「案外すんなり入れたね」
「ええ。チェルノボーグでは入るだけで苦労したのですが…」
ドクター、アーミヤたちロドス一行はすんなりとチョーリ・ルドナヤに入ることができていた。感染者ということでかなり苦労したチェルノボーグと同じウルサスの都市なのにえらい違いである。
「やはりアポイントが─」
アーミヤは言葉を最後まで言い切る事ができなかった。なぜなら審査官の体表に表出していた源石を見てしまったからだ。即ち─
「審査官からして感染者が勤めているのか」
都市への出入りを見る審査官からして感染者。感染者の街という名に偽りなしだ。
「ロドスアイランド御一行ですね、どうぞこちらへ」
「…」
案内の人でさえ感染者である。案内人の後をついていく一行。
「ねえねえ案内人さん。この街って普段からこんな感じなの?」
「こんな感じ、とは?」
「街のみんなが特に制約とかなしで生活してるみたいだけど」
ロドスのエリートオペレーターの一人、ブレイズが疑問を問いかける。
街を見てみたところ、感染者は極普通な生活を送っているようだ。下手をしたら健全な者たちよりも活き活きしているようにも感じられる。
「はい。今日も普段通りの生活ですね。特に領主邸からの指示もございませんし」
「領主邸からの指示…、差し支えなかったらこの街のルールみたいの教えてくれる? 感染者は何々しろ、みたいな」
「この街のルール、ですか。領主邸からは街から出るな、というもの以外は細々としたものしか…」
「じゃあ、その細々としたのをお願い─」
──
案内人との会話に花を咲かせていると、とうとう領主邸についたようだ。
案内人は門のところに備え付けられたマイクに話しかける。
「ご領主様、ロドスアイランド御一行をお連れしました」
『ご苦労。後は私が対応しておく。さっさと戻るがいい』
「失礼いたしました。…では皆様、私はここで失礼させていただきます」
「え? もう帰っちゃうの?」
「はい。ご領主様より許可が降りていませんので」
来た道を引き返す案内人。その背を見送っていると門がひとりでに開き、備え付けのマイクの近くにある音響機器より音声が流れ始める。
『ロドスアイランド御一行、門をくぐり左の離れへ来られよ。そこで話を聞こう』
それだけいうと音響機械は沈黙。
「真正面にそびえ立つご立派な邸宅じゃなくて、こじんまりとした離れに案内されるの?」
「ブレイズさん、文句を垂れるのはやめてください。聞かれてしまっては伯爵の機嫌を害する恐れがあります」
そうして一行は門をくぐった。
──
離れに入ると、そこは応接間となっており、透明なガラスのようなもので遮られた先に一人の老人が座っていた。
どうやら彼がこの都市を治める領主、ゲオルギー・スコベレフ伯爵のようだ。
「フハハ、こじんまりとした離れで悪かったなぁ。機嫌を悪くしないでくれ、感染者が本邸の方に入るのは精神衛生上許せんのでな」
「いえ…」
どうやら聞かれてしまっていたようだ。ドクター、アーミヤは二人して顔色を悪くする。
「まあよい。確かにこの年になると本邸と離れの移動さえ厳しくなってくる。次があれば本邸での対応も検討しよう」
「それは幸いです」
「まあ掛け給えよ。そちらが立ったままでは見下されている感じになってしまうではないか」
「これは失礼しました」
かなり高級そうな椅子に腰を掛けるドクター、アーミヤの二人。ブレイズたちは─
「この茶菓子、本当に美味しいんだけど!?」
別室で用意されて居た茶菓子、コーヒーに舌鼓を打っていた。
「では話に入ろうか、ロドスのお二人。今日は何ゆえこの私への面会を申し出たのか」
「はい、伯爵にお伝えせねばならないことがありまして、そのご報告にまいった次第です」
「ほほう、殊勝な心がけだ。ウルサス貴族の威光は国外にも遍く広がっているらしいな…。して、どのような報告かな?」
「レユニオン・ムーブメントが次の標的としてこのチョーリ・ルドナヤを狙っている模様です」
──
場所は変わってレユニオン本拠地周辺の雪原にて…
「─ッ!?」
「…」
二人の男がしのぎを削る。
ヴィネとパトリオットの戦いはかなりパトリオット優勢で進んでいた。
二人の身体能力には圧倒的な差がついており、身体能力で勝るパトリオットが順当に押し込んでいる。
「やっぱりパトリオットの旦那のほうが強いか」
「だけどアレクシも頑張ってるぜ」
