ウマ娘SS集   作:SS制作マシーン

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 タキオンが原稿作業中のデジタルに雑談で何かしらウマ娘世界の根幹に関わるような話を振ってその中で世界の真実の一端に触れかけた瞬間にその会話していた内容を大いなる存在によって記憶から消されてデジタルが「あれぇ!?1ページも進んでない!?なんでぇ!?」ってなってタキオンが「おやおや珍しいこともあったものだねぇ」って言いながら小さな違和感を覚える話とかありませんかね?
という概念が元になっています。


アグネスタキオンは迷わない
アグネスタキオンは踏み込まない


 突然の質問に、デジタルの筆が止まった。

 

「中央トレセン学園の生徒数……ですか?」

「ああ、自他ともに認めるウマ娘好きの君ならば、正確な数を応えらるのではないかと思ってね。作業中に申し訳ないが、少し気になってしまったんだよ」

 

 趣味の時間とはいえ、少し根を詰めすぎていたところだ。他でもない同室からの質問ということもあり、アグネスデジタルはアグネスタキオンへ向き直った。

 

「そうですね、たしか先週の時点で8,775人ほどだと思いましたけど。タキオンさんに関わる芝だけになりますと、もっと少ないですけどね」

「その数字をさらりと出すのは流石と言ったところだね。

 ああ、別にこちらに注意を向ける必要はないよ。どちらかといえば君の無意識の意見を聞きたいというところが大きいんだ」

「そうですか?

 それでは、失礼して」

 

 タキオンの言葉に、デジタルはおずおずと原稿へと向き直る。ウマ娘との会話を片手間にこなすなど言語道断の行為だが、本人からそうしてくれと言われれば否はない。

 

「さて、話を戻そうか。

 君は先ほど学園に所属するウマ娘の数を答えたが、それだけの数がいれば当然見知らぬウマ娘も多々いることになる。一度も顔を見ずに卒業していく者も多いことだろう」

「そうですね。きっかけがなければ交流は生まれませんし、交流も何かしらの縁がなければ途切れてしまうものです。

 だからこそ、その縁に導かれたウマ娘ちゃんたちの交流は尊いものなのですが!」

 

 語気を荒くするアグネスデジタルへ、アグネスタキオンは楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「じつに君らしい答えだ。

 ところで、だ。デジタル君は学園所属のウマ娘全員の顔を覚えているかい?」

「流石に暗記まではできていませんね。恥ずかしながら、シンボリルドルフ会長のような記憶力があれば私ももっとウマ娘ちゃんたちのデータをこの脳髄に刻み込めるのですが……!」

 許可を取って簡単なスケッチはとっていますし、拒否された場合でもちょっとした特徴をメモしたものならばまとめてあります」

 

 アグネスデジタルは筆を動かしつつ、引き出しからスクラップブックのようなノートを取り出した。表紙には手書きで、ウマ娘ちゃんたちのマル秘ノートVol24とある。

 

「ふうん……それだけの情報を纏めているなら、当然クラスや所属寮や学年も記録してあるのだろう?」

「当然です! もちろん許可を取った相手に限りますが、ウマ娘ちゃんの情報を漏らすなどウマ娘ちゃんたちのファンとしてあってはならないことですから!」

「それじゃあ一つ質問をしたい」

 

 言質を取ったかのように、アグネスタキオンが言葉を発した。声音から、これが本題だとアグネスデジタルは察する。

 

「はい、なんでしょうか?」

「ゴールドシップは知っているね?」

「もちろんですとも! あの美しい葦毛に、整った美貌。破天荒さすらも愛嬌に変えてしまう天性のエンターテイナー!」

「彼女の学年を知りたい」

 

 その質問に、アグネスデジタルの時が止まった。

 

「どうしたんだい? 彼女はそんなつまらない情報を隠すような相手じゃないだろう。聞けば喜んで教えてくれると思うんだがね? あれほど名高いウマ娘の情報を、君が持っていないはずがないだろう?」

「え、あ、はい。少し待ってくださいね。すぐに、すぐに思い出しますので」

 

 困惑するデジタルを見て、タキオンの笑みが深くなる。

 この質問は、タキオン自身が覚えた違和感を解消するためのものだ。学園でも有数のトラブルメーカーであるゴールドシップは普段どのような様子なのかを知るために、クラスメイトから情報を集めようとしたのだ。当然タキオンはゴールドシップのクラスを知らなかったが、あれほど目立つ存在のクラスなど、数人に聞けばすぐにわかるだろうと高をくくっていた。

 にもかかわらず、一切の情報が出てこない。クラスどころが、学年を知る者すらいないのだ。自分の人付き合いの悪さが原因かと自らのトレーナーにも情報収集を頼んだものの、そちらも一切の情報を得ることができなかった。

 かろうじて栗東寮の所属ということこそわかったものの、今度は部屋がわからない。寮長であるフジキセキに尋ねようとしたが、不自然なほど都合がつかない。

 流石に違和感を無視できなくなったタキオンは、生きるウマ娘図鑑ともいえる同室のアグネスデジタルへ情報を頼んだのだ。

 

「なぜ……何故出てこないのですか……たしかにゴールドシップさん本人に尋ねたこともあるのに……寮の部屋にお邪魔して話を聞いたこともあるのに……」

「待てデジタルくん。君はゴールドシップの部屋に行ったことがあるのかい!?

