ワールドライブ・リベンジ ~元ラスボス×負けヒロイン、光の主人公にリベンジします~ 作:ウロコノ人
「……ヘイ、"ニア"。なんか……なんか気分上がるやつ……ワルドラ……えー、ワールドライブ関連以外で」
『はい、知者たるマスター。それでは、この春マスターが入学される高校の、制服ほか情報を投影します』
そして、今。
ワールドライブを引退した俺は、次の人生に目を向ける。
片耳に取り付けた最新機器のAIに語りかけ、目の前に投影された情報は、奈良県のとある寮制学校だ。
わざわざ遠く離れたこんなところまで来たのは、"例の大会のシーン"を知るものが少ない可能性が高かったから。
奈良県自体あまりワールドライブが栄えている地域でない上、この学校はワールドライブ部自体が存在しないのだ。
……こんなふざけた理由でこの高校を選んだのは、間違いなく俺ぐらいなものだろう。
この高校で可能な限り平穏に過ごしつつ、事件の記憶が世間から薄れ始めたあたりでちらっとワールドライブの話を出したり匂わせて。
そのまま会話の流れで昔はすごかったんだぜ~みたいな感じに持っていけたら言う事無しだ。
それで先輩すご~い! なんて一回でも言ってもらえたなら、俺の戦いにも価値があったと言えるだろう。
高校入学を決める前にこのプランを唯一話した中学の友人には、「なんて哀しい高校生だ……」と震えた声で言われたが些細なこと。
可能な限り自分を知る者が居ないこの学校で、ひっそりと穏やかに暮らせれば、それで充分なのだから。
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その後、特に事件らしい事件も無く、時は過ぎる。
ワールドライブを辞めた直後は、どうやったら一日って終わるんだ……? ってぐらい時間の進みが遅く感じたが、その感覚にも無理やり慣れさせ。
あれよあれよという間に高校の入学式まで無事終わった。
少なくとも最も危惧していた「あの……ワルドラの……例の……号泣ボスさんですよね(笑)」なんて襲撃も今のところは受けていない。
この時点で自分の選択は間違っていなかった、と内心ガッツポーズを決める。
上がったテンションのままに、早速そこかしこで盛況に行われている部活動の勧誘に目を向けた。
実のところ、決めていたのは入学するところまでで、どういった部活をするのかまではノープランだった。
帰宅部でまったり過ごすのもいいが、せっかくだし別の青春を探してみるのもいい、と前向きに入部の検討を進める。
とはいえ、経験が必須なメジャースポーツなどはさすがに今から始めるのは少々厳しいだろう。
特に、俺の場合。
「お、そこの新入生くん! よかったらバスケ部……に……あーいや、えっと、うちマネージャーとかの募集もしてるから! 興味あったら、ね、是非!」
「……ぅむ、考えておきましょう」
声をかけたあと、相手の高校一年生平均より
理想の姿(身長調整あり)であれるワールドライブではラスボスとして称えられた男も、現実世界で寄せられる期待はこの程度だ。
やはり、半同好会ぐらいの部活でゆるゆると過ごすのが、今の俺には合っている、ということなのだろう。
「む?」
そんな、様々な部活の勧誘地帯にあって。
ひときわ熱心に声出しをしている二人組の女子にふと、目がいった。
正確には声を出しているのはゆるっとした印象の一人だけで、もう一人は看板を抱えたままやたらと目力強く、何かを探し求めるように視線を回している。
そして、そんな彼女たちが掲げる部活動の名前は。
「ワールドライブ部! ワールドライブ部作ってまーす! 三人団体戦、出たいでーす! 経験者の方、いませんかー!? ワルドラ経験者、大募集中でーす!」
(うあ、まじか……ここでもワルドラ部出来るのか)
よく見るとその二人は入学式でも見た顔だ。
つまり、新入生でありながら熱心にも新しい部活動を立ち上げよう、としているらしい。
いろんな意味での驚きとともに見つめていた俺は、周りを見渡していた方の女子と目が合ってしまう。
すると彼女は一直線に俺に近づき目の前でピタッと立ち止まると、そのままじーっと俺の顔を凝視してきた。
「見てくれてた……経験者、だよね? ワルドラ」
「む、あーいや、その、まあ……」
「え、経験者さん? クナギちゃん見つけたのー?」
