ヒトミミウマ息子がゆくウマ娘プリティーダービー   作:コウハクまんじゅう

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剛毅朴訥

 

 

 

「えっ、負けたのか?源治が?」

 

 いつもの見慣れた河川敷。俺はそこで仰向けになりながら昨晩、突然野良レースを仕掛けられた事を話していた。周りにはタマ、オグリ、ポッケが座って俺の話に耳を傾けていた。

 

「あぁ。完敗だよ。」

 

「…まじかよ」

 

「その割には随分うれしそうな顔しとるな」

 

 目を見開いて驚いているオグリやポッケと対照的に、冷静に自分の様子を指摘するタマ。それに対して俺は笑って上半身を起こした。

 

「まさか得意のコーナーで俺が負けるとは思わなんだ。府中にいる奴らとはあらかた走っていたつもりだったが、まだあんな怪物もいたとはな」

 

「ま、怪物と言うんならここにも大概なのがいっぱいおるけどな」

 

 ちらりと周りを見渡すタマ。それにつられて俺も周りを見渡す。今ここにいるのは、俺、タマ、オグリ、ポッケ、そして…

 

「………」

 

「うん?なんや?どうし…っておわぁあ!?」

 

 盛大にすっ転ぶタマ。その視線は俺のすぐ隣に向けられていた。俺も隣に視線を向ける。

 

「……いるなら言ってくれ、スティル。みんなが驚くからな」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

 遠慮がちに声を上げる、純白のヴェールがトレードマークの儚げな雰囲気を纏った少女。しかし、この少女こそが昨晩源治と死闘を繰り広げた、スティルインラブであった。

 

「い、いつの間に…」

 

「まったく気づかなかった…」

 

 みんなからその存在を認知されたスティルインラブは気まずそうに顔を伏せ、黙りこくってしまった。

 傍から見ればあまりにも失礼極まりないが、これは彼女の性質なのである。実際に、彼女の影の薄さは日常生活にかなり影響をもたらしている。例えば、まだ同じ部屋にいるのに彼女に気づかず電気を消されてしまったり、今しがたあったようにタマがその視界に収めるまで一切気づかれなかったり…などなど。とにかく影が薄いのだ。

 

「あれ?でもなんでここにおるんや?」

 

「その、源治くんが『夕方の〇〇河川敷で毎日走っているから来たくなったらいつでも来い』とおっしゃっていたので……」

 

「源治の名前まで…二人はどういう関係なんだ?」

 

 オグリが素朴な疑問を投げかけると、周囲の視線が集まってくるのに戸惑いつつスティルインラブは少し躊躇った後にぽつりぽつりと話し始めた。

 

「幼馴染…みたいな感じです。」

 

「幼馴染?学校一緒やったんか?」

 

「いえ、小さい頃に出会って…しばらくは一緒だったんですけど、彼と離れちゃって……」

 

「へえ…どうやってそんなに仲良くなったんだ?」

 

 ポッケの質問にピクリと体を震わせると、伏し目がちになった。

 

「それは…色々、ありましたから…昨日の夜も…ね」

 

 頰を赤らめ、恥ずかしそうに顔を伏せた。みんなが顔をこわばらせて無言で離れていく。誤解を招く発言はやめようね!(懇願)待て、違うんだ、ほんとに。あ、タマとポッケが本気で引いてる、オグリですらそそくさと離れていく。やめろ、そんな目で俺を見るなッ!

 

「おい待て、今のだと誤解しか生まないだろ。」

 

 慌てて訂正しようと口を開いた瞬間、遠くから声を掛けられた。誰だ?と思って振り返ると、そこには昨日聖蹄祭で出会ったヤエノ、チヨノオー、アルダンだった。そういえば今日並走頼まれてたんだっけか。

 

「おお、お前らか」

 

「こんにちは。約束通り、お手合わせ願います。」

 

「私達も来ちゃいました!」

 

「私は見学に。」

 

 口々にここへ来た理由を述べていく。そこからしばらくは談笑が続いたが、次いで俺の近くにいたタマやオグリに話題が移った。

 

「あ、タマモ先輩とオグリさんもいたんですね」

 

「おーう!でも、なんでお前らがここに?」

 

「昨日、タマモ先輩がクリークさんに連れていかれた後、源治さんと並走のお願いをしたところ“○○河川敷に来い”と言われたので。」

 

「ふむふむ・・・あれ?なんで源治が走れること知っとるんや?」

 

