すみませんでした!
中央暦1640年 2月11日
パーパルディア皇国 第3外務局所有地フェン島 本部アマノキ 第3外務局フェン出張所
アマノキ……この都市は数ヶ月前まで、フェン王国と呼ばれていた戦国時代並みの文明力を持った国の首都であった。
しかし、皇国による監察軍の侵攻、それによるフェン王国の降伏・滅亡後はフェン島全土を管理する第3外務局直轄の都市となった。
元フェン国民の行動は制限・監視され、若い女は監察軍兵士や第3外務局の職員から『反乱軍の可能性がある』と滅茶苦茶なことを言われながら出張所やアマノキ基地に連行される。無論、これまでに帰って来た者は皆無である。
そんなアマノキの中心部にあるフェン王城……否、監察軍の攻撃により全焼したフェン王城跡には、建築中ではあるが第3外務局の出張所が設置され、第3外務局本部があるエストシラント同様、文明圏外国家への脅迫外交を推し進めている。
そんな出張所に設置された仮の所長室では、第1外務局の幹部職員や外務局監査室の皇族*1から魔信越しに毎日の様にネチネチとした小言を聞かされているクルゼ所長が、デスクに積み上がった書類の山を背景に、アマノキ基地司令部から報告された内容が記載された報告書を読み、椅子に深く座っている。
その顔は真っ青であり、まさに絶望を表現していた。
「……何と言うことだ……」
彼の手元にあるその報告書には、こう記載されていた。
【監察軍陸上部隊第31騎兵師団との魔信不通について】
「はぁ……」
クルゼはマグカップにコーヒーを注ぐと、一気に飲み干す。
「……はぁ……」
彼はマグカップをデスクに置くと、頭を抱え嘆く。
当然だろう。先日、突如として音信不通となったニシノミヤコへの調査を行うために出発した第31騎兵師団約30,000人が、丸ごと行方不明となったのだ。
彼や基地司令は一瞬、この事態を隠蔽するか?と考えるも、1人2人なら兎も角、万単位の人数が丸ごと行方不明と言う非常事態は隠蔽し切れる訳が無いことに気付くものの、未だに報告をするかどうか迷っていた。
「あぁくそっ……」
彼は天を仰ぐ。彼にとってこの様な異常事態は始めてのことだった。*2
「……そう言えば……」
クルゼは机の引き出しを開けると、中から1つの球形の物体を取り出す。外側は金属で覆われており、
何時の間にかこの球形の物体を保持していた彼は、捨てようかどうか迷うも保管することに決め、今に至る。
だが、未だにこれの正体が何なのかが全く不明だった。本国に送るかどうか考えるも、何故か手放してはいけない気がしていた。
建物全体が揺れたのはその時だった。
「な、何だ!?」
クルゼは突然の揺れに慌てふためくが、深呼吸し、自らを落ち着かせる。
彼は後方に設置されている窓から、外の様子を確認する。
其処には、上空の赤い魔法陣から謎の光線の雨が、郊外とアマノキ沖合から光の矢が降り注ぎ、辺り一面から黒煙がモクモクと空へと上がるアマノキの景色が広がっていた。
中央暦1640年 2月10日
日本国占領下ニシノミヤコ跡 フェン派遣軍野営地
アマノキ全体から黒煙が燃え広がる前日。自衛隊の管理下に置かれたニシノミヤコ跡の野営地では、アマノキ攻略作戦の説明が行われていた。
説明担当の若手の自衛官は、スクリーンの前まで移動すると、アマノキ上空の衛星写真を映し、説明を始める。
「作戦の説明を始める前に。まず、アマノキについてです。これがアマノキの全体です。この都市は街道や街路は宛ら戦国時代の城下町の特徴と一致しており、直線的な攻撃は不可能です。……最も、現代兵器での破壊を行えば全く問題ありませんが」
若手の自衛官の言葉に、一同が苦笑する。
「まぁ、兎も角。作戦に支障はない訳だな?」
「はい、そうです。……それでは、作戦の概要説明を開始します」
若手自衛官は投影機を操作し、ゴトク平野内の6つの赤い点とアマノキ市街の3つの黒い点を出現させる。
「赤い点は我々陸自フェン派遣軍、黒い点はパーパルディア皇国の部隊位置を表しています」
若手自衛官は機械を操作し点を動かせながら説明を続ける。
「まず、最初に地上から10式戦車、90式戦車、24式機動120mm迫撃砲、99式自走155mm榴弾砲、MLRS、海上から護衛艦『ちょうかい』『なち』、空中からは護衛艦『しんほう』の艦上機F-35JとJA-5、そして
「ほう」
「その隙に第1・2陣を合流・編成した部隊によりアマノキ市内に侵攻を開始。部隊で包囲し侵入。フェン島の管理者を可能であれば拘束します」
「ふむ。それは良いのだが、機甲戦力での強行突破はしないのか?それと、
