ヒトミミウマ息子がゆくウマ娘プリティーダービー 作:コウハクまんじゅう
みたいな感じです(小並感)
レースが終わった後、俺はしばらく柵に腕をついて放心状態になっていたが、しばらくすると静かに離れた。
最初はポッケを称えようと最前列に向かおうとしたが人が多すぎる上に迷惑になりそうなので別の機会に本人の元へ伺うことにした。しかし、何もしないのも悪いのでLANEでメッセージだけ送って観客席を後にした。
一歩、一歩と歩みを進めていくたびに喧騒から遠ざかる。
全身に纏わりついていた熱気が少しずつ剥がれ落ちていく。
しかし胸の内では未だに余韻が残っており、それに浸っているのであった。
「………」
『─うおおおおおお!!!』
全てを燃やし尽くして走るポッケ達の激走が頭から離れない。見る者を魅了し、熱狂させる力がある、あの走り。俺自身、あそこまで熱くなって叫んだのは久しぶりかもしれない。
「………」
頭の中であのレースを何度も思い起こしながら、歩みを進めていく。
一歩一歩を噛みしめるように踏みしめていく。次第にそれは間隔を狭めていき、リズムを刻んでいった。
どうしようもなく、走りたい。ならばどうするか?
答えは至ってシンプル。
走ればいい。
気づけば、いつもの河川敷へと来ていた。
陽はすっかり傾き、頬を撫でる風は一層冷たさを増していた。
「…ふぅ─」
胸の内に抱えた情熱を吐き出すように息を吐く。
おもむろに片膝を折り、もう片方の足をのばす。ふとももからふくらはぎ、つま先へと意識を巡らせていく。脚はじんわりと熱を帯びており、「早く走らせろ」と言っているかのようだった。
それからも入念に準備運動を行い、全力で走っても問題ないほど体が温まった。
最後に伸びをするように腕を伸ばすと、おもむろにコースの上へと立った。
何回も走り込み、すっかり身に染み付いた芝の感触。
この間は不完全燃焼のまま終わってしまったが、今日こそは全力で走る。
そう決意した時だった。
土を踏む音が響き渡り、そちらのほうを見やるとそこには皺だらけになった白衣を引きずり、虚ろな瞳で夕陽を見つめるウマ娘がいた。うん?彼女は確か…
「…アグネスタキオン」
名を呼ばれて初めて俺の存在に気付いたのか、片耳をピクリと動かしてこちらへと視線を落とした。先ほどよりかは幾分か光が戻ったように見えた。
「……やあ、源治くん」
「随分とまぁ見た目が変わったな」
髪は手入れをしていないのかボサボサで、服はシワだらけ。お世辞にも綺麗とは言えない格好だが、その顔はどこか晴れやかだ。
以前聖蹄祭で会った時の、狂気で濁りに濁った瞳をして、何かに取り憑かれ追い立てられているような鬼気迫る様子とは大違いだ。
「何か用か?」
首を回し、大儀そうに言って見せる。しかしそれに答えることは無く、再び夕陽を眺めていた。
俺もそれを気にすること無く、再び目の前を見据えた。右足のつま先を地面につけ、念押しするようにぐるりと大きく回した。
もう既に痛みも違和感も無く、久々の全力疾走に浮足立っているかのようだ。
小さく口の端を釣り上げ、静かに左足を前に出し、右足を後ろへと持っていった。息を吐き出し、余計な物を頭の中から排除していく。姿勢を低くし、いつでも飛び出せるように構えた。
すると、それを呼び止める声が響いた。
「源治くん……君は、なぜ走るんだい?」
「ああ?何だよ急に」
「なに、ちょっとした戯れだよ。」
いいから答えたまえよ、と訊ねてきたにも関わらず何故か偉そうに言う。水を差された事と、不遜な物言いに顔を顰めてやりながら、自分が走っている時に常に思っている事を言った。
「楽しいから。」
「…『楽しいから』、か…クク、単純だねぇ」
「何か悪いか?」
「いや、それもきっと…いいのだろう」
変な奴だな、と。心底そう思う。
自分の足で走る、走ることができる。それだけで走る理由になる。それに…強い奴と走るのは、アガるからな。
そのような旨を伝えた所、またもや笑ったかと思うと、小さくこうつぶやいた。
「……君たちは本当に似ているねぇ。本当に…眩しいねぇ」
「あ?『君たち』?誰の話してんだ?」
「ククク…いやいや、こちらの話さ。」
最後の部分は小さくて聞き取れなかったが、あくまでも自分のことを話したがらないらしい。こちらが何か訊ねてものらりくらりとかわされてしまう。
だが、このまま引き下がるのも癪なので、ひとつ気になったことを聞いてみる。
「あっそう、んじゃあこっちからも質問させてもらうが…」
お前、なんで走る理由を探してんだ?
