死んだハズのXXハンター   作:ルフレオ

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三聖人と酒場にて

 

 時雨達の釣りクエストに途中参加した私は時雨達との近況報告を兼ねた雑談に花を咲かせていた。

 時雨達と離れてからの二年間、私はずっとナグリ村のハンターとして火山を中心に活動してきた事。古龍こそ巡り合ってないが、火山に生息するほぼ全てのモンスターを狩ったという事。ナグリ村に住まううちに、鍛治の技術まで磨いたという事。

 一つ一つ話すたびに、時雨達は楽しそうに頷いてくれる。私のなんでもない話を聞くことが本当に楽しいみたいで私も話しやすい。

 

「さっきのあいつと一緒に狩りに行った事あるの?」

 

 ふとゆうきの名前を出してみると時雨達は困った苦笑いを浮かべた。

 

「獰猛ガムートを捕獲した時、チラッとね」

 

 その時に一悶着あったとみて間違いないかな。

 

「レオはこのあとナグリ村まで帰るんだよね?彼の事は心配?」

「んー、まぁ何事もなければ村まで帰り着いてると思う。ただその〜、彼はまだ怪我人だからね。傷口が開いてなきゃいいんだけど…」

 

 彼には随分と邪険に扱われたものだが、それでも一度彼を手当てした身。少々不愉快ではあったものの、やはり彼の事を少し気にかけてしまう。

 

「レオさんの底抜けのお人好しは変わりませんね」

 

 とろさーもんがクスクスと鎧越しに笑う。一部界隈では『聖人』などと呼ばれているアナタにだけは言われたくない!

 

「お人好しなんかじゃないから…。ただ一度面倒見たんだから放っておけないってだけで…」

「それをお人好しって言うんだけどなぁ〜。そもそもなんで彼と狩りに来てたのさ?」

「彼が行くって言って聞かなかったの。怪我も完治してないくせに調子に乗って遠出して長時間馬車に揺られたもんだからあんなグロッキーになっちゃって…。結局私一人で出発するハメになっちゃった」

 

 それを聞いてまた三人は爆笑した。笑わせようというつもりはなかったのだけど、こんなバカみたいなエピソードそりゃ笑うよね。

 そうやって雑談に華を咲かせていくうちに、目標であった魚釣りはほぼ終了していた。このクエストが終わってしまえば、私はまたナグリ村へと戻らなくてはならない。きっと今頃、例の彼は不機嫌丸出しで私の帰りを待っている事だろう。そんな所に自分から帰らなくてはならないのは本当に憂鬱だし、せっかく再会出来た時雨達とはここでお別れというのも憂鬱だ。

 

「レオも集会酒場に顔だけでも出さない!?再会の宴だって開きたいし、ギルドマスター達も喜ぶよ!!」

「う、うん!!行く!!」

 

 時雨の提案に食い気味に反応をした。あともう少しだけ皆と一緒にいられるのが決定して嬉しさを隠し切れずない。

 自分でも若干顔がニヤケてしまっているのが分かる。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 久しぶりに訪れた集会酒場。

 懐かしい顔ぶれも多数見受けられ、すれ違い様に皆声をかけてくれた。こういう時に自分が積み重ねてきた人望と、周りの暖かさを感じる。

 

「マスター。お久しぶりです」

「あら?レオじゃない。ナグリ村から戻ったの?」

 

 集会酒場の主 ギルドマスターへと挨拶をするとマスターも私の事を覚えてくれていたみたいで、懐かしそうに目を細めていた。

 

「あなたをナグリ村に引き抜かれてしまってから、こちらも随分と忙しくなったの。おかげで他のハンター達の負担が増えたわ。あなたが戻ってきてくれるのなら、それで万事解決なのだけれど」

「考えておきますよ。でも、今しばらくはナグリ村にいたいです」

「フフ、いい返事を期待してるわ。それで?今日はなんの用かしら?」

「あ、すみません。時雨達と偶然再会をしたので、一杯飲みに来ただけですよ」

 

