死んだハズのXXハンター   作:ルフレオ

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船に揺られて

 

 四人+一人は港へとやってきていた。

 

 

 

 集会酒場へ集合した私達はバルバレへと向かう事にした。

 

 バルバレとは船上の集会所を中心にして雑貨屋や武具屋といった商いを営む一団が集まって出来る移動式の市場だ。

 世界各地を移動するというその性質から「知りたいことがあったらバルバレに行け」と言われるほどに様々な情報が集い、依頼を求めるハンター達も多く集まる。

 

 とにかく少しでもとろさーもんを蝕む病魔の情報を求める私達がバルバレへと向かうのはごく自然な流れである。

 そして、そのバルバレが現在は海の近くに滞在しているとギルドマスターに教えられたので、こうして港へやってきているという訳だ。

 

 

 

 全貌を捉えるのにも一苦労な巨大船や漁師の乗り込む小型船などが停泊した港の中で、一際大きく存在感を放つ巨大船。

 他とは違ってエンジン音が一際やかましく、乗り込む人の数も一割程度多いような気がする。天に向かって伸びるマストや竜骨はギシギシと音を立てており、雨風に晒されて剥がれ落ちた塗装が船の年季を物語る。

 

「あの船だね」

 

 カワシンの案内の下、時雨、とろさーもん、レオ、ゆうきは桟橋から続々と乗り込んでくる人混みに流されるようにして巨大船に乗り込んだ。

 

 四人とも普段の重苦しい鎧ではなく動きやすい普段着を身に纏ってカワシンの背中を追いかける。カワシンは甲板の下を通り抜けて二つの小部屋へと案内した。

 

「ここで休めるんだ。荷物とかはここに置いてくように」

 

 

 部屋の中は少し狭い。荷物を置けるようなスペースも限られているし寝床など簡素なベッドが二つ並ぶだけであった。そんな簡素な部屋が二つだけ。ベッドの数は四つ。こちらの人数は五人。

 あと一つ足りない。

 

「いや〜…三人部屋確保が出来なかったんだ。悪いけど、二人部屋に男三人だからかなり狭いぜ?」

 

 カワシンは申し訳なさそうに頬をかく。とろさーもんは問題ないと優しく微笑んだが、ゆうきは明らかに不満げだった。

 が、レオがすかさず咳払いをすると、渋々分かったとだけ返事をする。

 それでも彼の態度からは不機嫌なオーラが滲み出ている。同じ部屋で過ごすことになる予定のカワシンととろさーもんはさぞ居心地悪い事だろう。

 

「…ねぇレオ。本当にどうして連れてきたの?」

 

 身勝手な振る舞いに我慢ならず、時雨は連れてきたレオに詰め寄る。

 レオも思わずたじろぎ、居心地悪そうに目を逸らした。

 

「う、うん…。本当に、なんでだろ?ごめん…」

 

「おいお前、僕になんか言いたい事あんのかよ?」

 

 ゆうきは不満そうな時雨に対して苦言を漏らした。自分の態度の悪さに自覚はないのだろうか?

 

「当たり前でしょ?そんなひどい態度取り続けるんだったら一緒に旅なんて出来やしないよ」

 

 時雨の言葉にゆうきは激昂した。相変わらず沸点の低い男である。

 

「は?僕の態度悪くないだろ」

 

「悪いよ。自覚ないの?」

 

「お前が頭悪いだけだろ」

「ゆうき!迷惑かけるのは!?」

 

 レオが咄嗟に叫ぶと、ゆうきはバツが悪そうに舌打ちをする。

 

「本当にごめんね…。あんまりだったらギルドに引き渡すから」

 

 自分のせいで皆に迷惑をかけてしまってるのが情けない

 

「二人は時雨の部屋に行きなよ。

 私が部屋のペアになるから」

 

 私のその発言に、ゆうきは途端に下卑た笑いを浮かべて上機嫌になる。

 

「それいいじゃん!

 僕とレオが同じ部屋で寝るのが一番だろ!」

 

「ダメ!!レオとこいつが二人きりとか絶対にダメ!!」

「そうですよ!!女性と男性が同じ部屋というのはよろしくありません!!」

 

 とろさーもんと時雨が強く反対した。

 二人の言い分は正しい。

 が、この虹色デブネコを連れてきたのは他でもない私なのだ。責任を感じているし、私だったら仮にこいつが夜這いを仕掛けてこようと難なく対応できる自信がある…し、もししてこようもんならお望み通りギルドにお迎えに来てもらうだけよ。

 

「お前ら嫉妬すんなよwレオはもう僕なしじゃ生きられなくなって「ちょっと黙ってて」

 

 レオは分かりやすく調子に乗ったゆうきを黙らせると、心配する時雨達に向き直った。

 

「大丈夫。寝込みを襲われるような事にはならないから。というか…時雨こそいいの?せっかくのチャンスなのに…」

 

 私は時雨の肩を抱き寄せると、男達に聞こえないように彼女の耳元でささやく。

 