クナギ、と呼ばれた物静かっぽい女子にやたら近い距離感で詰められていると、もう一人の子も寄ってくる。
「はじめましてー、経験者さんってホントですか? 良かったー、全然見つからなくて困ってましたー!」
そう、少し間延びした話し方で状況を伝えられた。
ワールドライブ経験者でやる気があるなら他の高校に行くので、彼女たちの苦労は当然だと言えるだろう。
「うむ……そう、だろうな。君はやはり未経験なのか?」
「そうですよー。それでそれでーどうかな? 良かったらワールドライブ部、入りませんか? 経験者さんなら、すぐ活躍できるかもしれませんよー?」
「む……期待させてすまないが、すでに引退した身でな。これから真面目に動こうって部活なら、力になれる自信はない……いや、邪魔にすらなるかもしれん」
すぐ活躍、という言葉は普通ならやる気が出るPRだろうが。
少し重くも感じる今の俺は、濁したような返答しかできない。
「あはは、キミ、面白い話し方するねー、ちょっとかわいい」
「ふんっ……」
かわいい言うな。
勝ち続けていた当時、メディアや周りが望むキャラ付けっぽく振る舞ってみたらそれがウケたせいで、未だによそ行きだとこの話し方で固定されてしまっているのだ。
リアルの身長にあんまり合っていないのは自分でもわかっているが、これでも仮想体ではちょうどいい感じになっていたんだ。
「で、さっきの真面目にって話だけどーそれなら大丈夫かも。確かクナギちゃん言ってたよねー。『一回勝てればそれでいい』とか」
「…………そう。たしかに言った」
「んむ、そう、なのか?」
意外な言葉に丸くなった目を、話題を向けられたクナギなる少女に向け、ふと思う。
(……なんかこの子……変に気になるな……話したこととか無いはずだが……)
短めに切られた、青みがかった黒髪は、見ていると吸い込まれそうな宇宙のようにも見えてくる。
髪と似た色の瞳は、眠そうなネコのような印象を与えるもので、落ち着いた話し方とよく似合っていた。
体型は隣の子と比べるとスレンダー気味で、全体的には間違いなく美少女といっていいだろうが、特別目立った要素があるタイプではない。
そう、彼女をまじまじと見た俺は……
なんだか少し前に読んだマンガの、主人公と結ばれなかったヒロインに似てるな、なんてちらっと思ってしまい。
(やめろやめろ、失礼な!)
瞬間、ぶんぶんと頭を振ってよこしまな考えを追い出した。
いかんいかん、なまじものすごく主人公っぽいやつに植え付けられたトラウマのせいで、自分含めて人を記号的に見ようとしてしまう、変な悪癖がついているようだ。
せっかく新しい青春を始めようとしているところにこれは良くない、と気を取り直して話に戻る。
「それで、本当なのか? その……一勝が目標っていうのは」
「そう。それがこの部を立ち上げた私の目的。隣の彼女はワルドラ未経験で、私に付き合ってくれている、友達」
「と、友達……そうだね、ふひへ……」
(むむむ……)
クネクネと照れている友達は置いておいて、彼女たちのことを知った上で改めて、今勧誘されている状況を考える。
友達が未経験というのは嘘じゃないだろうし、一勝を目的としている通り、彼女もそこまで詳しいわけではなさそうである。
そうでなければ、ワールドライブ内では良くも悪くも有名な俺のことを知っていてもおかしくないからだ。
もちろん、仮想体の姿だけ知っていてリアルとは一致していない、という可能性も十分あるが、それを気にしすぎても仕方ない。
そうであるなら、一勝だけを目的にゆるゆるふわふわやりつつ、『その気になれば結構戦えますポジション』を確保できるというのは……全然悪くない。
続けていたらそのうち例の事件を知られるかもしれないが、そこまでに頑張って好感度と信頼を稼いでおけば、仮に知られて-80点ぐらいされてもなんとか耐えられるかもしれない。
一瞬失礼な目で見てしまった負い目もちょっとあるし、ここは前に踏み込んでみるのも悪くないかな、という気はだいぶしている。
……それに、何より。
中学二年で引退し、丸一年ワールドライブ無しの生活を送って改めて一つ、分かったこと。
────自分はやっぱり、ワールドライブが好きで。
続けられるなら続けたい、と思っていた。
