とあるロドスの日記帳   作:セニョール・大介

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 お久しぶりですセニョールでございます。流石に新年も明けて暫くしてるのに、この体たらくじゃダメだと考え直し、せめてロドスの異変のところだけは終わらせようと頑張りました。

 久しぶりの投稿ということもあり、キャラの口調が違っていたり、設定が食い違っていたりするかもしれません。ご留意ください。


番外編! ロドスの異変 ラップランドさんver 

 悲劇があった。不運が起きた。非日常を過ごした。だからこそ─

 

「まさに春風駘蕩! いやぁ、ひっさしぶりの外の空気は実に清々しい!」

 

 何気ない日常、風景が趣のあるものに思えて仕方がない。

 

「ヴィネ…、君はそんな小難しい言葉使わないでしょ」

「イメチェンってやつですよクロージャさん。私がこんなかっこいいのに、こんな優しいのに今まで女性とお付き合いできなかったのは言葉の節々に知的さが足りなかったからです」

「…ヴィネ。多分違─」

「─皆まで言わないでください。今までの私もとてもよかった。しかし、それじゃあ足りないんです!」

「…あはは。まあいいや。そんなことよりヴィネ、また勝手に検査すっぽかしたね? もうこれで三回目。流石の私も今回ばかしは拘束してでも検査させてもらうよ?」

「…はぁ。何とかなりません? 医務室だったり医療用の検査器具だったりにはちょっとだけトラウマがあるんですよ」

「気持ちはわかるよ? でも耐えて、お願い」

「…は~い」

 

 場所はロドス本艦。一度ロドスから除籍されたヴィネであったがついに復員。一週間ほど前にケルシーやドクターと共に帰還。現在はヴィネの復帰に向けて検査やらなんやらを行っているところである。

 

──

 

 場所は変わって医務室。外が実に良い天気であるのに対照的にこの場所は薄暗く、ジメジメした雰囲気である。照明に不調はない。空気清浄機なども稼働中。この不快な雰囲気の原因は─

 

「─まだ熱は下がらないの?」

「ああ。心拍数、血圧も過去の平均を大きく上回っている。睡眠時こそ少し改善が見られるがそれでも依然として高い水準だ」

「これってさぁ…」

「…ヴィネ本人は運動に適した状態のため心配はいらないと言っているが、要は警戒状態にあるということだ」

「そっか。ヴィネにとってロドスは安心できる場所じゃなくなったんだね…」

「…」

 

 何とか検査を受けさせて手に入れた諸々のデータが示している、ヴィネの身体が、本能がロドスを拒絶しているという現実。

 

 医務室にて顔を合わせているドクターとケルシーがその現実に再び悲痛な顔持ちになる。

 

「まあね。わかってたことではあるんだけどなぁ」

「…ドクター希望的観測にすがるのもよろしくないことではあるが、かえって自暴自棄、やけくそになるのもよろしくないことだ」

「ケルシー、感情の起伏ってこんなにも苦しい気持ちになるんだね」

「…」

「前々からレユニオンの攻撃性、排他的な姿勢に少なからず疑問を持ってたんだ。差別が、孤独が一般人を狂戦士に変えるなんてことがあり得るのかって」

「しかし実際に起こっていることだ」

「…今、辛くて辛くて仕方がないんだ。後悔がとめどなく溢れてくる、自分ってこんなに感情に振り回されるような自分本位な奴だったのかって失望が止まらない」

「ドクター」

「…ごめんね? ケルシーだってつらいだろうに弱音を吐き出しちゃって」

「かまわない。ドクター、決して一人で塞ぎ込まないことだ。ヴィネをはじめとして多数のオペレーターが心身に失調をきたしている。我々はロドスを率いるものとして再発防止策の考案、ヴィネをはじめとした所属オペレーターや現在ロドス滞在中のレユニオンムーブメントの面々に対するメンタルケア諸々のことをしなければならない。今この状況でドクターを欠くことはできない」

 

──

 

「…」

 

 どうも、諸事情により医務室に来たらドクターとケルシー先生の神妙な雰囲気の現場に遭遇してしまったヴィネです。

 

 気まずい…。本当に気まずい状況なんだけど。ただ─

 

 

『─ドクター、決して一人で塞ぎ込まないことだ』

『─この状況でドクターを欠くことはできない』

 

 ドクターはケルシー先生に甘えることができた。でもケルシー先生自身は?