 ……デジタルくん?」

 

 タキオンが違和感を覚えた。原稿に向かったままのデジタルは、凄まじい速度で筆を走らせながらも画面を見てない。頭を抱え、ぶつぶつとあふれ出るような疑問を呟き続けている。

 

「ゴールドシップさん、そういえば同室のウマ娘ちゃんの名前はジャRタ$ェEといっていましたが、学園でその名前は聞いたことがないですよね。でも寮室には名札がありましたしそういえばタキオンさんはいつからマンハッタンカフェさんと仲良くなってだってJンFッQYカ”ェってあれそんなウマ娘ちゃん私が入学したときにはどこにも」

「デジタルくん、どうしたんだいねえ!?]

 

 意味の分からない言葉を羅列し続けるデジタルへ駆け寄ったタキオンは、視界に入った液晶画面の文字に目を奪われた。

 

「なんだ……これは……?」

 

 そこには、タキオンが聞いたことのないウマ娘のデータが次々とデジタルの手によって書き込まれていたのだ。

 ただ知らないというのならばタキオンが興味のない相手だとして納得できる。しかし、そこに書かれているのはあきらかに知らなければおかしいほどの存在だ。

 

「デアリングタクト……牝馬無敗三冠……シーザリオ……アメリカG1初勝利……スティルインラブ……史上2頭目の三冠牝馬……ディープインパH……待て。

 なんだ、この漢字は? 馬……? それに、頭っておかしいだろう。どうして二人目じゃないんだ……?

 何かが……おかしいぞ……おい、デジタルくん!?」

 

 恐ろしい何かを感じ取り、恐怖と焦燥でデジタルへと呼びかけたタキオンは、完全に言葉を失った。

 

「あーあ、やっぱり勘のいいウマ娘同士を同室にするのは反対なんだっての。ゴルシちゃんの仕事が増えるだろーが」

「これは“オーウェル”だね。これがネオユニヴァースたちの“タスク”だよ、ゴールドシップ」

 

 音もたてず、タキオンとデジタルの背後に2人のウマ娘が立っていた。

 

「お前、たちは……いや、待て。だれだ、君たちは、いったい……」

 

 見覚えがあるはずのウマ娘が、判別できない。

 

「こりゃいよいよもってヤバいな。急ぐぞ、ネオユニヴァース」

 

 長身で葦毛のウマ娘が、事も無げに隣に立つウマ娘に向けて首をしゃくった。

 

「そうだね、ゴールドシップ。これは“ハリー”だ」

 

 黄色の髪のウマ娘が頷くと、葦毛のウマ娘がアグネスデジタルの両腕を抑えた。

 

「なっ、乱暴は……」

 

 突然の暴挙にタキオンが動こうとするが、何故かその場に倒れ込んでしまう。足が、動かない。

 

「それ以上は“デンジャー”だよ、アグネスデジタル。大丈夫、もうすぐ“オーバー”だから」

 

 なにが終わりなのかを問い返そうとして、タキオンは自分の視界が揺れていることに気がついた。デジタルも、液晶も、2人のウマ娘も、揺らいで混ざっていく。

 

「待て……君たちは……液晶の……名前……は……」

 

 必死に伸ばそうとした手が動かないことを認識しながら、アグネスタキオンの意識は闇へと堕ちていった。

 

 ふと、アグネスタキオンは視線を時計へと向けた。見ればすでに1時間が経過しようとしている。

 

「ああ、これ以上は流石に妨害となってしまうね。ありがとうデジタルくん。おかげで良い思考実験ができた」

「ひょえっ、こうえいでしゅぅ……」

 

 ウマ娘に関するとりとめのない会話をすることにより脳のリラックスを狙ったが、思いのほか熱中してしまっていたらしい。

 

「おあーっ!?」

 

 これでは意味がなかったと自生するタキオンの耳に、デジタルの絶叫が響いた。

 

「どうしたんだいデジタルくん。そんな絶望しきったような声を出して」

「こ、この、この1時間の結晶が、エラーだなんて、そんなあああぁぁぁぁ……」

 

 どうやら操作ミスにより、1時間分の作業が無に帰したようだ。哀れなものだと考えたタキオンの脳裏に、ふと疑問が浮かんだ。

 

「そういえば、何故デジタル君とリラックス法を試そうとしたんだったかな……?」

 

 考えても答えの出ないその疑問は、さらに浮かんできたアイデアによって掻き消された。

 

「まあ、思い出せないということはどうでもいいことなんだろうさ」

 

 そうしてノートへと向き直ったタキオンは、背後で寮室の扉が静かに閉められたことに気がつくことはなかった。

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