死んだハズのXXハンター   作:ルフレオ

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波に揺られる少女

 

 

 

 皆で食事を済ませたそのあと──

 

 

 時雨達の眠る一部屋のシャワーを借りる為にレオがやってきた時の事だった。

 

「うっわ、なにこれカビ生えてるじゃん…汚いなーもう」

 

 シャワーを浴びているレオの独り言が時雨の耳に届いたそのとき、時雨の中に眠る乙女の感情が大音量で警告音を発した。

 故に、時雨は自然と自らの武器を手に取るのだ。

 

 レオがシャワーを浴びている最中、時雨はシャワー音を背に受けながら自らが愛用する太刀『妖刀 鬼怨斬首刀』を杖として洗面所のドアの前で仁王立ちをしていた。

 

 何故か?

 一言で言うならば、見張りだ。

 

 レオの性格から考えて、例えとろさーもんとカワシンの二人に(二人の性格的にあり得ないだろうが)風呂場を覗かれたとしても『ちょっとエッチー♡』と冗談ぽく笑うだけで全く気にしないのだろうけれど、そこはやはり同じ女の子。

 守るべきものが多い同じ乙女として、別にレオに言われずとも自然と時雨はレオの純潔を守ろうと立ち上がった。

 乙女の団結力はこういうときに発揮されるのだ。

 

「時雨ちゃん、別に僕ら覗きなんてしないから」

 

 少し離れた所で愛用する黄金の大剣『真名ネブタジェセル』を手入れしているカワシンが軽い口調で言う。

 傷つけないよう慎重に取り扱う手入れはとても手慣れたものであり、普段から物を大切に扱う彼の心優しい性格が表れている。

 

「それは…もちろん信じています。でもそういう問題ではなく、一人の乙女として必要な警備なんです。 万が一、という事がないとは言えないんですから」

 

 カワシンは可笑しそうに笑っていた。

 もしや、本当にレオのシャワーを覗こうと考えてたとか?

 

 …そりゃ、レオは可愛いですけど…。

 妙な嫉妬が時雨の中に生まれた時、シャワーの音が止んで風呂場のドアが開いた音がした。

 

「あ、レオちゃんが出たね」

「みたいですね。………え?なんで分かったんですか?」

「さぁ〜、なんでだろうね?」

 

 カワシンさんはイタズラっぽく笑う。

 そして、彼の隣では顔を赤くするとろさーもんさん。

 

 

 まさかどこか覗き穴でもあるのか!?と思いながら二人にジト目を向ける時雨。その視線に耐えられなくなったとろさーもんが申し訳なさそうに手を挙げた。

 

「すみません…最初からずっと、音、漏れてました」

 

 ・・・・・・

 

 ギギギ…と機械的な音が鳴りそうな速度で首を動かし、カワシンを睨む時雨。

 カワシンは悪びれる事なく、舌を出す。

 

「ね?覗きはしてないでしょ?」

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

「それじゃ私戻るんだけど…、そこの二人、大丈夫?」

 

 レオの先には頬にキレイな紅葉跡のついたカワシンさんととろさーもんさん。

 

「問題ないよ」

「自業自得というものです」

 

 私に二人がぶっ叩かれた事を知らないレオは不思議そうな表情を浮かべたまま、ドアを閉めた。

 

「さて、それじゃ僕達もそろそろ寝ようか」

 

 カワシンさんが一度手を叩き、空気をリセットする。

 

「分かりました。時雨さんはどちらのベッドを使いますか?」

 

 目の前には二つのベッド。

 私達三人で狭いキャンプの中に押し込まれて眠ることはあったけど、同じベッドの中というのは流石に未経験だ。

 

「えと…では左のベッドをお借りしても構いませんか?」

 

 正直別にどちらでもよかったのだけど、備え付けの窓から月明かりが入ってきていて、なんとなく幻想的に見えたから左を選んだ。

 とろさーもんさんとカワシンさんは問題ないと笑う。

 

「それじゃ、僕は右で寝るから、とろ君と時雨ちゃんは左で寝てね」

 

 そう言うとカワシンさんはさも当然のように荷物をベッドに乗せて自分一人でベッドを占領し始めた。

 え、待って待って?

 男女別れて寝るのではないのですか?

 

「あ、あれ?カワシンさん。僕と時雨さんが同じベッドで眠るのですか?」

「? 僕はそのつもりだったけど?」

 

 なんでそうなるのですか!?

 

「で、ですが時雨さんは女性なのですよ?カワシンさんもこんなむさ苦しい男と同じ布団は不本意だと思いますが、同じ男同士、僕とカワシンさんが一緒に寝るべきですよ」

「いやはやごめんね?僕ってば結構寝相悪くてさ、悪いんだけどベッドは一人で使わせてほしいんだよね〜」

「えぇ!!?イ、イヤそう言われましても…」

 

 と、いきなりカワシンさんがブシドースタイルのスタイリッシュ回避かと見紛うスピードで私を連れ去り、部屋の隅に連れて行かれた。

 

「カ、カワシンさん!いきなりなんですか!?」

 

「とろ君にハニートラップを仕掛けるチャンスだろ?今こそ勇気を振り絞れ!!」(小声

 

 !!!