「とろ君と一晩一緒に寝られるチャンスよ?カワシンも空気読んでどっか行ってくれるだろうし…既成事実作っちゃえば?」

 

「………………そ、それでもダメ!!レオの身の安全の方が大切!!」

 

 少し揺れたみたいだが、それでも彼女の意志は変わらない。でももうあと一押ししたら行けそうだったのでカワシンに目で応援を送る。

 それは私とカワシンの二名で構成された『ときとろ見守り隊』の仲間内でのみ伝わるアイコンタクトである。

 

「レオちゃんなら大丈夫だよ。時雨ちゃんもとろ君と見ただろ?なんでかは知らないけどあいつはレオちゃんに頭が上がんないみたいだから」

 

 カワシンの一押しが決め手となる。

 

「そ、そうですかね…。レオさん、本当に大丈夫?」

 

「大丈夫。私だってなんも対策考えずにこんな事言わないから♪」

 

「フッヘヘ!!だってさ!さっさと部屋に引きこもってママのミルクでも飲んでたら?」

 

 問題のゆうきはどことなく能天気に構えているレオの肢体をなんの遠慮もなく舐め回すようにイヤらしい目で見つめ、鼻を膨らませて何かを期待するように息を荒くする。

 

 そんな彼の様子に決して小さくない嫌悪感を覚えた聖人組は思わずレオを見つめる。

 

「本当にいいの?

 ゆうき…だっけ?彼に襲われるかもとかは考えないの?」

 

「うん、絶対に大丈夫。

 皆に迷惑かけてるんだし、このくらいは」

 

 

 

 

 

 

 

 その後はそれぞれが思い思いの時間を過ごした。

 

 甲板の上で手すりにもたれかかったり、談笑をしたり、軽く素振りして勘を取り戻そうとしていたり。

 やがて船は動き出し、みるみるうちに陸から遠ざかっていく。

 

 

 生まれ育った大地が遠くなってゆくにつれて、レオの中で物悲しい気持ちが強くなっていった。

 

 寂しさを紛らわすように、タバコを咥えて火をつける。

 煙を肺に吸い込み、吐き出す。白い煙が空に広がり、やがて静かに消えていった。

 

 タバコを吸うのも久しぶりだ。

 時雨達はタバコを誰一人吸わないので、こうやって一人でいる時にしか吸わないようにしている。

 あまり好んで吸う訳ではないし、中毒症状が出るほどのヘビースモーカーでもないので吸わない日が続いても問題ない。

 とはいえ、こうやって物悲しい時間が続いたりするとついつい火をつけてしまうのだ。

 

「レオちゃんがタバコ吸ってるの、久しぶりに見たよ」

 

 カワシンが私の隣に立ち、優しく微笑む。

 私の風上に立っているので、彼に煙は飛んでいかないと思うけれど、それでもカワシンを心配して火を消そうとする。

 

「大丈夫大丈夫。火を消す事ないよ」

 

 彼は穏やかに笑いながら甲板の手すりに持たれかかった。

 少し躊躇ったが、まだ火をつけたばかりで勿体無かったので、カワシンの言葉に甘えて咥え直して煙を吸う。

 

「ごめん、これだけ吸わせて?」

 

「それだけと言わずに何本でもいいさ。

 ていうか、辞めてなかったんだね。ソレ」

 

 タバコを摘む私を真似て、人差し指と中指を立てて唇を潰す。

 からかわれてるような気がして少し恥ずかしかったが、冗談ぽく笑うと一つ煙を吐き出した。

 

「たまにしか吸わないけどね。

 考え事をしたい時とか、なんとなく口寂しい時とか」

 

 煙を吸い、遠くなっていく街を見ながら、カワシンと二人並んで甲板の手すりに持たれかかる。

 

「家の動物達はどうなったの?」

 

「友達が預かってくれてる。

 世話をかけて申し訳ない」

 

「そう、よかった」

 

「それと、レオちゃんにお礼言い忘れてたよ。

 皆を連れ出してくれて、ありがとう」

 

「ん…別にいいよ。

 カワシンだって納得できない自分がいたから、私に話してくれたんでしょ?」

 

 図星を突かれたらしいカワシンは居心地悪そうに笑った。

 

 

 二人で海を見ながら談笑を続ける。

 やがてタバコの火が消えて煙が出なくなったので、私が吸い殻を海に投げ捨てると、彼は私の脳天にチョップをした。

 

「なによ?」

 

「ポイ捨ては感心しないな?」

 

 カワシンは生き物が大好きだ。

 無数の生き物が住む海を汚すような真似を目の前でされたので、彼なりに苦言を吐いたつもりなのかな。

 

「あぁ…、ごめんね」

 

「バツとして、元気ドリンコを奢りなさい」

 

 『それが目的か』と控えめに笑うと、言われるがままに船内の雑貨屋から元気ドリンコを自分の分と合わせて二つ購入し、片方をカワシンに投げた。

 

