死んだハズのXXハンター   作:ルフレオ

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渓流に行こう!

 

 痛む身体を気遣いながら、ゆうきはレオと名乗る女ハンターに一方的に話を聞かせていた。

 

 山よりデカいラオシャンロンを一人で倒しただの、ドドブランゴ2頭と迷惑ハンター達を一気に始末してやっただの、密林で金レイアを捕獲しようとしてたバカ達に捕獲は出来ないって教えてやっただの、事実とは異なる作り話をあたかも本当のことのように平然と話す。

 とはいえ、よくよく聞いてみれば話の矛盾点や本人の知識不足が露呈されてるだけの、聞くものが聞けば爆笑が起こりそうな穴だらけの話だ。

 それを延々と聞かされているレオは分かっている側の人間なので、ゆうきの武勇伝は全て作り話、もしくは大袈裟に誇張されたしょうもない話だということはすぐに見抜いていた。

 

 しかし、ゆうき本人にそのことは伝えようとしない。

 だってそれを指摘したらしたで怒り状態に移行したババコンガみたいに真っ赤な顔をしながら半ば逆ギレ気味に反論してくるだろう事を察したから。

 いらん心労とストレスを負いたくないレオの取った行動は聞き流し。

 あるだないだ言う彼の自慢話に付き合って適当な相槌を打っている彼女の姿は、周りから見ればさぞ聞き上手な女の子に写っていることだろう。

 まぁ、実際は真剣に聞き入ってるように見せかけているだけで、右から左へと聞き流しているのだが。

 

「それでさ、僕がイビルジョーを討伐したんだけどさ、周りの雑魚ハンター達がめちゃくちゃ妨害してくんのね!マジ最低だと思わない!?」

 

「あー、うん。思う思う」(これも多分嘘っぱちなんだろうな…)

「僕の周りってホント昔からそうなんだよね!どいつもこいつも雑魚すぎて使えない奴ばっか!! どうしてあんな奴らがG級ハンターになんてなれたんだろーね!!レオもそう思わない!?」

「い、いや私はその人達に会った事ないし、分かんないかな…?」

「あぁ〜そっかそっか。そういやそうだったね。ねぇレオ。()()お前のこと気に入ったよ。一緒にジンオウガとか狩りに行こうぜ。 大丈夫!僕が守ってやるからさ」

「え?あ、ありがとう。でもジンオウガって渓流とかにしか住んでないでしょ?ナグリ村からはちょっと遠いよ。 すぐ近くに地底火山あるんだし、ラングロトラとかドスイーオスとか狩りに行かない?」(()()って何?私は君の事を気に入ってるとか思ってるの?)

 

「大丈夫大丈夫、ビビる事ないって。所詮ジンオウガなんて普通のワンちゃんなんだからさ」

「あ、あぁ…うん。頼もしいね」(いやビビってる訳じゃなくて、単に生息地が遠いから他にしようって言ってるんだけど…)

 

 全く人の話を聞かないゆうきに温厚なレオといえども、苛立ちが募る。しかし、ここで怒ってはいけないとレオは少し目を閉じて気持ちを落ち着かせる。

 とりあえず、誘いには乗っかっておく事にした。

 

「ま、まぁいいよ。ジンオウガ行こっか。いつにする?」

「はい決まり。じゃ、今から渓流行こっか」

「え!!今から!?ダメだよ!!怪我人でしょ!!?」

「大丈夫大丈夫。当たらなければいいんだから」

(その自信はどこからくるの?)

