ウマ娘SS集   作:SS制作マシーン

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フクキタルは占いで変なものを見てしまって…とかはあるかもしれないなと思う。
というレスが元になっています。


アグネスタキオンは崇めない

 本来であれば静かな学園の廊下を、数人のウマ娘が大声で走っている。

 

「待ってくださいタイキシャトルさん! 本当に大変なんですよ!」

「ノウ! 今日のフクキタルおかしいデス!」

 

 決死の表情で走るマチカネフクキタルから、全力で逃げるタイキシャトル。見ればフクキタルの手には水晶玉が納められており、それを掲げるようにしてタイキシャトルへと見せつけている。

 

「今回の水晶占いで、タイキシャトルさんは大・大凶!

 しかも具体的な結果まで出てしまったんです、これを止めるには全力ですよ!?」

 

 いつものことで流すにしては、フクキタルが必死すぎる。ついに廊下の端へ追い詰められたタイキシャトルに、救いの手が差し伸べられた。

 

「何をしている! 先程から生徒会室へ苦情が入っているぞ!」

 

 トレセン生徒会副会長である、エアグルーヴがタイキシャトルとマチカネフクキタルの間に割って入ったのだ。

 普段であれば一度断られるとそこで引くフクキタルが、ここまでしつこく食い下がることは珍しい。それゆえに困惑するエアグルーヴへ、フクキタルは泣きそうな目で縋り付いた。

 

「聞いてくださいエアグルーヴさん!

 タイキシャトルさんの目が危ないんです!」

「目だと?」

「はい! 朝タイキシャトルさんと会ったので占ったら、右目が悪くなると結果が出ました。何度占い直しても、同じ結果が出るんです! いくらなんでもおかしいんですよ!」

 

 あまりの剣幕にエアグルーヴは気圧されたが、背後で怯えるタイキシャトルを思い出し自らに活を入れる。

 

「タイキシャトル、事情を聞かせてもらえるか?」

「ハイ。

 今朝ラウンジでフクキタルと偶然会って、いつものように占っていいか聞かれマシタ。オーケーして水晶占いをしたら、フクキタルが急に怖い顔になったんデス。

 チョット変だと思ったら狂ったように占いを繰り返して、急に保健室に行こうと言い出したので怖くて逃げたんデス」

 

 耳を折って目を伏せるタイキシャトル。普段から天真爛漫な彼女がするには珍しい表情に、エアグルーヴは彼女が受けた衝撃の深さを読み取ることができた。

 

「占いの結果が衝撃だったのはわかるが、もう少し穏便に話を進めないか。それではタイキシャトルのように、話を聞く者もいなくなってしまうぞ?」

「普段ならそうもしますけど、今回は異常なんですってば!

 普通占いは毎回結果が微妙に変わるものなんです。でも、今回は何回占っても結果が変わらないんですよ!

 流石にこれは絶対に何かがあります!」

 

 必死に訴えるフクキタルだが、根拠が占いではエアグルーヴとしても同意ができない。

 

「落ち着けフクキタル。

 そもそも占いの結果がどうか知らないが、相手の目が痛むなど本気で行っているのか。冗談ごとでは済まされないぞ?」

 

 競技者であるウマ娘にとって、目は非常に重要だ。単に視界の確保だけではなく、平衡感覚の補佐や相対速度による現在の移動速度の割り出しなど、意識的無意識的を問わず多くの要因を割り出すセンサーとなっている。

 当然、何か問題があれば完治するまでレースへの出場は叶わなくなる。

 

「だから気になって追いかけてきたんですよ!

 これで無視して万が一があれば、私は絶対に後悔します!」

「まあ、それはそうだが……」

 

 根拠が占いだからこそ信用しきれないエアグルーヴと、占いだとしても危険性を無視できないフクキタル。

 そこへ、一人のウマ娘が割って入った。

 

「ようよう、な~に騒いでるんだ?」

「ゴールドシップか。今は貴様の相手をしている暇はないぞ?」

 

 葦毛の破天荒ウマ娘、ゴールドシップはエアグルーヴの邪険な対応にも一切怯まず話を続けた。

 

「そう言うなって。話は聞かせてもらってたからよ。

 そんなに目が気になるってんなら、あたしが保健室に連れてってやるよ。たしか紹介状とまではいかなくても、電話で診察予約くらいはしてくれるだろ?」

「落としどころとしては真っ当かもしれんが、それを受けるかどうかは私の判断するところではない」

 

 ゴールドシップの提案に、エアグルーヴは背後にいるタイキシャトルをちらりと見ながら返答した。視線を受けたタイキシャトルは、おずおずといった様子で前に出てくる。

 