その様子を眺めるのはヴィネとの交流があるパトリオット麾下の者たちであった。彼らは二人の勝負を肴に酒を飲んでいた。実戦経験豊富かつパトリオットの戦いに対する造詣が深い彼らにとってパトリオットの勝利は確実で、ヴィネがどう粘るか、というのが専らの話題であったが…。
「おいおい、まじかよ。アレクシのやつ思ったより食らいついてるぜ」
ヴィネが異常なほど粘る。頼みの高速機動もパトリオットの投擲によって撃墜されたにも関わらず、真正面からの打ち合いを敢行する。
「様子見、程度で、私は揺るが、ない。本気で、来るが、いい」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますよッ─」
打ち合いの真っ最中、突如パトリオットの足元が爆ぜる。一瞬にして地面からの支えをなくしたパトリオットはついに揺らぎを見せる。そこにヴィネが体当たり。
「─ッ」
ついにパトリオットが雪原に倒れる。
ヴィネがやったことは単純。タルラ戦で見せた圧縮した空気を雪の中にぶち込み、開放することで雪を吹き飛ばす。雪原限定の小技であった。
「おおッ!」
周囲も盛り上がる。しかし、ヴィネの気分はそれに反して下がりに下がっていた。なぜなら、この小技に殺傷力は無く─
「…」
「ヤッベ、ちょっとだけ怒らせちゃったかも…」
パトリオットを少し苛つかせただけだったからである。
「─ッ!?」
パトリオットの膂力の桁が上がった。流石にこれ以上は打ち合えないとヴィネは距離を取り、ヒット・アンド・アウェイに切り替える。しかし─
「─畜生ッ」
アーツで強化した吹雪で視界を潰しても─
「─まるで通じない!」
暴風で聴覚が意味をなしていないのに─
「…」
パトリオットは揺るがない。
雪原に叩きつけられたヴィネ。雪が自然のクッションとなり身体的なダメージは軽いものであったが─
(無理じゃね?)
心は折れ掛けていた。スカジと戦ったときでさえここまでの絶望を受けたことはない。老いたパトリオットとアビサルハンターのスカジは身体能力だけは匹敵している。しかしパトリオットは英雄であった。それも、力を信奉するウルサスに於いてである。
そんなとき─
「アレク?」
聞き慣れた声がしたような気がする。気高い、優秀な戦士で─
『一人にしないいでくれ。寒いのは嫌なんだ─』
しかしいたいけな一人の少女の声が。
ヴィネの闘志に再び火が付く。何が英雄、何が愛国者だ。眼の前の男は力があるだけの一般男性。一人娘の世話にてんやわんやする普通の父親だ。恐れる必要はどこにもない。
ヴィネは再び立ち上がり、剣を構える。パトリオットもそれに合わせて槍を構える。一触即発の雰囲気。それを─
「そこまでだッ!」
巨大な氷の壁が切り裂いた。
──
「全く何をしているんだ」
「いやぁ、面目ない」
パトリオットからの依頼を終えたフロストノヴァはレユニオンの本拠地でボロボロなヴィネを見た。
パトリオットとの一騎打ちを行うヴィネに敬意を抱いたが、それ以上に心配が勝った。だから決闘に無粋な横槍を入れ、中断させた。
『フハハ、二人で、ゆっくり、すると、いい』
などとパトリオットがほざいていたが、まあいい。
対立陣営に行った以上、一緒にいることなど到底出来ないと半ば絶望していたアレクがここにいるのだから。
「ついにレユニオンに所属するつもりになったか?」
「いや、パトリオットからの依頼があって…」
「ほう、私からの依頼は既読しながらも無視をしていたのにえらい違いだなぁ、アレク」
「ソレハ−、チョットチガウンダヨ」
こういう何気ないやり取りも随分久しぶりだ。レユニオンで一緒だった頃はいくらでもこのようなことをしていたというのに…。
「フロストノヴァ? ちょっと、アーツで俺のことを凍らそうとするなって」
「ッ、すまない。すこし気を抜いてしまった」
危ない危ない。気分が昂りヴィネを傷つけるところだった。彼女は龍門で学んだのだ。無理やり引き入れようとしたら逃げられてしまう。あのときのような絶望。眼の前が真っ暗となるような、ただでさえ凍えるような体温が更に熱を失ってしまうような感覚は二度と味わいたくない。
だからこそフロストノヴァは考えた。ヴィネが自分からレユニオンに来たいと思わせればいいのだ。
「まぁ、ありがとう。フロストノヴァが止めてくれなかったらただじゃすまなかったよ」