その言葉に、タキオンは二本の耳をピクリと硬直させた。
さっきから聞いていれば、こいつは走るための理由を探しているように聞こえる。
……俺には理解できない。走れる脚があるのに何故躊躇う?何故迷う?何故理由を探す?そんなものなくとも、走ればいいじゃないか。だってお前は─
「ウマ娘、なんだから」
「………」
「……お前が何を見て、何を経験して、何を考えたのかなんて知らねぇ。だが、自分の脚で走れるうちは、自分の脚で走ればいいじゃねぇか」
「……─」
俺の言葉に、タキオンは沈黙したままだったが、地面にしゃがみこんだかと思うと自身の脚を触り始めた。まるで「まだ走れるか?」と聞いているかのように。
「……ククッ…『走れる内は、自分の脚で走れ』か…ハハ…アハハハハ!」
愉快そうに、それでいてどこか吹っ切れたように清々しく笑う。その顔には、一点の曇りもなかった。
しばらく笑った後、満足したのか大きく深呼吸をし、空を再び仰いだ。そして、ゆらゆらと坂を降りてきたかと思うと、隣に並び立った。
「……復帰戦なんでお手柔らかに。」
「…クククッ、お互い様だねぇ」
短く言葉を交わし、互いに体を低く沈めた。
突然、アグネスタキオンが何かを取り出した。
「………」
それは、夕陽を撥ねて赤く光っているプリズムであった。手に持ったプリズムを軽く握った後に、空へと放った。
空へと投げ出されたプリズムは周囲の景色を映し出し、茜色に輝いていた。
そのまま重力に従って下へと落ちていき、再びタキオンの手へと吸い込まれていった。
「「ッ!!」」
夕日が映し出す河川敷。二つの影が踊った。
ちょうど日が沈み始め、いよいよ夜の帳が下り始めようかと言う黄昏時。薄暗い河川敷の芝の上に二つの人影が小さく動いていた。
「…はぁ…はぁ…」
荒く息を吐き出す。心臓がドクンドクンと鼓動を打つ。全身を熱い血液が巡っているのが分かる。久々の全力に体が喜んでいるかのようだった。
「……ハハ…アハハ……アッハハハハハ!!」
息を整えたタキオンが楽しげに、満足げに笑った。
それにつられて、思わず笑った。やはり、全力で走るのは気分がいい。俺は笑いながら芝の上に身を投げだした。
対するタキオンは薄暗い空を仰いだ後、手に持ったプリズムを眺めた後に懐へとしまった。
「……感謝するよ、源治くん。」
「ああ?何を?」
「ククッ、人の謝意は素直に受け取り給えよ」
変な奴。そう吐き捨てると俺はタキオンに背を向けて歩き出したのだった。スマホを見ると割といい時間になっていたので、急ぎ足で帰ろうと足を踏み出した。
「ああ、それとな」
そう言うと踏み出した足をピタリと止め、タキオンの背中を振り返る。
「体、大事にしろよ。」
それだけ言うと、彼はそのまま背を向けて夜の闇へと消えていった。夜風が吹き抜け、熱を帯びた体を撫でていく。
「………大きなお世話さ。」
しばらく呆然と佇んでいたが、やっと回り始めた頭でそれだけ言葉を絞り出した。
「……自分の脚で、か…」
頬を手に当てると、夜風にさらされているとは思えないほど熱かった。これはきっと、久々に走ったからまだ体の熱が冷めていないだけに違いない。そう思うことにした。
「ふぅン…ポッケ君が彼に惚れ込んでいる理由が、なんとなく分かった気がするよ。」
─この、たらしめ
吐き捨てるような言葉と共に、白衣を翻して闇夜へと溶け込んでいった。
※源治くんはタキオンの身に何が起きたのか一切知りません。
何も知らない彼からすれば、「走りたいなら走ればええやんk…何をそんなに難しく考えてるの?」って感じです。
今回は迷った末に、レース描写は無しにしました。結果は皆様の想像に委ねたいかと思います。
タキオンは「ウマ娘の可能性の果て」を見れれば、そこに到達するのは私でなくてもいいと言いつつも、結局それでは納得できず、「自らの脚で到達しなければ意味がない」とウマ娘の本能全開の極地へと辿り着くのいいよね…
これにて新時代の扉(ジャパンカップ)編は終了となりますが、あと一話後日談的な物を出そうかと思っています。新時代組と源治が鉢合わせてわちゃわちゃやる感じです。現在アンケートで人気のあの子も出てきます。お楽しみに!
新時代の扉の後日談のあと、誰の絡みが見たい?
-
ポッケ
-
タキオン
-
カフェ
-
ダンツ
-
オグリ
-
タマ
-
クリーク
-
チヨノオー
-
アルダン
-
ヤエノ
-
シービー
-
新しいキャラ