「ふぅ、少し足を緩めるか…」
どうもうろ覚えの地理情報でクルビアの市街地の方へ向かってるヴィネです。
多分あと数時間もすればクルビアの開拓地を抜けるはずだけど…。
「まるで景色がわからねえ…」
左目は包帯ぐるぐる、右目も失明こそ免れたけど大幅に視力は落ちて、色覚も異常をきたしちゃった。
いやぁ、緑と黒さえ見分けられないんだけど…。え? まじで重症かな?
まあそんなことは良いんだよ。問題なのは─
「…! やっぱり来てるかぁ…」
俺を捕まえに来てるロドスとレユニオンの人たち。
なんとか張られる前に国境は抜けたけど、都市部にまでは行けなかった。まあ、医療関係の機密情報盗んで売りつけるところなんてクルビアの競合他社くらいだから都市部に向かう道を全力で抑えるのは分かってたんだけどなぁ。流石にアーツ込みとはいえ、片足が麻痺状態だから普通に追い越されちゃった。
…もうそろそろ水とかがやばい。ちょっと予定とは違うけど行動に移るかな。こっちで動きを見せてクロージャさんの方に注意が向かないようにしないといけないし。
──
「…ん? ─ッ!? 居たぞッ!!」
身構えてる相手に対し、あえて堂々と姿を見せる。多分他のところを見ている人たちにも連絡が行っただろうが好都合。見えないところに居られるよりも、見える範囲に集まってもらったほうが安心できる。
「ヴィネ、今までネズミみたいに隠れていた君がどうして現れたの? もしかして投降する気になった?」
「いやいやドクター。私はそんなにナイーブじゃありませんよ」
いや、ドクターってあんなに冷ややかな目ができるんだね。昔同僚が睨まれて興奮するって特殊性癖を俺に漏らしたことあるけど、少しだけ分かるかも。いつもにこやかな人が見せる意外な一面…。いや、やっぱ普段のほうが親しみが持てていいわ。
ん? 俺を捕まえようと身構えるオペレーターやレユニオンの人たちを制止しながらケルシー先生が出てきたぞ?
「ヴィネ、君はもうロドスのオペレーターではないので無理に答える必要はない。だが、今後のロドス運営のためにも聞かせてもらう。君はなぜ機密漏洩など企てた?」
「えっと…気分?」
「…君に聞いた私が間違いだったようだ」
ケルシー先生がそう言うと、ついにオペレーターたちが俺に襲いかかってきた。
───
──
─
「しぶとい…」
ロドス、レユニオン合同部隊を指揮するドクターは指揮の合間に愚痴る。
ヴィネとの邂逅からもう一時間は経っている。そんなに時間が経ち、それでもヴィネを捉えられないでいる。
色々と想定していたドクターからしても異常極まる事態。その原因が─
「やっぱり駄目。あいつに矢が届かない」
ヴィネのアーツ。風を操るアーツが身体周りを覆っているせいでグレースロートのクロスボウは勿論、信じがたいことにタルラのアーツさえも無効化している。
今まで一度も見せてこなかったヴィネの対遠距離攻撃用の秘密兵器。まあそれが出たということはそれだけ追い詰めているということでもあるが…。
「…ドクター分かっているとは思うが─」
「分かってるよケルシー。ヴィネはやっぱり目が見えていない。そこをつけばあの守りを突破できる」
──
いったいどのくらい時間が経った? さっきまでは整然と整備されていた石畳の街道はもうめちゃくちゃ。周辺の建築物なんかもタルラのアーツを逸らした影響で一部半壊してる。
流石にそろそろ体力的にも厳しいんだけど─
「─子ども!?」
よく見えないけど子どもがいる。まずい、近くの開拓拠点の子どもか? 巻き込むわけには行かない。とにかく安全は守らないと。
少し危険だけど俺の体にまとわせているアーツを解除し、子どもを包むように風を起こす。
風は子どもの体の周りに纏わり─
「─は?」
子どもの体を砂のように、あるいは水のように崩壊させた。いや違う─
「なんだ…ミュルジスさんにマドロックさんのアーツか…」
そもそも子どもじゃなかった。視覚がほとんどないのと今までの脳の疲れのせいで気付けなかっただけだ。
