たちむかえ! 作:匿名
この「かの地にて」の節は、本文のおまけのような加筆部です。
かの地にて
「変わったな。俺も……」
生命の気配を感じさせない荒涼とした世界。乾いた砂と、その砂を運ぶ風に、絶えず侵食を受けてきた岩石ばかりが広がる地。そこに、一人の男が立っていた。
まだ若さの残る二十代半ばのような外見の男である。
(過ち故の後悔、後悔故の……償い、そんな風に映る真似をするくらいなら――か)
何かを思い出すかのようにして、男は、歪曲した細長い岩を背にし、静まり返る辺りを見渡した。
「……」
(この今の時代から考えれば、砂漠としかいいようがないのだろう。だが、その真相は、かつて大規模な戦争が勃発したことの痕跡に他ならない。それも、当時の人類の行く末、すなわち今に至るまでの道のりを、歴史を、運命付けた醜い殺し合い、その果てに地上に残されることとなった、そう、呪われた証としての、忌まわしき跡地だ……にも拘らず、この事実を知る者すら数少ない。いや、知ろうとさえもしない者ばかりか。加えて、その醜さが今でも残っている始末、今回も愚かな世界だった。そのはずだった。だが――)
男は、夕闇に染まり終えつつある灰色の空を見上げる。その顔は、どこか、もうすぐ死を迎えねばならない罪人のそれに近しいものであった。
細長くそびえ立つ岩石に暗い背を預けたまま。吹きすさぶ冷たい風に、赤茶けた外套と漆黒の髪がなびく。
その間、男は目をつぶって、何かを、定めるべきかか止めるべきか悩み、またこの悩む時間さえも惜しみつつ、そしてその惜しむ事が、抱く焦りを積もらせていった、そのように見えた。
(たった一人の人間に、ここまで踊らされるとはな)
男は、何かに吹っ切れたのか、その凍てついた顔に、微笑みがこぼれた。
(何なんだろうな、この感覚は)
まるで、今まで変化する事のなかった、揺るがされることのなかった……いや、芽生えることの無かった感情、その感情というものを知らなかった人間が、初めて見せる感情の現われとしての、微笑みのようであった。
(こんな、こんな気分にさせてくれるのだからな。今までなかった、なかったのだ、一度も……そう、だからこそ――)
何も映らない空から、まだわずかながら明るさを保つ地平線の彼方へと視線を戻し、一瞬だけ己の足元を見、男はフッと鼻で笑うと、もう一度正面の地平へと向く。
(――お前、いや、お前たちを信じよう。“その遺志”を受け取った者の、果たすべき責務として)
何かを決意したかのようだが、しかし、まだ曇りや影を感じさせる表情でいた。一度、男はうつむく。
(いや、違う――)
何かが閃いたのか、わだかまりが解けたかのような面持ちを見せ、男は寄りかかっていた岩から離れた。同時に暗闇と化した空の中に流れた、光り輝くひとつの星を見つめ
(――“その意志”を持つものとしての、誇りのために)
男は、瞼を力強く見開き、口を開いた。
「この“命運”に全てをかける」
その言葉とともに、古の戦場とされる死地から、男は姿を消した。
今までとは違う、瞳を宿して。
最低1000字必要なため、1ページにうまく収めるのが難しいです。
こんな奇妙な文章でよければ、どうぞ。