「アノ、ちょっとフクキタルの様子がおかしかったから逃げてただけデ、危ないから検査しまショウっていう話なら大丈夫デス」

「そうかそうか。フクキタルも、それでいいか?」

「はい! これでタイキシャトルさんの目が守られるんですから、私からすれば何の文句もありません!」

 

 友の危機と自らの不安が除かれたフクキタルが、嬉しそうに笑う。それを見たゴールドシップも、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「じゃあそれで話は終わりだな。さて、保健室の前にゴルシちゃんチェックと洒落込むぜ」

 

 ふざけながらタイキシャトルの右目を覗き込んだゴールドシップの表情が、一瞬で固まった。

 

「ゴールドシップ、どうしまシタ?」

「行くぞタイキシャトル。ちょっと笑えないかもしれない」

 

 有無を言わさずタイキシャトルを引っ張るゴールドシップを、周囲のウマ娘たちは不思議そうに見送る。

 そんな中、サイレンススズカが背後からマチカネフクキタルの肩を叩いた。

 

「フクキタル、あなたこの前から変よ。きちんと休んでいるの?」

「スズカさん……。

 そう、ですね。トレーナーさんと相談して、少し休みます」

 

 短いやり取りを終えたフクキタルが肩を落として立ち去る様子を見送るスズカへ、エアグルーヴが話しかける。

 

「すこしいいか。この前と言っていたが、フクキタルに何かあったのか?」

「この前、フクキタルが廊下で派手に転んだのよ。その時水晶を頭にぶつけて、それから少し様子が変でね?

 ほら、今回もあの……シラオキ様の名前、一度も出さなかったでしょう?」

「言われてみれば……」

 

 思い返してみれば、普段からシラオキ様の加護とうるさいほどに言っている彼女の口から、今回の騒動中には一度のその名が出なかった。普段の言動を知る者からすれば、気にならないと言えば噓になるだろう。

 

「ちょっと、心配なのよ。一応病院では問題無しってことにはなってるんだけど……」

「確かに少しだが引っかかるな。

 私も気にかけるようにするし、同室のマチカネタンホイザにも気を付けるよう頼んでおこう」

「ありがとうエアグルーヴ。私もよく見るようにするわ」

 

 どこか心配そうな気配を隠すことなく、サイレンススズカとエアグルーヴはその場を離れる。

 

「……こりゃ、面倒なことになってるのかもな」

 

 その背後でタイキシャトルを保健室へ連れて行ったはずのゴールドシップが意味深な言葉を呟いたことに、気がついたウマ娘は誰もいなかった。

 

 

 

 休日の昼下がりに、アグネスタキオンはマンハッタンカフェと共に分割使用している教室で紅茶を飲んでいた。研究がひと段落したタイミングとしては、これ以上ないといえる息抜きだ。

 

「……だというのに、どうしてこう厄介ごとがやってくるのかねぇ」

 

 暗い光を宿す視線の先には、身を縮こませるマチカネフクキタルの姿があった。

 

「普段周りに迷惑をかけているのですから、こういった機会に恩返しをするものでしょう?」

「カフェが専門外というのなら私の専門というのも違う気がするんだけどね。まあいい、無視して何かあっても夢見が悪いというものだ。

 さてマチカネフクキタルくん、今回はどういった相談なんだい?」

 

 睨め付けるような視線のタキオンに、背後からカフェが頭部をはたく。振り向いて抗議の視線を向けるタキオンだったが、カフェは素知らぬ顔でコーヒーカップを煽った。そんなコント染みたやり取りに緊張がほぐれたのか。フクキタルが小さく噴き出す。

 慌てて誤魔化すように咳ばらいをし、ぽつりぽつりと相談内容を離し始めた。

 

「何日か前に、私がタイキシャトルさんの右目が悪くなると占った話は知っていますか?」

「ああ、廊下で随分と騒ぎになったと聞いているよ。それがきっかけで診察したら、炎症一歩手前だったというじゃないか。

 不幸中の幸いか、早期治療でもう完治したらしいね」

 

 保健室での簡易検査後、救急搬送によってタイキシャトルは一日入院をすることになったのだ。後遺症もなく、今日も元気にトレーナーとじゃれ合っているところをタキオンも目撃している。

 

「それが……あれから、占いをすると時々誰かが怪我をするって出る時があるんです。そういうときは、何度占い直しても同じ結果が出ます。

 気になってそれとなく伝えると、決まって初期段階の負傷が見つかって……」

「占いの精度が上がった、という話ではなさそうだね」

「はい。全く関係のない占いをしていても、脈絡なく誰かが怪我をすると出るんです。

 流石におかしいと思ってカフェさんに相談したら、異変が見えないからタキオンさんに任せた方がいいって」

 

 ぐるりと、タキオンの首がカフェへと向けられた。

 

「カ~フェ~。どーいうことだい?」

「この手のごたごた担当は貴方でしょう?

