ヒトミミウマ息子がゆくウマ娘プリティーダービー 作:コウハクまんじゅう
皆さまお久しぶりです!最後の投稿から一か月余りすぎてしまいましたが、何とか投稿にこぎつけました。そしていつの間にやら評価をもらい、UAは55000を突破、お気に入りに至っては610人を超え、多くの感想がよせられる等、最初の頃は想像もできなかったほど評価を受け、感謝感激でございます!
最近はこの小説のゴールを考えながら書いているので思うように執筆が進みませんが、しっかり最後まで書ききるつもりです。願わくばこの小説を最後まで見届けていただければ幸いです。
私だって
地獄のラーメン騒動から数日後。俺は何とか回復し、走り回れるくらいには良くなった。今はリハビリと気分転換も兼ねていつもの河川敷をフラフラと歩いている。
「まったくえらい目に遭った…もう二度とあんな辛いのは食いたくないな…」
思い出すだけで腹と舌が痛くなる。あのラーメンには粘膜という粘膜を焼かれ、しばらくは水を飲むのにも苦労したのを覚えている。
あの血の池地獄を平らげた後、ぐるぐる目のウマ娘─本人曰く、メイショウドトウというらしい─からは泣いて詫びられ、ポッケ達からは(かなりドン引きされながらも)体を気遣われた。
なお、タマ達にもそれとなく話した所、ポッケ達と同じように「えぇ…」と引かれた。しかし、その後にみんなから体の心配をされて内心嬉しかったのは内緒だ。オグリからは「今度私も行きたい!」と打診されたので、快く承諾した。
しかし、今度からは店内にメイショウドトウがいないことをよく確認することにしよう。
ちなみに、これは余談ではあるが、あの時カウンターでぶっ倒れていたウマ娘の内2人がジャパンカップに出ていた「ナリタトップロード」と「テイエムオペラオー」だったという事実を知って腰を抜かしそうになった*1。
(普段はあんな感じなのに、レースになると別人のようにギラつくんだからすごいよなぁ…)
そんなことをぼんやりと思いながら歩いていると、後ろから誰かが走ってくる音がした。
ウマ娘の血の影響で、反射的に片耳がピクリと動いて音の位置を特定しようとする。後方約5,6メートルのところから、軽快に地面を蹴る音が響いてくる。
音からして1人か。邪魔にならないように横に逸れようとすると、向こうが速度を上げてこちらに近づいてきた。
「源治さーん!」
「うん?」
呼びかけられ、足を止める。なにやら聞き覚えがある声だ。この独特なふわふわした声は…
「ダンツか」
「こんにちは〜!体調大丈夫ですか?」
「ああ、すっかり治ったよ。ありがとうな」
そこには、トレセンのジャージを着たダンツフレームがいた。
聖蹄祭以降なぜか懐かれ、ラーメン騒動の時も唐辛子の粉を吸って死にかけていたのに俺の心配をしてくれていたいい子だ。
「何してんだ?」
「自主練の途中です」
「精が出るな。俺も一緒に走っていいか?」
「もちろん!ぜひぜひ」
目を輝かせ、赤べこのようにこくこくと首を振る姿がなんとも愛らしい。ちなみに、俺がウマ娘並に走れることはポッケから大体聞いているとのこと。理解があって助かる。
通行の邪魔にならないように河川敷に降りると、俺はおもむろに準備運動を始めた。入念に体をほぐし、温めていく。そして十分に体の調子を整えた。
「うっし…んじゃぼちぼち行くか」
「はい!」
最後にくるりと足首を回し、つま先を地面にコツコツと打ちつけた後に、静かに足を踏み出した。あくまで俺は付き添うだけなので、ダンツの歩幅に合わせる。
「先日は大変でしたね…」
「ラーメンの事か?腹壊して寝込みはしたが…まあ、こうして走れてるしな。そんな気にしてねーよ。」
二度と食べたくないけどな、という言葉は飲み込んだ。
「そういや、自主練ってことは近々出走するレースがあるのか?」
「はい、宝塚記念に出ます」
「宝塚…」
これまた名前だけは聞いたことがあるレースだ。
いまいちピンと来ていないのが顔に出ていたのか、かい摘んで説明してくれた。
「宝塚記念は芝の2200の右・内のコースで、出走するウマ娘をファンの投票で決めるんです」
「ファンの投票…」
ファンの投票によって選ばれる。つまり、宝塚に出走するウマ娘はファンに走ることを望まれている…言い換えれば多くの人々からの期待を一身に背負って走るということ。
「私、実は一番人気に選ばれてて…」
「一番!?すげぇな」
言いながらポケットに忍ばせておいたスマホを取り出し『宝塚記念』と入力してみると、サジェスト欄には既に『一番人気』『ダンツフレーム』などの単語がひしめき合っていた。
その中の一つを押すと、出てきたのは上から下までダンツの勝利を期待する声で埋め尽くされた画面だった。
それらを見ている内に、かつてフリースタイルで走っていた頃を思い出した。気ままに走っている内に、ポッケ率いるL/Roarsと対立し、府中の中で注目を集めていたこと。そして、ギャラリーから押し付けられた期待から逃げ、後のことをポッケ達に全部投げたこと。
