巴マミは暗殺者   作:百乃綾香

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17時間目 堕ちる時間

「神崎さん、ちょっといい?」

「何?杉野君」

「前からお願いしてた班行動・・・いいかな?」

「修学旅行のでしょ?いいよ。同じ班」

「ホント!?よかった~!」

 

杉野君に誘われて、私は4班に入ることにした。班員には杉野君のほかに前と同じクラスだった渚君やカルマ君、あとは奥田さんと転校生の茅野さん。ほんの少しだけ不安が残るけど、このみんなで京都のことを調べたり、計画するのはとても楽しい。

少し不安というのは苦手な人がいるからというわけではない。カルマ君と茅野さんに私たちの集団自殺未遂がバレてるんじゃないかという不安がある。

 

うちの父親はとても厳しくて、良い学歴、良い職業、良い肩書ばかり求めて来た。そんな肩書生活から離れたくて、名門の制服も脱ぎたくて2年の夏休み、知ってる人がいない場所で恰好も変えて遊んでいた。その結果得た肩書は「エンドのE組」。私は自分の居場所が分からなくなってしまっていた。

3月から始まったクラスはどこか薄暗かった。担任になった雪村先生は優しかったんだけど、それでも前を向けなかった。

 

死にたい

夏休みのあの自分をなかったことにしたい

 

後悔と自己嫌悪で押しつぶされそうになっていたある日、こんな声を聞いた。

 

「もうダメだ・・・死ぬしかない」

 

それを聞いた瞬間、私の中にあった「死にたい」という想いがしっかりと形になったのを感じた。先導する磯貝君に付いていき、たどり着いた崖の上。

 

ああ、ここから飛び降りれば楽になる・・・

 

そう思いながら崖を蹴り・・・気が付いたら地面で寝ていた。

磯貝君がこの飛び降り自殺を先導してしまった事を土下座で謝っていたけれど、私にはどうでもいいことだった。

 

あ、死ねなかったんだ、私

 

神様に生かされた、って思えたら良かったんだけどその時の私は「死に損なった」という気持ちの方が強かった。

 

春休みの間、心のどこかでまた死にたいという感情が生まれては消え、生まれては消えを繰り返していた。それでも行動に移さなかったのはあの時みたいにみんなで死にたいという気持ちが強いからなんだろう。

一人で死ねばいいのに、それが出来ない私は卑怯者だ。

 

 

 

 

4月になってクラスに変化が起きた。

 

「初めまして。私が月を爆った犯人です。来年には地球を爆る予定です。君たちの担任になったのでどうぞよろしく」

 

・・・どういう事?と頭の中で疑問がいくつも浮かんできた。だけど、みんなで一つの目標にむかって頑張るのはなんだか楽しくて、いつの間にか「死にたい」という気持ちは薄れて行っていた。ほんのすこしだけ、前を向けているような気がした。

そんなある日、不思議な生き物を目撃した。

ネコみたいな不思議なナニカ。数日後にその名前がキュゥべえだと教えられた。それはそれとして、初めてその姿を目撃した時、私は何か人ならざるものを感じてしまった。明らかに人間ではないんだけれども。この子は私たち人間には到底敵わない、上位的な存在が私たちを喰らおうとしている・・・。なんて、変な考えをもってしまった。もしかしたらあの子ごと私の妄想かもしれないのに。けど、妄想だけは次の岡島君の発言から打ち消されてしまった。

 

「しっかし巴の奴、いつの間にペット連れてきたんだ?しかもアレ?猫か?」

 

岡島君にもあの子が見えているらしい。ということは・・・アレは私の妄想じゃない。少し安心して・・・つい、こんなことを聞いてしまった。

 

「あのネコちゃん・・・あの日死に損ねた私たちの魂を獲りに来た死神って感じしない?」

 

それを聞いた時の岡島君の顔が引きつっていた。

 

「まあ、そう。かも、な・・・」

「・・・ゴメン。今の忘れて」

 

岡島君だけじゃない。一部を除いたこのクラスにとってはあの出来事は忘れたくても忘れられない呪いなんだ。それを証明するかのように5月になっても誰も殺せんせー達に自殺未遂の件を話してる人はいなかった。