 さっきも言いましたけど、こういった機会なんですから人のために動いてください」

「……一応聞いておくんだけど、誰かにこういった話は私に持っていくよう言われているとかじゃないよね?」

「そんな面倒なことを引き受けるわけないじゃないですか」

「ならいい、忘れてくれたまえ」

 

 勘ぐりがあっさりと外れ、どこか気まずそうにタキオンは会話を打ち切った。疑問符を浮かべるフクキタルへ、改めて問い直す。

 

「さて。改めての質問になるけど、君の占いに異常が出るきっかけに心当たりはあるかい?」

「きっかけと言われても、急に変になったので……」

「なんでもいいんだ。普段と違う何かがあったとか、道具を変えたとか」

 

 タキオンの誘導に、フクキタルが顔を上げた。

 

「道具といえば、水晶に頭を打ちました。病院に行ってお医者さんから問題ないと言われましたし、気にしてなかったんですけど」

「ふむ、それは少し気になるね。

 その水晶は、普段から占いに使っているのかい?」

「はい。表面に少し罅は入りましたけど、そう大きな傷じゃなかったですし、覗くのに邪魔というほどではないので今も使ってます」

「それを見せてもらうことはできるかな?」

「それなら少し待っててください。部屋から持ってきますので」

 

 そう言って飛び出したフクキタルを見送り、マンハッタンカフェが立ち上がった。

 

「おや、最後まで聞いていかないのかい?」

「一応紹介した手前同席してましたけど、ここまで来て話を投げ出すようなことはしないでしょう?

 友人との約束があるので、私はこれで。鍵は忘れないでくださいね」

 

 そう言い残し、マンハッタンカフェは教室を後にした。

 

「見間違いじゃなければ、腕を引かれるような動きをしていたね。

 さて、例のお友だちとやらがなにかしたのかな?」

「そうみたいだな。

 いやあ、あのお友だちはずいぶんとラインの見極めが上手いな」

 

 突然聞こえてきた背後からの声に、タキオンは思わず飛び上がる。勢いのまま振り向けば、ゴールドシップがいたずらっ子の笑みを浮かべていた。

 

「よーっすタキオン。今回も面倒ごとを持ち込まれたみたいだな」

「どうやって、いつ部屋に入ったなんて無駄な質問はしないからね。

 ところで、君たちの一派が私にこの手の専門家という属性を付与した可能性を疑っているのだが、弁明はあるかい?」

 

 不機嫌そうに着席したタキオンの隣へ、遠慮なくゴールドシップが腰を下ろした。

 

「わざわざこの手の話を広めないってわかってるだろ?

 前に言ったけど、もうあんたの所にこの手の話が集まるっていう“流れ”はできちまってるんだ。諦めて場数を踏んだ方が賢いと思うぜ」

「腑に落ちないが、そういう法則なんだろう。逆らっても得る物がなさそうだし、経験と思って割り切らせてもらうよ」

「流石はタキオン博士だ。

 まあ、今回みたいに手を貸せそうなときは来るからな。孫の手でも拾った気分でいてくれ」

 

 ゴールドシップとの応答が終わった直後、見計らったようなタイミングでフクキタルが戻ってきた。

 

「遅くなりました。

 あれ、カフェさんがいないですし、何故ゴールドシップさんが?」

「カフェは所用で席を外したよ。この段階になって相談事を放り出すなんてことはないから安心したまえ。

 ゴールドシップくんは私の助手のようなものだ。邪魔にはならないから、置物だとでも思ってくれていればいいさ。

 さて、件の水晶は?」

「あ、これになります」

 

 タキオンの催促に、フクキタルは背負っていたリュックから普段は持ち歩いている水晶玉を取り出し机に載せた。たしかに、表面に細かな傷がいくつか付いている。

 

「聞いていた通り、表面の傷が多いな。だが内部にまでは達していないか。

 よし、とりあえずこれは預かろう。君はもう一度医者へ相談することだ。脳は怖いからね。不安だから再審してほしいと言えば、向こうも嫌とは言わないだろう」

「そう、ですか。じゃあ、お願いします」

「なにかわかればすぐに連絡するよ。安心したまえ」

 