「…」
「そんな顔しないでくれよ。次こそはちゃんとした勝負ができるように鍛えてくるからさ」
「そうじゃない。お前が無事でいてくれたらそれでいい」
「ハハッ、フロストノヴァみたいな別嬪さんにそう言ってもらえるのはうれしいな」
あわよくば自分と一緒にいたいと思わせたいところだ。
──
「─スコベレフ伯爵ッ! その言葉を撤回してください!」
「アーミヤッ!」
応接間にて激昂するアーミヤをドクターが制止するという珍しい状況が起こっていた。
時は少し遡る。
『─チョーリ・ルドナヤを狙っている模様です』
『ほほう。噂のレユニオン・ムーブメントがか…』
『はい。つきましては伯爵と我々ロドスアイランドとの間で協力協定を─』
『─待たれよ。ワシは世情に疎くてなぁ、ロドスアイランドとやらが何かわからんのだよ。何も知らない相手と協力しろと言われてもなぁ…』
ということでアーミヤがロドスの行動理念やらなんやらを語ったのだが…
『するとロドスは私に感謝すべきだろう』
『?』
『ロドスは感染者、非感染者が争わないでいいように、という理念で行動しておるのだろう? ワシは感染者共を隔離することで争いをなくしてやったのだからなぁ』
伯爵がそういったことで議論がヒートアップ。今に至るということだ。
「伯爵ッ、非感染者ということはそんなにもすごいことなのですか? 感染した人々は人権をなくしてしまうことが当たり前なのですか?」
「まあ落ち着き給えよ。若いコータス、そのような戯言を聞きたくて許可を出したのではないのだ」
「しかしッ─」
「─そもそも、君たちは本当で感染者どもを救済するつもりがあるのかね? 私にはとてもそうとは思えないのだよ」
「…どういうことですか?」
伯爵は一息つくと再び口を開く。
「まず、感染者差別を減らすのに一番手っ取り早いのは国のトップを動かすことだろう? しかし君たちは現場対応やそれに毛が生えたような行動しか起こしてはいないではないか」
「…いえ、トップが変わろうとも共に住まう人々が受け入れなければ差別は起きます」
「それだ。君はなぜ感染者と非感染者を一緒に住ませようとするのだ?」
「…」
アーミヤは一瞬だけ頭が真っ白になる。眼の前の人間は何を言っているのかと困惑したからだ。友人が一緒に遊ぶこと、家族が一緒にいること。それらは当たり前のことではないか。
「簡単な話、大怪我やら癌やらの患者が入院し、家族やらと離されても皆受け入れることだろう。それと同じだ。二次感染を防ぐため、少しでも感染者を生き永らえさせるため。そのような名目で移住でもさせれば直接的な差別は起こり得んだろう」
「それでも…、それでは根本的な解決には─」
「─ああ無理だ。しかし、根本的な解決には労力も時間もかかる。それよりは暴力を陰口に、陰口を蔑視の目線に。負担を少しでも減らしてやることのほうがよっぽど今を生きる者に役に立つと思うがね」
「…しかしッ─」
更に言葉を続けようとするアーミヤ。しかし、それはドクターの腕によって静止された。これ以上は冷静さを失ったアーミヤでは伯爵の思う壺になると判断したのだ。
「失礼しました、伯爵」
「ああ、企業のトップがこんな醜態を晒すとは…。企業がどんなものか、お里が知れるわ─」
「─伯爵。このように交渉相手を侮蔑なさるのでは、それこそウルサスの貴族の品位を貶めることになります」
「フッ、それなりに言えるではないか。そこのコータスよりか話ができそうだ。名はなんと言ったかな?」
「ドクターと呼んでいただければ」
「ではドクターとやら、協力協定と言ってもどんなことをするのかね? 見ての通りこの都市は貧しくてな。これと言った特産品も何も無い。我々が協力の対価として出せるものはないぞ?」
「それは─」
痛いところを突かれた。ドクターはそう思った。なぜなら、同じように協力協定を結んだ龍門と違ってチョーリ・ルドナヤは未開拓地の都市なのだ。経済的な要衝で、貿易などでロドスに対価を払える龍門とは違う。
「ワシも貴様が先程言ったように誇り高きウルサス貴族。ただ飯喰らいなど出来たものではないのだよ」
「…」
「ドクター…」
「…」
ドクターが少しの沈黙を終えると、ついに口を開く。
「アーミヤ。ケルシーに怒られるときは一緒だよ?」
「へ?」
ドクターは伯爵の方へと向き直る。