 マスターは拍子抜けをしたようにクスリと笑う。

 それなら、とマスターは一枚のコインを懐から取り出すと指で弾いて私に飛ばしてみせた。

 

「これは私からの餞別よ。程々に楽しむ事ね」

 

 頂いたコインを見ると集会酒場のマークが描かれている。

 普段使いしているお金とは違って、見た目も派手に細工されているし、なんとなくカジノなんかで使われていそうな特別なコインという印象を受ける。

 

「それさえあれば、今日一日は飲み食い無料(タダ)になるの。有り難く受け取りなさいよね」

 

 その言葉に酒場の店主も和やかに微笑む。

 意味を理解した私達は一気にテンションが高まってゆく。

 

「あ!ありがとうございます!」

 

 その夜は久しぶりに再会した私達の宴会で大いに盛り上がり、集会酒場はいつも以上に明るく輝いていた。

 

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

「エヘヘ〜♪とろしゃーもんさんが二人〜♪」

「シ!時雨さん酔いすぎですよ…!!ってアァアァッ!!服が!!服がはだけてきてます!!!だ!誰か助けて!!レオさん!どうか助けて下さい!!」

 

 日が変わって皆が寝静まりだす頃、すっかり酔っ払ってしまった時雨がとろさーもんにダル絡みをし始めた。

 普段は背中を預けられる勇敢な仲間とはいえ、こうして一皮剥いてみれば時雨だって一人の女の子。

 鎧越しにとろさーもんへと無遠慮に触れるその身体は柔らかく、とても小さい。小さくて柔らかいその手が触れるたびに時雨は女の子なのだという事をイヤでも再認識してしまい、とろさーもんは妙な劣情を抱いてしまいそうになる。

 極めつきは彼女から香るめちゃくちゃいい匂いだ。本当に毎日自分達と同じように見た目恐ろしいモンスター達を相手に汗水垂らしながら血飛沫を浴びているのだろうかと疑いたくなるほどに彼女からはいい匂いがする。

 側から見れば血の涙が出てきそうなほどに羨ましい話だが、“大切な仲間である時雨さんにイヤらしい気持ちを持ってしまうなんてあってはならない事だ!“という謎理論を持つとろさーもんにとっては、これらの猛攻はただの拷問であった。

 唯一時雨と同性であり、まだまだ余力を残しているレオの事を頼りたくなるのも必然と言える。

 

「えぇ〜イヤ。私も眠いもん。とろ君が家まで送ってあげたら?」

 

 が、レオは助けを求めるとろさーもんを一蹴。

 助けを求める仲間の手を振り払う彼女に罪悪感の文字はない。

 というのも、レオは時雨の親友であり数少ない同性のハンターという事もあって良き相談相手でもある。皆にとっての姉貴キャラという訳ではないが、それでも時雨にとってはどんな女性ハンターよりも頼りになる優しくてカッコいいお姉さん。

 時雨がレオによく懐き、ハンターの心得、モンスターの弱点といった基礎的な事はおろか、化粧の仕方にダイエットのやり方といったありとあらゆるお悩みの相談相手に彼女を第一に選ぶのも必然と言える。

 そしてレオがまだギルドで活躍していた時代、たびたびこんな相談を受けていたのだ。

 

『とろさーもんさんを振り向かせたい』

 

 そう、時雨はとろさーもんに淡い恋心を抱いていた。

 なお、この事はカワシンも知っている。肝心のとろさーもんだけが全く気付いていないのだ。

 そんな時雨のとろさーもんに対する並々ならぬ強い想いを知ってるレオの立場からすると、本人は意識していなくとも、せっかく想い人が意識してくれているかもしれないこの状況に水を差すほどレオも空気読まずではない。

 

「うぅ〜…時雨さん。後で僕の事殴ってくれてもいいですからね…」

「うへへ〜♪とろしゃーもんさん大好きです〜♡」

 

 レオが助け舟を出してくれないと分かると、とろさーもんは観念したように時雨の膝の下と首の裏に腕を差して一気に持ち上げた。

 いわゆる『お姫様抱っこ』である。こういうイケメン行動をさらりとしてしまうのがとろさーもんという男だ。彼は中々の人たらしである。

 

