たちむかえ!   作:匿名

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基本的にどこか残念な主人公の一人語り調で書いています。
ケータイ小説のような感覚で読んでいただければ幸いです。


平凡な高校生活

事のはじまりは数日前、いや“この世界”とはまた別の世界の数日前、の話まで遡る。

普通、とまではいかないにしても、限られた世間の枠の中で決めつけられた妥当な日常生活というものの様相が、比較すれば“平穏無事”を呈していたであった頃、なのだろう。

 

 

修学旅行が近いとある高校に現在二年生の彼、衣刀真悟志(いとまさとし)は通っている。彼についての詳細は……彼自身が青臭く、また泥臭く、自ら語り記していくであろう。だがそれだけでは、分かり得ない。そう到底分かり得ないのだ。

 

 

 

 

※※※※

 

 

本日は土曜日、部活は修学旅行の準備ということで特別二年生は休みとなっていたので、その分空いた午前中は墓参りに行くことにした。

 

今日が命日。自分の両親が昨年、不運の事故により亡くなった。思い返せば、激務と言われるような公務員の仕事を家事と両立し、そつなくこなす真面目で優しく……しかし休日はとことん怠けているような、そんな母親と、自称冒険家で仕事と言えば絶えず海外に行くような、実のところ何をしてるのかよくわからなかった変な性分の親父だったもんだから、正直数ヶ月前までは“この世から消えた”という実感が沸かなかった。当然か。

 

でも俺は、仮にその事実を認めたとしても、この当たり前とされる感覚を、受け入れることは、拒みたかった。

 

何でだろうな、どこか謎めいた部分が多かったせいなのかも知れない。

そんな風にして済ませてしまっていいのか、なんだか少し申し訳なく思うけど、でもそんな風に思っていたら何だか夢の中に出てきて叱られそうな気もする。「謎?そうやって決め付けては、見てみぬ振りをするのか?だからお前は何時まで経っても分からず、謎仕舞で済んでしまうんだ!知ろうとする気概っつーのをだな……」なんてね。そんな両親が居なくなった俺には、兄弟も祖父母も生まれた時から居ない。そう

 

――今は、独り身だ。

 

取り敢えず様々な保険その他による相続のおかげで、財産は自分が大学出て就職するであろう頃になっても恐らくまだまだ残ると思う程の額があるので、生活には全く困らない。よくある話か?

まあでも、相続人としての手続きが何やら俺の介入殆ど無しで簡単に済んだものだから、色々と腑に落ちないところがある。当時、我が家の周辺で何が起きていたのか、今更気にしてもしょうがないが……こんなに貯まっているとは思いもしなかった位の額だったからだ。簡単に済んだといえども、一応他の点でそれなりに苦労する事があったんだけど、今となっては“いい思い出”と言いたい。

 

その時、仲良くしてくれているお隣のおばさんには随分と御世話になった、家事については今でも。住んでいる地域のせいもあるのか、結構大きい家だから、その中で一人だけで暮らすってのはやっぱりもの悲しく寂しい。だから友人を呼んで騒ぐのが…最早日課になりつつある。

 

友人には、幼少期からの付き合いの拓哉(たくや)と潤晴(うるは)、それに小学校時代に海外からやって来たイェーザの三人がいて、今回の修学旅行でのグループでは俺を合わせたこの四人がメンバー。幼馴染の彼らは、今の高校までずっと一緒って訳だ。

 

――ん?

 

(何だ?この……違和感は……)

 

何か変な感じがしたが、まあいいか。

自転車から降りて、我が家系の墓を目指し歩く。墓場独特の不気味さってのは、たぶんどこかででっち上げられた先入観によるものだろう。そう思いたい。

 

「よし」

ロウソクや線香、花を供えて拝んだ。

あと一ヶ月と少し経ったら……また来ます、と。

 

「これから買い物いこうぜ」とケータイに連絡が入っていたので、と言ってもさっきのメンバー以外の友人なんだけど、少しばかり急ぐつもりで自転車を走らせて駅に向かった。

 

