ヒトミミウマ息子がゆくウマ娘プリティーダービー   作:コウハクまんじゅう

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源治、トレセン入りする。



聖蹄祭編
聖蹄祭その1


 

 

 

 多くの人が往来し、至るところに華やかな屋台が立ち並び、そこから威勢のいい声が飛び交って客を呼び込む。さながら、祭りのよう。

 

 ここは東京都府中市にある日本ウマ娘トレーニングセンター学園…通称、トレセン学園。普段は在籍している生徒たちが勉学に励み、体を鍛えレースに向けて努力し日々己を高めているが今日は少し違う。

 

 聖蹄祭…別名「秋のファン大感謝祭」。普段応援してくれているファンや家族のために催される祭りで、それが今日開催されているのだ。この祭りによってトレセン学園は普段見せることのない表情を見せ、校内は賑わっている。

 

 その華やかな祭りの中で、密かに注目を集めている男がいた。行き交う人々、主に女性を中心に立ち止まってその男の事を話す人もちらほらと見受けられた。

 おそらく身長は175cmそこらだろうか。中々長身であるその男こそが、源治であった。

 自分が周りから注目を集めているとはつゆ知らず、のんびりと祭りを楽しんでいるのであった。

 

 

 

 

「おぉ、賑わってんなー、これが噂に聞くトレセン学園か…」

 

 俺は初めてトレセン学園に来ていた。先日、タマやオグリから聞いた「聖蹄祭」とやらが面白そうで、何より前々から気になっていたトレセン学園に行ける機会と言うことで訪れていた。

 

 所狭しと立ち並ぶ色とりどりの屋台を眺めながらゆっくりと歩を進めていた。どの屋台も魅力的でどこから行こうか悩ましい。

 

「さぁ〜て、どこから行ったもんか…」

 

 そんな事をつぶやきながら歩いていると、前から快活な声が飛んできた。

 

「おーい、源治ー!」

 

「ん?おぉー、タマか。」

 

 イカ焼きを片手にタマが駆け寄ってきた。もうすでに食べていたのか、口の周りにイカ焼きのソースが少々ついていた。

 

「やっぱ来とったんやなーっ!」 

 

「おう。あれ?オグリはいないのか?」

 

「オグリは今、色んな屋台で食べ物買い込んどるで」

 

「あぁ…」

 

 オグリがイカ焼きや焼きそば等を片っ端から買い込み、屋台の人達が悲鳴を上げている姿を想像し苦笑いをしていると「そういえば」と声をかけられ、意識が現実へと引き戻される。

 

「源治はこれからどこ行くん?」

 

「これから色々見て回って決めるつもりだが…」

 

「ならウチの店()ぃや!うんまいイカ焼きご馳走したるわ!」

 

「おお、いいねぇ」

 

 イカ焼きはいい。あの絶妙なイカの食感と喉や口内に絡みつく濃厚なソースがたまらなく美味い。時々家でも1人で作ったりするくらいには好きだ。

 

「決まりや!さ、ウチについてきーや!」

 

 そう言って稲妻の如く駆け出し、群衆の間を巧みに縫っていくその身のこなしに舌を巻きつつも見失わぬように慌ててついていくのだった。

 このあと店でイカを焼きながらたっぷりとタマモクロスのイカ焼き論を説かれることになるのだが、そこは割愛させていただく。それはそれとしてイカ焼きはめちゃくちゃ美味しかった。

 

 タマモクロスの店でイカ焼きをしこたま楽しんだあとはまた屋台を巡り、その途中で焼きそば、イカ焼き、チョコバナナ、にんじん焼き─なにこれ?─の山に囲まれながらそれらをもっさりもっさりと頬をハムスターのように膨らませながら平らげているオグリキャップに遭遇した。

 

ふぉお(おお)ふぇんひ(源治)。」

 

「一回全部飲んでから話せ、な?」

 と諭すと、こくりと頷いてから一息で飲み込んだ後、口を開いた。

 

「君も来ていたんだな」

 

「あ、あぁ。」

 あれだけの量を一息で飲み込めることに驚いていると「タマにはもう会ったのか?」と聞かれ、それに肯定の意を返した。

 

