ヒトミミウマ息子がゆくウマ娘プリティーダービー 作:コウハクまんじゅう
僕が書く小説は基本的にアイデアが先に出て来て、それをより具現化するために話を組み立てていく…というスタイルでやっております(要は行き当たりばったりに近い)。なので、極力気をつけていますが、もしかしたら辻褄が合わなかったり矛盾が生じたりする場合があるのでその時は報告してくださると有り難いです。
さて、今回の話は前回の話をタマ視点で進んでいく形となります。
前回の話の補足も踏まえた内容となっております。では、どうぞ
夕暮れの河川敷。
そこを一人の芦毛のウマ娘が走っていた。
「さーて、今日もやったるでー!」
やる気を滾らせ、気持ちと集中力を高めていく。深く息を吸い、胴を起点にして腕、脚、つま先から頭のテッペンまで、全身に力をくまなく行き渡らせていく。
「今日こそは…ウチが完膚なきまでに叩きのめしたるん、やっ!!」
刹那、先程までとは比べ物にならないほどの脚力を発揮して加速していく。その瞬発力たるや稲妻と見紛うほど。おかげでアスファルトがミシミシと悲鳴をあげているが、そんなことはお構いなしに少女はどんどん加速していく。だがしばらくすると徐々に減速し、何かを探し始める。
「さぁーってと、多分ここらへんに…おーい!どこやー?おるんやろー?おーい!」
手をメガホンのように口元に当て、声を張り上げて彼を探す。彼はたまにぼーっとしているときがあるので、こうして大声で呼びかけなければたまに反応しないときがある。だが、そんな彼もひとたびレースとなったらたちまち豹変し別人のようになるのだが…
「……あっ」
いた。河川敷の斜面に埋もれるようにして仰向けに寝っ転がっていた。呼びかけるとこちらに気づき、ゆっくりと立ち上がりこちらを向いた。
「トレーニングお疲れさん。やりすぎて走る体力無ぇとか言うんじゃないだろうな?」
「おう!見ての通り元気いっぱいや!」
ウチの返事を聞いて彼は満足気に頷き、笑った。
「お〜、元気そうで何より。んじゃ……今日もやるか」
「おう!今日こそうちがぶっちぎって勝ったる!!」
と、威勢よく啖呵を切ったものの、正直あまり自信はない。こんな弱気なのはウチらしくないとわかっている。わかっては、いるのだが…
「さて、どうかな?」
彼がそう言った途端、ズズ…と息をするのも苦しくなるような覇気が彼から溢れ出した。そのあまりにも濃い覇気は可視化して漆黒に染まっている…ように見えた。
(…!!)
思わず耳と尻尾がピーンと立つ。まったく、何度経験しても慣れないものだ。彼の
(相変わらずやなぁ、やっぱすごいわ。二重人格とちゃうんやろか…)
息をするたび、肺に重い空気が入ってくる。自分が今立っている地面がぐちゃぐちゃに崩れ落ちていくような感覚に陥る。一瞬でも気を抜けば倒れてしまうかもしれないその威圧感に耐えながら、しばらく睨み合っていた。
突然、彼が動いた。ゆったりとした動作で斜面を降り、道路の上に立った。ウチもそれに続いて彼の隣に並び立ち、今はまだ見えない2000m先のゴールを睨む。
スタートラインについたらやるべきことはただ一つ。
二人同時に、構えを取った。
陽が落ちた。
「ッ!!」
「ッ!!」
今、スタートした。
……うん。走り出しは悪くない。彼に遅れを取ることなくしっかりスタートできた。
現在、ウチの位置は彼のすぐ後ろ。このままぴったりとくっついていって、最後の直線で自慢の末脚で一気にぶち抜くのが理想。だが…
(そうもいかんやろうなぁ…)
と、ウチの目の前を悠々と走る彼を見ながら思う。と言うのも、彼とレースをしている中で今までにも何回かこの作戦を使っているからだ。
その時は単純に実力不足で届かなかったが、今はウチもメキメキ力をつけてきており、そのことを彼はよく知っている。そうなると今までのようにはいかなくなるのは目に見えているので何かしら対策を講じているだろう。対策をされると自分の思うようにレース運びができなくなるので自分の体力を削られ、ペースも崩れるという危険性があるため安易に使うことができなくなっていた。
同じ者と何度もレースをしていれば、自然と互いの動きや得意な脚質、成長具合等もわかってくる。ウチの最も得意な脚質は後半にスパートを掛けて一気に駆け抜ける「追い込み」だが、あともう2つある。
中盤まではやや後ろに控えておき、最終コーナーあたりから加速して最後の直線で先頭集団を抜いていく「差し」、なるべく前の方につけてタイミングよくスパートをかける「先行」。この2つも使いながらなんとか誤魔化してきていたが、もうそろそろウチの得意な脚質も見切られているだろう。
(さて、今日はどうしたもんかな…)
レースはすでにもう半分近くまで差し掛かって来ている。ここからは緩やかな右のカーブが来る。それを曲がり切ったらもう最後の直線に到達する。
(しゃーない。ここまで来たら行くっきゃない!)
