たちむかえ! 作:匿名
――やっべぇ!!
目覚めと共に焦りが出てくるのがわかった……外がかなり明るい。壁に掛けて得る時計に目を運ばせると、いつもより2時間進んでいる。
紛う方なき急ピッチで支度をし、昨日まとめた“予め先に送っておく道具・荷物”なる旅行用のバッグと普段の装備を慌てて担いで家を飛び出す。
手荷物以外で必要なものはまとめて前日に空港まで持って行くとのこと。その為授業開始前に学校に持って行く必要がある、と生徒諸君は思わされている。何やら番号札を付けて回収するみたいなのだが、その時間に間に合うかどうか、かなり危うい。
「間にあえー」なんて叫ぶ余裕もなければ、叫んだら叫んだで何かしらの相当な猛者と認識されるだろう。大概無我夢中で何も考えず、目的達成のためにただ体を動かすだけだ。
「はあ、はあ……」
ただ、息切れくらいはする。許してほしい。
で、どうにか時間ギリギリのところで間に合った。丁度係員が車に荷物を積んでいるところで、運良くばれずに指定の所に置いてすぐさま逃げるようにして走り去った。うまくいったよ、アニメや映画に出てくる主人公さながらの気分だ。
体育館の隅に1限終了時までに置いておけと注意されていたが、たぶん係員が積む時間を計算しての時刻と時間割との調整なんだろう。
「―キーンコーンカーンコーン…」
ふざけた様に聞こえてくるチャイムは1時間目の終りを告げるものだ。
2時間目からは体育館で集会があり、もちろん修学旅行に関してのだろうが、1限は教室でホームルームだったらしい。
急いで来たので、体に疲れが出てきてしまった。
(…やべえな、次ここだっけ?)
体育館前の廊下で座り込んで居ると、恐らく同学年と思しき輩達の喋り声と共に足音が少しずつ大きくなって……聞こえて来た。
さて、隠れる余力のない状態なわけだから言い訳するとして、これまでの経緯をどう誤魔化そうかと考えていると、早速他のクラスの担任に見つかり、質問責め兼注意を受け、すれちがいに他のクラスの生徒に見られ笑われ、疲弊した体に沈む気分が加わり身もココロも貧血じみたフラつきになる。そうなりながらもタイミングを見計らい、どうにか違和感ないよう行列混じって集合場所に向かった。あのやろう、なーんてさっきの教師に思っても、ここでへばっている俺が悪いのでしょうがない。笑ってくれ。
そんなこんなで少し気分がヘコんでいると、昨日家で騒ぎ通したメンバーがやって来た。
「あ、おいサトシなにしてんだよ!遅刻か?」
お決まりの台詞。
「まぁなー、お前の言った通り遅刻しちまったよ、ついでに他の担任に見付かってさあ……」
お、お前らが原因でもあるんだぞ!って言っても格好がつかんからなぁ。いやいや、それじゃ責任転嫁もいいところだ。尚更みっともない。喧しくしてトラブルを余計に増やす真似はせず、これまでの経緯を友人らと笑って、話しながらも1限のホームルームは何をやったのか聞いたりしていると、2時間目開始のチャイムが鳴った。話を聞くに、1限は班別行動の最終チェックなんかをしたらしい。これは行かなくてもいいやつじゃないか?安堵していいんだろう。
そして明日の説明と校長の話等々、いつもの集会とは一味違う流れ作業を行った。こんなのは真面目に聞くほうがバカを見るというか、余計に精神使って疲れるもんだ。って考えるのもアホくさい、どうでもいい!
友人らとコソコソ小突きあったりしてると、お話ばかりの2限も終る。教室に戻ると、担任の口からは1限の続きをすると聞こえた。全く、学校の手際の悪さは言うまでもないよな。
「あれ~、サトシ君って居たっけ?」「授業に出ないでえ、ナニをやっていたのかなー?」
そんな笑いを含みながらの声が聞こえた、まぁいつもの通りだ。
「あははー、何言ってるのか聞こえないなー」
てな風に、妙な質問攻めには愛想笑いで対抗すればいいのだ。高校生の内ならまだ許されるだろう、そう思いたい。
かく言う3限もたいしてすることはなく、少し浮かれ騒ぐクラスは担任によく手を焼かれる。明日が修学旅行と言うことで、この階はやたら賑わっている。とりわけ俺のいるこのクラスは分別なく激しい騒ぎの嵐。「もう明日だし、マジわくわくするー!」「何買う?てか海外とか初めてだし何あるかわっかんねーしー」……問題児が多いとは考えたくないんだ、自分もその考慮の範疇に入れられそうだからな。
とりあえず班ごとになって色々喋った。ホテルの事や現地の特産品などなど。
「――ん?」
(……あれ、まただ。この感覚)
「どうした?サトシ」
「いやゴメン、なんでもないよ」
おかしいな、何がおかしいかって、何でおかしいのかが自然とわかるとこだ……って、これは当然のことかな。机を寄せて班ごとにまとまる、このことに何かとてつもない違和感があったが、何だ一体?
まあいいや。
修学旅行の気分と、遅刻とのドタバタで、気が動転しているんだろう。
一介の高校の、一介の修学旅行、それだけだ。
「よし、じゃーこれで終わるッ。みんな、また明日、修学旅行で会おう!楽しもう!」
担任の気合の入った台詞と同時に3限終了のチャイムが鳴り、これにて我が学年は放課。またいつもの仲間同士で教室に残り、無駄に喋る。その後、そのメンツのまま帰り途中で買い物したりどこか適当なゲーセンやカラオケなんかで、遊びに寄ったりして精一杯の前夜祭ならぬ前夕祭を楽しんだ。「明日遅刻したらマズいっしょ!なぁサトシー?」「んなわけねぇだろ、明日はお前かも知んねえんだからな?」こんな感じでふざけ合いながら、それぞれが家に帰った。
時間は過ぎ、10時になる頃。
さて夕飯も食ったし、あとは手荷物をちょちょちょっとすりゃあいいか。いよいよ明日かー、本当楽しみだ。何しろ外国、不安もあるけどなぁ。分からないこととか実際、多いんだろうなぁ……みんなも同じように気分が高揚してるのかなー。
別にそんなことはないだろうと思いつつも、妙なしみじみさで感慨深くなる。
手荷物の支度が済むと風呂に入り今日の疲れをほぐした。そろそろ寝ようか。本日同様、寝坊しちまったらいよいよヤバい。
時計は11時をまわっていた。普段ならもう少し勉強したりテレビやラジオを付けていたりするのだが、今朝の二の舞いをするわけにはいかない。なので寝ることにした。それにゆっくりと寝たい。明日は学校に行かずに電車に乗って駅から乗り換えて、そんで空港までと。結構早く起きなきゃ駄目だろうし。でも中心部の駅に一旦集合とのことだから、余計な心配はしなくていいか。
少なくとも明日は大丈夫さ。
そして俺は、安らかに寝につく事が出来た。