 

 この状況で欠くことができないのはケルシー先生だって同じ。果たしてケルシー先生が胸の内を吐露したり、甘えたりできるだろうか。

 

「多分無理だろうなぁ」

 

 あの人って責任感の塊みたいな感じだし、甘えてるところなんか想像もつかない。

 

 さすがにロドス一員として、というより、事情に深く関わるものとして見て見ぬふりなんてできねぇ。

 

「男見せますか」

 

──

 

 まあ、そんな風にかっこつけたところで身体異常は如何ともしがたい。

 

 ケルシー先生らが言ってた高体温。体温が一度上昇するだけで消費エネルギーは一割増。高心拍数も消費エネルギー量が増加、高血圧だって疲労を引き起こす。要するにこの状態では時間が経てば経つほど俺は弱っていく。いわば制限時間付き。

 

 限られた時間でどこまでの働きができるかは自分でもわからない。

 

 そもそも─

 

「─ッ、誰ですか?」

「…」

 

 遠くから覗き見ているだけのオペレーターへの過剰反応。意識の中ではアーツのせいだとわかっている。恨み、恐れ、怒り…諸々の悪感情はできる限り排している。しかしながら、無意識下、生存本能にあるのは脅威に対する不快感。

 

 理由など知ったことではない。殴ってきた、燃やしてきた、凍らしてきた…、結果だけを本能は覚えている。

 クロージャさんをはじめとした一部オペレーターはともかく、自分に害を加えたオペレーターとの接触は精神的に疲れる。

 

「まあ、ぐだぐだ言っても仕方ない。まずはラップランドさんから行きますかぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ん? 初手ラップランドさんの理由? めんどくさそうだからに決まってるだろ!

 

──

 

 時は遡り、アーツ解除直後─

 

「…ハハ、こんな感情を覚えたのはシラクーザ以来かな」

 

 ロドス所属のオペレーター、ラップランドはアーツの影響が抜け、精神が些かの平静を取り戻しそれまでのことを正確に理解した瞬間、静かに笑った。

 決して精神が触れたわけではない。現実逃避でもない。自分はつくづく大切な人を傷つける、と自傷、厭きれの笑み。普段の狂気差さを演出したものとは違う、皮肉なことに本心からの笑いであった。

 

 ひとしきり笑い、ひとしきり顔をゆがめた後、彼女は一人、率先して行動した。

 

 ヴィネを助けるためのカチコミ…ではない。ただ粛々と通常の業務に取り掛かった。以前より真面目に、以前より精力的に任務をこなした。

 それはヴィネがロドス復員を果たした後も続いた。現実逃避のために何かに熱中したかったわけでもない。記憶を失ったりしたわけでもない。

 

 聡い彼女は理解していたのだ。アーツによる混乱でロドスが機能不全一歩手前に陥ることを。ヴィネがロドスに戻るかは知らないが、もしも復員するというのなら彼が戻るまでロドスを保たないといけない。自分はそのために動かないといけない、と。

 

 ある種の贖罪。

 

『─大丈夫だソラ。おかしくなっていたのは私たちもだ。まずは謝ろう』

 

 言葉で謝罪するのは贖罪か─否。自分たちは殴った、蹴った、切りつけた。それなのに言葉で済ませるのはあり得ない。

 

『どうして私はアレクにアーツを向けた?』

『すまない、アレク』

 

 自問自答、後悔にさいなまれ、精神的にまいって何もしない─論外。

 

 行動で見せる。自発的に動き、相手に与えた損害分を補償し、それ以上を与えてこそ贖罪は果たされる。

 

 そう理由づけてラップランドは昼夜を問わずに任務をこなした。

 

 

 

 

 

 

 

 ─ヴィネを避けるかのように。

 

 ヴィネのためと大層な理論を立てなんやかんやしている。それは簡単な話、正面切って罵倒されたくない、拒絶されたくないという意思の表れ。ヴィネのために動いていることが本人に伝わればヴィネのほうから話しかけてくれる、あわよくば受け入れてくれるかもというわずかな打算もある。

 

 現状を鑑みれば、自己保身に走り、謝る契機を失った自分。それに比べて素直に謝りに行ったテキサスのなんと立派なことか。自分の罪に向き合い、精神をすり減らすほどに苦悩している者たちのなんと誠実なことか。やはり─

 

「やっぱりボクはダメ─」

「いや? ラップランドさんはすごい人ですよ」

「─へ?」

 

 

 また自虐に走ろうとしたとき、ヴィネが現れた。

 

 

──

 

「いや? ラップランドさんはすごい人ですよ」

 

 間の抜けた声が喉から零れたのを、ラップランド自身が一番不思議に思った。

 振り向けば、そこに立っていたのは――避け続けていた当人。

 

「……ヴィネ」

 

 名を呼んだ瞬間、胸の奥がひどく軋んだ。

 逃げ場はない。言い訳も、理屈も、もう尽きている。だから向き合うしかない。それなのに─

 

「…ッ」

 

 今もこうやって言葉に悩んでいる。

 

 前のようにふるまう─ヴィネの機嫌を損ねないか? 

