たちむかえ! 作:匿名
(はーあ、あと1時間ちょっと暇じゃねえか)
俺は持って行く荷物をまとめた後、とりあえず気晴らしに外に出てみた。
(ふう、体が目覚めるってやつだな)
今日は、最近の中では一番よさそうな空模様だったりする。この時期でこの時間帯にもなると気持ちのいい空気を感じるのは難しい。湿っぽく、これから気温も徐々に上がって、蒸し暑くなっていくからな。
んで、いつまでも寝起き時の馬鹿げたことを考えても気が悪くなる一方だったから、俺は近くのコンビニに寄って毎回読んでいる週刊雑誌等を手に取り時間を潰した。
家に着くと、修学旅行への出発までの時間が丁度良く、身支度にいつもより少し時間をかけることが出来た。だから何だって?格好に気を使う年頃なんだよ。
「行ってきます」
と何と無くってわけじゃないけど玄関から出て振り返って挨拶。
(…何だろう、この感じ)
まぁ別にこれで我が家とお別れ、なんてワケじゃないんだけどこの小っ恥ずかしさに少し哀愁が漂うのは、誰しも感じるもんだよな。
そう思うことにして無理にでも押さえつけたかったのだろう。寝起きに生じた奇妙な感覚、とは別にこの瞬間に唐突に疼いた感覚を。
そして遂に半週間家を空けることになった。
最近、数日家を空けるようなことをしてなかったせいだろう。もっともらしい言い訳で自己暗示し、度重なる違和感や胸騒ぎをどこかへ追いやり、駅へと向かった。
電車を待っていると友人達と合流、「ちゃんと寝れた?」とかなんとか話しながら、やっといつもの調子に戻れた気がした。
(これだよな、うん)
地元のターミナル駅に着くと自分らと同じような旅支度をした連中がたくさんいる中、点呼も取らない我が学校教師陣の素振りを伺いつつ、新幹線に乗る前にいつもの仲間達と少しの間、そこら辺をぶらりと巡回。
別段、車内で変わったことをしたわけでもなく平常通り駄弁り時間を過ごすが、新幹線から降りて見慣れない電車に乗換えていくと、やっぱり普段よりテンションが上がって、騒ぎ始める。
ガヤガヤしてると、もう空港まで着いた。
なんやかんやとエスカレーター式作業を終え、飛行機に搭乗。
各面々、座席シートに腰をかけ、窓の向こう側を見たり、機内の設備に興奮したり。しばらくすると、シートベルト着用の旨を伝える機内アナウンスが流れた。
(やべえ、どうも変な感じだ)
会話が途切れると、またしてもワクワクする気持ちが、疲れによって悪いほうへと中和されてしまっていく。この感覚、どうにかならないものか。
「The seat belt sign has……」
「え、これ何て言ってるの?」「ちょっと待っとけ、今ねえ」「いや、さっきの日本語の指示と一緒だって」英語のアナウンスにも驚きを隠せないクラスの友人たち。なんだか、置いてけぼりを食らっている気分だ。
ガクン
「おおっ」
そして飛行機が滑走路を走り始める。これはちょっと心臓に悪い。
「皆様、間も無く離陸します……」
「きたー!」「うわ、耳おかしくなった」「おお、飛ぶ飛ぶ!」「すげえ!」離陸によってまたもやテンションが上がる。
ついに俺たちは修学旅行先に向け、飛び立った。
飛行機の中にいる時間は相当ある。その中で俺は少し寝たいと思っているものの、友人達と騒ぎ合う状態ではそうはいかない。まぁ、こっちの方が楽しくて良いけど。それと、今朝起きたあの不可解な現象については友人らには一言も喋ってはいない。喋る訳にはいかないし、言ったところで妄想劇の始まりだ、と思われるのがオチだからな。アホらしいことこの上ない。
(そう。普段の、楽しい時なんて、ほんの一瞬の、束の間にある幻に、後悔を、後悔をさ、少し含めた……微睡みのようなものだ)
どうやら、楽しさより、体調不良が先立ちそうだ。今までの不可解な出来事の連続が体に来たのだろう、おかしな駄文が脳内で並び始める。
「ふあーあ」
「なんだよサトシ、ねむいのか?」
「まあな、なかなか寝付けなかったもんだから」
一応、事実だし。今寝ておかないと、旅先での面白みや感動が軽減されそうだ。
「わりい、寝かせてくれ」
「ったく、しゃあねえなー」
「おやすみ~」
眠気に誘われ、夢の世界へ。