どうも。またまたヴィネです。いやぁ、昨日は精神的にも肉体的にもきつかった。
ん? 精神的には分かるが、肉体的にってどういうことかって?
…いや、昨日現実逃避のために寝たじゃん? フロストリーフさんが乗ってたとはいえ、案外寝心地は良かったのよ。…最初だけ。
そう、なんか気づいたら万力みたいなパワーでしがみつかれてたわけですよ。いくら離れてって言っても駄目だって即答だったよ。アハハハ…ハハ…はぁ。
まあ気を取り直して、ついに決定戦二日目。一日目で探索能力、速力だったりに優れるオペレーターが決まったわけで、本日はスピード、パワー、インテリジェンス、経験値、すべてを合わせた戦闘能力に優れるオペレーターを決める戦いが始まる。
俺の出番は第七試合、まだまだ先だ。これから第一試合が始まるわけだが…
「ハハ、いきなり君と殺り合えるなんてねぇ。僕はツイてる」
「…レッド、頑張る」
おい、運営! 初っ端からレベルが高すぎやしませんかね?
まって、賭け(未許可)で大穴狙いみたいな感じで二人に入れてたのに雲行き怪しくなってきたんだけど。
ラップランドさんはなんか誰も票入れてなかったし、レッドさんに至っては誰? なんて言ってるやつも居たから入れたのに…。俺の龍門弊がぁ…。
まあいい。二人の試合に戻ろう。ええっと…、ラップランドがあのゴツい剣を振り回して、レッドさんがそれを回避してるっていう状況か。
いやー、なんであんなの振り回せるの? 一度持ってみたけど人間の持っていいやつじゃなかったよ?
で、なんでそれを回避できるんだよ。ラップランドさんってああ見えて結構細かな技術とか持ってるから回避が難しいのなんの…。
お? レッドさんが回避しながら間合いを詰め始めた。無駄のない紙一重の回避を連続で行い、一歩ずつ近づいていく。でも…
「誘ってんじゃん」
ラップランドさんの罠だ。細々とした技術が鳴りを抑え、ただの力自慢の剣一辺倒なのがその証拠。ただの剛剣に慣れさせたところで、かつ、回避不能の距離まで誘い込んで勝負を決める。案外クレバーな戦いができるんだよね、あの人。
ほら、レッドさんが踏み込んだのを見て確実に当てる剣に変えやがったよ。こりゃ、ラップランドさんの勝ち─
「はぁ?」
え? 避けたんだけど。レッドさん、あの体勢から体ねじって避けやがったんだけど?
まじでレベル高い攻防。ただ、レッドさんが耐えきれずに下がっちゃった。これは…
「かかったね」
「─ッ!?」
ラップランドさんの鞭? がレッドさんの足元に向かって振るわれる。スピードさえ乗っていれば難なく躱せただろうが加速は不十分。ジャンプすることで鞭を避けるがそこを見逃すラップランドさんじゃない。
「ハハッ、僕の勝ちだね?」
「負けた…」
レッドさんの着地よりも素早く距離を詰め剣を突きつける。
これはもう拍手するしかない。素晴らしい試合だった。
…え? 俺こんなに凄い試合できないよ? 速度しか取り柄がないんだよ?
──
しばらくして一回戦全試合が終了して─
ん? 俺の一回戦はどうしたって? エクシアさんと当たったんだけど、守護銃がアホほど面倒くさいのなんの。連射速度、弾速、すべてが速すぎた。ただ─
「当たらなければどうということはないんだよ」
もう最高速で動き回って銃口をちゃんと向けられないようにしてやったぜ。なんか、「どうして? 私はこんなにヴィネのことを思っているのに…」なんて言い出したけど大丈夫だよね?
「行くよ! 嵐のように蹂躙してやる!」なんていうもんだから全力で逃げたのに解せぬ…。
まあいいや。一回戦終了して二回戦目次の対戦相手は…『相打ちのため勝者なし』。
やったぜ☆ せいぜい三回戦が始まるまでは高みの見物と洒落込もう。
いやー、他の人が一生懸命ドンパチしている中で楽しむコーヒーは美味しいぜ。
この際、秘蔵のお茶菓子とか出して一人パーティーを─
「ヴィネー、居るー?」
「! はい、居ますよー」
なんでドクターが来るの? 運営っていう話じゃねえのか?