「伯爵、貴方には対価として二つのことをして頂きたい。一つ、この街での我々の活動を容認すること。一つ、ウルサス帝国内の感染者をできる限りこの都市へと移動させること。この二つです」
「ッ? ドクター、それは─」
「…いかがでしょうか、伯爵」
「…」
伯爵は答えない。そしてアーミヤも驚愕する。ドクターが出した条件の一つ目はともかく二つ目、感染者をここに集めるというのは受け入れられるものではなかったのだ。
今までの情報からして眼の前のゲオルギー・スコベレフという人物は感染者をあからさまに見下しており、そんな人物のもとに更に多くの感染者たちが送られるというのはあまりに危険に思える。
「…まず一つ聞きたい。なぜここに感染者を集める。そこの小娘の反応からして、私のことはあまり快く思っていないのだろう?」
「ええ、伯爵個人に関しましてはあまり良い印象をもってはいません。しかし、実情、功績の面では違います」
スコベレフが治めるチョーリ・ルドナヤは非感染者が感染者を治めるという形をとっているにも関わらず安定している。
スコベレフがこの都市を提案したことで、犯罪者、感染者に対して非道な仕打ちをしていた採掘場は少なからず消えた。その罪の大きさに見合ってはいないが非道な仕打ちをした看守たちは罰を受けた。
ドクターはその二つの点からゲオルギー・スコベレフの下により多くの感染者を移し、保護しようとしているのだ。
「なるほど。確かに外側から見れば私の統治下は感染者にとって都合が良かろうな…」
「…」
「しかし、だ。ドクター、それになんの利益がある。貴様らロドスにとってまるで益がないではないか」
「…確かに、この契約でロドスの利益はありません。むしろ大損をすることになるでしょう。しかし─」
─『感染者の安寧』が得られる─
「─我々ロドスは利益を追い求めているのではありません。アーミヤCEOが申し上げたような感染者たちの明日を得るために行動しているのです。我々は口先だけの集団では断じてないのです」
「…ふ、ふはははは。青臭いことを言うではないか。そこな小娘の理想論には飽き飽きしたものだが…」
ゲオルギー・スコベレフはロドスの評価を改めた。理想ばかりで地に足をつけていない、現実をおろそかにした集団と思っていたが違うらしい。
現実なくして理想はない。しかし、理想なくして未来を変える事はできない。ロドスは確かにこのテラの大地を良くしようとしているのだ。
「…いかがでしょうか、伯爵」
「まあ、そう急くな。詳細を聞かねば判断できんさ」
「…アーミヤ」
「はい、わかりました」
好感触を得たと感じたドクターはアーミヤに協力協定の詳細の説明を変わってもらう。
両者の話し合いは一悶着ありはしたがこのまま順調に行く、そう思われた。しかし─
「─それは無理だな、小娘よ」
「…へ?」
初っ端で躓いた。
──
ドクターは首を傾げる。眼の前の老人が言ったことが理解できなかったからだ。
無理と言われたのは、『武力衝突となった際の住民の避難行動の指示』と『レユニオン・ムーブメントと住民の接触を防ぐための行動』の二つ。
一般的な領主ならばすぐに頷くようなものである。
「…、どうしてですかッ?」
「いやぁ、どうしてと言われてもなぁ…私は神様のようなものでなぁ」
「…?」
神様? 支配者ということだろうか。所有物のために動くのは馬鹿らしいという事を言っているのかとアーミヤ、ドクターは訝しむ。
「違う違う。支配者という意味ではない。全く、そんなふうに敵意を漲らせるでない」
「ではどういうことですか?」
「簡単な話、私に強制力がないのだよ。ラテラーノの神がお告げをするだけのように、私も方針を伝えるだけだ」
「…」
「考えても見ろ。こんな感染者共の巣窟に居りたいと思う兵士だったりはおらんし、感染者を治安維持に雇用するのは嫌だしでなぁ。避難指示はともかく平時において、感染者共に強制することができんのだよ」
「…」
「まあ、それ以外のことを話すがいい─」
再び話が再開されようとした瞬間、応接間の机のテレフォンが反応する。
「…どうかしたのか?」
『伯爵閣下、アレクシ様が手紙を持っていらっしゃいました。何やら緊急の要件とのことです』
「良かろう。離れにいると伝えよ」
「…お客人ですか?」
「ん? なに、古い知り合いからの使者だ。…しかし珍しい。あの男からとは…」