だから、ワールドライブがない高校を選んだのは……ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、後ろ髪を引かれる気持ちも正直なところ……あったのだ。
(ふっ……)
これがマンガなら、復帰するしないでまた一悶着あったのだろうが、俺はこの辺の欲求には素直に従うようにしている。
ましてや自分の理想に近いような環境で、自分の力が女の子に求められているのだ。
「やだ!」なんてワガママはいまさら言うまい。
と、いうわけで。
「ふ……それなら、まあ。とりあえず話だけでも、聞かせてもらうとしよう。部室があるなら、それも見たい」
「ん、わかった。じゃあ、私は彼に説明しておくから。あなたはこのまま勧誘続けてくれる? 適当なところで切り上げて大丈夫」
「いいよークナギちゃん。4人目いて偶数になったら、練習もやりやすいもんね。興味ある人いたら、確保しとくねー」
朗らかに返した友達にありがとう、と言うと彼女は校内に入っていく。
同じ新入生なのに迷いなく進んでいく彼女に、少し気圧されながらも着いていくと、目的の部室に到着した。
「なにっ……?」
やけに厳重な鍵を開いて入ると、俺はわずか驚きの声を上げる。
俺が想像していた、新興部活の適当に使われていない部屋を間借りしたような部室、という様相を裏切り。
そこにはワールドライブ用の最新機器……それも俺が使っているもの以上のハイエンドモデルが、すでに3人分も並べられていたのだ。
どう考えても、未経験者が一勝を目標にするような部室に置くようなものではない、オーバーテクノロジーもいいところだった。
「な、なんだぁっ……なんで出来たばかりの部でこんなものが」
「それは、私の自費で揃えたもの。……さすがにお金無くなったから、これ以降は承認が降り次第部費でなんとかする」
返答が後ろから聞こえたと同時、ガチャリ、と。
彼女が扉の鍵を閉めた音が、やけに大きく響いた。
「そ、そう、なのか……なんというかすごい気合というべきか……えーっと、クナギ、さん? さっき言った一勝のためにそんな……」
「クナギでいい……名前、そうだね。名前、ちゃんと言ってなかった」
後ろ手に扉を閉めた体勢のまま、彼女は薄い笑顔を張り付かせ、口を開いた。
なんか……なんか、怖い。
俺なんかした?
どんどん圧を増している彼女のペースに乗せられまいとしたのか、俺の方からなんとか口を開こうとする。
「あ、ああ、名前! そうだな、確かにここまで来て、自分の名前も言っていなかった。俺は────」
「
「へぇぁ……?」
が、それすら先回りされたように封じられた俺は、変な声を出してしまう。
ここに来てから早くもキャラが崩れだした俺をまっすぐ、初対面の時以上の圧倒的な目力で見つめながら、彼女は言葉を続けた。
「ごめんなさい、一勝って言ったけど、正確には誰相手でもいいわけじゃない。
私は……私を負かした、絶対に勝ちたい相手から、なんとしてでも一勝が欲しい」
「そ……その相手って、何? どちら様であらせられますか?」
俺はすでにビンビンにしていた嫌な予感に押されるまま、ほとんど思考を介さずに疑問をそのまま返す。
「負かした相手の名は、
誰も手を付けられなくなったあの子から、どんな手を使ってでも一勝をもぎ取る。
そのためにあなたの、歩村 真麻の力が必要」
「あ、天音、久星……い、いや、お、俺の力が必要……って、だって……俺の、何を知って……」
「第1回町内会ワールドライブコンテスト少年の部、優勝。
第6回全国ワールドライブ選手権大会中学の部西東京予選、優勝。
第6回全国ワールドライブ選手権大会中学の部関東地区予選、優勝。
第6回全国ワールドライブ選手権大会中学の部、優勝。
ワールドライブ"無能"倶楽部第一回懇親カスタム、優勝。
第7回全国ワールドライブ選手権大会中学の部西東京予選、優勝。
第7回全国ワールドライブ選手権大会中学の部関東地区予選、優勝。
第7回全国ワールドライブ選手権大会中学の部、準優勝。
ワールドライブ非適合の身でありながら、妹を第二覚醒にまで追い込んだ、"最強の無能力者"。
……私は、あなたがいることだけを理由に、この高校を選んだ。
さあ、歩村 真麻。私と一緒に、最高の一勝を、手に入れよう」
「ふっ…………」
「やだーーーーーー!!!!!」
自分用体験版 おわり
続きはあまりにも未定