「ちょッ! 出して! ここから出してよ!」
「…やかましいな」
はいはいどうも、廃棄された採掘場の牢屋? に監禁されてるヴィネでございます。
独房なのかな、これ。すごい殺風景な場所だけど。
いやぁ…、さっきはひどい目に合った。なんでこんな事になってるかと言うと、フロストノヴァさんに凍らされた足を引きずりながら逃げてたんだけど、Wの爆弾にふっとばされるし、タルラのアーツで逆に大火傷を負うしで…。流石にこの状態じゃスノーデビルの人たちからは逃げ切れねえよぉ。
まあそれでも本当は今までの功績─『物資の搬入』『感染者たちの情報収集』『医療品提供』etc…のお陰で無罪放免ではないけど、二度とここを訪れないのならってことで開放してもらえるはずだったんだよ。
だって俺が持ってきた持ち運び楽、源石が長持ち、高性能ヒーター(自費)とかまだ使われてるくらいだもん。恩には報いるタイプのタルラをはじめとする上層部の大半や、なんかロドスで見たことあるような一般レユニオン構成員のお陰ですぐにでも解放って感じだったんだよ。それが─
『何を言っているんだタルラ姉さん。この男は非感染者だよ?』
あのクソガキのせいでぇええ!!
メフィストが全てをひっくり返しやがった。
あのクソガキの一言で、一般レユニオン構成員、まあ非感染者にめちゃくちゃ恨みを持ってる一派が爆発。
ついにはフロストノヴァさえ─
『…この男を生かしておいたら後々の災いのもとになるかも知れない』
お前らどうした? みんな仲良くって感じの理想論から始まったレユニオンだよね? 俺も居たから知ってるよ?
…まあ、ということで処刑決定です。ワーイ…。
──
ワーイ、じゃないわ。本格的に不味そうなんだけど。
流石にまだ死にたくないよ俺。
処刑の段階まで行ったら幹部が勢揃いだから逃げるのが大変になる。だから脱出はそこまでの間にしなきゃなんだけど…。
「ひぃ、冷たすぎる!!!」
ご覧の通り俺にとって相性が悪すぎるフロストノヴァのアーツで極限まで冷やされた鉄製の扉はともかく石の床、壁すらも凍傷を引き起こしかねないほどに冷たい!
アーツの力で三ミリくらい床から浮くことで寒さが伝わってこないようにはしてるけど、それが俺の限界。
石を砕くほどの力は通常気温でも厳しいのにこんな環境じゃあ…。
──
「出ろ」
「ひぃい!! 外まで寒いじゃねえか!」
「…」
ちょ、無言で縄を引っ張らないで、金属製の手錠が皮膚に引っ付いちゃってるんだからさぁ!
…腹は決まった。この採掘場からレユニオン本拠地までの数キロ、ここが勝負どころだ。
万が一、俺が逃げ出そうとした際の対策ってことで俺を連行しているフロストノヴァだが、ここは雪原。アーツが使えるなら雪を舞わせて目くらましとかできる。
…よし、充分に採掘場から離れた。ここで─
「ッ!? 何者─」
「─悪いな」
やろうと思ったんだけどなぁ。
──
何故かロドスで見たことある一般レユニオン構成員が俺の代わりにフロストノヴァを気絶させてくれた。それに凍傷で爛れた皮膚の手当まで。もう感無量!! 最近人と出会うたびに警戒するようになってたもん。純粋な善意が心に染み入る〜!!
