ヒトミミウマ息子がゆくウマ娘プリティーダービー   作:コウハクまんじゅう

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 この話を書くに当たって、ダンツの宝塚記念のレース映像を何回も見返しました。ゴール直前の叩き合いが熱すぎた。



宝塚記念:後編

 

 

「スタートしました!各ウマ娘、先行ポジションの探り合いです─」

 

 実況の声に耳を傾けながら、全体の様子を見つつもダンツに注目する。

 現在、バ群をいち早く抜け出した一人のウマ娘が後方の隊列を率いる形となっているが、中団では未だ熾烈な位置取り争いが続いていた。

 ダンツはというと、比較的スムーズに中団から抜け出していたが同じく中団を抜け出した2人のウマ娘に左を抑えられ、ややコースを塞がれがちとなった。

 

「…だが、上々って感じだな。」

 

 進路が狭まっても焦らず冷静に走れている事に関心しつつ、直前のやり取りが緊張をほぐしたのだろうかと考える。もしそうだったら嬉しいな、とも思う。

 そんな考えをよそに、ポジション争いも徐々に決着し始め、ある程度位置が定まっていった。ダンツは現在4番手付近と好位置につけている。

 

 そのままコーナーへと突入し、隊列がやや縦に延びる。ほぼ一列となった影響でダンツの左側を阻んでいた壁がなくなり、視界が開ける。

 

「ッ!」

 

 塞がれて抑え気味だったのが一気に開けたので、ここぞとばかりに快調に飛ばしていく。先頭まではまだ10バ身以上の差があるが、ダンツの脚と粘り強さなら必ず…

 

「必ず届く。だから…最後まで走り抜けよ」

 

 フェンスを握った両手に思わず力が入る。名だたる強豪たちと戦う彼女の真っすぐで力強い走りを見ていると、何やら隣から視線を感じた。

 

「「……」」

 

「…ん?ど、どうしたポッケ…と、タキオン??」

 

 振り向くと、そこにはジーっとこちらを見つめるポッケと、好奇心を滲ませた光をたたえる目を向けるタキオンがいた。

 

「や、別にィ?いつからそんなにダンツにお熱なんだろなーって思っただけだけど?ダンツ可愛いもんな?」

 

「えっ」

 

「ポッケ君の言う通り。今の君はとても真剣な眼差しで彼女を見つめていたからねぇ…少し観察していただけさ。ふゥン、前にダンツ君にも似たような現象が起こっていたが…これはどうやら面白くなりそうだァ…」

 

「えっ」

 

 タキオンが最後のほうに言ったことは聞こえなかったが…え、俺そんなに見てた?確かにダンツの走りに惹かれていたし、俺はそれ以上にダンツが…あれ?

 

「…2人とも、源治さんをからかうのは…ほどほどに。レースが終わってしまいますよ。」

 

 カフェがやんわりとたしなめると、2人はまたレース観戦に戻った。俺もそれに続いてレース場へと目を向けたが、さっきまでは無かった感覚が胸を支配していた。

 ダンツを見ていると、レースの熱とはまた別の何かによって鼓動が速くなるような…そんな感覚だった。

 

 

 

■□■

 

 

 

 垂れてきた前との差がだんだんと詰まってきた。後ろからは必死の形相で追い上げてきた娘たちが最後のスパートを掛けている。

 

『はっ…はっ…はっ…』

 

 芝を踏みしめる重い音が鳴り響く。

 自分を含めた荒い呼吸音と、「勝ちたい」という想いが伝わって来る。みんな、それぞれの想いを背負って走ってる。けど、それは私も同じ。

 今日は私が勝つ。勝って立つんだ、舞台の真ん中に!

 そして、私に寄り添って背中を押してくれたあの人のために…!

 

「私が…勝つッ!」

 

 勝ちを掴みに行くため、大きく一歩を踏みしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最終コーナーに突入し、一気に動き出す。

 今まで脚をためていたお陰で、まだ余力はある。ありったけを出し切って、ぐんぐん伸びていく。

 

「「「おおおおおおッ!!!」」」

 

 負けじと、みんなが全力を振り絞りゴール板を目指す。観客席からはウマ娘を応援する声が爆発するかのように轟いた。

 

「…ッ!」

 

 脚が重い。肺が千切れそうだ。

 ようやく見えたゴール板を捉え、血を吐くように息を吐き出し脚を動かし続ける。

 

「はぁっ…はあっ…!」

 

 先頭までが遠い。

 届かない、あの時のように。

 

『先頭はやはりジャングルポケット!!今年のダービーウマ娘は、ジャングルポケットだ─』

 

『……流石だね。おめでとう、ポッケちゃん…!』

 

 日本ダービーで見た彼女の後ろ姿が目の前の景色と重なり、明滅する。ズキリと胸の奥が痛み、鉛になったかのように体の動きが鈍くなる。

 心臓が凍りついたかのように萎縮し、体の芯から冷えていくような感覚に陥る。

 息が、続かない─

 