それでもこのクラスは楽しくて、私もこのクラスを居場所にしてもいいかも、なんて思い始めていた。

そんな時に始まった修学旅行、初めて4班のみんなと計画を立てた翌日、茅野さんにお昼に誘われた。

 

「神崎さん!一緒にお昼食べよ!奥田さんも一緒だけどいい?」

「うん、いいよ」

 

奥田さんは茅野さんの後ろ側に立って、すごく緊張気味にしていた。少しおどおどしながら私にお辞儀をした。

 

「あ、あのっ・・・よろしくお願いします!!」

「別に固くならなくてもいいんだよ。よろしくね奥田さん」

 

外の方に出て、3人でお昼を過ごしていると、とある話題へと移って行った。

 

「あの・・・お二人は魔法少女になろうとか・・・考えているんですか?」

 

魔法少女・・・キュゥべえが見える人にのみ与えられる資格。なんでも願いが叶えられる代わりに魔女という恐ろしい怪物と戦う使命を課されるという。

 

「いやー、私はもう断っているからなぁ・・・。神崎さんは?」

「私?私は?」

 

魔法少女の話を聞いた時、私の中にある醜い欲望みたいなのが出て来た。だけど、そんなことを口に出したくないと思い、誤魔化すことにした。

 

「うーん私も・・・特にはないかな。今は戦力足りてそうだし、急ぐ必要もないかな?」

「そうですか・・・」

「そういう奥田さんは?」

「私、私は・・・わからないです。自分のためとか、人のための願いとか思いつかなくて・・・今まで友達とかいなかったから・・・誰かのためになりたいとは思っても、具体的には思いつかなくて・・・」

 

と、寂し気にいう奥田さんの手に茅野さんが手を重ねた。

 

「じゃあさ、私たちと友達になろ?別にキュゥべえに願わなくてもいいんだし」

「え?いいんですか?こんな私に。何でもできないのに・・・」

「いいんだよ。友達って損得なしなんだからさ!神崎さんもいいよね!」

「う、うん、いいよ」

 

その返事を聞いた奥田さんの表情はみるみるうちに明るくなっていった。

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

「もー、固くならなくてもいいんだよ」

 

そんなやり取りを横から見て、なんだか私も少しだけ心が温かくなってきた。家でも本校舎のときでもこんなことはなかったから少し戸惑ってしまう。だけど、私もこの二人のために何かできることがあればいいなって思っていた。

 

 

その日の夜だった。

キュゥべえが私の部屋を訪ねて来た。

「どんな用事?魔法少女の事?」

「話が速いね。君にはその資格がある。契約する気はないのかい?」

「うん・・・特にこれといった願いもないし・・・」

「本当かな?父親との関係はよくないよね?」

 

・・・やはりこの子はなんでもお見通しのようだ。あの父親の事をどうにかしてほしい。夏休みのあの姿をなかったことにしたい。だけど、そんな自分勝手な心を受け入れたくないという気持ちが契約に踏み切れないでいた。

 

「・・・今はまだいいよ。他にも候補がいるんでしょ?そっちに行ったら?」

「気乗りしないならしょうがない。僕も無理強いする気もないからね。でも、それじゃあお邪魔したね」

 

そんなことをいってキュゥべえはどこかへと消えてしまった。どこか、不気味さを残して。

 

 

 

 

就学旅行当日

宿に付いた時、緊急事態が発生した。

殺せんせーが渡した分厚いしおりを独自に纏めた日程表がなくなってしまっていた。かばんをひっくり返しても見つける事ができなかった。

 

「確かにバッグに入れてたのに・・・どこかで落としたのかなヵ」

「神崎さん、良かったら私の写す?」

 

その声をかけられて顔を上げると巴さんが自分の日程表を出してくれた。

 

「え、いいの?巴さん」

うん。ただ、私は3班だから、同じ班員の人に判別行動だけ写してもらってね」

「ありがとう巴さん。じゃお願いしようかな?」

 