若手の自衛官の説明に疑問を持った別の自衛官が質問する。
「はい。まず、最初の質問ですが、機甲戦力での強行突破は今回は行いません。遠距離火力支援は行いますが、木造の建築物ばかりですので、現場の隊員が火事に巻き込まれる可能性がありますので」
その言葉に、一同は「(じゃあ
「そして
「うむ」
天野の許可を得た若手の自衛官は、金属製の装置の様な物を机に置く。
「それは?」
「はい。今回の攻略戦のために使用する
現在
パーパルディア皇国 第3外務局所有地フェン島 本部アマノキ近郊 フェン派遣軍地上部隊
「それで。この光の雨が、その『ピア・サビの祝福』と……」
「らしいな」
フェン島の端に位置する直轄本部アマノキ。その近郊に、
彼等は占領下のニシノミヤコ跡から新たに占領したゴトク平野を経由し、此処アマノキ近郊で遠距離火力攻撃を行っていた。
最も、彼等が注目しているのは現代兵器ではなく、
「不思議なものだな。爆発はするのに燃え広がらないとは」
「やはり魔法と言うものを侮ってはいけない、と実感しますね」
「あぁ。我が国は魔道具の数は多い。まさか、こんな物があったとは」
日本が保有する魔道具は約400個程とされている。*3
「よし。進軍するぞ。どうせこの攻撃で、敵戦力は大方削れた筈だ*4」
「了解しました」
天野の指令に、野々村は進軍の準備を進める様伝達した。
数分後
パーパルディア皇国 第3外務局所有地フェン島 本部アマノキ沖合 護衛艦『しんほう』
アマノキ沖合に展開している第2艦隊第6機動戦群旗艦であるたいほう型原子力式航空機搭載護衛艦『しんほう』の甲板では、F-35J戦闘機の発艦準備が進められていた。
海上自衛隊初の空母級護衛艦であり、原子力搭載式の護衛艦でもある2025年に就役した7番艦『しんほう』は、こんごう型護衛艦4番艦『ちょうかい』、そして最新鋭のミサイル護衛艦である、たかお型護衛艦2番艦『なち』の2隻と共に、アマノキ沿岸部へ攻撃を行うために絶賛待機中であった。
「……やっぱりF-35Jは壮観だな」
『しんほう』艦長の廣田は、飛行甲板に広がり、発艦準備を整えるF-35Jの戦闘機群を誇らしげな目で見上げる。
「朝鮮内戦の影響でアメリカから計画を繰り上げて購入したF-35を、日本独自仕様のF-35Jに魔改造した上に、魔法関連の設備を積み込みまくったお陰で、
「まぁ、あのアメリカは、あくまでも転移に巻き込まれた旧在韓米軍含む在日米軍と在日アメリカ人の拠り所としての国ですからね。地球の様な大規模な生産能力はありませんから」
この世界のアメリカ合衆国は、駐日米国大使館を中心とし2番目に建国された新地球諸国であり、地球のアメリカの様な桁違いの大規模な生産能力を有していない。*5
「艦長、フェン派遣軍司令部から連絡。準備完了と……」
「ふ、そうか。久々の実戦。総員発艦せよ!!」
F-35J戦闘機10機が『しんほう』の飛行甲板から発艦し、12式改良型艦搭載誘導弾20発が『ちょうかい』と『なち』から発射される。
目指すはアマノキ。
数分後
パーパルディア皇国 第3外務局所有地フェン島 本部アマノキ アマノキ出張所
航空護衛艦『しんほう』から発艦したF-35Jの編隊が、そろそろアマノキ上空に差し掛かろうとしている頃。アマノキ出張所の仮所長室では、クルゼが避難のための身支度をしていた。
とは言っても外は危険なため、旧フェン王国が旧フェン王城地下に造り上げた簡易的な地下通路を通って、第1海洋警備隊基地のある港まで行く。
幸いにして、第3外務局の建築部は簡易的な地下通路を埋めておらず、先程見た感じでは沿岸部は未だ攻撃を受けていない。
これはチャンスだった。
最も、そのチャンスは間も無く崩れ去るのだが。
……アマノキ出張所のオフィスが……いや、アマノキ全体が激しく揺れる。
クルゼは大きい揺れに耐えられず、ヒビが入った床へ倒れ込む。
「くっ!!」
彼は天井から落下する瓦礫の山から直撃を回避するため、机の下に潜り込む。
「しょ、所長!!け、警備隊基地が……!!」
「!?ま、まさか……」
入室して来た秘書の言葉に、クルゼは慌てて机の下から這い出て、所長室の窓から港方面を見据える。
其処には、赤く燃え広がり轟沈する旧式の戦列艦隊と、攻撃により海中へと沈む港、そして上空には、聞いたこともない轟音と共に空を飛翔する
「う、嘘……だろ……?」
彼は現実を直視出来ずに膝から崩れ落ちる。
と、その瞬間。
「……は?……あああああああああああああ!!!!」
背中に激痛が走り、彼は前へ倒れ込む。