 

 

「─ダンツ!」

 

「!」

 

 その時、ハッキリと耳に届いた自分を呼ぶ声。声のする方をちらりと見やると、そこにはフェンスから半分身を乗り出して叫ぶ彼の姿があった。隣には同期の3人が佇み、三者三様に自分を応援していた。

 

「源治さん…みんな…」

 

「行け!走れ!!ダンツゥウウウ!!」

 

「─ッ!」

 

 刹那、火が灯ったが如く心臓が熱く脈打ち、全身に力が流れ込んだ。

 観客席に向けていた目を前方へ戻し、再び加速した。

 

「はあああああああああッ!!」

 

 観客の興奮も最高潮に達し、実況も熱に当てられ1人のギャラリーとして熱狂しているようだった。

 みるみる先頭に近づいていく。先頭の娘も抜かされまいと必死になって走るが、徐々に差を詰められ焦っている様子。

 後ろからは私と一緒に抜け出してきた娘が引き離されんと猛追してくる。

 

「「「あああああああああ!!」」」

 

 三つ巴による壮絶な叩き合いが繰り広げられ─

 

 

 

 今、ゴール板を通過した。

 

 

 

 

「はあっ、はあっ、はっ…」

 

 ゴール板を通過した後はすっかり脱力して膝に手をつかないと立てないほどフラついていた。

 

「け、結果は─」

 

 言い切る前に、大歓声が上がった。掲示板を見てみると、そこには自分が望んでやまなかった結果が高々と映し出されていた。

 

『ダンツフレーム一着!ダンツフレーム一着!!勝ったのは、ダンツフレームッ!!ゴール前、激しい叩き合いを制して見事勝利を収めましたダンツフレーム!!』

 

「ダンツーっ!」

 

「おめでとうダンツー!」

 

「いいレースだったよー!」

 

 半ばあっけに取られていたが、観客と実況による称賛の声を聞き、自分が勝ったという事実を徐々に噛み締めていった。

 自身を褒め称える光景に、自然と頬を熱いものがつたっていった。

 

 

─ああ…私、やったんだ。やっと、主役になれたんだ…

 

 

 声にならない声を上げ、両手で顔を覆う。掴み取った勝利を大切に包み込むように。

 温かい歓声を一身に浴びた後、静かに両手を離し、観客席に向かって満面の笑みで大きく手を振った。

 

 

 

 

 その後、念願の初GⅠ制覇を同期達と喜びあった。

 源治さんも「おめでとう」と言ってくれた。本人は応援している時に柄にもなく叫んでいたのを気にしていたのか、恥ずかしそうに伏せ目がちになっていたのは可愛かったなぁ。ほっぺも赤かったような気がするし。

 ポッケちゃん達にも頬をつつかれてオロオロしてた。可愛い。

 レースが終わった後、ウイニングライブでは嬉し過ぎて涙が出ちゃって焦っちゃったなぁ。最後まで踊りきったけどね。

 

 

 寮に帰ると、同室のミラ子先輩も中継で見ていたらしくおめてとうを言ってくれた。

 

「おめでと〜ダンツちゃん。初のGⅠ制覇!よく頑張ったね」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「うんうん、じゃあ〜お祝いに今度駅前のにんじんオッチャホイ食べに行こっか!」

 

 そのままお祝いの話で盛り上がっていると、突然ミラ子先輩がむむっと唸って私の顔をじっと見つめ始めた。

 

「ど、どうしました?」

 

「むむ〜、なんだかダンツちゃん恋する乙女って表情しておりますぞ〜?」

 

「えっ!?」

 

「ひょっとして、前のおにーさんと何かあったりした?」

 

「ええっ!?いや、そんな…」

 

「ほれほれ〜、ミラ先輩に話してごらんなさい〜」

 

 そう言いながらミラ子先輩はほっぺをつんつんしてきた。私は適当にはぐらかして、もう夜も深まってきたのでベッドに入り込んだ。

 

「電気消すよ〜」

 

「はーい」

 

 ミラ子先輩の声と共に照明が消えた。

 先程はなんとか誤魔化したが、ミラ子先輩に源治さんの事を言われてからずっと胸がドキドキしていた。ほっぺたも熱かったから、多分真っ赤になっていたと思う。

 

「…どうしよう、私ほんとに源治さんと一緒に春のファン大感謝祭回れるかな…」

 

 未だ高鳴る胸と熱い頬を手で抑え、静かに眠りについた。

 

 





 次回からは春のファン大感謝祭に突入です。
 そして、春のファン大感謝祭編を持ってこの作品に区切りをつけようと考えています。とにかく最後まで走り抜けますので、よければ付き合ってくれるとありがたいです。
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