「ずいぶんと期待背負ってんだな。大変だったりしないのか?」
大勢の人々から寄せられた期待は相当重いはずだ。なぜそれを背負いながら走ることができるのか、そんな素朴な疑問から自然とそんな言葉が出た。
「案外そうでもないですよ?応援してくれているファンの人に『走ってほしい』って選んでもらうのって、けっこう嬉しいです!」
だからこそ、と言葉を区切り、顔を上げて目の前を見据える。その瞳が見ている物はもっと先の景色のように思えた。
「勝ちたい。勝って立ちたい、舞台の真ん中に。」
「…そうか」
にこやかな表情から一転、凛々しく真剣な表情へと変わった。その横顔の中に僅かに違和感を感じたが、結局わからず俺は再び前を向いた。
■□■
数キロを走ったところで、俺たちは河川敷に設けられた休憩スペースの自販機の前で休息をとっていた。火照った体に冷たい炭酸水がよく沁みる。
「ふぅ…」
「ランニング、付き添ってくれてありがとうございます」
「いや、礼はいいよ。俺が勝手についてっただけだから」
「それでも、です。誰かと一緒に走ると、いつもより頑張れますから」
言いながら俺の隣に静かに座り、同じメーカーの炭酸水…シュワシュワサイダーを両手で包んで控えめに傾ける。思ったよりも炭酸が強烈だったのか、目と口をすぼめている。
「わ、これ炭酸強いですね。でも後を引く感じが何か癖になるような…独特だけど美味しいですね」
「だよな。これ、俺が初めて飲んだ炭酸なんだ。だからよくこれ飲んでる」
言いながらカンの飲み口に口をつけ、ぐびと飲み干した。
「はぁ〜美味かった」
爽やかに弾ける炭酸と後を引かないさっぱりとした甘みに舌鼓を打っていると、ダンツが意を決したように小さくボソリと言葉を零した。
「…私、自分に自信がないんです。」
「え?」
突然どうしたんだと驚いて顔を見てみると、その視線は手元に注がれておりこちらを向いていない。どうやら独白のようだ。表情は陰りを帯びており、瞳は虚ろだ。
色々と聞きたいことはあったが、口を挟めるような雰囲気ではないので続きを聞くことにした。
「スタイルもフォームも綺麗じゃないし、みんなみたいに特別な才能があるわけでもない…羨ましいなぁ」
「……」
才能、という言葉を聞いて、彼女の同期であり友人達の事を思い浮かべた。
ジャングルポケット、マンハッタンカフェ、アグネスタキオン。カフェの走るところは見ていないので実力は未知数だが、ポッケは凄まじい末脚を、アグネスタキオンは狂気じみたスピードをそれぞれ持っている。その「特別な才能」がどれほど鮮烈かは、共に走ったことがあるからよくわかる。
「私、最後の決定打がなくて、いつも勝ちきれないんです。」
皐月賞、日本ダービーの時だって…吐息を吐き出すように、小さく言葉を紡いでいく。
「…それでも、私だって勝ちたいんです。」
きゅっ、とカンを軽く握りしめる音が不安そうに響いた。その音を聞きながら、なぜ彼女がこんなことを言い出したのかを少しずつ掴み始めていた。
ランニングの時に言っていた「宝塚記念」と「一番人気」。そして今の独白…彼女にとって宝塚記念とは、初めて自分が輝けるかもしれないレースなのだろう。それに勝てるかどうか。
(…不安、なのか)
ランニングの時に見せたあの違和感はこれだったのかと今更ながら腑に落ちた。同時に、俺にその不安を打ち明けた理由についても察しがついた。
(才能ある同期へのコンプレックスと、そこから来るレースへの不安…なるほど、俺に話すわけだ。)
話を聞いた俺は静かに天を仰いだ。そして、しばらく考え込んだ後に言葉を探すようにゆっくりと口を開く。
「……強いんだな。」
「…え?」
呆気にとられたように声があがりこちらを振り向くが、構わず続ける。
「お前は、ポッケ達の才能の前に挫けそうになっても立ち上がって戦ってる。」
そう。先ほどの話を聞く限りだと、彼女はポッケ達にコンプレックスを抱いてはいるものの、勝負は捨てていない。その根性と精神力は…
「それは紛れもなく、特別な才能だと思う」
「…!そ、そんなこと初めて言われました。」
目を見開いてこちらを見た後に、すぐさま手元へと視線を落とした。カンを眺めるその表情には、すでに憂いはなかった。代わりに、その頬は赤く染まっていた。
「ありがとうございます。なんだか自信が持てました」
「そりゃよかった」
そういう言うと俺は静かに立ち上がり、伸びをしながら空き缶をゴミ箱へと放り込んだ。
「どうする?まだ走るなら付き合うぞ」
「いえ、今日はもうあがります。」
言い終わるや否や、缶を大きく傾けて一気に飲み干した。
そのまま立ち上がり、丁寧にゴミ箱へと入れると何かを思いついたように両手を合わせた。
「そうだ!ご迷惑でなければ、歩きながら学園まで少し喋りませんか?」
