ヒトミミウマ息子がゆくウマ娘プリティーダービー   作:コウハクまんじゅう

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お待たせしました!



②春のファン大感謝祭

 

 

 広場へ出ると、既に試合や観戦を終えて出てきた人々でごった返していた。人の多さに目を回しながらも辺りを見渡す。

 群衆から突き出た屋根を目敏く見つけ、後ろを歩くダンツを気遣いながら進む。

 一歩踏み出すだけでも周囲の人々と肩がぶつかる奔流に肩身が狭くなるような閉塞感を覚えた。

 

「人多過ぎだろ…」

 

 元来、俺は人が多い場所があまり得意ではない気質だ。レース場ではレースに集中しているためあまり気にはならないが。

 ダンツも苦しい思いをしていないかと肩越しに振り返った瞬間。

 

「─きゃっ!?」

 

 横を通り過ぎた人の肩にぶつかり、転げそうになるダンツの両肩を反射的に掴んで寄せた。

 

「危ねえ…怪我ねぇか?」

 

「ひゃ、ひゃい…」

 

「そうか、よかっ…」

 

 ダンツを助ける時は意識外へ放り出されていたが、冷静になると自分が今何をしているのかに気づいてしまった。

 

「あっ…っと、…怪我なくて、よかったよ」

 

 やっとのことで絞り出した言葉を口にするが、互いに微妙な空気が流れてしまいなんだか気まずくなってしまった。心なしか周りからの視線も生暖かいものになっている気がする。

 

「…行きましょっ」

 

「お、おお…」

 

 気を紛らわすよううつむき加減で足早にその場を去るのだった。互いに気が動転し、手をつないでいたのには気づかなかったが。

 

 

 

 

■□■

 

 

 

 

「ま、とりあえず射的か」

 

「ですね」

 

 ガチャッ、と鉄砲に備えられた金具を操作し狙いを定める。

 互いに台の上に身を乗り出し、限界まで腕を伸ばす。

 

「「……ッ!」」

 

 くぐもった金属音が鳴り響き、コルクの弾が景品を弾き飛ばした。落ちたのはガムとスナック菓子、悪くはないがもう少し良いものを狙いたい所。

 

「…ダンツ。なんか欲しいモンとかあるか?」

 

「え、ええっ!?そんな、いいですよ」

 

「や、好きでやってんだからいいんだ」 

 

 俺の言葉に目を丸くした後、顔をパッと伏せて「じゃ、じゃあ…あのクマのぬいぐるみを…」と指差した。

 無言で頷いた後、ごく身軽に金具を引いて弾を詰め込んだ。台に身を乗り出し、ちょこんと座ったクマの腹へと狙いを絞る。

 

「…ッ」

 

 乾いた音を立て、コルク弾は真っ直ぐにクマの腹へと沈み込んでいった。

 

「…おし。」

 

「あっ!す、すごい!ほんとに獲っちゃった」

 

 撃ち落としたクマのぬいぐるみをダンツへと渡す。 

 

「あ、ありがとうございます!私、この子のこと大事にします!」

 

「おお。喜んでもらえてよかった」

 

 ぬいぐるみにお菓子を多数取った俺達は、足取り軽くその場を立ち去った。

 その後も様々な屋台を巡って楽しんだ。

 途中、タマとオグリが切り盛りしているたこ焼きの店やその隣に並んでいるやきそば屋に寄った。

 タマ曰く、前回はイカ焼き、今回はたこ焼きで勝負をするとのこと。オグリは手伝いに来ていたそうだが、味見と言っては積み上がったたこ焼きをダース単位で飲み込んだりしていたので微妙な所である。

 

 やきそばの店を回しているのは聖蹄祭の時に会ったメジロマックイーンと、見たことがない芦毛のウマ娘だった。本人曰く『ゴールドシップ』と言うらしい。まぁ、ゴールドシップの言っていることの半分以上は理解できなかったが…とにかく“すごい”ウマ娘だった。おかげでおおいに振り回され、焼きそばにタルタルソースやらオーロラソースやらを突っ込まれそうになった。

