「どういうことだ…これは?」
ウルサス帝国の街チョーリ・ルドナヤに赴いたタルラ率いるレユニオン部隊は困惑していた。
チェルノボーグでヴィネに再会して以降、意識の中に入り込んでいた異物が取り除かれて心機一転。指揮官たるもの常に先陣を切ろうと感染者たちの安住の地候補のチョーリ・ルドナヤに来たのはいいのだが…
『─あ、感染者の人たち? どうぞどうぞ入って入って。こんな寒い中大変だっただろう』
『え? いや、我々は─』
都市の審査管理官はすごくフレンドリーな感じで一行を案内。少し大きめな建物に一行を待たせ…
『まずは美味しいもの食べて心身ともに回復させてくれ』
湯気のたったスープに柔らかいパン。さらには肉料理さえ振る舞われる。
『…な、なあ。これ、食べていのか? 俺達が?』
『勿論だ』
そのようなやり取りを経て今に至る。
「一つ聞きたいのだが…。ここは感染者だけの街のはずだ。どうして見ず知らずの我々に与えるだけの食料があるのだ?」
タルラの疑問、それは至極真っ当なものだった。ここに来る道中、町並みを観察したが農耕、畜産ができるほどの広さはこの都市にはない。ならば他から引っ張ってくるしかないが、感染者たちの街と取引するような者がウルサスにいるはずがないのだ。
「食料? いや、我々も詳しいことは…。ここの領主様が指定した日にこの都市に食料を積んだトラックが来るけど…」
「…」
「あ、何ならもう少ししたら来るだろうし見てみる?」
「ああ頼む」
「まあご飯を冷える前に食べちゃってよ。食事はあったかいのが一番だからさ」
案内してくれた人に促され食事に手を付けるタルラ。
ここでタルラはふと思い出す。
レユニオンの本拠地では、チェルノボーグではこのような温かい食事を久しくしていないことを。
冷え切った保存食に腹の満たされない僅かばかりの肉。そこいらの山菜を使ったスープも味がしないような悲惨な食事状況。自分は感染者の立場を向上させると言っておきながら、満足な食事さえも用意できていない。
「…」
「え? ど、どうしたの? 泣くほど美味かった?」
「…」
どうやら気づかない間に自分の不甲斐なさに涙を流していたらしい。
「ああ。とても美味しかった。このような温かい食事は久方ぶり─」
素直に感謝を述べようとした瞬間タルラは視界にあるものを捉えた。
「アレク─」
窓の外には想い人であり、ロドスのせいで少し変わってしまったアレクの姿。そして…
「…フロストノヴァ?」
その隣を占領する泥棒ウサギの姿。
「ちょ、ちょっと?」
「済まない。急用がやってきたので少し失礼する」
──
「なんでついてきたんだよ、フロストノヴァ」
「理由がなければ一緒にいてはならないのか?」
「いや、そうじゃないけど」
「ならいいな」
レユニオン本拠地からここまで、フロストノヴァのゴリ押しによって一緒に来ることになってしまった。何度か逃げ出そうとしたけど─
『どこに行こうと言うんだ?』
『…気の所為だよ』
『ほう、どんな気の所為だ?』
『…』
バレてその都度追い詰められてしまった。傭兵時代の経験を総動員したのにまるで意味をなさなかったんだけど?
「…そういえばスノーデビルの─」
フロストノヴァの部下、スノーデビル小隊のみんなはどうした? そんな言葉を続けることが出来ない。なぜなら…
「久しぶり、アレク」
「タルラ?」
レユニオンの首魁、タルラが少女のような朗らかさを纏ってそこにいた。タルラの様子は…
「ところで─」
可愛らしい笑顔で…
「隣の発情ウサギは何?」
しかし、明らかに光を失い曇った目をしていた。
──
「発情ウサギとは随分な言いようだな、タルラ。せっかくお前の手助けをしてやろうと、遥々ここに来たのだがな」
「ならば無駄足だったな、フロストノヴァ。ここは私の小隊で充分だ。貴様は今まで通り本拠地でスノーデビル小隊と仲良しこよしをしていればいい」
「ああ、そうさせてもらおう」
二人は一頻り罵り合いを終えたようで、フロストノヴァがその踵を返す。…俺の服を掴みながら。
「帰るぞ、アレク」
「え? 俺まだ用事が─」
「─大丈夫だ。そんなものは存在しない。いいな?」
「アッハイ」
え? 待って? 本当に用事があるんだけど。せっかくここまで来たのにまた蜻蛉返り? そりゃないって…
「─待て、フロストノヴァ。アレクは用事があるようだし置いていけ」
ありがとうタルラ。今だけは君のことが救いの天使に…、天使に…。ごめん、その光を失った笑顔は天使とは言えねえよ…。
「?? お前は聞いていなかったのか? タルラ、アレクに用事はないそうだぞ?」
「貴様こそ。アレクに自分の意見を押し付けて嫌われても知らないぞ?」
…この様子じゃ、言い合いは長くなるだろうし、このあたりでフェードアウトするか。少しすれば落ち着くでしょ、多分。
じゃ、そういうことで。
──
「──? ッ!? おい、アレクはどこだ?」
「…アレク?」
一方、ヴィネが消えたことに気づいた二人はかなり狼狽していた。ヴィネは自分が消えることで二人が冷静さを取り戻すことを目論んでいたが…
「アレク? どうして? 何度も、何度も…何度も何度も何度も私の前から消えるの?」
「アレク…どこだアレクッ! お前がいないと私は…私は…」
さらなる混沌を呼び覚ますことになったらしい。
ヤンデレ成分が足りてなかったので適当にぶちこんどきました