「…この旅で、とろ君の病気は治るのかな」

 

 元気ドリンコを一口飲んだカワシンは不安そうに空を見上げ、私に尋ねた。

 いや…私に尋ねた事には間違いないのだけれど、その聞き方はまるで空に聞いているようだった。

 いるかどうかも分からない空の神様に問うように。

 

 私はその質問の答えを持っていない。

 だから、曖昧な返事をする事しか出来ない。

 

「……さぁ。でも、必ず治してみせる」

 

「……うん、必ず治そう。この旅で」

 

 

 カワシンはもう一度固く決心を決めたらしく、その決心ごと飲み込むように元気ドリンコを豪快に飲み、少し余った分は海に捨てた。

 

「あら?ドリンクなら捨ててもいいのかな?」

 

 奢らされた腹いせに、彼の悪行も声に出して指摘してやる。

 彼は余裕げに空になったビンを掲げた。

 

「元気ドリンコだからノーカン。魚が元気になってちょうどいいさ」

 

 イタズラに微笑むと、彼は船の下層へと潜っていった。

 …空のビンはしっかり分別されたビン入れに捨てていた。

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 しばらく船に揺れていると少し外が暗くなってきていて、自然と小腹が空いてくる。

 船内に戻ると食堂は既に大勢の船乗り達で賑わっていた。その中に時雨達の姿もあり、私に気がつくと元気よく手を振っている。

 私もすぐに自分の分の料理を受け取ると、時雨達の座る机に合流する。その中には、なんだか落ち着きのない様子で挙動不審なゆうきの姿もあった。

 

 ゆうきはしきりに自室へ戻ろうと私を急かしてきた。

 『少し汗臭いから風呂に入ってきたらいい』だの『あんまり食べすぎると太る』だのとそこそこ失礼な事を言われる。

 食事中にそんな気分が害される事を言われては私だってストレスが溜まる。

 

 でもここで怒鳴り声を上げるわけにもいかないので、適当に『あとで部屋に行くから』と言うと、ゆうきは上機嫌に部屋へと戻っていった。

 私の気のせいだと嬉しいのだが、上機嫌で部屋へ戻る彼の股間部が膨らんでいるように見えた。

 

 意気揚々と食堂を去る彼の様子を見たとろさーもんが思わず苦笑いをこぼした。

 

「あの…、レオさん。やはり、僕と部屋を交換するべきですよ。

 その……、なんだか、僕の目には彼は…」

 

 レオさんを狙ってる。

 とは言い出せなかった彼は、口をつぐんで恥ずかしそうに目を逸らす。

 

 

「大丈夫だって。

 私だって、彼と同じ部屋で寝るのはイヤだからちゃんと対策考えてる」

 

 そう言うと、三人はどういう事?と疑問を浮かべた。

 

「私は部屋のペアになるとしか言ってないでしょ?

 寝床は別よ」

 

 私は船に付属しているベランダを指差した。

 そこには寝心地良さそうなハンモックがあり、夜風になびいて揺れている。

 

「毛布と風よけも見つけてるわ。

 一回ああいうので一晩寝てみたかったの」

 

 すると、時雨達は安心したように爆笑した。

 

「それならそうだと最初から言ってよ!もうー!!」

 

「アッハハ!!だってあいつがいる前じゃ言える訳ないでしょ?」

 

「それでも部屋は変わりますよ。

 夜風は冷えます。女性のレオさんをそんな寝させ方はさせられません」

 

「平気だって。

 それにやってみたかったって言ってるでしょ?」

 

「いやそうは言いましても…」

 

 なおも食い下がらないとろ君。

 マズイ。彼はこう見えて頑固な所がある。

 私が部屋で寝ると言わない限り、向こうは折れてくれない可能性がある。

 このままではせっかくの時雨ととろ君が同じ部屋で寝られるかもしれない状況が水の泡になってしまう。

 

 仕方ないので、私はカワシンに目で合図を送る。

 

「あー、とろ君。レオちゃんが寝てみたいって言うんだし、ここは彼女の意思を尊重するべきだよ」

 

「で、ですが、女性を外で寝させて男が部屋の中というのは…」

 

「レオちゃんの意見も尊重するべきだよ?」

 

 カワシンがそう言うと、とろ君は納得のいかない様子ではあったが、食い下がる。

 

 私はとろ君と時雨に見られないよう、カワシンに向かって親指を立てた。

 カワシンもまた、私に親指を立てる。

 

 

 

 

 その日の夜、私は満点の星空の下、たった一人でハンモックに揺られていた。

 思いの外、毛布が暖かくて気持ちがいい。これなら寒さの心配はいらなさそうだ。

 今頃、あの虹色デブネコは私が帰ってくるのを股間を膨らませながら全力待機している事だろう。

 

 私はそんなデブネコの姿を一人で想像し、布団の中でクスリと笑った。

 

 





次回、時雨の部屋の一晩
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