ヒトミミウマ息子がゆくウマ娘プリティーダービー 作:コウハクまんじゅう
待たせたな!(n回目)
ポッケ、タキオン、ダンツと来たら…ねぇ?
「何かに憑かれたかもしれねぇ。」
と何の気なしにごちる。それを聞いたポッケは呆れたような表情で冷ややかな視線を送った。
「何いってんだお前」
「そのまんまの意味だよ」
と平然と返す。
俺は今、ポッケの並走に付き合っていた。本人曰く、最初はタキオンに並走を頼んだそうだがのらりくらりと躱され、挙げ句妙な薬を飲まされそうになり逃げ出してきたと。
そのフラストレーションを解消するために俺の所へ来たそうだ。ついでに通りかかったダンツも巻き込んだ。
「つ、憑かれてる…ですか?疲れているじゃなくて??」
「おお」
予想もしていなかったであろう言葉が飛び出し、耳をあちこちへぴょこぴょこ動かして困惑した様子を見せるダンツ。
「いわゆる、その、幽霊とかの?」
「おお。1人だけのはずなのに視線を感じたり、風邪引いたわけでもないのに朝起きたら体がだるかったり…あ、突然物が動いたりとかもしたな。あと、妙な夢も見るようになったんだよなぁ…黒いロングヘアーの女にジーッと見られる夢。」
それを聞いた途端、ポッケは耳と尻尾を槍のようにピーンと伸ばし小刻みに震え始めた。
「お、オレ野暮用あんの思い出したわ。じゃーな」
「尻尾と耳の荒ぶり方が尋常じゃねぇぞ」
「だッ゙だだだ誰がお化けなんて怖がるかよ!!!」
別に訊いた訳でもないのに暴露し始めた。もはや身体だけでなく声まで震え始めている。頭を押さえうがーっとうなっているポッケの背中をダンツが撫でながらなだめている。
(そういえばこいつ昔っから心霊の類にはめっぽう弱かったな)
まだ俺がフリースタイルレースで走っていた頃、いっとき「幽霊が出る」という噂が流行っていた時があった。まあ少ししたら聞かなくなったが。
レースに没頭して帰りが遅くなった時なんかは「お、おい、源治はお化け苦手だったよな?しかたねーから俺がそこまでついてってやるよ」とかいいながら俺の服の裾をガッチリ掴んで離さず、結局ポッケの家の近くまで引っ張られたことがあった。
本人は幽霊が怖いことを隠しているつもりだったようだが、先程の叫びを聞けば分かるように俺含めた周りからは筒抜けだった。
そんな他愛もない思い出にふけりながら両者のやり取りを眺めていると、道の向こうから腰の辺りまで伸ばした真っ黒でつややかな長髪を控えめに揺らすウマ娘がやって来た。
小柄だが、無駄の無いシャープな線を描いた体躯。
どこかミステリアスで落ち着いた、大人な雰囲気を纏った少女だ。
「あれは確か…マンハッタンカフェか?……あれ、マンハッタンカフェで名前あってるよな」
そう言ってポッケ達の方を向いたが、まだ荒れ狂っているので無理そうだ。俺は人の名前を覚えるのが苦手だから聞きたかったのだが…
(姉貴にもよく言われっけど、俺も直したいとは思ってんだけどな…それが原因でポッケと喧嘩になりかけたりもしたし…)
まだ俺が小さい頃。今はマシになったが、口数が少なく寡黙な性格と名前を中々覚えられない悪癖、さらには異常な身体能力も相まって中々友人ができない俺を心配して姉がよく気を揉んでいた時があった。
姉とは年の離れた姉弟で、俺の事を「ゲン」と呼んでよく可愛がってくれた。今は家を出て一人暮らしをしており、時折帰ってきては職場での話や面白い話をしてくれる。
(最近、仕事が忙しいとかで帰ってきてないからなぁ、また会いてーな)
しばらく帰ってきていない多忙な姉に思いをはせていると「あの…」と低く落ち着いた声が掛けられた。
「おっと、マンハッタンカフェ…であってるよな?」
「はい…色々と聞きたいことはありますが、まずは…ポッケさんどうされたのですか?」
「ああ、ちょっとな。まあ気にしなくていい」
