ゆうき君は結局自力で村まで帰ったみたいです。
XXハンター ゆうきは不機嫌だった。
怪我の痛みからクエストに参加する事さえもできず、あげくには小馬鹿にしたような視線を向けられたこと。
ベースキャンプで寝込んでいたらレオが随分昔に一緒になったクソ雑魚ハンター達を連れてきて、鞍替えしたこと。
ちょっとカワイイと思っていたレオに自力で帰ってと冷たく突き放されたこと。
全てがゆうきをイラつかせ、荒み切った心のまま一人でナグリ村へと帰還した。
単身で帰ってきた彼のような男にさえも、ナグリ村の人達は優しく出迎えて笑いかけてくれた。だが、彼は鬱陶しそうに舌打ちすると、無言で医務室へと引きこもって外界を拒絶するようにベッドにくるまった。
その日結局、レオは帰ってこなかった。
医務室から出てこない彼を心配して村人達が用意してくれた夕食を乱暴に食べ散らかしたゆうきはそのまま眠ってしまう。
そして翌日、火山の噴火かと思うような男達の雄叫びで目を覚ました。
気持ちよく寝ていた時に雄叫びで叩き起こされたものだから、前日のイライラと合わせて彼の機嫌は最高に悪かった。
そんな時に医務室が開かれ、彼が不機嫌であることの大元の原因である女性ハンターが現れた。
レオだ。
「おいレオ。僕に何か言う事あるんじゃないの」
不機嫌を隠す事なく、ゆうきはレオを刺さるような目つきで睨む。
しかし、普段から異形のモンスター達と命のやり取りを行い、見た目恐ろしいモンスター達から死ぬほど睨まれ続けているレオにとって、ゆうきがどれだけ睨みを効かせてもそれはアイルーの唸りと同等であった。
レオはわざとらしく首を傾げてとぼける。
「あなた汚いけどちゃんとお風呂入ったの?…とか?」
「バカなの!?謝れよ!!僕を置いて一人でどっか行ったのを謝れって言ってるんだよバカ!!!頭悪すぎるだろお前!!!」
「アッハハ!!ごめんごめん!!はい、謝ったわよ?」
レオはゆうきを完全に馬鹿にしていた。
レオの舐め腐った態度と安い挑発に、ただでさえ煽り耐性が低くて不機嫌なゆうきは耐え切れず、爆発する。
「お前ェ!!絶対に許さないぞ!!!!」
ゆうきはレオに激昂し、大振りに拳を振り上げて殴りかかった。
しかし、レオは歴戦のハンターである。
予備動作の大きい殴りかかりなど当たり前のようにいなして逆に足をかけて転ばせる。
「この……なに避けてんだよオォ!!!!」
「いや避けるでしょフツー」
派手に転んだゆうきは恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にしながら、もう一度レオに殴りかかる。
が、これもレオは簡単にいなしてまた地面に転ばせた。
「悪いけど私、こんな所で殴り合ってる時間ないのよ。これでおしまいって事で、ね♪」
激昂したゆうきをいとも簡単にあしらってみせたレオは、地面に倒れたゆうきに気持ちの良い笑顔を向けた。
中々同じ人間相手では、このように華麗な立ち回りが出来る機会が少ないので、いい気になってるのである。
「はぁ!?なんだよ!逃げるのかよ!!はい!お前逃げたから僕の勝ちー!!バーカバーカ!!クソ女!!」
地面に這いつくばって、レオを見上げるゆうきはこれ見よがしにレオを煽りまくる。
……本当に幼稚なハンターだとレオは思った。
一体今のどこに君が勝ちになる要素があるのだろう?
煽り文句のつもりにしても、あまりに幼稚すぎてレオの心には一切響かなかった。
「アッハハ!!うん、別に君の勝ちでいいわよ?それと私、明日からナグリ村を去る事になったの。私の家は売りに出すつもりだけど、よかったら君が使っていいわ」
レオはさらりと言った。
レオの言葉を聞いてゆうきはひどく慌てふためき、彼女の足を掴んだ。
「ど!どういうことだよ!?ナグリ村出てくって何!?」
「ちょっと離してよ変態!!言葉の通りよ!!私、時雨達と旅に出る事にしたの!! 村長にも話は通してあるし、もう決定!!」
ゆうきはレオがいなくなる事にショックを受けていた。
何故かというと…これだけ彼女に嫌われる態度を取り続けているというのに、彼自身は彼女と結ばれるのだと信じて疑っていないからである。
何故そんなありえない妄想をしているのか?