 

 そんな奇天烈な事をされ始めたきっかけは、俺と隣にいたダンツを見た後、隣にいたマックイーンの肩に手を置きなにやら慰め始めた後からだった。一体何だったのだ。

 

「あ、嵐…嵐だった…」

 

「あはは…ゴールドシップ先輩、いつもあんな感じですよ」

 

「…できれば、今後は会うのは避けたいな。まさか『かつお節一丁ォ!』で本物のカツオ丸々一匹を焼きそばに突っ込もうとするとは思わなんだ…」

 

 思わぬ災難ではあったが、良い意味で刺激的な体験だった。

 次に遊ぶ屋台を探していると、何やら人だかりができて騒ぎになっている。よく見てみると見覚えのある面子がちらほらといた。

 

「ポッケ達か?何やってんだ?」

 

「あぁ?ああ、源治とダンツか。」

 

「…こんにちは」

 

 ポッケとカフェ、見知らぬ顔もちらほらといた。タキオンはいないのかと訊ねると、興味が無いと一蹴したそうな。

 

 

 

「…ファン参加型競技、ねぇ」

 

 どうやら、ウマ娘とファンが混ざって参加する競技があるようだ。バスケ、サッカー、ハードル走、学園内リレーに大食い大会…様々な競技が出揃っている、と。ポッケ達Aチームは学園内リレーという物に出るらしい。

 学園内リレーとは、その名の通り学園内をウマ娘と一般のファンを交互に挟んで2周する、という内容だ。

 

「それで、同じチームのウマ娘が1人体調崩して抜けちまって、代打が見つかんねーんだ」

 

 それなら、と手を合わせたダンツだったが、俺の方を見た後にあっと声を出した。

 

「え、えーと、その…」

 

「俺は大丈夫だぞ。」

 

 困ったように眉を寄せ、気まずそうにうろたえるダンツに声を掛ける。「面白そうだし、良い位置で見てる」と言い添えて。

 

「あっ…す、すみません」

 

 申し訳なさそうにペコリと頭を下げるダンツに「気にするな」と声を掛けると同時に、スタッフらしき人物が輪に入ってきた。

 

「あ、すみませ〜ん、Aチームですか?」

 

「…?はい」

 

 チームの中では比較的物腰柔らかに応対できるカフェが、スタッフに向き合った。

 

「参加する予定だったはずのファンの方が諸事情で来られなくなってしまい、枠がもう1つ空いてしまって…なので、大変恐縮なのですが、ウマ娘の方以外にも、一般の方を1人、代打を立ててもらうことは可能でしょうか?」

 

 スタッフが言い終わる前に、全員からの視線が一斉に俺に集まった。特に隣にいるダンツから視線を感じつつ、俺はポケットに常備してある髪ゴムを探った。

 

「距離は?」

 

 

 

 

■□■

 

 

 

 

「悪ィ!せっかくのデー…ゲホンッ邪魔しちまって!」

 

「別にいいって」

 

 前髪をかき上げ、後ろ髪もまとめて縛り上げる。

 ご覧の通り、俺はポッケ達のチームに代打として参加することになった。俺たちは一足先に集合し、スタートに向けてアップを始めていた。周囲には他チームも集結してきている。

 

(…ウマ娘は当然として、ファンも仕上がっているな)

 

 どのチームを見ても、ウマ娘と一般人の垣根無く今日のために努力を積み上げてきた者ばかりであることは一目瞭然だった。それだけの熱意を持って参加しているのだろう。

 

「楽しくなりそうだな」

 

「おお〜い、源治〜」

 

 純粋な期待と高揚感に胸を膨らませていると、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「ん?ああ、タマか。どうした?お前も学園内リレー参加するのか?」

 

「せや。なんや、源治も参加するんか?」

 