暮らしている場所は、都市近郊から少しだけ離れたところで、別に田舎と言われても至極真っ当な地域で、小高い丘の上に立ち並ぶ新興住宅地、この中の一つに我が家がある。また少し離れたところには山があって、自転車で二十分もすれば着く。さらに山の方面の反対方向には海がある、そんな地域。とにかく眺めがいい…ってのは個人的な感想だ。

 

 

ブーンでもキーンでも、ゴオオオでも、ボーでもドゥゥゥゥンでもない、何とも的確な言い表しができない独特の低周波音を唸らして来る飛行機の音で不意に空を見上げる。雨は降ってないけど、どんよりとした雲が空を覆っているこんな日は、決まって景色がいつもより濃く鮮明に写り、ぬるい風が穏やかに吹く。

 

駅に到着すると既に友人が待っていた。

「わりい、待たせて」

「何処か行ってたんか?お前ん家からなら、直ぐだろ…それとも、何かいけないことでもしていたのか?土曜の朝っぱらからまたお前ってヤツは――」

「はぁ?何言ってんだ、墓参りに行ってたんだよ。変な話すんなよな」

「……ん、ああ。そっか。そういや、あれから一年経つんだったな」

「まあな」

「お、来たぜ」

 

時間帯からか、余り混んでない電車に乗って街の中心部へ向かう。

 

「そういや昼飯まだ食ってなかったんだよなー」

と友人。

「マジか。ならあれだ、昨日調べてたらいいとこ見つけたから、そこ行こうぜ!」

いつも通りの会話。

それから別の駅から乗り込んできた友人達と合流し、電車の中、修学旅行の話で盛り上がる。

「いよいよかあ。次の日に出発だから、準備って事で月曜の授業は午前だけ。んで火曜が初日で……」

「ってか早いよなー。この時期に修学旅行ってのも」

梅雨がそろそろ明けそうな頃に日程を組むような高校は、やっぱり珍しいのだろうか。

 

目的地に着き、例の場所で昼食を済ませ、その後旅行に必要なものを買っていく。その時間は楽しいもので、あっという間に過ぎていってしまう。不思議なもんだ。

 

「何だかんだで、結構遅くなったね。ま、この時間じゃ何時も通りだけどさ!」

「あ~、帰りに寄ったとこね。こんなに外で遊んだのも久々じゃねえか?でも買いたいもん買えたから、時間なんか気にしたら負けだろー?」

 

電車から降りて友人と別れ、買い物袋を自転車のカゴに入れて、スピードを緩めて帰路につく。少しずつ伸びてゆく稲を電灯が照らし、そこに群がる虫たち。蛙の声も四方八方から遠くまで響いている。彼らのおかげで、薄暗い夜道でも、どこか安心していられる気がするんだよな。

 

いつもの様に、家には誰もいない。

お隣のおばさんがたまに家に来ては一緒に夕食や世間話なんかする。でもこの前の水曜日から一週間旅行に行くと聞いていたので、自分とは微妙にすれ違いになる。ほんの少しの間だけど、俺たちの旅先は海外。行き先がどんなところなのかは、学校の事前学習や何やらでだいぶ調べるも、実感は湧くはずもなくて、やっぱり前日にならないとだよなー……っていう妙な気分に落ち着く。

 

一応、行先の国内情勢とか、我が国との関係とか、調べた限りじゃ全くと言っていいほど難色無いところだから、安心できるはず。世界巡りをネタにする番組でも結構取り上げられているところだ。治安もいいらしいし、身の危険を考えねばならないような国ではない。つまりは問題ないはず。じゃなきゃそもそも旅先として高校で認可されないだろうし、と言うかこれは大前提だ。でも何というか、やっぱり安心出来ないところがあって、拭いきれない感じがある。

いや、実際いまさら気にしてどうなるって話だよな。でも、念のためできる限りの準備はしておきたい。

 

海外に行くのはこれで二度目だ、幼い頃に何処かへ連れて行ってもらった事があった。でも国名すら記憶にない。何処か他の世界に行ったという経験だけが確かにある、それだけだ。