ただ、考えていたレユニオンで暇つぶし計画がおじゃんになったんだから、計画を練り直すためにロドスに戻る必要がある。が、現状、レユニオンの本拠地まで徒歩で一週間かけて訪れ、いろんな騒動で三日を消費した。帰りも考えれば二週間以上の時間が稼げたと言うことになる。
後は大体一週間ちょっと耐えればいつもどおりの生活が多分返ってくる。
ただ─
「やつがどこに行ったかを探すんだ!」
まだまだここはウルサス帝国内。ちょっと傷口がヤバそうだったので薬品などを購入しに国境付近の都市に訪れているたのだが、レユニオン側からの追手のメフィスト一派やフロストノヴァの姿が確認出来た。
「左足がギクシャクするけどもうそろそろ出発するかぁ…ん?」
さっさとロドスに戻ろうかと荷物を片手に安い宿の一室から出ようとした時、廊下の窓、その向こう側にとある一団の姿が─
「…まったく。ヴィネのやつも居なくなるならそう言えばいいのにね。どうせ誰も止めやしないんだからさ」
「…ブレイズさん。彼はまだロドスに所属しています。仲間同士で争うような真似はくれぐれも…」
「分かってるよ」
ロドスの懐かしい顔ぶれ。ブレイズさんや、アーミヤCEO率いるロドスの一団までもがこの都市に訪れているんだけど。
え? もしかしてロドスの人たちが俺のことを心配して…?
そんな訳ないよね、分かってるよチクショー。相手の気持を理解できないことに定評(by健全ケルシー先生)のある俺でもあの人達が俺に対して悪い方で並々ならない感情を持ってることくらい分かるさ。
入れ違いで抜け出そうか─
「え? 貴方たちはもしかして…?」
「ん? 君たちは…、ああ、ロドスのウサギか!」
…待って、すごい嫌な予感がするんだけど?
──
「…ハハハ、どうしてこんな事になっちゃってるんだろうね、ヴィネ」
「…すみません。私にも何がなんだか」
乾いた笑いが購買部の関係者専用スペースに響き渡る。勿論クロージャさんのだ。
簡単な話、フロストノヴァやメフィスト、アーミヤCEOが出会った後、俺のこと探してるっていうので共通したレユニオンとロドスが協力体制を樹立。
流石に俺の処刑とかにはアーミヤCEOの良心が反対してくれたから有耶無耶になったけど、そのかわり、ロドスでレユニオン、ロドスの双方から監視される事態に。
今はなんとか監視を振り切ってこうして安全なスペースに逃げ込んでいるわけだが…、俺がロドス艦外に出ることが著しく制限されちゃってて結構きつい。
今まではいろんな作戦に引っ張りだこだったのが一転、ただの窓際族に…。それだけじゃない、何かと理由をつけて俺が国際トランスポーターとして外に出ることも邪魔される。当然依頼が達成できないからトランスポーター協会からは嫌味メールの数々。それに徐々に顧客も他の、特に営業成績二位のやつに流れていってるからこの騒動が終わってからが心配な状況になってる。
いや、数週間で顧客が流れちゃうもんなの? って言うかも知れないが普通の地域内のトランスポーター、ペンギン急便みたいなのならいざ知らず、俺等国際トランスポーターは一発の依頼の価格の桁が違う。当然責任も重大なので今の俺みたいな達成できるか微妙なやつには仕事が斡旋されない。
それに、国際トランスポーターの仕事は突発的なものだけではない。十二ヶ月間、一ヶ月に一度炎国からクルビアに物を運ぶ、といったふうに事前に契約が済まされているのも多数存在する。俺も結構持ってる。ただまあ、依頼が達成できないので他のやつに替わってもらうしかない。
あれ? もう三つくらいの長期契約がおじゃんになってるんだけど…、もしかして違約金が発生してる?