「源治ー!源治も走るのか!」

 

「ああ。」

 

 ダダダダッと砂煙を上げて突っ込んできたオグリをさらりと躱す。だが、ちょうど隣にいたタマは避けられずモロに砂を被る羽目になった。

 

「うがー!ちょ、オグリィ!何してくれとんねんコラーッ!」

 

「あっ、すまないタマ」

 

 そうしてわちゃわちゃとしている2人に背を向けてストレッチへと戻ると、鼻腔をくすぐる甘い香りが流れてきた。この香りにもまた、よく覚えがあった。

 

 

「よお、スティル。しばらくぶりか?」

 

「…」

 

 上目遣いにじっとこちらを見つめる深紅の瞳を見つめ返す。心なしか前よりも艶を帯び、何か別人になったような気さえした。

 

「あー、スティル?」

 

 頭の中でネオユニヴァースから忠告された言葉を反芻する。

 

『“ALARM(警告)"』

 

(…ネオユニヴァース。お前の言いたいこと何となくわかったぞ。こりゃあ少しマズいかもな)

 

「…美味しそう。」

 

 突然、こぼれ出たかのように囁やかれた。生き物のように意思を持ち、唇の上を艶めかしく動く舌。声色には捕食者としての危険な雰囲気が醸し出されていた。

 

「俺、食っても美味くないと思うぞ」

 

 あえて真意を分かっていないフリを演じ、すっとぼけてみる。しかし目の前の捕食者にそんなユーモアは通用しないようで。お構い無しにこちらへ距離を詰めてくる。

 

「どんな()()でも、喰らわなければ味は分かりませんわ。特に、あなたは前にも増して…」

 

「─スティル!」

 

 すんでのところで、横から見知らぬ男性が割り込んできた。スティルを隠すように、俺に背を向けて立ち塞がっている。

 

「落ち着け、抑えろ、抑えるんだスティル…!」

 

「…トレーナー、さん」

 

(何が起こってんのかなんも分かんねぇ)

 

 目まぐるしく動く状況に目を白黒させる。辛うじて理解できたのは、目の前にいる男性は彼女のトレーナーで、俺を庇って…いや、彼女が暴走しそうになっているのを抑えているということだけ。

 

「スティル─」

 

「邪魔を、しないで」

 

「あーはいはい。ちょっと失礼」

 

 スティルを抑えようと尽力している男性の肩に静かに手を置いて後ろへ下げる。直後、襟元には傷一つ、汚れ一つ無い真新しい蹄鉄型のバッジがついているのが目に入った。

 心なしか、その目は常人にしては少々異常とも言えるほど赤い瞳孔をしている…ように見えた。

 

「あっ、ちょっと…」

 

「大丈夫です。多分あんた…あなたより慣れてます。」

 

 それだけ告げると、スティルへと向き直る。しかし、威勢よく言ったものの何も言葉が思いつかず少し焦った。とりあえずこの場を収められる事を言う必要があると考えて口を開く。

 

「学園内リレー、出るんだろ。そこでやろうぜ」

 

「…ええ」

 

 とりあえず納得してもらえたようだ。スティルは矛…もとい牙を収めると満足そうに微笑みながら立ち去った。

 

「君は…ひょっとしてスティルが言っていた源治君かい?」

 

「ええ、まぁ」

 

 おずおずとスティルのトレーナーが歩み寄ってきた。曰く、俺の事はよくスティルから聞いていたそうで。彼女が小さい時から寄り添ってくれてありがとう、といった旨の話をされた。

 

「君は一体、何者なんだい?フリースタイルにひっそりと出ていたとか、スティルと一緒に走ったりとか…」

 

「…ただのしがない学生です。走ることが好きなね」

 

 デリケートな話題と判断したのか、それともそういうものとして受け入れたのか。それ以上追求してくることはなかった。

 俺としてもおおっぴらに話す事はなるべく避けたいのでありがたかった。

 