 謝る─謝るならなんでもっと早く謝罪しなかったか詰められないか?

 逃げる─それこそヴィネに対して礼を失する。

 

 いくつもの選択肢が浮かんでは否定されていく。何かしないといけないのにできない。そんな自分に対する自己嫌悪が進んでいく。

 

 そんな姿を見かねたのか、一歩、ヴィネが距離を詰める。

 それだけで、ラップランドの身体が無意識に強張った。

 

 拒絶される。

 殴られる。

 罵倒される。

 

 どれも覚悟していたはずなのに、実際にその可能性を前にすると、心はひどく脆い。

 

「……ボクは」

 

 絞り出すような声。

 

「君に顔向けできない。謝ったところで、許されるとは思ってない。だからせめて……、君がいつもすごいと自慢しているロドスを、居場所を残すために行動することが一番マシだと思った」

 

 視線を伏せたまま、ラップランドは続けた。

 

「それが贖罪だって、自分に言い聞かせてきた。でも……ただの逃げだ。わかってる」

 

 沈黙。

 数秒か、数十秒か。やけに長く感じられた。

 

「─ありがとうございます」

 

 予想だにしなかった言葉。なぜ開口一番に怒声ではなく感謝が来るのか。どこに感謝される筋合いがあるのか。

 

「…なんで?」

「私に関することはいったん置いといてです。ロドスに所属する一員として功労者にはありがとうと感謝を伝える。これはあたりまえなことでしょう?」

「それはそうかもしれないけど…」

「というかこれから長話するんで付き合ってくれるお礼です」

「待った、ボクは─」

「いいんですか? 私は被害者ですよ?」

「…ずるいなぁ」

「当たり前です。使えるものは使うのが私ですから」

「…」

 

 ラップランドは少し乱れた息遣い、視線の動きからヴィネが事もなげに軽口を言っている風を装っているのに気づく。

 

「しょうがないね。キミの話はもともと興味があったんだ。聞かせてもらうよ」

「やった! すんごい変な話で長いですから覚悟しといてくださいよ」

 

 隠そうとしていることに触れるのは野暮というもの。ラップランドは素直にヴィネの軽口に応じる。

 

「私はロドスに戻ったとき、安心したんです。みんなが私のことを放って、普段通りに過ごしてたらどうしようって思ってたましたけど、そうじゃなかった」

「…」

 

 ラップランドは黙って耳を傾ける。遮らないで、ただ耳を傾ける。それが今できる唯一の誠実さだとわかっていた。

 

「みんな悲しんでたり、自己嫌悪に陥ってたり…。もしかしたらひねくれてるかもしれませんが、自分が確かにロドス一員だったって実感できたんですよ。みんなを信じて戻ってきてよかったって思えたんですよ」

「…」

「でも、よくよく考えたらそう思えたのはロドスがこの混乱下でも機能を喪失せずに動いていたから、存続できていたからです。つまり、ラップランドさんのおかげですよ」

「…ッ」

 

 自分がいろいろ理由つけて行っていたことは確かに自己保身のためだった。しかし、ヴィネのためという大前提はあったのだ。それが認められた。わずかにだが気持ちが軽くなる。

 

 わずかに、胸の奥が緩む感覚。

 それでも、ラップランドは顔を上げなかった。

 

「……それでも」

 

 代わりに低く、慎重な声を絞り出す。

 

「君にとって、ボクは恐怖の存在だろ? 功績がどうとか、ロドスがどうとか……そんなものとは別に」

 

 同時に指先が、無意識に震える。

 

「今こうして話してる間も、君の身体はボクを警戒しているじゃないか」

「…」

 

 沈黙が流れる。それはラップランドに今の言葉が失言だったということをこれ以上ないほどに知らせた。

 

 

 その言葉を受けたヴィネは一瞬だけ言葉に詰まった。

 

