ヒトミミウマ息子がゆくウマ娘プリティーダービー 作:コウハクまんじゅう
大変お待たせしました!
かなり間が空いてしまった…
「オグリ〜ん!走ろーや!」
「ああ、わかった。」
夕暮れの河川敷に威勢の良い声が響き渡る。夕日に映える銀髪を翻し、楽しそうに共に駆け出していく。その様子を見ながら、元気だなぁ、と俺は寝っ転がりながらのんびりと胸の内で呟くのだった。
ポッケとのタイマンから早くも数日が経とうとしていた。あのタイマン以降、ポッケと俺…源治は和解し、たまにこの河川敷で走っている。あれからポッケには「もうフリースタイルレースでは走らないのか?」と訊かれたが、「気が向いたら行く」とだけ返事をした。
そして、新たな知り合いができた。ポッケの先輩の、確か「フジキセキ」とか言ったかな…その人がレースが終わった後にポッケの紹介で俺に会いに来た。
なにやら熱心な視線を感じたので、そのまま訊ねてみたら、なんでも「ポッケをあそこまで駆り立てたライバルがどんな人物かひと目見てみたかった」らしい。黒髪のショートヘアーに右耳の耳飾りが特徴的な爽やかな印象の人だったなぁ…
あと、ポッケとルー、メイ、シマから聞いたのだがどうやらL/Roarsは東京を制覇したらしい。最初聞いた時は我が耳を疑ったが、そう考えるとレース場をまるまるひとつを所持していた事にも納得が行く。
俺とポッケが府中を争って─最も、俺にそんな気はなかったが─戦った時は同着だったが、俺は府中制覇なんぞに興味はなかったし、ただ好きに走れていればそれで良かったから結果的に府中はL/Roarsが仕切ることになった。
それからもL/Roarsは勢力を拡大し続けその結果、ついに東京を制覇するかどうか、というときに俺が消えたんで、俺を探すのも含めて勢力を伸ばし続け東京制覇まで行ったがついに見つからずしょげたと。
そんな中、ルー、メイ、シマがなんとかポッケに元気を出させようとして連れ出したレース─ヤヨイ賞、だったか?─でさっき出たフジキセキと出会い、その走りに感銘を受けてトレセン学園に入ったとか…
いや、なんつーか…すげぇなおい。俺が居なくなってから色々と動きすぎじゃねぇか?
「おーい!源治ー!」
「源治さーん!」
「おぉ、来たか。」
手を上げてこちらに歩いて来るジャングルポケット。そして、その隣には黄色いバンダナがチャーミングなウマ娘が1人。彼女の名はルマ、フリースタイル時代の友人だ。
「寝っ転がって何やってんだ?」
「見たまんまだよ」
ポッケの質問に適当に答えているとルマが隣に腰を下ろした。続いてポッケも俺の隣に座り込み、ちょうどルマとポッケに挟まれる形となった。
俺は両手を頭に回して枕にし、隣に座るポッケをちらりと見やり、あのレースを振り返る。
ポッケとのタイマンの最中にようやく触れることができたあの感覚。最後の直線でポッケに追い抜かれて折れそうになった時、俺を奮い立たせるように湧き出てきた掴めそうで掴めない雲のようなモノ。
その存在自体は前々からなんとなく感じてはいた。あれに気づいたのは、「レースを楽しんだらどうだ」と助言をしたタマが目覚めたのが最初だ。その次は俺とタマに触発されたオグリ、そしてポッケと俺。短期間のうちに何人もあの感覚に触れている。まるで共鳴しているかのようだ。
手を空にかざし、手の甲を見つめる。
……あれは一体何なのだろう。常に自分の中にあるのに、どこにあるかはわからない。そのくせ何かをきっかけに唐突に降って湧いてくる。
ほんとに、雲を掴むようだな。
手を握って開く。不確かなそれを掴もうとするように。
ポッケとのタイマン以降、めっきりあの感覚が消えてしまった。タマやオグリとレースをして取り戻そうとしても掠りさえしない。ポッケともたまに走っているが、一向に戻って来る気配がない。
……あの場限りのモノだったのだろうか?それとも、なにか条件があるのか。あるとしたら…
「おい、どうした?」
こちらを怪訝そうに見つめるポッケと視線がかち合う。
「なんでもねぇ」
慌てて誤魔化しながら眼下へと視線を向ける。そこではレースを終えたタマとオグリがストレッチをしながら話しているところだった。会話から察するに、勝ったのはタマのようだ。
横から痛い視線を感じながらボーっと眺めていると不意に立ち上がる気配がした。
「源治」
名前を呼ばれ、振り向くと手が差し出されていた。