やばいやばい、急いで確認しねえと─
「…終わった」
「ちょ、ヴィネ!? どうしちゃったの? いきなり天を仰ぎだしてさあ」
クソがッ!! もう差し引かれてたよ…。というかペナルティーまで発生してるんだけど。
待って違約金だけで五百万は引かれたのに、ペナルティーで更に三百万。さらには暫くの間、国際トランスポーターとしての仕事が出来ないんだけど…。
終わった。せっかくここまで積み上げてきて、ようやく現実味を帯びてきていた真っ当な生活という夢が崩れ去った…。
「…ね、ねえヴィネ?」
「どうかしました? クロージャさん」
「ちょっと、ほんの少しだけ怖いよ? 何かあったの?」
「…いえ、大丈夫です。私事ですから気になさる必要はありませんよ」
どうやら苛立ちがクロージャさんに伝わってしまっていたようだ。深呼吸深呼吸、ちゃんと心を整えないと。
ただ、まさかここまでの事態になるとは想像もつかなかった。国際トランスポーターとしての信頼とかなくなったしなぁ、どうやって挽回しよう。
まあいい。それは後回しだ。まずは─
「今日はなぜ呼び出したんですか? もしかして…」
今日呼び出された理由を聞こう。大体異変が始まってから一ヶ月が経った。ならば、もしかして…。
──
少し前、ヴィネを呼び出す前のこと。
「これは…」
クロージャはクルビアから少し離れたシラクザの街からの匿名通信を見た時、思わず頭を抑えた。
言うまでもないが、この匿名通信は二人のエリートオペレーターの仕事の成果である。彼女はこの異変をどうにかするためにこれを心待ちにしていたのだが…
「ノルアドレナリン、ドーパミンの過剰分泌に、フェニルエチルアミン、セロトニンの一部機能に対する阻害か〜」
結論から言えば、この異変は二つのアーツによって引き起こされたということ。
過剰分泌と働きの阻害。
ノルアドレナリンというものは脳内の神経伝達物質の一つであり、今までの研究により集中や鎮痛、覚醒に役立つ一方で、怒り、不安などにも関わっていることが分かっている。
ドーパミンも過剰に増えると『過覚醒』の状態、即ち、統合失調症の症状の幻覚であったり、興奮が起こる。
これら二つの物質に作用するアーツがストレスを感じさせ暴力的衝動を引き起こす要因。
逆に後の二つは恋愛中に分泌したり、精神の安定に大きく寄与するもの。
その二つの働きを阻害するアーツが好意であったり理性というものを無効化していく。
クルビアの最先端の研究の産物とも言えるのが今回の原因である。
ということをクロージャは懇切丁寧にわかりやすくヴィネに教えた。
「ちょっとまってください。クロージャさん、そんな脳内の物質の均衡が少し崩れただけであそこまで変わってしまうんですか?」
左足の一部が凍傷によって破壊され、左腕の一部、両足の半分に火傷を負い、精神的にもちょっとだけ、ほんのちょっとだけ傷を負ったヴィネが思わず口を挟む。
脳内の均衡が崩れたと言っても体のほんの一部のバランスが崩れただけでこんな目に合うはずがない、と考えたのだ。そもそも、リードを始めとした一部オペレーターとは今までの交友関係があるのに、記憶障害もなしにこんなことが引き起こされるはずがない。しかし─
「ヴィネ、今回の話とはちょっと変わるけどね。ロドスに運び込まれた患者の一人にパニックを起こして手のつけられない患者がいたんだ。でもね、その患者が牛もも肉400g、簡単な話鉄分を10mgを摂っただけで目に見えてパニック症状が改善されたんだよ」
脳内物質ではないが、ほんの少しの鉄分で大きな変化を及ぼすことがあるのだ。感情であったりにダイレクトに関係する脳内物質なら…。
話がそれたので戻そう。
勿論、クロージャとて伊達にロドスに長く勤めてはいない。最低限は、いや研究者たちに少し及ばないくらいの知識はある。
流石に一から原因究明となったらお手上げだが、事細かに詳細を把握出来ているなら対応策くらい作れる。
現状、クロージャが考えている策は二つ。
一つは製薬会社としての能力を十分に活かし、アーツとは逆のことをする成分を多分に含んだ薬を開発し、接種させること。
もう一つが今度はロドスの源石研究の力を使い、アーツを無効化させる、あるいは薬と同じように逆の働きを持ったアーツの開発。
ロドスの源石関連の情報は固く閉ざされており、ヴィネとクロージャでは開けないので現実的に取り得る選択肢は薬の開発なのだがこちらにも問題がある。
「…この情報から計算するにアーツの力を打ち消すには多量の薬を接種する必要があるんだけど、間違いなくオーバードーズだ。これじゃ意味がない」
