そしてアツコと同じように鍋に近づいていった。

 

 ジーっと待っていると、突然アツコが喋り出す。

 

「あれ?糸こんにゃくは?」

 

「糸こんにゃくはおでんの元にないから別途買っておいたはずなんだが」

 

 そう言いながらサオリが側にある具材のセットをよおく観察してみると確かその具材は無かった。ん?と3人して疑問符を浮かべていると、それは突然放たれる。

 

「……ごめん」

 

 3人の視線が一か所に固定される。ミサキが申し訳なさそうに少しだけ顔を伏せていた。3人の顔に焦りが生まれる。

 

「い、いいよ。そんなものよりこの牛串美味しそう」

 

「このハンペンも、おいしそうですね」

 

 そう言いながらそれぞれが具材を摘まむ。

 

 だが、ミサキはじっと眺めていた。そして言う。

 

「……ごめん2つ食べちゃった」

 

 はッとなり、鍋を見る。すると牛串は1本、アツコが手に持つもう1本しかなかった。さらにサオリの横を見るとお望みの具材は無かった。

 

 アツコはわちゃわちゃと腕が動いていた。ヒヨリはあわわと口を歪ませる。そんな中サオリは動く。

 

「構わないさ、いっぱい食べると良い」

 

 サオリが満面の笑みでそう言いながら過剰なまでに土鍋におでんの具材を追加していた。煮汁が見えなくなってしまっている。なんだか微妙に手が震えているような気がする。

 だがそんなことは知らずに、2人は好機と動き出す。

 

「うん!私の分も食べて」

 

 アツコがその手に持つ牛串をミサキの顔元へ突き出す。

 

「いや、それは悪い…」

 

「そ、そうですよ!ぜんぶ食べちゃってください!」

 

 ミサキに有無を言わさないように、ヒヨリも言葉を並べる。そして具材だらけの鍋からたった一本の牛串を探し出し、掴み取る。エクスカリバーのように天に掲げた。汁が周囲に飛び散り、多少の被害を与えた。サオリがほんの少しだけアツッと発したのを聞き逃す俺ではない。

 

 ヒヨリも牛串を差し出す。が、食べられることは無かった。そこには譲り合いの精神空間が存在していた。

 

 それを遠目に眺めていた彼は思った。

 

 すでに4人だけで楽しめてるじゃん。この中に異物を放り投げるなんてどこの馬鹿が馬鹿なこと考えてるんだよ。……帰るか。

 

 このキヴォトスで学んだ無音歩行を実行しながら消える。ポイントは風と共に移り動くことだ。運が良いことに、この場所は風通しが良い。

 

 ひゅるりと逃げる。

 

 目的通り帰る。明日は仕事だった。睡眠時間が減ってしまったが、有意義な時間だったので良しとしよう。スキップしながら帰る。

 

 そうしてあの橋が見えた頃だろうか、声をかけられたのは。

 

「ねぇ」

 

 聞き覚えのある声に、振り返る。そこにはミサキがいた。……結構うまく逃げれたと思ったんだけどな。気づかれてしまったか。

 

 そうガッカリしながら、次の言葉を待っていると驚きの内容が放たれた。

 

「生きてて楽しい?」

 

「……急にどうした?」

 

「味覚障害なんでしょ」

 

「……ん?……他人より劣っているだけで死にたくなるのか?」

 

 そう問い掛けるが、黙り込んでいた。

 

 うーん気まずい。前世ならこのまま逃げ帰っていた。だがここは前世ではない、ここで逃げて縁切りする理由など、どこにもない。

 

「その分、視覚で楽しんでるよ」

 

 そこで彼は横を向いた。橋という断崖絶壁の上から見える景色は2度目であっても目新しい。

 

「このキヴォトスは想像以上の光景がいっぱいあるんだ。だから楽しい」

 

 橋の端に近づき、手すりに腕を置き少しだけ体重をかけた。

 

 星夜がキヴォトスを照らす。少し場所を変えるだけで見える景色が一変するこの世界には、落胆することも暇になることも無い。まったく、最高だぜ。

 

「見飽きちゃったらどうするの?」

 

「さぁ、別の何かを見つけるよ」

 

 その時はその時だ。ゲーム開発部の作品げっちゅの旅だったり、イチカ観察日記だったり、アビドスのどっかにファミリープール製作目指したり、キヴォトス自然保護区に生息する珍獣の珍獣ハンターになったり、アロプラ目視RTAだったり……思った以上にやりたいことあるな。

 

 苦笑いしながら、ミサキの方へと顔を向ける。ジーっと観察した後、彼は口を開いた。

 

「何か言いたいことありそうな顔してるな」

 

「……」

 

 無言か。

 

「何もないならもう行くよ。明日は仕事があるんだ」

 

 そう言いながら腕を上げ、ぶらぶらと揺らす。そうしていると、それは聞こえてきた。

 

「……生きる理由あるの?」

 

 生きる理由。国民の三大義務すらなくなり、ちょっぴり可笑しいこの世界で論理的に生きる理由を語れる輩がいったいどれほどいるだろうか。いや、どれほどもいない。そんな物、必要でも理由も根本もない。

 

「生きることに理由なんてないと思うんだけどな。ミサキはあるの」

 

「私は守るものがあるから」

 

「ふーん」

 

「……たまに、それすらもどうでも良くなるんじゃないかって怖い」

 

「投げ出せばいいんじゃない」

 

「は?」

 

 あ、怖い。

 

 やはり性根は陰キャな彼はひっそりと冷や汗をかいた。だが、社会を経験していた彼は落ち着いた様子で言う。体の向きを再び橋の外へと向けて言う。

 

「無責任だと思うなら投げ出さなくて良い。それで終わりだ。」

 何かしら、返答はなかった。彼は言葉を積み上げる。

 

「絶対はないよ。いつか変わる。先生が現れたように、アリウスも変わったように、君も変わる。案外、悪いモノじゃないかもしれないよ。……むしろその変化を望む人は多良いかもしれないね、知らないけど」

 

「……」

 

 ちょっとしたお涙展開、だが違う。彼の第六感に、このキヴォトスという環境下におけるイベントスタッフで最強レベルまで鍛えられた危機察知能力に、反応があった。身じろぎ一つしない。その代わりに卑屈なまでに美しい声が聞こえてくる。

 

「なんで学園を知ってるの?話した記憶はないんだけど」

 

 ゆっくりと、そちらの方を向く。黒光する何かが、セイントプレデターがこちらに向いていた。

 

…何か墓穴掘ったか?

 

 しばらく考え込むが、彼は投げ出した。明日は仕事なのだ。必要な結果は変わらない。家(仕事場)へと帰るのだ。

 

「あばよとっつぁーーん!!」

 

 その一言と同時に背中を見せる。全力疾走だった。

 

どごーん

 

 待てという言葉の代わりに爆発が起こる。1つが起これば2つが起き、3つへ増える。ゲームではありえないリロード速度で爆発音が聞こえてくる。

 

 そんな中、大きな笑い声が聞こえてきた。

 ゲラゲラとあっぶねと死という概念がなさそうな馬鹿な単語を喋りながら、満面の笑みで逃げていた。そして普通であれば死に至る行為をしている人物も躊躇はない。

 

 だが当然。そこは普通ではない。

 

 

 ブルーアーカイブ

 

 銃弾と青春が飛び交う世界。今日も誰かが新しい1ページを紡いでいる。

 


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