「やろーぜ」
差し出された手をしばらく見つめていたが、差し出された手をしっかり握って立ち上がった。
「決まりだな。」
「…タマー、オグリー、次は俺らが走るわ」
斜面を器用に滑り降りながらスタートラインに立つのだった。
──────────────────────
「楽しそうだなーポッケのやつ。」
「フジさんにだってあんな顔見せないぞ」
「まあ、何にせよ2人が仲直りしてよかった」
「…」
源治とポッケが走っている姿を遠巻きに眺める、いつの間にかいたお馴染みの3人組とルマ。
タイマン以降、両者が和解したことに安心し、レースのときは遠くから見守るのが決まりとなっている。ふと思い出したかのようにルーが口を開いた。
「…そういえばルマってどうやって源治と仲良くなったんだ?」
「それ私もずっと気になってた!」
「
ルーの言葉を皮切りに各々質問を始める3人。
それに対してルマは少し考える素振りを見せたあと「話すと長くなるんだけど…」と前置きし、ぽつりぽつりと話し出した。
─源治がまだ府中を走っていた頃─
ここはL/Roarsの本拠地、と言えば仰々しくなるが有り体に言えば溜まり場である。そこでアタシはいつもつるんでいる仲間とある走り屋について話していた。
「おい、最近『無名』っていう人間がフリースタイルレースを走ってるってもっぱらの噂だぞ」
「なんでも『闘叫の鬼を倒せるかもしれない』とか言われてるらしい。チッ、気に入らねぇ」
「まったくだ。人間如きがポッケさんに敵うわけねーだろうに」
「どんだけ速えか知らねーが、所詮は人間だろ」
仲間達が苛立ったように話している。『無名』、それは『L/Roars』と並んで最近話題になっている異質な走り屋のことだ。最も、両者で決定的に違うところは単独で活動している所と、チームで活動している所だが。
突然頭角を現して、人間でありながらウマ娘と互角以上に渡り合って破竹の勢いで勝ち進んでいく無名を認めている者も一定数いるが、今のように快く思わない者たちもいる。その中でもアタシは顕著だったと思う。
無名が目の敵にされる理由は色々あるが、やはり一番大きいのは『無名が人間であること』だろう。ウマ娘というのは人間と姿形は似ていれどその中身はまったくの別物で、人間を遥かに上回る身体能力を持っている。俗に言われている「人間はウマ娘に勝てない」という言葉もここから来ている。その軟弱であるはずの人間がウマ娘を走りで負かしている、というのが気に食わないのだ。
「そもそも、無名がああして走れてるのはポッケさんのお陰だろ。なのに随分と幅効かせやがって…」
まったく気に食わない…と握りしめ吐き捨てるように呟いた。
今しがた言ったように、無名が走れているのはポッケさんの助力によるところが大きい。少し前に突然フリースタイルレース場に突っ込んできたかと思ったら「俺も走りたい」などと抜かしてきた時は驚きと同時に呆れたが、何を思ったのかポッケさんがギャラリーの前で走らせるのを許可した。
最初は「公開処刑もいいとこ」と名も知らぬ男を憐れみ、ポッケさんがなぜ走らせるのを許可したのか図りかねていた。まさかあんなことになるとも知らずに。
「…アタシ、ちょっと出てくる。」
仲間にそう告げ、1人でレース場へと向かった。
「ゴォォオオオオル!!一着はこの男ッ!無名だァァアア!またしても並み居る強豪どもをねじ伏せて勝利をもぎ取ったぁああ!!」
実況の大音声が耳をつんざく。
レース場に轟く割れんばかりの大歓声を全身で受けながらも、首を回し、どこか気だるげささえ感じさせる様子でその場を立ち去る無名。ターフの上には敗れた強者達が悔しげにその背中を睨んでいた。
「……」
ああ、なんて鮮烈な走りなんだろう。
初めてあいつの走りを見たときから脳裏に焼き付いて離れない。アタシなんかじゃ到底出来ないような、激しくて見る者を魅了してやまない走り。
「………くそっ…」
無名の走る姿にどうしようもなく魅了されている自分と、それに嫌悪する自分が腹の中でぐちゃぐちゃに混ざる。気づけば脚が勝手に動いていた。
レース場を出て1人で歩いていた無名の背中に声を投げかける。
「おい無名」
「あぁ?」
「アタシとタイマン張ってよ」
いきなり不躾に挑戦状を叩きつけられた無名こと源治は最初は困惑した様子だったがしばし逡巡した後に「……後悔すんなよ」とだけ返答した。