「それでは僕達はお先に失礼します。それと…もし明日時雨さんが僕に怒っていたら、明日一日はマイルームで休んでますとお伝えください…」

 

 時雨を抱えたとろさーもんが申し訳なさそうに集会酒場を後にする。残されたのはまだ余力を残すカワシンと少し顔の赤くなったレオとなった。

 

「時雨がお酒に弱いのは相変わらずだね」

「変に張り合って、結局酔い潰れて、なんだかんだとろ君に介抱してもらうところまでワンセットでね」

 

 時雨のもどかしい恋模様を知ってる二人同士、どうしたものかと二人仲良く笑う。その時ふと、カワシンが思い出したようにまだお酒の残るジョッキ片手に私に向き直った。

 

「ね、レオちゃん。実は、最近いい店を見つけてさ。よかったらそっちで飲み直さない?二人で飲むにはここはちょっと騒がしいからさ」

 

 突然の提案。

 私はチラリと周りを見渡す。夜も更けてきて人も大分少なくなったとはいえ、酒場は今なお賑わい、男達の騒ぐ声が今も響き渡っている。

 確かに、二人だけで飲むには賑やかすぎるかな。

 

「うん、いいよ」

「決まりだね!いや〜良かった良かった!一回誰かを連れて行きたかったんだよ!せっかくいい店を見つけても時雨ちゃんがすぐに潰れちゃうから、中々誰とも飲みに行けなかったんだよ〜」

 

 なるほど、と内心納得した私は自分の皿に残ったモスジャーキーを口の中へと入れた。

 

 

 〜〜〜

 

 

「へぇ〜〜……。確かに雰囲気よくて、いいお店だね」

「だろう?他の狩仲間に教えてもらったんだ」

 

 案内された店は意外にもバーだった。

 所々にベリオロスやホロロホルルといったモンスター達の姿を型取った小さな人形が置かれており、ちょっとカワイイ…。店全体が照明も暗く設定されているのも相まって落ち着いた雰囲気の漂うこのお店は確かにとてもいい店だった。

 

「まさかカワシンに二人で飲もうなんて口説かれるとは…。私、恋人は募集してないよ?」

「アッハッハ!レオちゃんの恋人は正直憧れるけれど、僕がベルナ村からナグリ村へ移住したくないから、ノーサンキュー」

 

 カワシンを軽くからかってみたが、彼は余裕の切り返しをする。

 流石だ。大人の余裕を感じる。

 

「それに、僕と一緒になっちゃったら必然的に()()()に住む事になるからね」

 

 ……カワシンの家へはギルド時代に一度だけ行った事がある。

 そこは正にモンスターの巣だった。

 ケルビ、ムーファ、アイルー、プーギー程度ならばカワイイものだ。全員を飼ってるのは流石に彼だけだろうが、どれか単体だけで見るなら全然家で飼育してる人はいるもの。

 だが、アプトノス、アプケロス、リモセトス、ズワロボスまで飼ってる人は絶対に他にはいない。果てにはガムートまでもが何故か飼育されていたのだからもう言葉を失った。

 時雨ととろさーもんと一緒に少し気圧されながら家の中へと案内された瞬間にアプケロスが威嚇の鳴き声を上げた時、もう二度とカワシンの家へは訪れない事を誓ったのだ。

 

「…ちょっと、考えちゃうわね。君がいくら好みのタイプの人だったとしても」

「だろう? と、それよりもさ。実は僕、レオちゃんに一つ伝えなきゃいけない事があるんだよ」

 

 カワシンが声のトーンを変えた。

 辺りが一気に静まり返る。

 え?何?まさか本当に愛の告白でもする気?