「やっぱり休憩室に居たのか」
「私は今手持ち無沙汰なので…。ドクターこそ運営の仕事はどうしたんですか? オペレーターの力を見るっていう話だったでしょう」
「一回戦で大まかには掴めたからね」
「…マジですか」
ドクターってバケモンだったんだな。一回でだいたいの特徴とか把握するって…。本当に記憶喪失だったのだろうか。
「それよりヴィネ。順当に行けば次の準決勝の相手はグレイディーア、スピードスター対決となるわけだけど…。どう? 勝てそう?」
「…ぼちぼちですね」
「…二つ聞きたいことがあったんだけど良いかな?」
「答えられることなら」
いきなりどうしたんだ? 凄い神妙な顔で聞いてくるけど。え? なんかあったかな。記憶にないんだけど。
「ヴィネ、君は─」
「…」
なんだ? 何が聞きたいんだドクター。
「どんな女性が好みだい?」
「─へ?」
待って、そんな神妙そうな顔で聞くのがそれですかドクター? ちょっと、やばい、コヒー吹き出しかけちゃった。なんでいきなりそんなこと聞くの?
「だってロドスにはたくさんの女性オペレータが居るわけだろう? そのうちの何人かは君に夢中じゃないか。スカジとか」
「あれは便利なサンドバックとしてでしょう。…まあそうですね。強いて言うなら…」
待っていざってなるとまるで思いつかないんだけど。え、もうオッケーもらえたら誰とでも付き合いたいんだけど…。いやでも、此処はカッコつけないと。
「…、特にそういうのはない…ですね」
「へえ。アーミヤから聞いた話と違うね」
え? アーミヤさん、俺の事をどんなふうに思ってるの?
「アーミヤは『ヴィネさんは漫画とかで見つけたカッコいい部分をすぐ真似するんです─」
え? やばい、漫画とかから色々やってるのバレてたの? 恥ずかしッ。
「『それで女性と接点を作りたい、恋愛して円満な家庭を築きたいそうです』って言ってたけど」
「…」
俺、撃沈。まって、ドクターの前ではまともな頼れるベテラン(一年ちょっと)オペレーターでいたかったのにぃ…。
「本当のところは?」
「ウッウ、私のことを好きだって言ってくれる人と付き合いたいです!」
「よくできました」
俺の尊厳はボロボロだ…。
悪いですかぁ? 俺が清く正しいお付き合いを求めたらぁ?
「まあこれは冗談として、本題に入ろう」
待って? さっきのって冗談なの? タチが悪すぎるってぇ…。
「君はこの祭りの後、何処へ行くつもりだい?」
「…。なんとなくは事情を知っている感じですか」
「いや? 突然君が出場するって聞いて不思議に思ったんだ。あとは…ウルサス帝国の、レユニオンの活動地域から届いた謎のメール」
「…プライバシーはどうしたんですか? この職場」
「大丈夫、中身は見ていないよ。ただ一旦ロドスで受信してから各々の端末に行くようになってるんだよ」
それなら大丈夫なのかぁ…? どうしよ、ドクターとしては最近活動を控えている彼らの情報がほしいんだろうけど、俺も守秘義務ってもんがあるんだよなぁ。
「…お察しの通りです。しばらくレユニオンの方に行こうと思っています」
「なぜ? その前の何通かにはまるで反応を見せなかったのに、今になって突然動くんだい?」
「…差出人が違ったんですよ。…ドクター、これ以上は守秘義務があるので勘弁してください」
「ごめんね、色々聞いちゃって。充分だよ。…次の試合、頑張ってね」
「もちろんです」
──
「オペレーター『ヴィネ』。国際トランスポーターとして一年で三千万龍門弊という個人での最大利益を叩き出し、『百万龍門弊の手紙』とうたわれた、ウルサス帝国、極東の戦線を越えての依頼も達成。名実共にNo.1の国際トランスポーター」
改めてヴィネの情報を見返しているが…。百万龍門弊の手紙もすごいにはすごいのだが、一年間で三千万龍門弊を稼いだっていう方がヤバい。
国際トランスポーターへの依頼額は目的地や荷物によって変動する。
例えばウルサス帝国への送料は二十万龍門弊程度が相場。対して炎国へは五万くらい。
また、個人で運べる荷物には重量、大きさの制限があるので、どれだけ頑張っても十万程度の荷物しか運べない。よってどれだけ頑張っても一回で三十万を超えるかどうか。それなのに三千万って…。
中には特殊依頼(百万龍門弊の手紙etc…)、指名依頼なる一発数百万のものもあるらしいがそれでも凄まじい実績だ。
──
はぁ、今のドクターって変なところで昔を思い出させるんだよね。記憶喪失でも本人の気質は変わらないってことかな?