「差し支えなければどのような方か教えていただいても?」
公爵は少し悩み、しばらくしてから口を開いた。
「ウルサスの英雄だ。もう前線を退いたがね」
──
英雄からの使者。いったいどんな人物かと身構えていたが、部屋に入ってきたのは─
「あれ、ドクターにアーミヤCEO?」
ロドス所属のオペレーター、ヴィネ。そして…
「…」
無口なコータスの少女だった。ただ、アーミヤと違って白い髪のだが。
「…ヴィネ? どうしてここにいるんだい?」
「ドクターこそ…、っと、まずは要件を済まさないと」
そういうとヴィネは部屋を仕切る透明な板に近づき…
「失礼します」
「ッ!?」
その一部が扉のように動いたのだ。そして向こう側にいる伯爵に手紙を渡している。
「これって開いたんだ…」
「…私もわかりませんでした」
しばらくしてヴィネが戻って来る。
「…というか、ウルサスの英雄って呼ばれる人と知り合いだったの?」
「ええ、そうですよ」
「国際トランスポーターってすごいね。そんな人とも関わるだなんて」
「あ~、えっと…」
「?」
何故か言いづらそうにしているヴィネ。なにかおかしなことでも言ったかとドクターたちは訝しむが…
「国際トランスポーターで知り合ったのではない。私やボジョカスティと小僧の出会いは敵同士だったのだからなぁ」
「ッ!?」
「…」
「小僧がまだ傭兵として駆け出しだった頃、その頃は私やボジョカスティは現役で、しかもウルサスはいろいろな国に攻め込んでいた」
「まあ、そこで自分が相手国に雇われて、という感じです。いやぁ、もう十歳になるかどうかでしたからね。後ろでビクビクしてましたよ」
「十歳で…」
アーミヤ、ドクターはショックを受ける。噂には聞いていたがフロストリーフといいヴィネといい幼少の頃から戦争に参加させられてしまうとは…。
「…小僧、何を言うか。貴様、前線でバンバンとウルサス兵を倒しておったではないか」
「ッ!?」
「…なんで言ってしまうんですか?」
「隠すな。今でも古株の間では『悪鬼』といえばトラウマになっているものもおるのだぞ」
「…」
ドクターたちはヴィネの評価を改める。普段温厚そうな人ほど裏があるというが、そんな過去を持っていたとは…。
「…」
伯爵が何やら急に黙り込み、手紙に集中している様子なのでドクターたちはヴィネが連れてきた少女に話題を変える。
「というかヴィネ。えらくきれいな人と知り合いだったんだね。もしかして彼女さん?」
ドクターは特に何も考えずにそんな質問をした。普段のロドスでの振る舞いを見るにヴィネが女性と付き合っている訳が無い。しかし─
「そうだ」
「「は?」」
「ッ!?」
その安易な質問は特大の地雷であった。
「ど、どういうことですか? か、彼女?」
「ヴィネッ、どういうこと? 本当なの?」
「いやいやいや。付き合ってなんかいませんって」
「悲しいことを言うな。龍門ではパフェをあーんしてくれたじゃないか。それにベンチで隣同士、二人っきりの時間も堪能したはずだ」
「…」
少女はさらなる爆弾を投下した。そしてヴィネの反応からそれらが事実であると判断したドクターたちは─
「ありえません…。そんな事があるはずが…」
「フフ、ヴィネ。彼女がいるのに私にあんなことを? それはもう誘ってるよね?」
壊れた。
そして─
「はぁああああ? ヴィネ、どういうこと!? 詳しく教えなさい!」
壁を突き破ってブレイズが応接間へと乗り込んできた。
「…なにこれ、どういうこと?」
一人困惑するヴィネ。肩を捕まれ、ブンブン前後に揺らされながら彼は静かに現実逃避をした。
──
そんなカオス極まる状況は、紙が破れるビリビリといった音によって打開された。
「…」
わずかに正気を取り戻したドクターたちが伯爵を怒らせたかと思ったが…、どうやら違うらしい。
「…しかし、ボジョカスティのやつも大概だな。今更になってこのようなものを送ってくるとは」
「…やっぱりですか?」
「?」
伯爵は手紙を粉微塵になるまで破り割く。そして、ヴィネはそれに驚いた様子を見せず、納得さえしている。
どういうことかと困惑を深めるロドス一行だが─
「…ロドスの二人。どうやら手遅れだったようだ」
「どういうことですか?」
「もうレユニオンの魔の手はもう伸びてきているらしい」
まるで文章を纏められないんだけど。誰か助けて…