 

 レオはすぐに止めようと思ったが…、やっぱりやめた。

 レオも出会って数分だというのに、すでにゆうきに対してストレスが溜まりつつあった。

 不謹慎かもしれないが、モンスターにボコられて痛がる様子位は目に焼き付けさせてほしい。

 

 

「ちょ、ちょっとクエスト行く前に聞きたいんだけど…、あなた、どうして溶岩島に倒れていたの?」

 

 すると、ゆうきは途端に不機嫌丸出しの怖い顔になったと思うと、横たわるベッドから机を蹴り飛ばした。

 

 

「キャア!!ちょっと何してんの!?」

「うるっさいな!!あいつらの事忘れてたよ!!あのクソ野郎ども!!!クソクソクソクソォォォォォォォ!!!」

 

 明らかに彼の様子がおかしくなった。

 レオにはあいつらが誰の事なのか分からなかったが、そのあいつらがゆうきに相当なトラウマを植え付けたという事だけは直感で理解した。

 

「何!?溶岩島で何があったのさ!」

「聞いてよレオ!!さっきさー!!」

 

 

 

 

 ゆうきは事細かくレオに話した。

 所々ゆうきに都合のいいように捻じ曲げられた事実もあったが、それを見破れないほど、レオは頭が悪くなかった。

 その結果、レオの中では彼がいわゆる地雷行為を繰り返してきた迷惑ハンターだという事が結論づけられた。

 

「なぁ!?ルシファーとかいう奴晒してやろーぜ!!マジムカつくんだよあいつぅ!!」

「……悪いけど、晒されるのは絶対に君の方だよ」

「はぁ?なんで僕が悪いの?話聞いてた?レオも頭悪いね」

 

「あのね、話を聞く限りだと他のハンター達に迷惑を繰り返して、モンスター討伐にも大して貢献できてない雑魚野郎はどう考えても君の方なんだよ」

 

「はぁ!!??なんで僕が!?頭悪すぎるだろお前!!」

「頭悪いのも君だよ。ずっと思ってたけど、さっきから発言が幼稚すぎるよ。君歳いくつ?……って、そんな事はもういいか。 ほら、ジンオウガ行くんでしょ?早く準備しなよ」

 

 吐き捨てるようにレオは言うと、自分の武器を取りに部屋を出て行った。ゆうきは思わず怒って追いかけようとしたが、包帯を巻かれた傷跡が痛みだし、思わず動きを止めた。

 ふと自分の手を見ると、包帯だらけでボロボロな汚い手。

 自分が怪我人だということを忘れていたのだろうか。

 普通の神経をしてるやつなら療養中の身でありながら身体に鞭を打ち、ジンオウガの討伐へ向かうなど、絶対に言い出さない。

 

 彼も今の発言を撤回しようとレオの後を目で追うが、既にレオは部屋から消えていた。

 いや、そもそも自分から言い出した手前『やっぱ行かない』と言い出すのも彼のプライドが許さなかったので、仕方なくガンランスを担いだ。

 

「なんだよあいつ……!!」

 

 ゆうきはただ、吐き捨てるようにレオに悪態をつく事しか出来なかった。

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 レオとゆうきは一緒に渓流へとやって来ていた。

 馬車に揺られて数時間。レオにはなんの事なかったが、仮にも怪我人のゆうきにはかなり負担になったようでしきりに不調を訴える。

 内臓にもダメージが行っているのか、ゆうきは腹部を押さえて馬車から降りてこなくなってしまった。

 全く…こうなると分かっていたからレオは狩りに行くにも近場にしようと言ったのに…。

 彼の人の話を聞かない悪癖がここで返ってきたのだ。

 

「だから言ったじゃん。怪我人が無理するから」

 

「うるっさいな!!!!なんなんだよ!!もういいよお前!!自分一人で狩ってこいよ!!絶対助けてやんないからな!!」

 

 逆ギレしないでよ…。

 というかなんで私がジンオウガ狩ってこなきゃ行けない訳?

 狩りに行こうって言い出したのあんたでしょ?