夜の間、巴さんの日程表を借りつつ、ルーズリーフで簡単に書き直すことが出来た。・・・その間、殺せんせーが恨めしそうに泣いていたけど・・・

 

 

翌日、

「でもさぁ、京都に来た時ぐらい暗殺の事忘れたかったよなー。いい景色じゃん。暗殺なんて縁の無い場所でさ」

午前の散策時、杉野君がそんなことをボヤいていた。

 

「俺としてはこういう場所に魔女呼んでボコボコにしたんだよねー。昨日は先生の目とかあるから出来なかったけど」

「カルマ君の魔女呼べる能力便利だよね・・・」

「ああ・・・チートなんじゃねーのか、ああいうの」

「ま、グリーフシードはまだまだたんまりあるわけだし、殺せんせーがくるまでダラダラしてもいいけど」

 

カルマ君・・・昨年はなんとなく苦手にしていて、彼の自由さに憧れを抱いていたのは確かだ。ああいうふうに堅苦しい鎖がないのは羨ましい。

 

「魔女うんぬんは置いといてさ、京都は意外と暗殺と縁があるんだ。みんなすぐそこのコンビニに来てみなよ」

 

そういって渚君に案内されたのは「近江屋」の跡地、たしか龍馬暗殺の舞台になったところだ。その他にも本能寺や色々なところも暗殺が行われていたという。

 

「なるほどな~。言われてみればこりゃ立派な暗殺旅行だ」

 

杉野君のいうとおりだ。京都旅行は私たちにピッタリなのかもしれない。

 

 

午後になって殺せんせーがそろそろ来そうな時間。私はみんなを祇園の方へ連れて行った。

 

「へー、祇園って奥に入るとこんなに人気ないんだ」

「うん、一見さんお断りの店ばかりだから、目的もなくフラッと来る人もいないし、見通しが良い必要もない。だから私の希望コースにしてみたの。暗殺にぴったりなんじゃないかって」

 

本当はFPSゲームをやってく経験の中で、死角が多い方が殺しやすいと学んだからだ。こんなこと私のイメージと違うだろうから言わないでいるけど。

 

「ホントうってつけだ。なんでこんな拉致りやすい場所歩くかねぇ」

 

ふいに、私たちの背後から現れたのはヤンチャそうな学生だった。多分、高校生の。

 

「・・・何お兄さん等?観光が目的っぽくないんだけど」

「男に用はねー。女は置いて帰んな」

 

すかさずカルマ君が絡んできた不良の顔をわしづかみして電柱に叩きつけてしまった。

 

「ホラね渚君。目撃者いないとこならケンカしても問題ないっしょ」

「そーだねぇ」

 

カルマ君の背後から黒髪の人が現れて、彼の後頭部に鉄パイプを殴りつけてしまった。・・・おそらくリーダー格の。何起きたのか理解する前に私と茅野さんは口を塞がれ腕を掴まれてしまい、抵抗するまでもなく連れ出されてしまった。その最中に杉野君と渚君が殴られてしまい、追っ手もいなくなってしまった。

今思い出した。あの人新幹線でぶつかった人だ。あの時、落としたんじゃない・・・盗まれたんだ。

どうしよう、私のせいだ。男子たちが殴られたのも、こうして茅野さんを巻き込んで連れ去られたのも・・・全部

 

「うひゃひゃひゃ!チョロすぎんぞこいつら!」

「言ったべ?普段計算ばっかしてるガキはよ、こういう力技にまるっきり無力なのよ」

「・・・っ、犯罪ですよねコレ。男子たちあんな目に遭わせといて」

 

茅野さんの避難も不良の人たちはどこ吹く風で、カラオケに行こうだなんて言い出す始末で、茅野さんは台無しだと嫌がっていた。

 

「わかってねーな、その台無し巻が良いじゃんか。そっちの彼女ならわかんだろ」

 

そういってリーダーの人が差し出したスマホには・・・去年の夏、不良みたいな恰好をしてゲームセンターにいた私が映し出されていた。・・・ここにあの姿を知っている人がいるだなんて・・・。

 

