ヒトミミウマ息子がゆくウマ娘プリティーダービー 作:コウハクまんじゅう
お久しぶりです!皆さんよい年末を過ごせたでしょうか?今年も無病息災を祈るばかりです。
こつり、こつりと人々の喧騒の中を静かに進んでいく。
前から人が来るのを避けながら進んでいると、川を登る鮭になった気分になる。そんな人の奔流の中を歩き続けてようやく抜けると、大きな歓声がドッと耳に突き刺さってきた。
「やっぱここはいつ来ても賑やかだな」
そんな大熱狂を浴びても尚、平然と観客席へ上がる。熱く、勢いのある軽妙洒脱な実況に乗っかって観客席も益々盛り上がっていく。
周囲には自分が見知ったチームや一匹狼もいたが、普通の学生や一般市民等も見受けられており、自分が走っていたときよりもかなり治安が向上したことがよく分かる。
やはり、ポッケが去った後のL/Roarsが頑張っているのであろう。そう思いながら俺はレースへと目を向けた。
俺は、かつて世話になったフリースタイルレース場に再び来ていた。というのも、先日河川敷で走っていたら疲労から来る不注意で足首を捻ってしまったのでしばらく走るのは控える事にしたからだ。
情けないことに、足首を捻って動けなくなった時スーパークリークに膝枕をしてもらった。だが寝ている間どうにも顔が痒かったのでたまらず起きたら、皆が集まっていた。
俺が起きると蜘蛛の子を散らしたようにそそくさと去ってしまい、スーパークリークに何かあったのか訊ねてもニコニコしてるだけで答えてくれなかった。
まぁ、過ぎたことだし今さら気にしても仕方ないだろうと割り切ったが。
ぽやぽやと考えていると、空気を揺るがす歓声に意識が引き戻される。どうやらレースの決着がついたらしく、着順を知らせるアナウンスが響いていた。
「…おー、みんな速いな」
「そうだね。ここはトゥインクルシリーズとはまた違った感じで皆ギラギラしてて好きだな〜」
「おぉ、分かってるなあんた。あ、そういや俺トゥインクルシリーズ?とやらまだ一度も見たことない…ん!?」
慌てて隣に視線を向けると、やあ、とさも当然のようにニッコリと手をひらひらと振っている、ミニハットが特徴のウマ娘がいた。
「……誰だ?」
「アタシはミスターシービー。よろしくね」
いつの間にか横にウマ娘がいるこの光景、この前見たなとデジャヴを感じる。
「…源治だ。」
「それが本名?この前無名って言われてるの聞いたけ─むぐぐ、ちょっと、何するのさ」
慌ててミスターシービーの口を塞いで周囲を確認する。幸い、次のレースが始まっていたようで誰も聞いてはいないようだった。
「おまっ、それ聞かれたら色々面倒だからここで言うなよ。というかどこでそれ知った?」
「ジャングルポケット、だったっけ?あの子とレースしてる所をたまたま覗いてね。」
悪びれもせずしれっと言ってのけた。これ以上喋らせても碌なことにならないと考え、口を開こうとすると向こうがそれに被せるように喋りだした。
「ねぇ、目を閉じて想像してみて。」
「…あぁ?」
突然何を言い出すんだ、と一瞬思考が停止してしまい、向こうに話の主導権が渡ってしまった。それを好機と見たのか、こちらをちらりと見やると、もう一度呟いた。
「目を閉じて、想像してみて」
その一言に逆らえない妙な圧力を感じ、言われるがままに目を閉じた。
「…キミは今狭いゲートの中にいる。そして扉を隔てた向こうには、青々とした芝が広がっている。」
ミスターシービーの言葉と、フリースタイル時代に何度も見た光景が閉じた瞼の裏に重なる。隣にいるやつの息遣い、ギャラリーのざわめき、そして自身の高鳴る鼓動までもが蘇るようだ。
「興奮が最高潮になったその瞬間、一気にゲートが開く!周りは皆、前へ前へと位置取りをしていくけど、キミは今そんな気分じゃない。」
そう断定すると、選り好みをするように、そうだな…後ろに回って、最後方からレースを眺めようか。と呟いた。不思議とその言葉に抵抗は感じず、それに合わせて瞼の裏に映る景色も後ろへと下がっていく。
「……やがて第3コーナー、坂が来る!弾む心のままに加速して、登って下って──最終コーナー!」
にわかに俺の体が熱を帯び始めた。血の巡る速度が爆発的に上がっていき、遊ばせていた脚に力が宿った。
「周囲は一気に加速していく。熱を逃がすな、先頭を捕らえろ!もう一度、思いっきり脚を踏み込む。息を短く、吸って吐いて──走るんだ!風よりも、光より、速く速く、全てを脱ぎ捨てて前へ!もう誰もキミを止められない、誰も縛れない!」
「ッ…!!!」
声にならない叫びが溢れた。思わず飛び出したくなるのを慌てて抑える。
心臓が踊る、肺が叫ぶ、脚が震える。もしここがターフだったら、俺の体は間違いなく走り出していただろう。
「ふふっ、なんか走りたくなってきちゃったな。それで…どうどう、どうだった?」
目を開けると、瞳を期待に輝かせたミスターシービーがこちらを覗き込んでいた。俺は小さく息を吐き出し、子どものようにワクワクしながら、たった一言。
「……最高だな。」
「!!………ふふっ、ふふふ…あははは!」
心底楽しそうに笑う。それにつられて俺も笑い出す。
話し込んでいて見ていなかったレースも、今決着した。
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「ねぇ、走らない?」
「今は無理」
「え?」
それから俺達は、 いくつかレースを観戦した後に近くの河川敷─いつも走っている所とは違う場所─をのんびり散歩していた。
「今、足首を怪我してて走れねえんだ」
「あぁ、そういう事…歩いてて平気?」
「歩く分には問題ない」
当たり障りのない話をしつつ、暮れていく夕日を眺めながら歩いていた。このミスターシービー、どうやら俺の反応が気に入ったようでずっとついてくる。人間がウマ娘並に走れるのが気に入ったのだろうか。
そんなこんなで話していると、互いの親の話に話題が移った。
「アタシの両親はね、元担当トレーナーとウマ娘なんだ。今でもアツアツなんだよ?」
「おお、そうなのか!実はこっちも同じでな。」
「へぇ〜!アタシ達、ちょっと似てるね!」
曰く、父親は史に名を刻むほどの名トレーナーで、母親は重賞を制するほどのウマ娘だったそうだ。そういえば、俺の父さんはトレーナーで、母さんはその担当ウマ娘だったのは聞いたけどそれ以上は聞いてなかったな。今度聞いてみるのもいいかもしれない。
互いの親がトレーナーとウマ娘だと言うことで、つい夢中で話し込んでしまい、気づけばあたりは暗くなっていた。
「お、もうこんな暗くなってきたのか。んじゃあ、俺はそろそろ帰るわ。」
「ん、わかった。足首が治ったら、走ろ。約束ね?」
名残惜しそうにこちらを見つめる瞳を見つめ返すと「おお、わかったよ」と返事をした。
それを聞くと、ミスターシービーは身を翻して夕闇の中へと消えていった。
この2人の絡みは今後もある予定です。
しばらく源治くんは走らない…と思います(未確定)
まだ聖蹄祭のときにばら撒いた伏線を回収し終わってない…(絶句)まぁ、これからもゆるりとやっていくので、お付き合い頂けたら幸いです。