俺は案山子である。名前はまだ無い。そして俺は転生者だ。とは言ってもよくある「トラックに〜」だとか「通り魔が〜」とかではなく、テンプレ神様転生でもない。家でベッドにダイブし、気がついたら案山子になってた。なんで?
それと俺が転生したこの案山子、ただの案山子ではない。それにはいくつかの理由がある。
まず話せる、それはもう流暢に。(おそらく)口に当たる切れ込みから言葉を発せることが出来るのだ。ちなみに声は前世のフツメンボイスとは違い、低音のイケボだった。どうだうらやましいだろう。
次に、歩ける。というか走れて跳ねれて踊れる。え、「お前どうやって動いてんの」だって?いや、この案山子どうやら足があるようでしっかり二足歩行出来ているんだな、これが。どうやらこの案山子を作った人は「歩けて畑を自立警備とかできればよくね?」と考えて足をつけたらしいのだ(俺が今守っている畑の元の持ち主らしき人の日記に書かれてた)。
そんで三つ目。これがマジで案山子らしくないのだが、この体、飲み食いできる。もう一度言おう、この体は藁で出来ているのになぜか飲食可能らしい。なんでわかったのかというと、「畑の野菜が勿体ねーなー。収穫してみるか。」と思い立って収穫した野菜があまりにもうまそうだったのでつい口に入れてしまったことで発覚したのだ。うん、一番意味わからん。
まぁ、一番意味のわからんことである「なぜ案山子になったのか」という理由は20年余りたった今でも全くわからないがな、ガハハ。
あ、野菜はとても美味しかったです。
さて、自分の現状解説はここまでにして、現在俺は
「GUUUUGAAAAAAAA!!!」
「と、ま、り、や、が、れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
絶賛番人として仕事中です。
〜1分半後〜
「ふー、危なかった。まさか腕が爆発するとは…。ま、何とかなってよかったぜ。」
いやーホントに何とかなってよかった、マジで危なかったぜ、うん。
え?どこら辺が危なかったかって?
俺の体ってば案山子じゃん?だからさ、炎とか雷とかにめっぽう弱いってのよ。それだってのに今回の相手は爆発するクマとか…相性悪いってレベルじゃねぇよ。しかも口からビーム吐いたし。てかまずデカい。6mはあるんじゃないの?
まぁ勝ったけどな!!!
これでも「番人」、そんじょそこらの魔物なんぞに負けはしない。
友人曰く「身体能力だけなら世界トップクラス。」らしいからな、俺はしっかり強いのだ。
まぁ、その友人がほんっっっっっっとに意味わからんレベルで強いから実感ないけどね。
剣から波動砲ぶっ放せるの後にも先にもアイツだけだろ、絶対。
今は旅に出てるけどな、アイツ。元気にしてるかなぁ。してるか。してない時が想像できない。
「ま、そんなことより今日はクマ鍋だな。氷室に野菜はあったよな?なかったらどーしよっかなー。」
「お、そろそろつくな。…ん?」
もうすぐ家に着こうかというところで家の前に気配があるのを感じ取った。
警戒しながら家の前を見ると、そこには一人の人間がいた。
薄茶色のローブをつけて、頭以外は見えないが腰のふくらみから剣を差していることが見て取れる。
頭からは表は金、裏は太陽のような橙色をした特徴的なロングヘアーが腰まで垂れていた。
その女性はこちらに気づいたように振り向くと、まるで十字のような特徴的な瞳をもつそのほんのりとした釣り目を細めて笑いかけ、快活に声を上げた。
「やぁ案山子君!久しぶりだね。とても大きなクマを狩ってきたようだね。とりあえず、家に入れてくれないかい?」
「もちろん手土産はあるとも。」と言ってこちらに笑顔を向ける、その人物を見て、俺は思わず声を上げた。
「勇者?!何でここにいるんだ、旅はどうしたんだよ?!」
「はーっはっはっは。旅の途中によったのさ。なに、帰る場所があるのも旅だろう?」
「それに今は”勇者”ではなく、ただの”旅人”だよ、案山子君。」
彼女こそ、俺の数少ない友人である、”勇者”いや、元勇者の”旅人”
『イスカンディナ・ギルガディオ』その人だった。