まあなんで行くのかっていうのは個人的な理由だから教えても良いんだけど、愛国者のことは言えない。
たしかケルシー先生と接点があるらしいけど記憶を失ったばっかのドクターは知らないはず。
おそらく愛国者は現存の鉱石病の感染者の中で一番源石融合率が高い。何かの拍子でドクターの興味を引きでもしたら、あの人の願いである安寧が脅かされてしまうかもしれない。それだけは避けたい。
「ヴィネさん、こちらへ」
「ご丁寧にどうも、アーミヤCEO」
そうこうしていると会場についてしまった。今後のことは置いておいて今は眼の前の戦いに集中しよう。
対戦相手のグレイディーアさんは純粋な身体能力だけでロドス最速の化け物。スピードだけでもやばいのに、腕力とかもスカジさん並。…へ? これ勝てなくね?
まあ、攻略法がないわけじゃない。俺だってアーツ込みだけど最高速自体はグレイディーアさんと遜色ないレベル。なんとかできらぁ!
「じゃあヴィネさん、がんばってくださいね」
「程々に頑張ってきます」
…アーミヤさんの期待に満ちた眼差しがつらいよぉ。
──
「さあさあやってまいりましたロドス最強決定戦の第三回戦! これまでロドスの誇る数多くの精鋭たちが凌ぎを削り、名勝負を見せてまいりました! しかしッ! 今回は一味違うものに、これまでの名勝負を凌駕するものになるでしょう。片や謎多きアビサルハンター、片や伝説にもなっている国際トランスポーター。経歴、種族、出身。全てにおいてまるで共通点が見つけられない両者ですが、ロドス屈指の速力を誇るスピードスターであることにおいて唯一の一致が見られます。ですが! 頂点に立つのは常に一人! 今日、この場所でベールに包まれた真の最速が我々の前に現れることでしょう!」
ちゃっとクロージャさん? そんなふうに煽られましても期待に答えられそうもありませんよ。まあ─
「伝説なんて煽てられて悪い気はしないけど」
これでも数いる国際トランスポーターの中で最大の知名度を誇り、最大の営業利益を叩き出したアレクシ・ドゥ・シュバリエなんだ。たまにはカッコいい所を見せなきゃ男が廃る。
あわよくばこの勢いで誰かとそういう関係になれないかなぁ…
──
「よく私を恐れずに此処に来たわね。その勇気は買ってあげましょう」
「勇気? はは、おかしなことを言いますね」
「ほう、では何をもってこの場に来たのかしら?」
「貴方は勘違いしている。なぜ勝った気で居るんですか? 勝負はまだ始まってもいないのに」
「あら、おかしなことを言うのね。アーツの有無の差があれど身体能力で大きく劣っているという事実から目を背けて勝敗を語るなんて。晩餐も済んでいないのに明日の朝食の話をしてもしょうがないのではなくて?」
たしかにそうだ。身体能力で大きく劣っている現状、勝率はほぼ0パーセント。ただ─
「グレイディーアさん。私にはたった一つだけ言えることがある」
「あら何かしら」
「今晩、私が点滴で終わるか、チーズとワインを優雅に味わうことになるかは定かではありませんが明日の朝食は断言できます」
「なぜ?」
「給料日前日なのでクチーナ・ポヴェラ(貧しい庶民料理)でしょう」
グレイディーアさんが僅かに微笑むと、手を差し出し握手を求めてくる。
「どうしたんです? あれだけ陸には関わらないなんて仰っていたのに」
「これから行われるのは決闘よ? そこに小難しいことは存在しない。そこにあるのは自分と相手のどちらが強いかだけ」
「じゃあこれは宣戦布告という意味ですね? 真正面から捻り潰すっていう」
「そんな下品な言葉を使わないで頂戴。ただの教育の一環よ」
そんなやり取りをして手を離す。すると─
「それでは始めていきましょう!」
そんなクロージャさんの放送が聞こえる。そして俺とグレイディーアさんは─
「…どういうことだ。ヴィネとグレイディーアが、二人ともが背を向けている?」
図らずも互いに背を向け一歩二歩と距離を取る。所謂─
「スピード勝負…。ガンマンたちの早打ち決闘だ!」
奇しくもこれはスピードスターの決闘。ガンマンの決闘になぞらえるのも悪くない。考えることは同じだったようだ。
「ロドス最強決定戦、第三回戦─」
そして開戦の火蓋が─
「─始めッ!」
─此処に切って落とされた。
なんか、ラップランドさんが台詞でレッドさんと戦えば負けるみたいなことを言っていますが、気のせいだと信じてます。