「さっきタマの店でイカ焼きをたらふく食った所だ。タマの作るイカ焼きって美味いんだな、また食べてぇわ。」

 

「ああ。タマの作るイカ焼きは絶品だ。……はぐっ」

 

 喋り終わった後、イカ焼きまるまるひとつにかぶりつき咀嚼したかと思ったら一瞬で消え去った。空になった箱を丁寧に片付けながら「これで21箱目だ。」と言った。

 もうすでにオグリの傍らにはイカ焼き以外にも─焼きそばやにんじん焼きとか言うやつだろうか?─箱が山積みとなっていたが、それをものともせず次のイカ焼きにかぶりき始めていた。それを引き攣った笑みを浮かべながら眺めていたが、屋台も含めトレセン学園を見て回りたいので「じゃ、じゃあ俺はこれで…またな〜」とそそくさとその場を立ち去った。

 

 それから俺は屋台を見て回りつつ、美味そうな食べ物や面白そうな屋台に入っては遊んでいた。

 その過程でトレセン学園の生徒に遭遇したのだが、彼女たちは皆…まぁ、なんとも個性的だった。

 具体的に言うと、ある者は「バクシンバクシィーン!!」と叫びながら目を見張るスピードで目の前を駆け抜けていったり、「ターボターボ!タ~ボ~ヲ~ナメ~ルト~」と歌いながら元気に走っていくのを後ろから慌てて赤毛のもふっとした髪型のウマ娘と、おかっぱに三つ編みという特徴的なウマ娘が追いかけていったり。

 とにかく個性的だった。まぁ、そんなこんなである程度屋台を回った俺は屋台のある所からは少し離れた所にいた。

 

「ふぃ〜…あらかた回ったかな。」

 ここに来る途中で手に入れたチョコバナナを齧りながら祭りで賑わっているのを静かに眺める。

 

「いいねぇ、トレセン学園。」

 

「気に入ってもらえて何よりですわ」

 

「あぁ。……あぁ!?」

 コイツ誰だ!?

 いつの間にか自分の隣に芦毛のウマ娘が並び立っていた。そのウマ娘は紫がかった芦毛をたなびかせ、令嬢のような優雅さがあった。

 

「失礼。自己紹介がまだでしたわね…初めまして、私メジロマックイーンと言います。」

 

「……源治だ。」

 突然現れたことに対する驚きと、なぜ俺に接触してきたのか理解できずに困惑していると「も、申し訳ありません!突然話しかけて驚かせてしまったようで…驚かせるつもりはなかったんです」と心の内を見透かしたように話す。

 

「…まぁ、いいさ。んで、俺に何か用があんだろ。」

 

「気づいていたのですか?」

 

「突然話しかけてきておいて何もねーわけねぇだろ。」

 まぁ、流石にその内容までは分からないが。

 向こうからの言葉を待っていると、静かに口を開いた。

 

「はい。おっしゃる通り、私はあなたと一度話してみたいと思っていましたわ。あなたがウマ娘とレースをしている姿を見たときから。」

 

「!?……あぁ、ポッケとのタイマンの時か。ちらほらトレセン学園のやついたからな…で、話ってのは?」

 

「なぜ人間のあなたがウマ娘と互角にレースを?」

 

 こちらをちらりと一瞥し、推し量るような視線を投げかけてくる。

 

「あんまり驚かないんだな。」

 

「当然、最初見た時は驚きましたわ。」

 ですが、と一呼吸置いた後。

 

「すぐにそれは興味へと変わりましたわ。あなたの走りを見た時、心が揺さぶられました。見る人を引き付けてやまない情熱的な走りで…」

 

「そう言ってもらえると小っ恥ずかしいが、嬉しいな。」

 そういえば、自分の走りを真っ向から認められるなんて何気に初めてか?なんか…いいな、こんなのも。

 そう思っていると「だからこそ」と声をかけられる。

 

「気になって仕方なかった。ウマ娘でもないのにそんな情熱的な走りを魅せられるあなたが。人間なのにウマ娘と互角に勝負をできるあなたが。」

 私が聞きたいことはただひとつ、と。

 

「源治さん。あなたはなぜそんな風に走れるのですか?」

 

「……なぜそんな風に、か…」

 