「オグリが口滑らせた。」

 

「ちょっ、源治!?」

 

 ハハハ、と周囲が笑いに包まれた。顔を赤らめ恥ずかしそうにもじもじとしているオグリの様子が一層笑いを誘う。

 

「さて。私はそろそろ走る準備してきます。源治さんも準備の方をお願いします。」

 

 それだけ言うとヤエノムテキは斜面を降り、念入りに準備を始めた。真面目だなぁと思いながらその背を見つつも、俺も準備体操をするべく斜面を降りるのだった。

 

 

────────────────────

 

 

 

「ではそろそろ始めましょうか」

 

「おう」

 

 しばらくして、両者の準備が整った。スタートの合図を務めるのはサクラチヨノオー、ゴールにはメジロアルダンが佇ずみ、両者の勝敗を見極める。そして他は2人の並走を坂の上から見守っている。

 

「ヤエノさん、頑張ってください!」

 

「源治~負けんなよ~」

 

 応援の声を聴きながら、両者はスタートラインに立って集中していた。源治は目をつむって瞑想していたところ、となりから声をかけられた。振り向くとヤエノムテキが手を差し出していた。

 

「正々堂々、いい勝負をしましょう。」

 

「…おう。」

 

 その手を握った瞬間、両者の間に強い風が吹き抜けた。落ち葉が巻き上げられ、2人の間を駆け抜けていく。風の壁が消え去った後にはどす黒い覇気を放つ怪物と、それに相対する金剛の如く固い意志を持った武人がいた。

 

「ひぁぁ…」

 

 源治とヤエノムテキの放つ覇気に飲み込まれ、思わず地面に座り込んでしまうチヨノオー。それを心配したタマモクロスが駆け寄るが、やんわりと断り自分の脚でしっかりと立ち直した。

 

「そ、それでは行きますよ!」

 

 その言葉を合図に、両者が同時に前のめりの姿勢になった。一層威圧感が増し、その場は完全に両者の独壇場となった。坂の上から見守る観客たちもその空気に飲まれ…ていない。みんな談笑しているか、面白そうに笑っているか、恍惚とした笑みで源治に熱烈な視線を送っている。最後のは一人だけだったが。

 

「よーい、ドンっ!」

 

 上げた片腕が振り下ろされ、レースの始まりを告げた。集中が最高潮に達していた両者はこれにすぐさま反応し、同時に脚を踏み込んだ。

 

 

ズン

 

 

 空気が揺れるほどの爆発音が響き、弾丸の如く2つの影が飛び出していった。やはりお互いに手の内を知らないため、最初は慎重に相手の出方を伺う…というわけでもなさそうだ。

 

「!?」

 

「え」

 

「おいおい…初っ端からあんな飛ばして大丈夫かよ?かかったのか?」

 

 源治は、皆の予想に反してぐんぐんと伸びていった。その光景は差し、先行を得意としている普段の姿とは違って、まるで逃げのようであった。

 それは源治を知っている者から見れば落ち着いて走れていないように映るが、ただ1人そうではない者もいた。

 

「あれは……彼のペースでちゃんと走れています。」

 

 魅惑的な真紅の瞳で、源治の走りを冷静に観察した末にそう呟くのはスティルインラブだ。しかし、それを疑問に思う者達が質問を投げかけた。

 

「あんなペースで走ったら最後まで持たないんじゃねーか?」

 

「そうですね…前までの彼なら、そうでしょう。しかし、今の彼は昔よりも数段成長しています……昨日走った時実感しました」

 

「えっ、昨日源治と走ったのか?」 

 

「はい。なので分かります。彼はあのペースで走っても終盤で大いに末脚を活かせるかと…」

 

 冷静な彼女の見解を聞いて周囲は納得すると共に源治の走っている姿に再び目を向けるのだった。

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 こちらの誘いに乗らず、思ったより冷静に走っている。走りながら俺はヤエノムテキに対してそう考えた。終盤で末脚を使える程度の余力を残しつつも強引にペースを上げ、向こうを誘う動きを見せたら実直そうな彼女なら乗ってくるかと思ったがそうでもない。

 

(ただただ実直な武人というわけではないのか。)

 

 ならばこれ以上ペースを上げて誘いを掛けるのは得策ではない。すぐさまそう判断すると速度を落として息を整えた。

 

(ならいつも通り、最終コーナーからの加速で仕留める。それまではゆったり走らせてもらおうかねぇ)