 

「……ハァ、分かった。私、ちょっと行ってくるね」

「助けてなんて言ってくんなよ!!!僕を怒らせた君が悪いんだからな!!?」

 

 ゆうきが後ろでずっと吠えているが、レオはうんざりした様子で一度も振り返らなかった。

 

 銀色のリオレウスを彷彿とさせる弓を持ったレオは変わらずずっと喚き続けている後ろの虹色デブネコに一発矢を放ってやろうかと危険な思考をしてしまうが、頭を振って考えを捨てた。

 

(可哀想にね、ジンオウガ。このストレスは全てあなたにぶつける)

 

 彼女は相見えぬジンオウガを敵ながら哀れんだ。

 

 

 

 レオは一人、渓流を進んでいた。

 ナグリ村に専属ハンターとして雇われてからというもの、火山を中心に活動する事の多かったレオは渓流を歩くのも久しぶりだった。

 

 耳に聞こえてくるのは鉄を叩く金床の音ではなく、川を流れる水の音。

 虫の声や魚の跳ねる音さえも耳に新しくて思わず聞き惚れてしまいそう。

 思いっきり息を吸う。

 肺に入って来るのは少し冷たい山の空気。

 火山の思わず焼けてしまいそうな熱気ではない。

 

 ナグリ村の活気に溢れた賑やかな空気も好きだけれど、こういう冷たくて落ち着く空気というのもたまにはいいかもしれない。

 

 

 

 と、しばらく渓流の静かな環境を堪能していたら、渓流近くの釣りポイントで三人のハンター達が釣り竿を振っている姿を見つけた。

 

 三人並んで仲良く釣り竿を振っており、よほど夢中になっているのか遠くから見つめる私には気付いていないようだった。

 

 私も少し目を凝らしてハンター達を注視してみる。

 そしてすぐに気がついた。私は彼女達三人のハンターを知っている。

 

 一人は白を基調とした全身甲冑に身を包み、聖騎士のような印象を受ける。背中に背負うは対となる二つの短剣。私の装備と同じ、ナルガクルガから作り出したその双剣は獣の牙を思わせる。

 一人は金と紫で構成された派手な鎧を着込み、その背中には装備にも負けない輝きを放つ黄金の大剣が背負われていた。

 そして最後の一人は女の子だった。

 他の二人とは違い、女子力の高い洋服に短いスカート。背中に背負った太刀さえなければ、パティシエのような印象を受ける。

 少なくとも、モンスターを狩りに来るものの格好ではないだろう。

 まぉ、それはナルガX装備一式の私にも言えることかもしれないが。

 

「『カワシン』!!『とろさーもん』!!『時雨』!!」

 

 私は三人のハンターに向かって大きく手を振り、彼女達に向かって小走りで向かう。

 すると彼女達も遠くから走って駆け寄ってくる私に気がついたようで、時雨と呼ばれたハンターと目が合った。

 すると時雨は嬉しそうに表情を明るくすると、釣竿を投げ捨てて猛ダッシュで駆け寄ってきた。

 

「レオ!!久しぶりーー!!!!」

「うん!!久しぶりーー!!!!」

 

 私と時雨は思いっきりハグをした。

 後ろから時雨の分の釣竿を持ったとろさーもん、カワシンも合流し、懐かしい優しそうな笑顔を見せると私を取り囲む。

 

「お久しぶりですね!こちらに帰ってきていたんですか!?」

 

「いや、久しぶりに渓流の依頼を受けただけだよ。用が済んだら、また村に戻るわ」

 

 私がナグリ村の専属ハンターとして雇われる前、ギルドに名を登録する一人のハンターだった頃の話だ。

 時雨、とろさーもん、カワシンの三人とはよく一緒に狩りをする仲だった。

 その中でも特に私と時雨はウマがあった。同じ女の子同士だったからというのが大きかったかもしれない。

 

 四人で薬草採取に密林を走り回ったり、協力してティガレックスを捕獲したり…。

 ちょっとドジ踏んじゃって、アイルーにポーチのアイテム根こそぎ奪われた事もあった。

 

 