 初めて聞かれたかもしれない。なぜそんなに速いのか?なぜ人間なのにウマ娘と互角に戦えるのか?みたいな質問は何度もされたが「なぜそんな風に走れるのか」とは一度も聞かれたことがない。ここはなんと答えるべきか…

 そう考えながらちらりとメジロマックイーンの方を一瞥する。彼女の瞳は鋭く俺を捉えており、俺の言葉を今か今かと待っている。

 

「……」

 

 正直、俺は喋るのが苦手だ。もっと言うなら、言語化が苦手だ。どんな風に言ったら良いか分からない。だからあまり長く喋らず手短に終わらせたほうがいい。そう判断すると、ふぅ、と一呼吸ついた後ぽつりぽつりと話すのだった。

 

「……俺はウマ娘の血を濃く受け継いで生まれた。だから、ウマ娘と互角に勝負できる。」

 

「……」

 

 続きを促すように無言を保っている。

 

「傍から見れば俺の走りはあんたの言った通りに映るのかもしれないが、俺は別に対した事は考えちゃいないし、してもいない。俺はただ走るのを楽しんでいるだけだ。心の底からな。」

 

 答えになってるかな、とメジロマックイーンの方を向くと顎に手を当てて考え込んでいる様子だった。そしてしばらくした後に軽く頷いたかと思うと

 

「ええ。ありがとうございます。」

 とだけ言った。

 

「ま、答えになってんならよかったわ。じゃ、俺はこれで…」

 

 とその場を離れようとしたその時、呼び止められた。

 まだなにかあるのか?と思い振り返った。

 

「今度、併走を頼んでも?」

 こころなしか瞳が不安げに揺れているようにも見えた。なんだ?今のやり取りで何か思うところでもあったのだろうか。まあ何にせよ、併走の頼みなら断る理由もない。

 

「あぁ。喜んで。」

 

 そう快諾した後に、俺は今度こそその場を静かに離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

「………源治さん……」

 彼が去った方向をぼんやりと眺める。

 

「……」

 次いで両手を眺め、それを胸に当てる。

 鼓動が早まっており、自身が緊張している事をありありと伝えてくる。

 

「〜〜ッ!」

 思わず両手で顔を覆う。きっと今の自分の頬は林檎(リンゴ)のように紅潮しているだろう。先程はなんとか平気なフリをできていたが、実際には緊張で何を喋っていたかほとんど分からなかった。聞いてみたかったことが聞けたのが幸いか…途中怪しい所があった気がするけど、多分大丈夫…なはず。

 彼が喋り終えた後それっぽく相槌を打っていたが、あれはほぼ反射だった。

 ふぅ〜…と一呼吸ついて手すりにもたれかかる。

 

「勢いで併走を頼んでしまったけれど、迷惑だったらどうしましょう…今更ながら心配になってきましたわ…そもそも、もう少し話題というものを…」

 

「うぇ〜いマックイーン!何黄昏れてんだー?」

 

「なっ!ゴールドシップさん!?」

 

「なぁなぁ、ここで何やってたんだー?ハッ!ひょっとして油田でも掘り当てちまったか!?」

 

「何を言ってますの!?」

 

 まったく、この人と関わっていると碌な事にならない。早々に離れなければ…

 そうしている間に、ゴールドシップの後ろからもう一人来た。

 

「あっ!マックイーンとゴルシ!こんなとこにいたんだ〜もう、だいぶ探したんだよ!」

 

「テイオー!」

 

 続々と友人たちが集まってくる。

 一旦彼のことは忘れて友人達と祭りを楽しもう。そう決めた時だった。

 

 

「なぁなぁ、さっきのヤツ誰だ〜?なんか随分と話し込んでたみたいだけどよ〜」

 

「なっ!?見ていたんですの!?」

 

 まさか見られていたとは思わず驚いた。そこから冗談めかして「いい男だったよな〜」とニヤニヤ笑いながら肘でつついてきた。

 

「ピエッ!?マックイーンニカレシ!?ボクスゴイコトキイチャッタモンニ!」

 

「ち、違いますっ!こら、待ちなさい!!」

 

 

祭りはまだまだ続く。

 

 

 





主人公の見た目はクローズの滝谷源治というキャラに近いです。
聖蹄祭は3話から4話ほどを予定しておりまする。
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