そうして自分を奮い立たせると、彼にぴったりとくっついたままカーブを曲がり始めた。
さて、いつもなら彼はカーブを曲がり切ろうかというところで一気に飛び出して後続を突き放す大胆な走りをするはずなのだが…
(あれ?仕掛けて来ぉへん?)
おかしい。もうそろそろカーブが終わり、最後の直線に入る直前だというのに彼は動く気配がない。まさか、彼もまたいつもと違う作戦で来るつもりなのだろうか。だが、最後の直線においてできる作戦と言えば…まさか。
(ウチと同じ、追い込みか!?)
ズグゥオォ…
まるでその心の内を見透かしたのように、地面を踏みしめるときの独特な音が響き渡った。
ズン
彼が弾かれたように一気に飛び出した。
「ッ!!」
今まで幾度も彼とレースをしてきたが、彼が追い込みで仕掛けてくることなどただの一度もなかった。ほとんどが「先行」か「差し」だった。これは何を意味するのか。彼がウチの得意な脚質で勝負しても勝てると踏んだのか、それとも別の狙いがなにかあるのか。そもそも彼も追い込みが得意なのか?いずれにしても…
「負けられへんッ!!」
ズン
こちらも負けじと加速する。彼の背中がグン、と近くに来た。直線での勝敗は簡単だ。強い意思を持って最後の最後まで喰らいついた方が勝つ。下手な小細工は無し。持っている力のすべてを振り絞って走るのだ。
「さぁ、うちとやろやァ!」
叫びながら、徐々に近づいていく。が…
ズグゥウン…
「なっ!?マジか!?」
彼が再び踏み込み、更に加速した。あっという間に突き放されていく。
「くっ…!!」
負けたくない。負けたくない、負けたくない…絶対に負けたくない!よりにもよって自分の得意な脚質で…!!だが、心のなかでいくら叫ぼうとも無慈悲に差は開いていく。
「うう…」
今までならばここまで必死になって勝とうとすることはなかっただろう。なぜなら、彼の得意な作戦(多分)に負けていたので、確かに悔しいが「まあ仕方ない」と割り切って次のレースに臨んでいたからだ。だが今回は違う。彼の方からウチの得意とする作戦…ウチの土俵に入ってきて勝負を仕掛けてきた。
(だから、負けたくない…負けられへん、のに…)
なぜこんなときに、思い出してしまうのだろうか。
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ウチは、あの日の事を思い出していた。初めて彼に挑んで、惨敗したあの日を。
「くそっ…!なんでや、なんでウチは…!!」
人間に、負けるのか。この人間が(なぜかはわからないが)特別強かっただけか、ウチの調子が悪かったのか、それとも……自分の、弱さ故か。
「くそ…くそぉおおおおおお!!」
色々な思いが混ざり合い、ぐちゃぐちゃになった感情を吐き出す。こんなところで負けてられないのに、自分は人間に負けるくらい弱いのか?少しも勝てなかった、自分は勝たなきゃいけないのに…
勝たなきゃ、いけないのに…こんなところで止まっていられないのに…家族の為に、世話になった皆のために……勝たなきゃ……!!
