とあるロドスの日記帳   作:セニョール・大介

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短いですけど許してください!


番外編! アプローチ初日

 

 早朝、ロドスは異様な雰囲気に包まれていた。普段なら夜勤のオペレーターや残業に追われる一部の者以外は寝静まっており、早起きなオペレーターたちが穏やかな時間を過ごしている頃。しかし今日は違う。

 

 月初め、そう、今月よりとある催しが始まるのだ。その名も─

 

 

『一日アプローチくじ引きシステム』

 

 ロドスの混乱を避けるために一人ずつ想い人にアタックしようというそれの始動日。ヴィネ協定の所属各員が冷静でいられるはずもなく─

 

 

「クソッ、なんて強い邪念だ。空気が淀んでいる。…だが、負けるわけには…」

「運命にねじ伏せられるのか? それとも絶望の地より迎え撃つのか? …わらわには、わらわの勝利がみえるぞ」

 

 占いの心得を持つオペレーターは勿論。そういうのを全く知らない者も見様見真似のお祈りをするので─

 

「うわぁ…、新興宗教でもやってるみたいだね」

 

 何やら怪しい儀式にしか見えない。

 

「はーい、じゃあ始めるよ〜」

 

 

──

 

 

 死屍累々の食堂。ここに集いしオペレーターたちの半数がくじを引きながらもハズレを出し続ける。

 

「では、次は私だ」

 

 そうしてついに来たのはケルシーの番。ヴィネガチ勢の彼女がこんな後半にいる理由。それは─

 

(協定に所属しているのはざっと百人ほど。くじの本数も同様だとし、その期待値を考えるに─)

 

 後半へ折り返し地点。そこが当たる確率が現実味を帯び始め、前に引くオペレーターも許容できる人数で収まるポイント。

 

 はたしてその計算は─

 

──

 

 

 ケルシーがくじの入った箱から勢いよく腕を引き抜いた瞬間、周囲が息を呑む。その手に握られていたのは赤色のくじ。すなわち─

 

「おめでとうケルシー。今日は君の日だ」

「フッ、当然だな」

 

 

 ケルシーの勝利である。

 

 絶望に打ちひしがれるケルシー以外のオペレーターたち。

 

「なんでケルシー先生が引くんですか…」

 

 恨めしがる彼女らに─

 

「嘆き、妬む暇があるのなら明日、どうやって勝つかを考えることだ」

 

 ケルシーは冷ややかに言い放った。

 

──

 

「あの? ケルシー先生?」

「ん? どうした。なにかあったのか」

「いや、おかしくありません?」

 

 困惑するヴィネ。それに対し─

 

「? 何もおかしくはないぞ?」

 

 ヴィネの手首や足首をバンドで縛り手術台に貼り付けながらケルシーは首を傾げた。

 

「私にはロドスに所属する全員の健康を見る義務がある。特に君は往々にして私の呼び出しを無視する問題児だ。これくらい当然だろう」

「いやいや、ケルシー先生の呼び出しって毎日のようにあるじゃないですか。規定回数の月に三回は守ってるからいいじゃないですか」

「だめだ」

 

 ヴィネの言葉虚しく、ケルシーの暴走は止まらない。

 

「まずは心拍数だ。続いて脈拍数、健康を損なっていないかを調べる。次に脳波、ゆくゆくはDNAも解析─」

「─誰かッ! 助けてください! 肉体的な個人情報の危機なんですッ!」

 

──

 

 結局、ヴィネの叫び虚しく肉体情報を赤裸々に暴かれ─

 

「…ふぅ。危なかった」

 

 なんてことはなく、流石にライン超えだと判断した協定側オペレーターによってヴィネは救出された。

 

「全く、これのどこがライン超えなんだ」

「いや、ヴィネを拘束した時点でアウトだよ? ケルシー自身が言ってたじゃないか、『同意なき行動は許されざる悪行だ』って」

「…ヴィネの入職時の契約書では治療及びそれに関連する検診への同意がなされていた」

「限度っていうもんがあるでしょ!?」

 

 悪びれた様子もないケルシーにドクターがツッコミを入れる。流石に人体実験もどきにまで発展してはロドスの評判はもとより、ヴィネの心情にも悪影響を及ぼしかねない。そんなわけで─

 

 

「じゃあ、ケルシーのアプローチは終了ね」

「ッ!? 待てドクター。それはあんまりだ。まだ半日以上も時間が余っているんだ」

「いやぁ、でもこれは協定のオペレーターの全員が賛成しているしねぇ」

「…」

 

 

 この世の終わりのような顔をするケルシー。そのまま別室へ連行され─

 

「…待ってくださいドクター。何がなんだかわかりませんがケルシー先生に悪気はなかったはずです」

 

 それをヴィネが制止した。本当に何も理解できてはいないが、ケルシーがショックを受けた様子から罰則でも下るのかと心配したのだ。

 

「ケルシー先生のロドス職員の健康を守ろうとする心が行き過ぎてしまっただけのことです。どうかケルシー先生に罰則などは与えないようにお願いします」

「ヴィネ…」

「…どうする、みんな? 本人がこう言ってるわけだし─」

 

 ということでケルシーの一日限定アプローチ再開。

 

──

 

 

「ヴィネ、私は思い違いをしていた。医療とは患者の心に寄り添ってこそ。そんなあたり前のことを忘れていたのだ」

「そ、そうですか」

 

 場所は変わってケルシーの自室にて─

 

「おい、どうした? 腕が止まっているぞ」

「はい…」

 

 ヴィネにナデナデさせるケルシーの姿が発見された。

 

 先程の一幕はまさに地獄から天国。眼の前が真っ暗になったところを想い人が救い出す。結果─

 

「〜♪」

 

 ケルシー完堕ち。取り繕うことすらせずにヴィネとのひとときを楽しむことに…。

 

 

 そのまま五時間くらい経ち一日目は終了。翌日にはホクホク顔の、すごく幸せそうなケルシーが見られたとか…。

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