彼は震える手で背中を触り、確認する。手は赤く染まっていた。
自分の血である。
その瞬間、自分は斬られたのだと確信した。
「……ケッケッケ。上手くいった……上手くいったぞぉ……」
悍ましい声が、室内に響き渡る。
彼は後ろを確認すると、血が付いた刀を構えた秘書が……いや、
何者かはクルゼの机の引き出しから金属製の球形の物体を取り出すと、それを大事そうに撫でる。
「お前は……一体……?」
クルゼは震える声で、最期にそう尋ねる。
「私か?私は……いや、私達はそうだな……ナル・シャーロン……我々の言葉で『約束されし絶対神の使い』と言う意味だ。間も無く来る、あの忌々しい日の丸の軍隊にそう伝えておけ……。まぁ!お前が!その時まで!生きているのかは!知らないがな!!!ケ〜ケッケッケッケッケ!!!!」
悍ましく、そしてムカつく声でそう残したナル・シャーロンの構成員は、姿を消した。
数分後
F-35Jの編隊と12式改良型艦搭載誘導弾によりアマノキ港を破壊してくれたフェン派遣艦隊に感謝しつつ、フェン派遣軍地上部隊は、アマノキ市内の出張所へと進軍して行く。
自衛官等は、20式小銃を構え、抵抗する警備のパーパルディア兵やアマノキ市民、第3外務局員を射殺しながら、階段を駆け上がる。
「残るは此処か……」
所長室の前まで来た突入部隊隊長は、隊員等の準備が整ったことを合図で確認すると、閃光弾の安全ピンを外し、室内へ投擲する。
「突入!!」
閃光弾のフラッシュを確認すると、隊員等は次々と室内へ突入する。
「全員、手を挙げ……ん?」
隊長は小銃の銃口を室内に向けながら、隊員等と共に唖然とする。
其処には、此処の所長であり、フェン島の最高責任者と思わしき男が、何故か背中を斬られ、倒れているためである。
「……は?どうなってんだ?」
「……あぁ……あんた等が日の丸の軍隊か……ははっ」
彼は制服に縫い付けられた日章旗のワッペンを見ながら、苦笑する。
「……おい……あんたが隊長か?」
「あぁ、そうだが……。待っていろ。直ぐ、衛生科と医療魔導師を」
「いや……俺はもう……駄目だ。ただ……最期に1つだけ」
彼は咳き込みながら、そう話す。
「あぁ、何だ」
「あんた等の上層部に伝えておけ。……ナル・シャーロン……約束されし絶対神の使い……奴はそう名乗った。だがな……パーパルディア皇国は……決して……諦めない。例え……その……見たことも……ない銃を持った……あんた等が相手でも……あの……俺を斬った……忌々しい……クソッタレ……が相手……でも……な……」
彼は、目の光を失う。息絶えたのだ。
「……天野司令。此方、突入部隊。所長の死亡を確認。フェンの制圧、完了しました」
隊長は司令部にそう報告すると、無線のスイッチを切る。
「……何か面倒臭い奴等が敵となったなぁ」
隊長は、曇り空を見上げながら、そう呟いた。
数時間後
日本国 首都東京 首相官邸
「総理。現地から、フェン島での作戦が完了した、との報告が入りました」
「そうか。これで、敵の要所の一部の確保に成功した……と言う訳か」
日本国内閣総理大臣の武田は、防衛相からの報告に深く息を吐き、東京の街並みを眺める。
2025年の日本の天空戦争への参戦のきっかけとなった東京連続テロ事件、通称『東京攻撃』から3年。都心を中心に復興が進んでおり、3年前と比べて高層ビル群が増えた。
「二度と日本の国土と国民を攻撃に晒してはならない。自衛隊には感謝しているよ」
彼はそう呟くと、防衛相に向き直る。
「それで、ナル・シャーロンと言う組織については、何かわかっているのか?」
「いえ、それが全く。何せこの世界に来てから速攻で戦争が始まった訳ですから……」
「はぁ……」
武田は愚かな行為を行った皇国に呆れ、ため息をつく。
「それで、次の作戦は?」
「はい。次の作戦は北と南への二正面作戦となります」
「二正面作戦?大丈夫なのか?」
武田は防衛相の言葉に疑念を表す。
「えぇ。今回の相手となる2ヶ国は、何方とも中世文明ですので」
「なら、大丈夫……なのか……?」
武田は不安に感じながらも、質問を続ける。
「それで、次の相手国は?」
「はい。北は、未開と思われる大陸へ接続する地峡を領有する国、トーパ王国。そして南は、大陸全土を領土とする国、ロウリア帝国です」
その数日後。陸上戦闘部隊を乗せた南北両方面へ向かう艦隊は、日本を出航した。
間も無く日本の設定集を出せそうです。
誤字脱字報告ありがとうございます!
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