 

「とろ君の事だ」

 

 彼は一つの紙を私の前に置いた。・・・紛らわしい言い方しないでよ…。

 

「あれ?レオちゃん、なんだか顔が赤いね。まだお酒抜けてないの?水飲む?」

「平気だから!!」

 

 ついムキになって返事してしまう。こういう子供みたいな一面が出てしまうたびに自分がまだ未熟だと思う。

 

「うん?ま、まぁ…いいか。さて、とろ君の事なんだけど…レオちゃんは彼の話って聞いて何かピンと来てたりしない?」

 

 ?

 とろ君の話で?正直なところ、ピンとは来ていない。

 思い当たる節はあるにはあるけれど……

 

「時雨との恋話……とかではないんでしょ?」

「ブッブー」

 

 ほらやっぱり。ならば見当もつかない。

 

「『狂竜ウイルス』は知ってるよね?」

 

 

『狂竜ウイルス』

 それは、ゴア・マガラとシャガルマガラが放出する詳細不明の鱗粉である。この鱗粉を摂取してしまうと『狂竜症』という生物を凶暴化させる恐ろしい病を引き起こすのだ。

 

「もちろん知ってるけど…。もしかして、とろ君が感染してるの?」

「半分正解、半分間違い。最近、そのウイルスの突然変異種が発見されたのは知ってるかい?」

「いや…、もしかして、そのウィルスに?」

 

 カワシンは言い辛そうに淀むと、やがて首を縦に振って肯定を示す。

 

「まだ未成熟の『ゴア・マガラ』 成体の『シャガルマガラ』 そして成体寸前でありながら、シャガルマガラの撒き散らす成体阻害ウイルスを吸い込んだ事で脱皮不全に陥り、異形の者として死ぬ事しか出来なくなった特殊個体『混沌に呻くゴア・マガラ』 この三匹の撒き散らす狂竜ウイルスが一つどころに合体する事によって、偶然生まれた突然変異種………らしい」

 

 条件を聞くだけでも分かる位、もの凄く誕生するのが難しいウイルスだ。

 おまけに、元々狂竜ウイルス自体があまり空気中に長く留まらない代物。誕生する可能性は極めて低いとみて間違いないだろう。

 さらに運悪くそれを吸ってしまって感染するなど、まさに奇跡に近い確率ではないか。

 

 それでも、

 

「彼は感染しちゃった、と」

 

「……本当に、運が悪かったとしか言えないよ」

 

 なるほど、彼がそんな事になっていたとは。

 しかし、彼がウイルスに犯されているんだったら呑気に釣りクエストを受けて宴会なんて開いてる場合じゃなかったのでは?

 

「このウイルスは本当に特殊でね。空気感染とか飛沫感染の心配はいらないそうだ。まぁ…だからこそ、タチが悪い部分もあるけどね」

 

 …まるでこちらが考えてる事を見透かされてるみたいだ。頭に浮かんだ時点でカワシンは答えを話し始めている。これがベテランハンターの察知能力だというの?

 

 

 まぁ、それはそれとして…。

 彼の感染しているというウイルスが非常に稀なもので、タチが悪いものだというのは分かった。

 だが、そもそもの話───

 

「それはどんな病気なの?」

 

「それはね…」

 

 

 

 〜〜〜

 

 

「えへへ〜♡とろしゃーもんさ〜ん♪」

「はい、時雨さん。僕はここにいますよ」

 

 時雨の家の前にまで辿り着いたとろさーもん。

 彼女の家を数度ノックして、中からネコの鳴き声が聞こえると、数瞬後にドアが開かれる。

 

「おや!これは旦ニャ様ととろさーもん様!毎度毎度ご迷惑をおかけしますニャ!」

「いえいえ、時雨さんをお願いします。僕はこの辺で」

 

 彼女の家の実質的な支配人であるルームサービスに彼女を預けると、とろさーもんは足早に立ち去ろうと踵を返した。

 

 しかし、時雨は遠ざかっていく彼の姿を呼び止めた。

 

 

 

「えぇ〜♪ラメですよ〜♪とろしゃーもんさんはどこにも行っちゃラメです〜!」

「アハハハ……。それはちょっと…難しいかもしれませんね…」

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

「身体が『竜』へと変化していく病気」

 

 

 

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