タイマンが決まったあとは速かった。余計な水を差されないようになるべく人気のないレース場を対決の場所に設定した。
冷静に考えれば勝算が低かったことは解っていたはずだが、当時のアタシは色々な思いが胸の内に渦巻いて体が勝手に動いていた。
無名がポッケさんに勝てるかもしれない、という噂を否定したかったのもあったのかもしれないが、もしかしたらアタシはただ無名の走りを間近で感じたかっただけなのかもしれない。
「おお…芝の2000といったところか。ここでやるのか?」
「あぁ。」
芝の中距離。それはアタシが最も得意とする距離であり、なおかつ無名が得意とする距離でもある。お互いに有利不利はなし。条件としては公平である。
無名は入念に準備を整えると、スタートラインについた。
「………」
そのまま無言で首を回した瞬間。
「…!?ぅ…」
先程までとは打って変わって、今にも押しつぶされそうな重圧が無名から放たれる。本当に目の前にいる人物が先程まで普通に会話していたとは思えない変わりようだ。
(なん、だよ…これ…)
正直、無名のことを完全に見誤っていた。レースで見て知った気になっていたが、こうして相対すると迫力がまるで違う。
「…?」
まごついてスタートラインになかなか立とうとしないアタシを不思議そうに見つめてくる。「なにやってんだ?はやくやろーぜ」とでも言っているかのようだ。
「ッ…!!」
自分からタイマンを叩きつけておいていまさら引き返すなんてできない。腹をくくってスタートラインに立った。心を落ち着かせるため息を大きく吸い、肺を新鮮な空気で満たす。
「ふぅ…よーい…スタートッ!」
ズン
レース開始と同時に響き渡る、大地を踏み込む独特な音。
それが聞こえるのと同時に自分の横を真っ黒な物体が駆け抜けていったかと思ったら、すでに遥か前方に無名の背中が僅かに見えた。
それを見て漠然と「ああ、勝てない」という思いと「ああ、なんていい走りなんだ」という思いが湧き上がってきた。その後は無我夢中で駆けたが、結果は5バ身差で負けた。
「じゃあな」
と、たった一言だけ呟いて無名は去っていった。
「……ははっ…何やってんだろ、アタシ…」
過ぎ去る無名の背中を呆然と眺めながら、自分の無力さからこぼした言葉が人がいない寂れたレース場に響き渡った。
このことをきっかけに、ポッケさんと無名がぶつかった。
無名とぶつかった事情は全て説明した。自分の勝手な行動のせいで事を起こしてしまい申し訳なかったが、ポッケさんはきっかけがどうでありようやく無名とやり合える、と闘志をみなぎらせていた一方でアタシの事を心配してくれていた。
しかし今回の件はあきらかに自分に非があるので「心配は無用、アタシは大丈夫です。」という旨の事を伝えた。
そして、レースの結果は周知の通り同着だった。現場を見ていたアタシは衝撃を受けた。
(まさか、同着だなんて…)
言葉が出ない、とはまさにあのことだった。
そしてアタシは無名の言葉にまた驚愕させられることとなる。
「…じゃあ、
「…え?」
えええぇぇ!?な、ななな何を言ってるのこの人!?
と心の中で叫び、かかりまくるアタシ。
それはそうと、無名は本気で何を言っているのか理解しているのだろうか?このレースはアタシの敵討ちに端を発するが、このギャラリーを見れば最早それだけでは収まらないことは明白。
というか、あいつには府中を背負っている自覚があるのだろうか…
そんな事を考えている間にも二人の間で話は進んでおり、結局府中は
だが、そんな事で府中の荒くれ者共が収まる訳がない。
「おい、ふざけんじゃねえぞ!こんなんで納得できるわけねぇだろ!」
と、ギャラリーの中から納得の行かないものが声を上げた。それに同調して不満を言うものが続出し、再戦を求める声が大きくなった。
それを鎮めようとL/Roarsが動こうとした瞬間。
「…まぁ、そうだよな。納得行かねーわな。じゃあこんなのはどうだ?」
そう言って無名はジャングルポケットを含めL/Roarsをちらりと一瞥した後にこう言った。
「一旦、府中をL/Roarsに"預ける"ってのはどうよ?それでもし皆が納得できないなら俺が出しゃばって、腹くくって府中背負うよ。」
レース場がまた、水を打ったように静まり返った。しかし今度はさっきとは様子が異なり、あちこちから会話をする声が聞こえてくる。やがて無名の提案を受け入れる声が大きくなってきた。