この後は特に予定もないので、快く承諾した後に俺たちはのんびりと道なりに歩きながら雑談を交わすのであった。
■□■
雑談をしながら歩いていると、いつの間にやらトレセン学園についていた。誰かと他愛のない話をしながらぶらぶらと歩くのは中学以来だったため、懐かしさを感じつつも穏やかな時間だった。
話をしている最中、ダンツの俺を見る目がやけに熱っぽかったのは気のせいだろうか?正確に言うと励ましの言葉を送った時から。
「あ、もう着いちゃた…じゃなくて、今日はありがとうございました!」
「ああ。宝塚記念、がんばれよ」
「はい!」
俺は門の前で立ち止まると、軽く片手を上げて別れを告げた。
その際学園を見渡し、「相変わらずここはでけーな」と、そんなどうでもいいことを考えながら俺は立ち去─
「あれ?ダンツちゃん?」
─ることができなかった。足を止めて声の方へ顔を向けると、そこにはふわっとした長髪と青と白の縞模様が入った耳カバーをつけた葦毛のウマ娘がいた。
「あ、ミラ子先輩!」
ミラ子先輩、と呼ばれた葦毛のウマ娘は片耳をピクリと動かし、こちらに視線を向けると「どうも~」と手を振った。無言で会釈を返すと、ダンツが紹介してくれた。
「源治さん、こちら私の先輩のヒシミラクル先輩です!ミラ子先輩、こちらは私の知り合いの源治さんです!」
「どうも~、よろしくです~」
「よろしく」
互いに軽く挨拶を交わす。柔らかな声音とゆるく垂れた目じり、どことなくダンツと雰囲気が似ている気がする。そんな印象を抱いた。
「ミラ子先輩は私と同じ栗東寮のルームメイトなんです」
「そうなのか…というかダンツって寮生だったんだな」
「はい!あとあと、ポッケちゃんとタキオンちゃんも栗東ですよ。あ、ちなみに寮長はフジキセキ先輩です」
「へぇ、そうなのか」
寮長って学生がやるもんなのか?俺寮入ったことないからわかんねぇけど…そんなことを考えていると「ところで」とヒシミラクルが口を挟んできた。
「ちょっと質問いいですか?」
「ん?ああ、いいぞ」
「お兄さんはダンツちゃんと付き合ってるんですか?」
「え?」
「ミ”ッ”!?」
戸惑う俺とフリーズしたダンツをよそに、ヒシミラクルはマイペースに話を続ける。
「だって遠巻きに見てもお二人さんすごく楽しそうだったから…」
「いや、付き合ってないけど…」
「あれ?そうだったんです?遠巻きに見てもお二人さんすごく仲良さそうだったので、てっきりダンツちゃんに春が来たのかと…でもでもお兄さん!こんなに可愛い子を放っておくなんてもったいないよ~?ダンツちゃんと付き合ったら、このもちもちほっぺを毎日好き放題できたりできなかったり~?ほれほれ~」
「ちょっ、ミラ子先輩!?」
未だに脳の処理が追い付かず、俺はただ呆然とほっぺで遊ばれているダンツを見ていた。しかしふと我に返って辺りを見渡してみると、トレセンの生徒が遠巻きにこちらの様子をちらちらうかがっているのが目に入った。
中には何人か興味津々に駆け寄ってきている姿も見えた。それらを見て、自分が今どこにいるのかようやく把握した。
やべぇ、そういやここ女子高だ
聖蹄祭の感覚で気楽に来てしまったが、冷静に考えればよその高校の生徒が来るだけでも問題なのに、ましてや女子高に男の俺が女の子と二人で来るなど恰好の的である。
「俺帰る!宝塚がんばれよ!」
自身の脚を惜しむことなくフル回転させ、病み上がりということも忘れて駆け出した。後ろから声が聞こえてきた気がするが、振り向かずに一目散に逃げた。
逃げは俺の脚質じゃないんだがなぁ…
心の中でぼやきながら、二度と軽はずみに他校(特に女子高)に近づかないと心に誓った。
後日、トレセン学園では「生徒の一人が男の子と仲睦まじげに校門で話していた」と大盛り上がりしたことをタマやポッケ達から聞いた。
知らんな。
その日の夜ダンツは部屋でミラ子にいじられまくったとかなんとか。
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!おれはダンツのほのぼの回を書こうとしていたが、気づいたらシリアスになっていて「これではいかん」とお助けミラ子をねじ込んだ結果こうなっていた…
な…何を言ってるのか わからねーと思うがおれも何をしたのかわからなかった… 頭がどうにかなりそうだった…ダンツをもちもちしたいだとか葦毛狩りだとかそんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ…もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
小説を書いていて常々思うのは、自分はちゃんと成長できているのかどうか、読者の皆様に楽しんでもらえているのかどうか、ということです。それと、投稿頻度はまだ遅くなりそうです。