「そろそろリレーも始まる。こんな事、頼むのもあれだけど…スティルのこと、頼んでいいかい?」

 

「もとより、あいつと走るの楽しみですよ。」

 

 スティルのトレーナーは俺の言葉に目を丸くしたかと思うと、小さく笑って「よかった、よかった」と言い残して立ち去っていった。心なしか、目の赤みが消えた…ように見えた。

 

「…多感な時期の女の子に、自分に尽くしてくれるイケメンはちょっとまじぃんじゃねーか?」

 

 一連の濃密すぎるやりとりを通して感じた事をようやくぽつりと呟いた。

 

「源治ー?どうしたん?」

 

「なんでもねぇ」

 

 モヤを振り払うように頭を軽く振り、タマ達と共にストレッチの続きへと戻った。

 

 

 

 

■□■

 

 

 

 

 

「出走者の方は持ち場についてくださーい!」

 

「第一区間走者の方はこちらへー!」

 

 ポッケやタマ達、途中出会ったメジロマックイーンやゴールドシップも加えてアップがてら軽めに走っていると、スタッフの呼ぶ声が聞こえ始めたので、レースでまた会おうと言って解散となった。

 

「おっ、そろそろかァ。うっしゃお前ら!気合入れて行くぞー!!」

 

「「「「おおー!」」」」

 

 ポッケが音頭を取り、チームが円陣を組んで一つとなって気合を入れる。

 

「うっし、一丁派手に…ん?」

 

 昂る気持ちと共に担当区間へと向かおうとした所、見覚えのある背中が目に入った。

 

「…あれ、もしかして…」

 

「どうした?」

 

 不思議そうに声をかけてくるポッケを置いて、俺はその背中に向かって走り出していた。その人物はスタッフに指示を出して対応しているところを見るに、どうやら司令塔の役割を果たしているようだ。

 

 緑の帽子に緑の制服。二股に別れた独特の長髪。声色はどこまでも温厚で、聞く者に安心感をもたらす。

 前にあった時と変わらない。

 その、女性こそ…

 

「姉貴!」

 

「はい。出走者の皆様はあちらへ…あら、ゲン?」

 

 周囲を騒音で囲まれていても、後ろから突然呼びかけられて俺だとわかる辺り流石は姉貴といったところか。耳の聞こえがとても良い。

 俺が「姉貴」と呼んだ、緑の制服を着たその女性はこちらを振り返った途端、顔を綻ばせた。

 

「ゲン?ゲンじゃない!久しぶりねぇ、元気にしてた?」

 

「うん、相変わらずだよ」

 

「ゲンも来てたのねぇ、今日はあなただけ?父さんと母さんはいないの?」

 

「今日はいない。俺一人だよ。」

 

 こうして対面で話すのは久し振りなため、会話が弾む。そうして話していると、後ろからポッケ達の驚く声が上がった。

 

「げ、源治…お前、姉貴って…」

 

「源治さんって、たづなさんの…」

 

「…驚きました」

 

 俺達のやりとりを聞いていたポッケとダンツとカフェがおずおずと歩いてきた。そんな3人を見て、俺の姉…駿川たづなはにっこりと微笑んだ。

 

「はい。源治は私の弟ですよ。」

 

「「「ええええええ!?」」」

 

 再び、今度は本人の口から告げられた衝撃の事実に3人は動揺を隠せず、口をあんぐりと開けた。

 

「じゃ、じゃあ源治の苗字って……」

 

「おお」

 

 頬をぽりぽりと指先で掻いた後、なんてことないと言った様子で。

 

「駿川。駿川源治が俺のフルネーム。」

 

 多くの人で賑わうトレセン学園に、驚きの声が大音声にて響き渡った。

 

 

 





長らく不明だった源治の苗字と家族事情公開。
源治の強さに説得力を持たせたいと考えた末に生まれました。え?なんでたづなさんの弟にすると説得力があるって?…ノーコメントで。

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