 でも、そんな時だった。突然転機が訪れた。

 あれは、私が火山で暴れているグラビモスを単独で捕獲した時だった。

 ギルドにクエスト完了の報告をしに戻ったその時、グラビモスの被害を最も受けていたナグリ村の村長に村専属のハンターとして勧誘されたのだ。

 もちろん、時雨達と別れてしまう事になるのは辛かったので最初はお断りをしようとしていた。

 でも困ってる人を助けるのがハンターだと時雨に諭され、悩んだ私はナグリ村へと移住する事になった。

 

 

 あれからもう二年。

 

 

 偶然にも二年ぶりの再会になったが、皆は何も変わっていなかった。

 あの時と同じ、優しい三人のままだった。

 

 

「レオの噂はベルナ村にも届いてるよー。アグナコトルとウロコトルの群れを単独で沈めたらしいじゃん」

 

「うんうん!なんだか私まで嬉しくなっちゃうんですよね!」

「や、やめてよ…。私なんて弓で遠くからチクチクしてるだけなんだから…」

「それが凄いと言ってるんですよ!弓だけでそれほどの伝説を残されるなんて本当に素晴らしいですよ!!」

「も、もう…!!」

 

 相変わらず、三人は褒め上手だと思う。

 私が何を言ってもおだててくるものだから皆と一緒にいると天狗になってしまいそうだ。本人達は無自覚かもしれないが、彼女達は人をダメにしてしまう素質がある。

 

「あ、そうだ!!私達、今ハレツアロワナとカクサンデメキンを釣りにきてるんだけど、レオも一緒にやらない!?」

「あ、あぁ〜…ごめん。もう、別のパーティでクエスト受注しちゃってて」

 

 途端に時雨は悲しそうな表情となり、分かりやすく落ち込んだ。

 

「そ、そっか…。それなら仕方ないよね…」

 

 そんな寂しそうな声色で言わないでよ…。こんなに断りづらくなるシチュエーションある?

 ふと隣を見るとカワシンまで苦笑を浮かべていた。時雨本人は全く自覚していないが、この決して相手にノーを言わせない交渉術までも昔と変わっていなかった。

 

「わ、分かった分かった。今の依頼リタイアするってギルドに報告してくるね」

「い、いいの!?ありがとう!!」

 

 時雨は途端に嬉しそうに表情を綻ばせ、上機嫌を隠さずに鼻歌さえ歌っていた。

 なんとも無邪気でカワイイハンターがいたものだ。

 

「ですが、大丈夫なんですか?レオさんが直々に受けられてる程の依頼なんですから、緊急性が高いんじゃ…?」

 

 とろさーもんは心配そうにしていた。

 

 確かに、今の私はギルドのハンターではなく、ナグリ村の専属として活動をしている。そんな私がわざわざ遠方の地である渓流にまで足を運んでいるとなると、何か大事な依頼だろうかと疑うのが自然。

 普通に考えれば、遠方のハンターも召集するほどに高難度の依頼、もしくは人手が足りていないの二つに一つであろう。

 ……私の腕が立つかどうかはまた別問題にするとして。

 

 だが、依頼とはいえ渓流に釣りをしにくるようなハンターがいる時点でハンターが人数不足だったから召集されたという可能性は低い。

 と、なると相当高難度の依頼が残る訳だ。

 

 とろさーもんの考えが凝り固まるのも無理はない。

 

「あ、大丈夫。パーティメンバーが駄々こねただけだから。この渓流にジンオウガが出たらしくてね」

「あぁー、そういや集会所でも話に上がってたね」

「まだ被害は出てないので脅威度も低めでしたし、確かに緊急ではないのかもしれませんね」

「そういう事。じゃ、私ちょっとキャンプまで戻ってクエスト変更してくるから。多分、パートナーのハンターも居ると思うけど」

 

 そう言ってキャンプへと足を返すと、そのすぐ後ろを時雨がついてくる。思わず振り返って彼女に向き直った。

 

「いや、釣りそのまま続けてていいよ?後で合流するからさ」

「せっかくだし、レオと少しでも長く一緒にいたいんだ。それに、相手の方にもちゃんと挨拶しておきたいし」

 