「……正直に言いますね」

 

 ヴィネもラップランドも深く息を吸う。片方は意を決するため。片方心細くなっている己が心を奮い立たせるために。

 

「はい。怖いです。今も」

「…やっぱりね」

 

 ラップランドの肩が強張る。

 

「視界の端で動かれると、反射的に警戒します。声色が少し変わるだけで、心拍が跳ねます」

 

 ヴィネは淡々と、事実だけを並べる。

 

「私の意志とは無関係に、身体がそう反応する。多分、しばらくは治りません」

「……」

 

 予想していたはずの答えなのに、胸に突き刺さる。

 

「……それなら尚更、ボクは距離を取るべきだ」

「いいえ」

 

 即答だった。ラップランドが驚いて顔を上げると、ヴィネは苦笑していた。

 

「だって、距離を取られたら寂しいじゃないですか」

「……ふぇ?」

 

 視線が、まっすぐにラップランドを捉える。

 

「一緒に過ごしてるうちに仲良くってことです。なに、安心してください。きっと慣れて見せますとも」

「…」

 

 ラップランドは、しばらく言葉を失う。

 

「……」

「ボクは、君に拒絶されたくなかった。だから距離を取ってたのに…。でも…寂しい、か」

「はい。私にはラップランドさんがいないとダメなんです!」

「…ハハハ」

 

 乾いた笑いが、ラップランドの口から零れた。

 

「それは……ずいぶんと、重い言葉だね」

「そうですか?」

「うん。とても」

 

 否定するつもりで口にしたはずの言葉だった。

 けれど胸の奥では、別の感情がゆっくりと蠢いていた。

 

 

 ―これはボクが喜んでいい言葉じゃない。

 

 そんなことわかっている。わかっているのに勘違いしそうになる。

 

「ラップランドさんが距離を置いてくれてたのは、私に対する優しさでしょう? トラウマを刺激しないようにっていう」

「…」

「本当に、ラップランドさんは優しいんですから!」

 

 その一言で、胸の内側がひどく軋んだ。

 

 ラップランドは視線を逸らした。直視してしまえば、今胸の中で形になりつつある感情を認めてしまいそうだったから。

 

 違うのだと、これは勘違いだと、混乱の副産物なのだと。

 

 そう言い聞かせようとした、その瞬間。けれど、感情は別の答えを差し出してきた。

 

 拒絶したらいっしょうそのままなんじゃないのか。もし、誰か別の人間が、彼の隣に立ってしまうのではないか。自分ならもうあんな間違いを起こさない。ヴィネを守れるはず。

 

 根拠なんて一つもないのに胸の奥に、ぞっとするほど鮮明な想像が浮かぶ。

 

「……ねえ、ヴィネ」

「はい?」

 

 名を呼ぶだけで、心拍が上がる。

 さっきまでの罪悪感とは質の違う、熱を帯びた鼓動。

 

「君は……誰にでも、そうやって言うの?」

「え?」

「『いないとダメ』とか、『一緒にいさせて』とか」

 

 ヴィネは少し考えてから、首を傾げた。

 

「言いませんよ?」

「……どうして?」

 

 答えを聞くのが、少し怖かった。

 けれど同時に、どうしようもなく聞きたかった。

 

「貴女が『特別』だからですよ!」

 

 ――ああ。これは両思いだ。

 

「……困ったなぁ」

 

 ラップランドは笑った。いつもの狂気を帯びた笑みではない。どこか静かで、壊れ物を扱うみたいに慎重な笑み。

 

「じゃあ、これからもよろしく頼むよ?」

「はい! …フゥ、次はテキサ─」

「─ヴィネ?」

「あのぉ…、ラップランドさん? ちょっと怖いですよ?」

「あれ? 慣れて見せるんじゃなかったのかい? ほら、頑張れ~!」

「絶対違う! これとそれとは違うって!」

 

 

───

 

 

 

 

 

 

 

ヴィネの自室にて…

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、少しだけど肩の荷が下りたぜ! 『特別』面倒くさそうなラップランドさんが思ったよりスムーズにいってよかった!」

 

 

 




 ちょっと久しぶりすぎてラップランドの性格などが分からなくなってしまっていたのでちょっと変な感じの文章になってしまいました。すみません。

 

曇らせたいキャラ募集! その他はちゃんとキャラ名書いてね!

  • ラップランド
  • ドクター
  • ケルシー
  • リード
  • その他
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