そうオーバードーズも精神面に大きな影響を及ぼし、依存のリスクさえある。正常に戻すためにも狂わなくてはならないというジレンマが起こるのだ。製薬会社が薬中だらけだなんて笑い話にもなりはしない。
「それに、体が薬に慣れたら更に摂取量を増やさないといけない。他の薬などから推測するに、半年もしないうちにみんなの主食が薬になっちゃう」
この方法で行くと、崩壊するロドスをほんの少し延命させただけなのだ。
なのでもう一つの中和するアーツを作りたいのだが─
「ハッキングとかで電子的なロックはバレずに突破できる。でもわたしたちが必要な情報を得るにはそれだけじゃ届かない。あのロゴスの防御を突破する必要があるんだ」
──
「ロゴスさんの呪言ですか…」
「うん。今までの傾向から源石、アーツ関連の研究を覗き見た時に発動するのは、対象者の失明。電子的なロックの解除を手掛ける前に致命的な打撃を追うことになる」
重要な情報の鍵を突破されたとしても相手がそれを視認できなければ問題ないという侵入者対策か…。流石にロドスの最高クラスの機密情報、流石はロドス最初のエリートオペレーターだ。だけど、それを突破しなきゃロドスが壊れる。もしくは俺が死ぬ。
なら…
「クロージャさん。俺が呪言を引き受けます」
「ッ!? 何を言ってるのヴィネ? 君がそこまでする必要はないよ!? 最初は薬で、適当なところで戻ったロゴスに解除してもらえれば─」
「クロージャさん、知ってますか? アーツの火は十倍の水を持って尚消せないということを」
「へ?」
昔、リターニアでアーツについての知見を深めた時、そして傭兵としていくらかの戦場を渡り歩いていた時、あることに気づいた。
授業で実践されたアーツの火を消すのにワザワザ水のアーツを使える人を呼んでいた。
戦場でも陣地にアーツによって火をつけられたときは同様に専門のやつが鎮火する。
試しにそのへんから持ってきた水をかけてみたが、まるで消えない。だが、アーツによってならばすぐ消える。
思えば当然のこと。移動都市の全エネルギーを支えられるような源石。それによって作り出された炎が保有するエネルギーは自然界のものとは一線を画す。
で、あるならばアーツによって引き起こされた現象に、はたして通常の薬が勝てるだろうか…。
だからこそ、危険を承知でするしかない。
「でも、本当に情報を得られたとしてもそれを実用化するには三日はかかる。その間、ケルシーやドクターにバレてもいけない。絶対に無理だ」
「確かに無理です。だから─」
少しの間、場に沈黙が流れる。少しして、クロージャさんは震えながら口を開く。
「─ッ…ねえヴィネ。どうしてそこまでするの? 逃げ出したって誰も文句は言わないよ?」
「フフ、愚問ですね、ここ最近のロドスを見たでしょう? レユニオンとロドスが手を取り合ってる。まさに私が思っていた通りの理想郷です」
「君の犠牲の上のね」
感染者と非感染者という漠然とした対立よりも、俺というすぐ近くにいる憎悪の対象のほうが優先されている。だからこそロドスは平和そのものだ。
「この異変が終わった後もレユニオンとロドスが手を取り合えていることを願いたいですね」
──
それから数時間後、ロドスの機密情報を盗み出した一人のオペレーターが艦を脱出し、クルビア方面へと逃げたとの報告がドクターらのもとに届く。同時に、そのオペレーターはロドスの籍を剥奪され、指名手配されることに。すぐさま身柄を確保するための部隊が編成され男の後を追うことになった。
ロドスって製薬会社だよね。だからなんか科学っぽいのぶちこんどきました。現実にはない嫌われアーツの説明なんか無理だって(;´д`)
あと、コメントで主人公の感染が予想されていたのですが、さすがに医者が患者産み出したらヤバイでしょってことで止めときました。
曇らせたいキャラ募集! その他はちゃんとキャラ名書いてね!
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ラップランド
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ドクター
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ケルシー
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リード
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その他