「走るのが楽しいから。」
ドクン…
「前から思ってたんだけどな、タマ。お前…そんなんで走ってて楽しいか?」
ドクン…
この言葉は…彼とレースを始めてから少したったある日のことだった。当時のウチはなかなか彼に勝てず、レースでも思うように結果が出せず、焦っていた。そのため、いつからか走ることを楽しむ、という事を忘れていた。
「楽しい?あのな、今のウチは何が何でも勝たなアカンねん。勝って勝って勝ちまくって、家族に楽させてやらなアカンのや!だから、楽しむなんて…」
「俺とのレースも楽しめないか?」
「え?えと…それは…」
そんなことない、とは言い切れなかった。彼とのレースでさえも彼に"勝つこと"だけを考えて走っていたからだ。それに、根底には「人間に負けるということを認められない」という気持ちも少なからずあったからだ。
「……まぁ、俺が言うのもなんだけどな…。俺から見たら、今のお前は"勝つこと"に囚われてて本来の実力を発揮できてないように思う。それだけじゃあない。今のままじゃ成長できないまま終わっちまう。」
だからな、タマ。と彼はこちらを向いて続けた。
「俺とのレースの時ぐらいは、レースを、走ることを、楽しんでみたらどうだ?」
レースを楽しめ。
当時は余裕がなかった為、彼の言葉をなかなか受け入れられなかった。だが、心の奥底でずっと引っかかっていた。楽しむ。レースを楽しむ…
ふと現実に引き戻され、自分の前を走る彼の姿を見ながら考える。
彼はレースを楽しんでいて、ウチは楽しめて、ない?
『なんでそんなに速いねん!!』
『走るのが楽しいから。』
レースを楽しめ。
ドクン…!!
白い稲妻
「!!」
瞬間。彼の背中に追いつき、並んだ。
「うおあああああああああ!!」
力の限り叫び、必死に喰らいつく。肺が、心臓が、千切れるように痛い。脚が悲鳴を上げている。でも…
「ああああああ!!………ぁは……ははは……はははははははは!!!」
ウチは今、心の底からレースを楽しんでいた。
ああ、楽しい。楽しい、楽しい、楽しい!!
「はははっ!………あれ?」
ふと気づくと、あたりは静寂に包まれていた。よく意識してみると音どころか、心臓や肺の千切れるような痛みも、体に当たる風の感触さえも感じていなかった。あるのは、目の前にある一本の道とその向こうにある…
(あれは…?)
よく見えず、よくわからない"それ"をつかもうとした瞬間…
気づけばウチは、彼に勝っていた。
「…ッ!!」
勝った、ウチは、完璧に勝った…!!そう認識した途端全身の力が抜け落ち、ドサリ、と地面に仰向けに倒れ、空を見上げていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
ハッキリと、"勝った"という感覚があった。でも今はそれ以上に…
「楽しかった…」
久しぶりだった。いつぶりだろうか、あれほど楽しく走ったのは。
「タマ。」
声をかけられた方を向くと、スポーツドリンクをこちらに差し出している彼の姿があった。
「
その一言には、「さっきのレースの感想」を聞いている…だけではないような気がした。レースの感想と、もう一つ別のなにかを…でも、それが何かはわからない。だから、ウチは差し出してきたスポーツドリンクをしっかり握りしめて言い放った。
「むっちゃ楽しかったわ!!」
その答えを聞いた彼は短く「よかった」と呟いた。
「久々にウチの勝ちかぁ〜」
すっかり日が暮れ、あたりは真っ暗になった河川敷にウチは倒れていた。やっぱ強いなぁ…というか毎回思うねんけど、なんであんな強いんや?と彼が強い理由を自分なりに考え始めた時、ふと、今日の体験を思い出した。
(……一瞬掴みかけた、あの感覚。)
レースを、走ることを心の底から楽しみ、全力で走ったことによって掴みかけたあの感覚。世界に自分一人だけ取り残されたかのような静寂と、その中に確かにあった"何か"。
掴めそうで、掴めない。だが、すぐそこにある。不思議だが確かにそこにある感覚。
(アレを完璧に掴めたら…)
きっとウチは、誰にも負けないだろう。
これからやるべきことがわかった。ハッキリとした目標ができ、レースや走りを楽しむことを思い出し、なんだかスッキリとした気分だった。
「またな〜」
「ほ〜い」
確かな収穫があった一日だった。ウチは満足しながら帰路へと着くのだった。
……なんかあの場にウチと彼以外にも1人いたような気がするけど…まいっか!
【速報】タマちゃん、ゾーンを垣間見る。
次回は芦毛が出ます。(誰だ…?)
主人公くんが追い込み使った理由は「タマの得意な脚質は多分追い込み。そんでもってタマは負けず嫌いだから、自分の土俵で戦って負けるのは嫌だって言って殻を破れるのでは?と思ったら」だそうです。
主人公のヒミツ①:ぼーっとしている時がある。前に雷が落ちても動じなかったこともある。
主人公のヒミツ②:レースをする時は別人のような雰囲気を醸し出す。
あと、参考程度に…
↓
主人公の脚質適正……追い込み:A 差し:A 先行:A 逃げ:G
タマモクロスの脚質適正……追い込み:A 差し:A 先行:A 逃げ:G
運命?