ダンツに背中をさすられ、ようやく落ち着きを取り戻し始めたポッケを横目にマンハッタンカフェに訊ねる。
「んで、どうした?」
「実は源治さんに用があって…」
「え?俺?」
「はい」
意外な言葉に目を丸くする。しかし俺とマンハッタンカフェ─いちいちフルネームは面倒だから、カフェと呼ぶ─は聖蹄祭以降ほとんど接点がない。不思議に思っていると、申し訳無さそうに眉を下げてこんな事を言い出した。
「まずは謝罪を…お友達が、ご迷惑おかけしました…」
「えっ?お友達?」
まったく持って覚えがなく、ますます意味がわからないと言った表情をしてみせる。
「順を追って説明しますね…」
時は遡って聖蹄祭の後、俺がスティルとひとレース終えた後のことだった。
帰り道にどこの誰ともわからない狂犬ウマ娘に野良レースを吹っ掛けられたのだが、そのウマ娘がカフェの「お友達」だというのだ。
彼女いわく、俺はそのお友達とやらにえらく気に入られたらしい。しかもお友達はただのウマ娘ではなく、いわゆる霊体の類なのだそうで最近起きているポルターガイストも、そのお友達の仕業だそうだ。
あまりに突飛な話だったので混乱したが、その話が本当なら色々と合点がいった。
「だけど、何でお友達は俺にちょっかいかけてくんだ?」
「その…彼女は、気に入った人物にはしつこく絡むタイプ、なので…聖蹄祭以降、しばらくは私が引き留めていたのですが…隙を突かれて逃がしてしまって…」
「ああ、そういうことか…それと、なんで今は姿が見えないんだ?前は追い抜いていく姿がはっきり見えたのによ」
「ひょっとしたら、偶然『波長』が合ってしまった…のかもしれませんね。時間が遅かったのも…あるかもしれません」
顎に手を当て、思案するようにうつむいた後そう結論付けた。
「まぁ、なんでもいいか。幽霊だろうが何だろうが、あいつには借りがあるしな…次会った時には俺が勝つって伝えといてくれ」
「…あなたは、この荒唐無稽な話を…信じてくれるのですね」
「まぁ、ガッツリ見たからな。それに夢に出てきた黒髪の女も、話を聞いて思い返したらあいつに似ていたからな。あいつにゃ借りもあるし、次会ったときは勝ってやる」
固めた右拳を左手で受け止め、パシ、と乾いた音が響く。以前はこんな動きしなかったんだが、誰かに影響されたのだろうか。
タマか?それともポッケだろうか?
「…きっと彼女は、楽しかったんですね。初めて私以外に自分の存在を認め、共に走ってくれるヒトを見つけて。」
そして、とカフェは話を区切ると俺の目を見てこんな事を言いだした。
「もしよろしければ…お友達が認めたあなたの走り…是非、一度見せてもらえませんか?」
「お手合わせ、願います。」
にわかに琥珀色の瞳が怪しい光を帯び始めた。
それに対して俺は無言で口の端を僅かに上げた後、風に揺れる髪を纏め上げて応えてみせた。
「ありがとうございます。では…始めましょうか」
スタートラインについた俺達は飛び出せる体勢を整える。ポッケ達は「トレーニングがある」と言って離脱したので、この場には俺とカフェの他には誰もいないはず…だが。
(…いるな)
肌に刺さるピリついた視線を感じ、周囲を見渡す。しかし自分達の他には人影は見当たらなかった。
(まぁ、来たくなったら来るか)
そう思いながら静かに前を向いた。
「「─ッ!」」
言葉もなく、レースの狼煙は静かに上がった。
(…速ぇな)
彼女のペースを見てそう思った。カフェの走りに関する情報は皆無のため、今回は慎重に出方を伺う方針に舵を切ったが…
(こうも速いと体力が持たないかもしれねぇな…)
今までのレースで磨かれてきた勘が警鐘を鳴らしていた。「勝負はすでに始まっている。何かしら手を打たないと負ける」と。追走しながら集中の妨げにならない程度に考えを巡らす。