 そ、それは…!!

 

「ピンチはチャンス!!僕は反対を向いて眠るようにするから!!」(小声

 

 カワシンさんは勢いよく親指を立てる。

 反対を向いて眠るって…、一体私が何をすると思ってるんですか。

 で、ですが…確かに、本当は古龍種なんじゃないか?って疑いたくなる位に私の数々のハニートラップに引っかかってくれないあの鈍感狩人さんと違和感なく一夜を共にできる千載一遇のチャンスなのもまた事実。

 ・・・ピンチはチャンス。

 その言葉を胸に、私はカワシンさんと同じように親指を立てた。

 

(カワシンさん…!私は…!時雨は今日!大人になってきます!!)

 

 

 〜〜〜

 

 

 なれるはずもなかった。

 

 部屋が消灯され、念願の添い寝を果たす事が出来たものの…とろさーもんさんも私自身もお互いに意識し合った結果、狭いベッドの上で出来る限り距離を離して背中合わせで眠る事になってしまった。

 この時点でカワシンさんはガックリと肩を落とした。

 ワ、私だって恥ずかしがるとろさーもんさんの腕の中で上目遣いで笑って『少し大変な事が起きています♡』くらい言ってやろうと思ってました!!

 でも、いざその瞬間が近づくと土壇場で尻込みしてしまったんですよ!

 

 あぁ、普段相手取っている異形のモンスター達に立ち向かう事より何百倍も勇気が必要でした。

 私はハンター失格です…。

 

 ま、まぁ…正直それはいい。

 私自身こうなるだろうとは薄々思ってたし…。

 問題はさっきから当たってるとろさーもんさんの背中。

 

 先程からとろさーもんさんの体温と、私とは違う男らしい筋肉質な触感をさっきから背中越しに感じられて、心臓の鼓動が伝わってしまわないだろうかと息一つする事さえも緊張してしまう。

 つまり、ドキドキが収まらなくて眠ろうにも眠れないのだ。

 かといって声を出すなんてそれこそ絶対に出来ないし、距離を離そうにも狭いベッドの上でこれ以上離れられないし、カワシンさんに助けを求めようにも助けを求める方法がないしで八方塞がりではないか。

 結局のところ、私は来るはずもない眠気を待って、心臓の鼓動が彼に聞こえない事を祈りながらとりあえず瞳を閉じる事しか出来ないのだ。

 

(カワシンさん!なんて事してくれたんですかーー!!)

 

 自分が望んでおいて理不尽だと思うが、ぶつけようのない怒りを一人で寝静まってイビキを掻くカワシンさんに心の中でぶつけた。

 その怒りを感じ取ったのか、それともただの偶然か。

 カワシンさんの口から『ゴガッ!!』と大きな寝言が漏れる。

 

 「・・・ッフフ」

 

 その時、背中越しに吹き出す笑い声が聞こえた。

 今、私の後ろから声を出せる人なんて一人しかいない。

 

「…とろさーもんさん、起きてたんですね」

 

「あ、時雨さんも起きてましたか」

 

 カワシンさんを起こしてしまわないように声を潜めた。

 夜の波の音に紛れてしまうほど静かな声で、とろさーもんさんと背中越しに会話をする。

 

「なんだか寝られなくって」

「僕もです。

 波に揺られながらだと酔ってしまいそうですよ」

「あ、酔い止めありますよ。飲みますか?」

「大丈夫です。そこまで深刻でもないですし」

 

 背中越しに話を続けていると、途中でとろさーもんさんが少しだけ黙った。

 

「・・・すみません。僕のせいで皆さんを巻き込んでしまって」

 

 心底申し訳なさそうな声色だった。背中越しに当たる彼の背中がなんだか小さく感じた。

 

「気にしないで下さい。私達は誰一人、嫌々ついてきたりなんかしてませんよ。若干一人は知りませんがね。だから、とろさーもんさんが謝る事なんてありませんよ。私達が勝手に助けたくて、勝手に助けようとしてるだけなんですから」

「………ありがとう、ございます」

 

 とろさーもんさんはそれを最後に、『寝ます』と一言だけ言ってそのまま黙ってしまった。

 もう眠ってしまったんだろうか?それとも目を閉じているだけだろうか?

 それを確かめるには私は振り返らなくてはならない。それはできない。彼の寝顔を覗き見するような勇気は私にはいまいち出てこない。自分の情けなさがあまりにも憎らしい。

 仕方がないので、私は心の中で唱えるのだ。

 言えるはずもない、私の本当の気持ちを。

 

(好きです、あなたのことが、好きです)

 

 もちろん、彼が返事を返してくれるはずもない。

 そのうち、私にもとうとう眠気がやってきた。

 睡魔に抗うこともせず、私はゆっくりと瞳を閉じるのだ。

 

 

 

 

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