 

 なんてことを考えていたその時、目の前に影が飛び出してきた。

 

(えっ)

 

 思わず呆気にとられていると、こちらをちらりと振り返ってきた。その際に赤い風車の髪飾りがたなびき、その下から切れ長の鋭い目が覗いていた。

 

 おさきに。そう言っているように聞こえた。その目を見た瞬間に自分の中に何かが沸々と湧き上がってくるのを感じた。

 

「…おいおい、やってくれるじゃねぇか」

 

 無意識のうちにそう呟いており、気づけば力を込めて脚を前に踏み出していた。 

 

(いいだろう。乗ってやる)

 

 足裏に芝生を踏みしめる感触を感じながら、一気に爆発させた。瞬く間に距離が縮まり、あと少しのところで抜かせる。そう思った時だった。突然進路を塞がれ、加速しようにもできない状態になってしまった。

 

「…まじか。」

 

 やっちまった。そう思った時には時すでに遅し。今ので要らぬ力を使ってしまい、体力を無駄に消耗してしまった。いつもの自分なら絶対にやらないであろう失敗をしてしまったことを自覚してため息が出た。

 

(なにまんまと乗せられてんだよ)

 

 自分に対して悪態をつくとすぐさま体勢を立て直し、現在の状況を把握した。どうやらもう最終コーナーに突入してしまっているらしく、体がコーナーに合わせて無意識のうちに曲がっていた。

 しかし前方を塞がれてしまった今、得意のコーナーも活かせないため仕方なく大人しくしていた。

 

(仕掛け所は最後の直線。焦るな…もう失敗できないからな…ここだッ!)

 

「ッラァア!!」

 

ズン

 

 先ほどは不完全燃焼となってしまった踏み込みも、今度こそ爆発させグングンと加速していった。

 

「ハァッ!」

 

ズン

 

 しかしそれをヤエノムテキが見逃すはずもなく、ほぼ同時に加速した。しかしスピードはわずかに俺が勝り、ほぼ並びかけた後に僅かに前に出た。

 

「なっ!?」

 

「お先ィ!!」

 

 ここぞとばかりに速度をあげ、一気に突き放そうとした時。

 

「!?」

 

 脚が思うように動かない。その時頭によぎったのは、昨晩のスティルと謎の狂犬との連闘、さらにはさっきのロスと集中力の欠如。

 

「…クソったれめ」

 

 再び自分に悪態をつくと、思うように動かない脚を必死に動かしながらなんとかゴールを駆け抜けた。ゴールを通過した瞬間に脱力してその場に立ち尽くしながら息を整えていると、坂の上から声をかけられた。

 

「ヤエノも源治もお疲れさん!」

 

「いい走りだったぜ!」

 

「び、ビックリしました!まさか本当にオグリさんの言っていた通りだったとは…」

 

 各々好きに喋っているのを聞いていると、メジロアルダンが歩み寄ってきた。

 

「このレース、約一バ身差で源治さんの勝利です。」

 

 そうして静かに勝敗を告げられた瞬間、息を吐きだしてようやく肩から力が抜けた。そうしていると

ヤエノムテキが近づいてきた。

 

「あの、源治さん」

 

「あぁ、ヤエノムテキ。いい走りだったぜ」

 

「押忍!とてもいい経験になりました。今回は負けましたが、次は勝ちます。よろしければまたお願いします」

 

 そう言いながら始まるときと同じように手を差し出してきた。

 

「それと、ヤエノでいいです。」

 

「おお、そうか。またやろーな、ヤエノ。」

 

「押忍!」

 

 やはりこの少女は剛毅朴訥という言葉を体現したような人物だなと思いながらこちらも手を差し出し、固く握手を交わしたのだった。

 そして握手を解いたあと、疲れて坂に寝っ転がると、頭上からポッケの声が降ってきた。

 

「あと源治。お前中学生に手を出すのはヤバいって」

 

「違ぇっつってんだろ。スティルも何とか言ってやってくれ」

 

「そんな…私とは遊びだったっていうの?源治くん…」

 

「やめろォ!!誤解を招くような事いってんじゃねぇ!」

 

「ウワーソンナヤツヤッタンカー」

 

「見損なったぞ…源治…」

 

「やめてオグリ!そんなガチトーンで言わないで!つか信じてないだろうな!?」

 

 なんとも締まらない幕引きであった。

 あと誤解はちゃんと解けた。

 

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