そもそもこんな危険地帯のど真ん中にいきなりガキが現れるわけないし、現れたとしてもドクターたちが保護しないわけがなかった。
そんな後悔も束の間、無防備になった俺の身体に、一本の矢が突き刺さった。
「グッ! …麻酔…弾…かぁ…」
ご丁寧に麻酔付きだ。
流石に…耐えれそうに…ないな…。
───
「ヴィネ…」
ドクターやケルシーの居なくなったロドスにて、クロージャは一人、孤独な戦いをしていた。
ヴィネが身を挺してチャンスを創ってくれたのだから失敗はできない。一時的にロドスのロボットたちの演算機能なども活用してアーツの開発に取り掛かっている。
『確かに無理です。だから─』
あのあと、ヴィネが言った言葉は今でも衝撃的だ。ロドスの外に逃げたとしても、ロドスの本気の戦力から三日も逃げ切ることは難しい。だからこそ─
『クルビアに守ってもらいます。犯罪者としてですけど…』
──
麻酔でヴィネを無力化することに成功した一行。さあ帰ろうと思っていたところ─
「待て、その男を引き渡せ」
「クルビア警察…」
クルビア警察に身柄引き渡しを強要されていた。
「貴様らは都市部の近くで大乱闘を引き起こしただけでなく、街道や一部建物を破壊した。その男だけでなく、貴様ら全員に事情聴取させてもらう!」
──
いやースッキリスッキリ。久しぶりに快眠できた〜。
…拘置所のクソ硬いベッドの上で。
少し想定外はあったけどなんとか計画通りに行きそうだ。
流石に市民からも見えるような場所であんな騒ぎを起こしていたら、民主主義を謳うクルビア政府は警察を動かさるを得ない。
そして、あそこまで街道や建物をめちゃくちゃにしたのならいくらコネがあるロドスといえど有耶無耶には出来ない。
流石に一企業が政府に喧嘩なんて売れないから多分ドクターたちもロドスに戻っては居ないはず。
後はクロージャさんがアーツを開発するための時間を用意するだけだ─
「被告人、名前はなんというのか?」
「アレクシ・ドゥ・シュバリエです」
「よろしい。ではこれより、被告人アレクシ・ドゥ・シュバリエの機密漏洩及び器物損壊事件について審理します」
裁判で…。
──
「─しかし私が公共のものを破壊したわけでは─」
「先程から貴方の言っていることは要領を得ない。貴方は神に宣言したことをお忘れなく。被告人は聞かれたことについて答えてください」
時にみっともなく。
「…」
「被告人、発言をしてください」
時に無言を貫き。結果─
「被告人、最後に裁判所に述べておきたいことはありますか」
「人生ではしばしば、障害に思っていたことが素晴らしい幸運になるものです。犯罪を犯した私がいつか許されるように願っています」
「…では判決を言い渡します。被告人には一千万龍門弊の罰金刑および終身刑を併科する」
死ぬまで刑務所ぐらし、決定。
──
「そんな…」
ヴィネの逮捕及び刑罰に処されたという情報はすぐさまロドスに、クロージャの耳に入る。
「なんでッ!? なんでヴィネがこんな目に合わないといけないのッ!?」
購買部の裏部屋ではクロージャが嘆き悲しんでいた。しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。
「─ヴィネのお陰でアーツの開発はできた。ドクターたちがロドスに戻ってくるのが明日だから明日使おう」
『もしかしたらいきなり解除すると不味いことになるかも知れないので、くれぐれも状況を見て解除してください。多分私は大丈夫なので』
彼はそんなことを言っていたが関係ない。さっさとアーツを解除し、監獄を襲撃してでもヴィネの身柄を取り戻す。
「待っててねヴィネ。絶対に助けてあげるから…」
そう決意するクロージャの瞳は黒く濁っていた。
多分次回から曇らせパートです。
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