 時雨の言葉にカワシンととろさーもんも同じように頷く。

 全く…この人達は…。

 

「別にいいけど、今キャンプにいる人結構難しい人だから、がっくりしないでね?」

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

「おい!!おいレオ!!!そいつら誰だよ!!おい!!僕とレオの二人だけでしょ!?何勝手に男連れ込んでんだよ!!バカ!!」

 

 キャンプへ戻るなり、『やっぱり僕がいなきゃダメなんじゃんw』とか『雑魚の癖に僕を怒らせたからこんな事になんだろw』みたいに煽り散らかされるくらいは覚悟していたが、ぶつけられたのは煽りではなく、私が新しいハンターの皆と一緒にいた事に対する怒りだった。

 

 ひどいモラハラ発言だ。確かに君と二人でパーティを組んで渓流に来たのだから他の人達と一緒にいることはおかしな話だけれど、私は君一人と組むくらいなら時雨達と組み直した方が断然楽しいし、そっちの方がメリットがある。

 悪いけれど、協調性のない奴とパーティを組む気はないかな。

 

 

 と、ここで時雨が一歩前へと出る。

 

 私を跳ね除け、未だキャンプの中から動かない包帯だらけのグルニャン装備のゆうきを毅然とした態度で睨みつけている。

 普段温厚で滅多な事では怒らない時雨がこれほど不機嫌な姿になる所は初めて見る。

 しかもそれは時雨だけではない。同じく滅多に怒らないカワシン、並びにとろさーもんまでもが時雨に続くように前へと踏み出し、キャンプの中で横たわるゆうきを睨みつけていた。

 

 もしや、私が知らない所で面識があったのだろうか?

 

「久しぶりだね」

「お前あの時のクソ雑魚か」

 

 二人の言葉に確信を持った。

 やっぱり三人とゆうきは私より先に面識があったんだ。

 そして、時雨達の態度とゆうきの発言から察するに、きっとこいつは時雨達にも迷惑をかけていたんだな。

 

 温厚な時雨達を怒らせるなんて相当だよ?

 

「まさかレオとパーティ組んでるの?」

「そう、僕がいなきゃレオは勝てないからね」

「いやそんな訳ないじゃん」

 

 ゆうきがさりげなく自意識過剰過ぎる発言をしたので反射的に否定した。即座に否定された事が気に食わなかったみたいでゆうきはまた機嫌悪そうにする。

 

「じゃあなんで帰ってきたのさ?ほら、正直に答えてみろよ? 僕がいなかったからジンオウガ勝てなくて逃げ帰ってきたんじゃないの?」

 

「いや、まだジンオウガに遭遇すらしてないから。ここに来たのはパーティ解散して、依頼もリタイアする為」

 

 その言葉にゆうきはひどく動揺し、横にした身体を起き上がらせてベッドから立ち上がった。

 

「ハァ!?僕抜きでどうするつもりなの!?」

 

「時雨達とパーティ組み直して、採取クエスト受けるつもり」

 

 それだけ言うと、私は依頼契約のされた書類をその場で破り捨て、代わりに時雨の持つ魚採取のクエストに名前を記入した。

 

「ナグリ村までは自力で帰ってね。私はもう少し後で帰るから」

 

「お!おい!!マジで言ってる!?頭おかしいよ!!おい!!」

 

 立ち去る私の背中へ様々な言葉を投げかける彼だったが、その言葉に振り返る事はしない。

 時雨達もまた彼に一瞥をすることも無く、キャンプ地から離れていくばかり。

 まだ痛むのであろう身体を気遣ってキャンプから離れられなくなっているゆうきははただ大声で恨み言を呟くばかり。

 その声はしばらく続いたものの、私達が足を止めない事を察したらしい彼は途端に静かになっていった。

 

 

 そして、彼の声が止み始めたその時、時雨は振り返って後ろ歩きになりながらこう言った。

 

 

「お上手ですね♪」

 

 

 

 見事な煽り文句である。

 

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