「じゃあ、そういうことで。」
それだけ言って無名はレース場を後にした。
「……まぁ、これを機に少しは落ち着くこった」
ぽつりと零した言葉を拾ったものは誰もいなかった。
「無名!」
1人で歩いている背中に声を掛ける。
それに気づきこちらをゆっくりとこちらを振り返る。
「…お前はあの時の。どうした?」
「ちゃんと覚えて…って、いやそうじゃなくて。なんであんな提案を?」
その質問に無名は少し間を置いた後に、口を開いた。
「俺はただ好きに走りたいだけだから。それに、ああいう仕切りとかは俺苦手だしL/Roarsの方が向いてると思ったから。」
「…はなから府中を背負う気はなかったの?」
気まずそうに頭を掻いて目をそらした後に再びこちらを向いた。
「まぁ、その、なんだ。押し付ける形にはなっちまったが、
「……」
まさか、あの短時間で府中を任せられるかどうか判断してあの提案をしたのだろうか。そう考えていると「あと、」と声をかけられた。
「今までは数に物言わせたり小細工仕掛けてきた奴らもいたからな…だから、タイマンで真っ向勝負したところはよかったぜ。走りもそんなに悪くなかった。」
「ぇ…えと、それって」
突然の事で最初何を言っているか分からなかったが、あの対決の事を言っているのだと気づいた。
まさかアタシを認めてくれたのか?そう聞こうとするも、無名はすでに「じゃあな」と手を振りながら背中を向けて歩きだしていた。
「ま、待って!」
その背中を慌てて呼び止めて、恐る恐る訊ねた。
「な、名前は?」
少しの間の後に、たった一言だけ名乗った。
「……源治。」
─────────────────────────
「とまあ、こんな感じ。」
源治とルマが仲良くなった顛末を聞き終わった3人は「お、おぉ…そんな事があったのか…」「こ、れは……ねぇ、すごいねぇ…」「うん…」と言った具合に、すごくすごい語彙力になっていた。
「お前ら何話してんの?」
「うおっ、源治!?」
「な、なんでもないっす!ただちょっと源治さんとの出会いを話してただけで…」
ふーん、とさほど興味も無さそうに返事をしながら1000mlの空のペットボトルをベキベキと丸め込みながら一向の近くに座った。
その近くには汗だくのポッケが続き、いつの間にかいたタマとオグリが座っていた。
「そーいえばよ、聖蹄祭近いな」
と誰に言うでもなく呟いたジャングルポケット。それに同調して他の面々も「あれっ?もうそんな時期だっけ!?」「そーいえばそやなぁ…」などとつぶやき出した。しかし、この場にはただひとり、聖蹄祭を知らぬ者がいた。 源治である。
「聖蹄祭だぁ?なんだそれ」
「あれ?源治は聖蹄祭知らないのか?」
「うん、知らない。なにそれ」
と素直に頷いて説明を乞う源治。
それに答えたのは横から口を出してきたタマモクロスだった。
「聖蹄祭っちゅうんはな、平たく言えばトレセン学園で毎年やっとる一般開放の文化祭のことや。毎年ぎょーさんの人が来るんやで。」
「ああ。それにたくさんの屋台も開かれるんだ。やきそば、フランクフルト、イカ焼き、チョコバナナ…」
口の端からよだれをたらし幸せそうな笑みを浮かべお腹をさするオグリキャップ。それを見て源治はスイーツを奢った時の苦い記憶を思い出して静かに目をそらせつつ、ふと気になった事をタマモクロスに訊ねた。
「一般開放ってことは俺も行けるのか?」
「そういうことになるなぁ」
のんびりとした返答を受けて、しばし目を伏せ考える様子を見せたかと思うと「聖蹄祭、ねえ…」と小さく呟いた。
「……トレセン学園、ちょいと見てみるか」
声色に確かな好奇心を滲ませ、来たる聖蹄祭を待ち望むのだった。
ポッケがデビューさせたのに最近「あれ?あいつ(無名)闘叫の鬼倒せんじゃね?」って言われてる源治の事が嫌いで目障りなのに初めて走る姿を見た時に脳を焼かれてそれ以来ずっと頭の中から離れなくてそれからも源治の出るレースは全部見に行っちゃってこじらせたあげく突っ込んでボコられたけど自分の事を認めてくれた源治の傍に居ちゃうルマちゃんを書きたいだけの人生だった(完遂)
書き終わってビビった。なんじゃこれ(困惑)
まぁともかく、次回から聖蹄祭、始まります。
【源治の秘密】
実は、スタートラインに立ったら集中して一言もしゃべらない。レースが始まったら状況次第で喋ったりもする。