そういやその時に――ってまぁいいか。

腹も減ったし飯にするかな。

 

「――んばんは!さて本日のゲストはグルメリポーターでお馴染み!…」

ラジオをつけて晩飯の支度を始める。一人が住むには有り余る程の家は、自分で言うのもなんだが、立派だ。今となっちゃ部屋の半分以上は使われてない物置だけども。

 

そういや、親父が専用の部屋とか言って全然中に入らせてくれなかった「自称秘密の書斎」ってのがある。親父は、家にいる時はそこによく篭ってたけど、一日中音沙汰無い時が何度かあって、よく心配したもんだ。

 

親父の口からは、直接中に入っちゃダメだとは言われてなかったんだけど勝手に入るのはばつが悪いというか、後ろめたかった。だけれども、死んじまった後じゃ俺が入ったところで誰も構いやしないだろう、って軽い気持ちで部屋の扉を開けようとしたが、これが開かなかった。

何がなんでも中がどうなっているのか知りたかったもんだから保管しておいた遺品の中から、部屋の鍵らしきものを必死こいて探し出して、漸く入れたなーなんて思いつつも、何か怪しい、如何わしいものがあるのかと変な期待ばかりしていたんだよな。それでドア開けた瞬間、視界はぎっしりと本が詰まった棚、そして大量の本が積み重なっていたり散らばっていたりの床、で埋め尽くされ圧倒、それで本自体どう見ても怪しい代物でもなかったんだ。

 

その時だ。

何の仕掛けか知らないが、その直後顔面スレスレの位置に分厚い本が急に落ちてきたもんだからやっぱ入っちゃマズかったのかなと思ったさ。一呼吸おいて、適当にそこらに落ちているものを手に取って拝見してみたら、これがどれも読めない文字ばかりの本で……そりゃあしょっちゅう外国に出向いてる親父だから、当然なんだろうけど。やっと日本語の本にありつけたと思って読んでみても内容が理解に苦しむものが殆どだったり、机の上には非常に読みづらい日本語らしき言葉に幾何学的な図形と文字のようで文字でないような……言ってみればどこぞの古代文明なんかで使われているような文字らしきものが羅列、混雑したメモなのか、はたまた確りした原稿なのかも分からない、そんな文書が綴られた紙で散らかっていたんだ。

 

その中で唯一内容が把握出来たものがあったけど、これが登山関連の雑誌や、自分で書いたのであろう独自のサバイバル技術等が記された冊子もあって、もしかして本当に冒険家だったのかと驚いたりもしたが、恐らく単にそれが趣味の、察するには単なる忙しい学者だったんだろう(その親父の影響で、高校の部活では登山部に入ったんだよな)。まぁ今でもその部屋にお邪魔する時があるけど、何の分野について研究していたのかは未だに理解できない……って訳でもないが、断片的に得たものを統合すると、文系と理系が混ぜ合わさって総合された感じだ!

 

まぁどの道わからん。言葉の壁が、そこにあった訳だ。所詮、微妙な偏差値の高校で中程度の頭脳の俺には、まだまだわかんねーさ。

 

そんな変人の住居の周囲は、簡単に言えば自然が豊かで、街中の喧騒を通ってきた後には心が和む。お隣さんのとこも同じように、広い土地に緑の木々や幾種もの草花が生い茂っている佇まいだ。そんな小さな街、というよりは感覚的には、何か“新しい農村”の様な規模で平和なところである。里山を目指したような新興住宅地……って親父は言ってたっけ。でも里山で暮らす人の生活様式ってこんな楽じゃないよな。

 

「――九時になりました!毎週この時間はあるテーマ!を皆さんから……」

ラジオから流れてくる声に俺は少し手が止まりそうになった。もう九時か、一時間前に家に着いたけど飯なんか作ると、こんなものか。刻々と過ぎる時間。

(――うまい!)

夕食を終えゆっくりして、風呂に入った後、つけっぱなしのラジオを聴きながらベットに転がって、忙しかった一日が終わった。

 

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