「攫おうと計画してたら逃しちまった。随分入り浸ってたんだってなぁ。まさかあの椚ヶ丘に生徒とはね~。でも俺にはわかるぜ。毛並みの良い奴ほどよ。どこかで台無しになりたがってんだ。恥ずかしがる事ぁねーよ。楽しいぜ台無しは。堕ち方なら俺ら全部知ってる。これから夜まで台無しの先生が何から何まで教えてみるよ」

 

恐怖、寒心、逼迫、後悔・・・なにより、私の秘密が暴かれてしまったという事実が私を委縮させていた。

 

『このままじゃ危険だ有希子』

 

ふいにキュゥべえの声が頭の中で聞こえて来た。

 

『この高校生たちから逃れる術は今の君にはない。でも、今すぐに契約すればこの場を乗り切れる。彼女も助けられる。さぁ、僕と契約を!』

 

・・・そうだ。手はまだあるんだ。ここで・・・なにを願えばいいの?助けて?それともあの出来事をなかったことにして?

 

「お、ここがいいな」

 

どこかに停まったのか、車から連れ出されて廃墟となったお店に入れられてしまった。

 

「ここなら騒いでも誰も来ねぇな。遊ぶならギャラリーが多い方が良いだろ。今、友達に召集かけてるからな。ちゃーんと記念撮影の準備もな。楽しもうぜ。台無しをよ」

 

・・・もう、迷ってる暇なんてないかも

 

『キュゥべえ・・・私、契や『待って』

 

契約の言葉を口にしようとしたとき、茅野さんから待ったが掛けられた

 

『大ピンチなのは確かだよ?でも、今たった一つの奇跡を使う必要はない。焦らず、じっくり待てばチャンスは巡ってくるよ。だから今は落ち着こ?』

『でも・・・』

『大丈夫!私に「手」があるから』

 

茅野さんはそう言って笑っていた。茅野さんの声を聞くと、焦っていた気持ちも不思議と和らいでいだ。・・・ここは茅野さんの「手」を信じてみようかな。

 

「そういえばさ、ちょっと意外。さっきの写真。真面目な神崎さんにもああいう時期があったんだ」

「・・・・・・・・・うん」

 

茅野さんから振られた雑談に私は身の上話を始めた。親からの圧力、反発の意志による非行。それによる自業自得な結末。

茅野さんは私の話を何も言わず真っ直ぐに私を見つめながら聞いてくれた。・・・流石に自殺未遂の話まではできなかったけど。

そんな話にリーダー格の人が割り込んできた。

 

「俺らと同類(ナカマ)になりゃいいんだよ。俺らもよ肩書とか死ね!って主義でさ、エリートぶってる奴ら台無しにしてよ、なんてーか、自然体に戻してやる?みたいな」

 

リーダー格の人が語る自然体の戻し方は・・・口にするのも悍ましい悪事の数々で、紛れもなくどうしようもない根っからの悪い人だった。

 

「俺らそういう教育(あそび)沢山してきたからよ。台無しの伝道師って呼んでくれよ」

「・・・さいってー」

 

茅野さんの小声の避難はリーダー格の人にクリティカルヒットしたのか、茅野さんの首をひっつかみ締め上げていた。

 

「何エリート気取りで見下してんだあァ!?お前もすぐに同じレベルまで堕としてヤンよ」

 

ギリギリと首を締めあげられる茅野さんを見て、私はこのまま何もせずに、茅野さんの「手」を待つことが、じっとしていることが出来なかった。

 

「キュゥべえ!私・・・っ!」

「どーせお仲間なんて来やしねーんだからよ!」

 

突然、眼前に大きな光が瞬いた。その光はリーダー格の人の頭上に煌めき、渚君たちが光の中から現れた。その光が治まると渚君たちはそのまま落下しリーダー格の人を押しつぶしてしまった。

 

「「「どっ・・・・・・・・どっから現れたー!!!???」」」

 

手下と思われる人たちが目ん玉ひん剝いてツッコミを入れてるのを無視して渚君たちの方をみると、

 

「よかったです!間に合って!」

 

渚君たち男子の姿はそのままで、奥田さんの恰好は制服姿から魔法使いのような姿に変わっていた。

 

 

 

To be continued

 

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