ひとえに、彼女が可愛かったからだ。
ルックス百点の彼女だったからこそ、ゆうきは一目見た時から彼女の事をお気に入りに登録した。
そして、こればっかりはどうしてそんな思考になるのか全く分からないが、ゆうきは自分がレオに好かれているのだと信じて疑わなかった。
自分はレオの事をお気に入り。
レオは自分の事が好き。
自分勝手すぎる思い込みにより、レオはきっと自分から離れたりしないだろうと根拠なく決めつけていたのだ。
今日、その思い込みはいとも簡単に打ち砕かれてしまったのだが。
「お、お前は僕と離れ離れになっちゃっていいのかよ!?」
「うん」
当然とばかりに即答した彼女は掴まれた足を振り解いてスタスタ部屋を出て行った。
レオの素っ気ない態度に傷つき、ゆうきはただ呆然とする。
(ま、まぁ……別にいいか。レオは部屋を借してくれるっていうし……。あ、そうかそうか!!きっと帰ってくるまで僕に家を守ってて欲しいって言ってるんだな!?そういう事なら仕方ないっか!)
とんだポジティブ思考のゆうきはそう結論づけると、医務室の窓から顔を出して部屋を出ていったレオの姿を探した。
少し見回してみて、すぐに見つけた。
レオはゆうきの視線に気付いてないようで、一人のハンターと仲睦まじそうに話している。その姿にゆうきは強い嫉妬を感じた。
(あいつ…!!僕という男がいながら他の奴と話すなんて!!)
そもそもお前のモノではない。
一言文句を言ってやろうと窓から乗り出した彼は、そのハンターの姿を観察して………一気に血の気が引いた。
レオが仲睦まじそうに話すハンターの姿は異様だった。
身につけた装備は羽帽子に赤い燕尾服。
スマートな外見は狩人というよりはまるで貴族だ。
腰には短剣を携えているが、それはモンスターの頑強な甲殻相手には役に立たないであろう。
つまりその短剣はモンスター用というよりは、対人用。
そのハンターの姿を見て、彼は慌てて身を隠した。
「ギ…ギルドナイト…!!?」
ハンター達の間に囁かれる、ギルド専属で様々な任務を請け負うという謎多きハンター達。
彼等の任務は、表上では未開拓地の調査やモンスター討伐と言われているが、裏では不正を行うハンター達の粛清を行う暗殺者としての汚れ仕事が含まれているのだという。
そして当然、様々な迷惑行為を繰り返してきて害悪ハンターとしての地位を確立している彼もまた粛清対象なのだ。
「ど、どうしてここにいんだよ…!?コ、殺される…!?」
ゆうきはひどく怯えていた。
そして、ふと気がついた。
もしも自分一人だけがナグリ村へと残っているときに、ギルドの人が視察にでも来たら……間違いなく自分の存在がバレる。
最悪の場合、あの時のルシファーと名乗る女ハンターが今度こそ殺しにやってくるかもしれない…!!!
そう思うと…ゆうきが取る行動は一つしかなかった。
〜〜〜
レオはギルドナイトの人と話を終えると、最後に自分の家へと向かう。
家の前ではルームサービスのアイルーが外に出ていた。
帰ってこない私を心配しているのか、わざわざ玄関前で立ち尽くして退屈そうに足元の石ころを蹴飛ばして遊んでいる。
近くを人が通るとハッとしたように顔を上げ、相手を確認すると、また視線を下げて残念そうに石ころ遊びに戻る。
え、カワイイ…。
「ただいま」
「ニャ…?…旦ニャサマーー!!!」
ルームサービスは私を見つけると腹に向かって一直線に突っ込んできた。
「どこ行ってたんですニャー!!心配したんですニャー!!」
「アッハハ!ごめん!ちょっと集会酒場で飲んでたらこんな時間に…」
「ニャー…。なんにせよ帰ってきてくれて良かったですニャ。コホン!!それはさておき……お話は聞いておりますニャ。 ナグリ村を出ていかれるのだとか」
「……耳が早いね」
「村人の方が教えて下さいましたニャ。……旅立ちの準備は出来ておりますニャ。私は、今後は村長の家にお世話になる事になっていますニャ。旦ニャ様がいつか必ず帰って来て下さる事を信じ、その時まで待っておりますニャ」
何から何まで用意がいいなぁ…。もう早速この子を置いていきたくなくなってきている。
「ありがとう…必ず帰ってくる。あ、この家は他の人にあげるつもりだから、心配しないで」
「待って待ってレオ!!!僕も連れてって!!」
レオの後ろからうんざりする男の声が近づいてくる。
レオは深く溜息をつくと、後ろを振り返った。
「なに?なんの用?」
追いかけてきたうんざりしている男、ゆうきにレオは面倒くさそうに振り返る。
「お前旅に行くって言ってたよな?僕も連れてって!!」
その言葉にレオは顔をしかめた。君を連れていくなんてイヤすぎる!!