(このままついてきゃ思う壺…かと言ってこのペースに付き合わずゆるゆる走ってたら取り返しのつかない差が開く…やりずれぇ、今までやりあったことがないタイプだな)
極端な逃げ以外ならどの走り方でも走れる自信はあるが、俺は元来先頭集団に取り付いて全体の流れを握る走り方をしてきた。ゆえにスタミナや全体を見る力はそれなりにあると自負できる。しかし、それは自分のペースで走れているときに限って、だ。
(ここまで強引にやられちゃたまらねぇな。これがマンハッタンカフェか…)
かと言って何か有効な手が思いつくわけでもなく、俺は成す術なく強引にペースを上げさせられたまま勝負は最終コーナー手前へと向かっていった。
(…今のところは順調、ですね)
レースが始まった当初からずっとハナに立って流れを握り、彼の動きを封じている。ちらりと後ろを見やると、スタミナに限界がきているのか肩で息をしておりかなりしんどそうに見えた。もうじき最終コーナーに差し掛かる。
(向こうが仕掛ける前に、終わらせる。)
「ッ!!」
ズン
「うっお、まじかよ…!?」
後ろから驚いたような声が上がった。これまでのハイペースに加え、このラストスパートだ。並大抵のウマ娘ならスタミナ切れで沈んでいく。*1
「…お先に」
スタミナ切れで後方に下がっていく彼の姿を想像しながら脚を踏み出した。
ピシッ
「ッ!?」
突然、後ろから感じたことのないプレッシャーが襲ってきた。これは、一体…
「…これで確信に変わった。やっぱり
漆黒の狂風
ズン
「さァて、行くか」
その言葉が聞こえた後、高速で地面を踏みしめる鈍い音が背後に迫っていた。
「なっ…!?」
驚いて、一瞬意識が彼に逸れた瞬間。真横から黒い物体が出現し風のような勢いで駆け抜けていった。
「ッラァ!」
風のようなスピードと、柳のようにしなやかな身のこなしでグングンと加速していく。
「あっ…似て、る?」
そのコーナーでの加速は、何百回も見てきたお友達の走りにとてもよく似ていた。
その走りに見惚れていると、彼の前に黒い影が現れた。
「うおっ、おまっ─」
彼も突然目の前に出てきた影に困惑して脚が僅かに鈍ったが、立て直して追走していった。こちらも負けじと加速して両者が競っている背中に追いつく。
「はあああッ!」
「おおおおッ!」
三人でもつれ合いながらゴールへと飛び込んだ。
「はぁ…はぁ…」
「はぁ…はぁ…あ゛ー、キッツ…」
結局、2人そろってあと一歩のところでお友達には負けてしまいましたが今まで以上に近づけました。いずれは彼女に追いつき、追い越せるかもしれません。
高揚感に包まれながら、「あっちぃ」と言いながら髪を解き、いまだに息を切らしている彼に近づいて話しかけた。
「まさか…あそこからひっくり返されるとは思いもしませんでした」
「いや、かなり際どかった…お前すげぇよ…ハハッ!こんなレース初めてだ!楽しかったぜ。」
心底楽しそうに笑い、こちらを称賛する彼に頬を緩めて「ええ、私も」と小さく口を動かし賛同の意を示した。
「…急に頼んでしまったのに、引き受けてくださりありがとうございました。」
「別にいいぜ。なんだったらまたやろうや。いつでも待ってるぜ」
「ふふ…はい。」
白い歯をのぞかせてニカッと笑う源治さんに僅かに笑みを浮かべて応えると突然、バンッという軽快な音と共に「いてっ」と驚く声が響いた。
彼の横には自分そっくりの真っ黒な影が並び、口を耳元に近づけて愉快そうに囁いた。
『楽しかった』
ということで、カフェイン接種。
今回は普通にカフェ回やると見せかけていろいろな物をバラまく回にもなりました。これにて新時代の扉組はひととおり供給できたかなと。
あまり喋らない、オトモダチが見える、割とコーヒーが好きという共通点があるので案外気があったりするのかな、と書いていて思いました。