 納得できないと表情が語っていたが、相談を持ち込んだという立場上強く言い返すことができなかったようだ。

 フクキタルが一礼して退室したことを確認し、タキオンは水晶玉をゴールドシップへと押し付けた。

 

「ほら、恐らくこれは君の領分だろう。またその水晶が別の次元の覗き穴にでもなったのかい?」

「あー……まあ、そうっちゃそうだな、うん」

 

 タキオンのからかい混じりの質問に、どうにもゴールドシップは歯切れが悪い。

 

「どうしたんだい。まさか、これは関係なかったのかとか?」

「いや、関係ないってことはないんだがな。

 水晶表面の傷跡がアンテナの役割を偶然満たしてるから、他所の世界を覗き見る窓にはならなくもない」

「なら削るなり形を変えるなりすればいい話じゃないか。何か問題が?」

 

 アグネスタキオンの追及に、ゴールドシップは言いにくそうに理由を話し始める。

 

「タキオンよ、最高の実験器具を集めて、小学生に最先端の実験ができるか?」

「できるわけがないじゃないか。何の話だ?」

「そう、普通はできないんだよ。この水晶も同じ話が言えるんだ。

 これが覗き窓でも、それを扱う者が持たなければただの水晶玉だ」

 

 タキオンの表情が歪む。

 

「まさか、今回のフクキタルくんの占い結果の原因は彼女自身にあるのかい!?」

「ちと語弊がある気もするが、まあそうだ。あいつが持ってる力が原因で、水晶玉を通して見た事柄をこっちの世界に引き寄せちまってるのが原因さ。

 体質の問題だから、こっちでできるのは遅滞工作くらいってことになる。覇王みたいに折り合いがつけられる段階に進んでくれればいいんだがね」

 

 ゴールドシップが突き付ける現実は、タキオンのどこか楽観的な感覚を打ち砕いた。数度得体のしれない事件に巻き込まれてきた彼女だったが、そのすべてをぎりぎりで凌いできた経験がある。今回も苦労こそするだろうが、なんだかんだと解決するものだと思い込んでいたのだ。

 肩を落とすタキオンへ、ゴールドシップがそっと寄り添った。

 

「そう重く受け止めるなよ。しかるべき道具がなければ、占いの精度が上がる程度で済む話だ。

 ま、明日にでも細工した水晶玉を渡しておくさ」

「そう、かい。よろしく頼むよ、ゴールドシップくん」

 

 顔を挙げないタキオンへ視線を向けたまま、ゴールドシップは首を捻る。

 

「…………。

 よーし、明日カラオケにでも行くか!」

「は?」

 

 突然の提案に、落ち込んでいたタキオンも思わず顔を上げた。

 

「いや、最近面倒ごとが立て続けだったからな。タキオンの言う管理者でパーッと騒ごうって思ったわけなんですよ」

「え、いや、管理者と言っても一枚岩じゃないと思っていたんだけどね。

 ほら、オペラオーくんが入れ替わったとき君はマーベラスサンデーくんが苦手とか言っていたじゃないか」

「あれはな、なーんかあのマーベラスが私の肌に合わないって話よ。管理者同士でけっこう一緒に街に繰り出すこともあるし、情報交換なんかも頻繁にやってるぜ?」

 

 混乱と共にどうでもいい質問をしてしまうタキオンへ暴露される、管理者たちは案外緩く仲がいいという情報。

 

「じゃあなんで私にはその話が来ないんだい?」

「そりゃタキオンがこっち側に近づいてから情報交換もおでかけもしてないからな。

 タキオンも本格的にこっち側にくることが確定したようなもんだし、ちょうどいい機会だろ?」

 

 満面の笑みを浮かべるゴールドシップへ、タキオンは毒気を抜かれた。

 

「ま、たしかに新しい繋がりと交流を深めるのは急務と言えるね。情報精度の差は生死に直結するだろうし」

「おーし決定!

 予定は決まり次第連絡するってことで、じゃまた明日な!」

 

 嵐のように去っていくゴールドシップの背中を見つめながら、タキオンは内心頭を下げた。

 このタイミングで交流会を開く理由など、タキオンのメンタルケア以外にはないだろう。どこかふざけた雰囲気を纏っているが、ゴールドシップはこういった心身の不調には敏感な思いやりのある人柄だ。

 

「……しかしカラオケか。管理者という立場なのだからもっと堅苦しい集会でも開いているのだと思っていたが、案外俗っぽいんだな」

 

 僅かながら調子を取り戻したタキオンは、そんなくだらないことを考えながら自らの寮室へと足を向けた。

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