「いきなり何言い出すの?」
「いいじゃん!ナグリ村から出ていきたいんだよぼくは!!一人増えても変わらないだろ!?」
その一人が君となると、大分変わるんだけど…。
「無理だから!この家あげるって言ってるでしょ!?私も荷物とか全部引き上げるからここで我慢しなさい!!」
「いや頼む!!レオと一緒に行きたいんだよ僕は!!」
「大体なんでいきなりそんな事を……」
と、ここでレオはさっきまで話し込んでいたギルドナイトの事を思い出す。
そして、レオの頭の中にもギルドナイトの仕事の内容が浮かんでくる。
偵察・調査、そして粛清………、あぁー、なるほど。
「もしかして、ギルドが怖いの?」
図星を突かれたゆうきはひどく動揺して否定する。
「ちち!違うし!!僕にかかればギルドナイトとか余裕に決まってんじゃん!!」
……なるほど、納得だわ。
レオは彼の弱みを一つ握った。
ギルドナイトを恐れている事を知られたゆうきはバツが悪そうにしていて目を合わせようとしない。
「まぁとにかく着いてくんのはダメだから!」
「だったら勝手についていってやる!!」
着いてくんなって言ってるでしょ…?
うぅん…マズイ…。
このまま行けばこの男は私達の旅に寄生する気満々じゃないか。
今からでもギルドナイトの人に突き出す?で、でもなんか旅立つ前にいらん騒ぎなんか起こしたくないし…。
ど、どうすれば…?
考えたレオは、彼の弱みを振り返り、一つの案を思いついた。
それはゆうきに交換条件を出す事だ。
「ギルドに突き出されたくないんだったら、私との約束を絶対に守る事!!それが条件よ!!」
「ハ!ハァッ!?約束ってなんだよ!!?」
「そうね…。
一つ目は、私の言う事は絶ッッッ対に聞く事。
二つ目はもう誰にも迷惑かけたりしない事。
つ目は勝手についてくるんだからその分働く事!!
どれか一つでも守れてなかったら即刻ギルドに迎えに来てもらうから!!」
脅しである。
せめてこいつの手綱をしっかり握っておかなくてはこの先どんな被害を出されるか分からない。
「なんだそんなことか。いいよ、約束してやる」
……相変わらず上から目線なヤツ…。
「もう一回言うね。
一つ、私の言う事は絶ッッッ対に聞く事。
二つ、誰にも迷惑かけない事。
三つ、勝手についてくる分、働く事。
守れなかったら即刻ギルドに迎えに来てもらうから!」
「分かったよ!守るよ!!絶対に!!」
この日、ゆうきとレオの交わした約束は一生涯の契約となる。
そしてこれから先の遠い未来…ゆうきはレオと交わしたこの約束を破る事になるのだが……今はまだ、誰も知らない未来の話。
〜〜〜
「え、えと…レオさん?どうして、その人がここに?」
集会酒場へと集合した時雨達は、遅れてやってきた私と、隣にいるゆうきの姿に目を丸くしていた。
「あぁ〜…ごめん。この子も連れていくことになっちゃって…。だ、大丈夫!!絶対迷惑かけないよう、手綱は握っておく!!」
「いやいや!!どういうこと!?ちょっと君!もしかしてレオの弱みとか握ってるの!?サイテー!!」
「クソ雑魚は黙ってろ!!」
「ちょっとゆうき!!」
レオは彼の名前を叫ぶ。
すると、途端に彼はおとなしくなった。
「す、すまん」
それどころか、時雨に対して謝罪さえしたのだ。
「え?何?ど、どういうこと?」
「弱みを握ってるのは私の方ってこと。
もし私の知らないところでこの子が迷惑をかけたら、すぐに教えて?」
レオに嵌められたと勝手に感じているゆうきは心の中で舌打ちをした。